##10
顧問「じゃあこれ、夏休み最後のスケジュール表。みんなに渡しといて」
純「はーい。…あ、先生」
顧問「どうした?」
純「なんか雰囲気やわらかくなりましたね」
顧問「分かる?」
純「はい、女の人っぽくなったっていうか」
顧問「お酒とタバコやめたからかな……今は彼に夢中なの」
純「彼氏いるんですか!?」
顧問「サックス♪」
純「あ…そっちですか」
顧問「やっぱ趣味があると人生が充実するものね。うふふ」
純「うふふって…」
――ジャズ研 部室
先輩A「二人とも、もう進路決めた?」
先輩B「ん~? まだ~」
先輩C「まだ決めてないのか」
先輩A「私もまだなの」
先輩C「私は保育士の学校に…」
先輩B「えっ」
先輩A「うそっ、幼稚園の先生になるの!?」
先輩C「わ、私がなったらいけないのか…?」
先輩A「ううん、全然。案外似合ってると思う」
先輩C「そ、そうか」
先輩A「でもいいなー、夢があって。私なんてまだ夢とか決まってないし…」
先輩B「夢か~」
先輩A「そっちも決まってない?」
先輩B「ん~~…夢ね~…………あえて言うなら世界平和かな」
先輩C「そうか、なら軍隊にでも入るしかないな」
先輩B「やっぱやめた」
ガチャッ
純「センパイ、スケジュール表持ってきました」
先輩B「ご苦労様~。そこに置いたらもう帰っていいよ~」
純「はーい」
先輩B「あっ、そうだ純。ちょいと聞きたいことが」
純「なんですか?」
先輩B「純は将来の夢とかある?」
純「夢? 夢……」
純「色々ありますよ、とりあえず目下の夢は宝くじで三億円当てる事とか」
先輩B「そっか~……当たるといいね~。これからどこ行くの?」
純「友達と遊びに行きます」
先輩B「車には気をつけるんだぞ~」
純「はーい!」
ガチャッ バタン
先輩B「……いいな~二年生は余裕があって」
先輩A「私も二年に戻りたい」
先輩C「やれやれ…まったく」
――プール
純「で、プールに来たわけだけど」
【本日休館】
純「なぜ!?」
憂「プールで事故があったんだって」
純「そんなぁ~…」
梓「仕方ないよ。諦めよ?」
憂「これからどうしよっか」
梓「他のとこ行く?」
純「うん……そうだ! せっかくだから海行かない?」
憂「海?」
純「そう、プールより海!」
梓「海かぁ…」
純「ねーいいでしょー、行こうよ。時間はあるんだし」
憂「私も久しぶりに海で泳ぎたいかも」
純「よし、じゃあ決定ー!」
――海
憂「わぁー! 潮のかおりがするね」
純「これぞ海!! 来てよかったでしょ?」
憂「うん!」
梓「あついねー」
純「それが海だから!!」
梓「海関係なくない? それ」
憂「私、パラソルのレンタルしてくる」
純「じゃあ私と梓は場所の確保しておくね」
純「行こ、梓」
梓「あ、うん」
純「ここら辺でいいかな」
梓「純、シートひくからそっち持って」
純「りょーかい」
梓「よいしょっ…これでよしと」
純「ふぅ、座ろっか?」
梓「うん」
純「はぁ~、なんかいいねー。海に来たって感じで」
純「景色も良いし、最高」
梓「うーん……」
純「どうしたの?」
梓「あ、ううん。なんでもない」
梓(言えない…合宿で行ったビーチのほうがキレイでここは物足りないだなんて……)
純「こうやって女の子二人で座ってるとさ」
梓「うん」
純「ナンパとかされるのかな」
梓「うん?」
純「一度ぐらいされたいと思わない?」
梓「私は別に…」
純「でもなんか憧れるじゃん」
梓「というより、私たちに声かける人なんているのかな」
純「……」
梓「……」
純「誰も来ないね」
梓「うん」
純「なんかつまんなーい」
梓「私は純と憂の三人でいるだけでいいけど」
純「おっと、嬉しいこと言ってくれますなー」
男「すいません、ちょっといいですか?」
純梓「!?」
純(あ、あああ梓!! 声かけられちゃったよ!?)
梓(わ、私に!?)
梓「い、いや、あの…えっと……」
男「あ、ごめんなさい。人違いでした」
梓「……え?」
女の子「お父さーん!」
男「そんなところにいたのか! ほら、行くぞ」
梓「……」
純「小学生ぐらいかな。確かにパッと見梓に似てる」
梓「うぅ…小学生と間違えられるなんて……」
憂「パラソル借りてきたよー」
純「あっ、ありがと。手伝うよ」
梓「……」ジーッ
梓(憂…けっこうある。純も)
梓(私は……小学生)ペタン
梓「……不幸だ」
憂「? どうしたの梓ちゃん」
純「熱中症? あっ、そうだついでに……」
純「日焼け止め塗っておく? 黒くなりやすいんだし」
梓「いいよ、どうせすぐ海入るから」
純「そっか、それもそうだね。じゃあ早速泳ごっか」
純「泳ぐと胸も大きくなるって言うし」
梓「お、泳いでくる!」ダダッ
純「はやっ!?」
憂「梓ちゃん、どうしたのかな」
純「あー…たぶん胸のことじゃない? さっき小学生と間違えられてたし」
憂「でも、泳いで大きくなるのって胸じゃなくて筋肉じゃないの?」
純「えっ、そうなの?」
憂「だって、大胸筋が鍛えられるっていうし」
純「じゃあ、あのまま梓が泳ぎ続けると……」
梓『みてみて、この胸! すごく大きくなったでしょ!!』ムキッ
純「梓がボディービルダーになっちゃう!!」
憂「は、はやく梓ちゃんを止めないと!」
ザパーンッ!!
梓「にゃぁっ!?」
憂「あっ、梓ちゃんが波にさらわれてる!!
純「ていうか泳げてないじゃん!!」
梓「けほっ、こほっ」
憂「大丈夫?」
梓「う、うん……海水ちょっと飲んじゃった」
純「もう、そそっかしいんだから」
梓「むっ、純に言われたくない」
純「そんなこと言って、波に遊ばれてたのは誰…」
ザパーンッ!!
純「ぶわっ!?」
梓「にゃっ!?」
憂「ふ、二人とも大丈夫…?」
梓「……」
純「海なめてた…」
憂「今日は波強いね……クラゲもいるし、気をつけないと」
純「泳ぐのやめてビーチボールで遊ぼうよ」
梓「うん、そっちがいいかも」
純「じゃいくよー、ほいっ」ポンッ
憂「それーっ」ポンッ
梓「よっ、と」ポンッ
純「お、うまいうまい」ポンッ
憂「えいっ」ポンッ
梓「とうっ」ピューッ
梓「あっ…海の方に行っちゃった」
純「もー、なにやってるの梓」
梓「ごめん、取ってくるね」タタッ
ザパーンッ!!
梓「んにゃっ!?」
憂「梓ちゃん!?」
純「そしてまた流される、と…」
梓「はぁ…プールのほうがよかったかも」
純「今日は海のほうのご機嫌がイマイチだね。せっかく来てあげたのに」
憂「日焼けでもする?」
純「よし、今こそ日焼け止めを使うとき」
憂「私、梓ちゃんに塗ってあげる♪」
純「じゃあ私が憂ね。梓は私によろしく」
梓「うん、わかった」
ピチャピチャ
憂「きゃっ、純ちゃんくすぐったいよぉ…」
純「なに言ってるの憂、これくらいやらないと」
ピチャペチャ
憂「ひゃぅっ…」
純「憂の体って柔らかいねー」
ピチャッペチャッ
憂「じゅ、純ちゃぁん…」
純「憂の体、塗り応えがあるね」
梓「あの…もうちょっと声を控えめに……」
純「あれ? どうしたの梓、鼻なんておさえて」
憂「大丈夫? 梓ちゃん」
梓「な、なんでもない!!」
純「はー、太陽あったかい。潮風きもちいい」
憂「お姉ちゃんとも一緒に来たかったなー」
梓「唯先輩は夏期講習だっけ?」
憂「うん、そうだよ」
純「あっ、思いついた。太陽があったかいよー、なんちゃって」
梓「それ微妙」
純「えっ、そう?」
憂「でも本当にあったかいねー。なんだか眠くなってきちゃった」
純「うん、ほんと………zZZ」
梓「寝つき良すぎだって、純…」
憂「ふふっ、でも純ちゃんじゃなくても……ふわぁ~」
梓「私も…なんだか……」
・・・・・
梓「う、う~ん……」
梓「寝ちゃったのかな……」
梓「ふあぁ~……純、憂、起きてる?」
梓「……」
梓「純? 憂?」
梓「あれ……?」
梓「……」キョロキョロ
梓「純ー! 憂ー!」
梓「いない……」
梓「うそ……」
梓「……」
梓(……どこ行ったの?)
梓「……」
梓(一人ぼっち……)
梓「……」
梓「二人とも…どこ行ったの……」
梓「……」
梓(どこかで遊んでるのかな…それとも……)
梓「……」
梓(なんか…急にさびしくなって……)
ワイワイ キャーキャー
キャーキャー
梓(みんな楽しそう……)
梓「……」
梓「グスッ……純…憂…」
梓「こんな所で一人にしないでよぉ……」
梓「一緒にいてよぉ……グズッ」
純「あれ、起きてたんだ」
梓「っ!?」
憂「おはよ、梓ちゃん。ちょっと飲み物買いに純ちゃんと…」
梓「うわああああんっ!! ばかー!!」
純「な、なに? どうしたの」
・・・・・
純「あははっ、じゃあ私と憂が梓を置いてどこか行っちゃったと思ったの?」
梓「うぅ……」
純「そして急に孤独感に襲われたと」
梓「だ、だって二人ともいなくなるから…」
純「もう、私たちが梓を置いて帰るわけないでしょ」
憂「そうだよ梓ちゃん、私たち三人一緒だよ」
梓「純…憂…」
純「それにしても、私たちがいなくなるだけで泣いちゃうだなんて…」
憂「梓ちゃんかわいいーっ!」ギュッ
梓「ち、ちがう! 泣いたんじゃないの!!」
梓「目に海水が入っただけなんだから!!」
純「はいはい、そんな典型的な嘘をつかなくちゃいけないとこまで追い詰めらてるのね」ニヤニヤ
梓「にゃーっ!! 違うんだからー!!」
純「そろそろ時間だし、最後に泳いでおく?」
憂「賛成!」
梓「もう時間なんだ。なんか早いなー」
純「それぐらい楽しかったってことでしょ。プールもいいけど海もいいよね」
梓「うんっ」
純「よーし、最後にじゃんじゃん泳ごー!」
憂「おー!」
梓「お、おー!」
純「それっ」バシャーン
憂「冷たくて気持ちいいねー!」
梓「えいっ」バシャッ
純「あっ、やったなー梓……この!」バシャバシャ
梓「反撃!」バシャバシャ
憂「私も!!」バシャーン
梓「にゃっ!?」
純「あはははっ! 梓ずぶ濡れ!」
憂「えへへーっ」
梓「…クスッ。もう憂ったら許さないんだからねっ」
ザパーンッ!!
純「わぷっ!?」
憂「きゃっ!?」
梓「にゃっ!!」
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―――――――――
―――――
ガタゴトン ガタンゴトン
純「あー、疲れた。もう動けない」
憂「いっぱい遊んだもんね」
梓「うん…ふあ~」
純「次寝たらほんとに置いてっちゃおうかなー」
梓「ね、眠くないけど…」
純「冗談冗談♪」
梓「もう……」
憂「でも今日はほんとに楽しかったなぁ。また来年も行こうね、純ちゃん、梓ちゃん」
梓「うん、来年も……あっ」
純「どうしたの?」
梓「来年は私たち三年だから……受験」
純「そっか、来年は三年生だから受験勉強しなくちゃね」
憂「お姉ちゃんたちも今がんばってるもんね」
梓「うん…」
梓「……」
憂「梓ちゃん?」
梓「もう今年で最後かな、夏にこうやって三人で遊んだりするの」
純「なーにしょげてんの」ガバッ
梓「にゃっ!?」
純「来年の夏は来年の夏で、三人一緒に受験勉強でもすればいいじゃん」
梓「純……」
憂「そうだよ。それに遊べるときはいつでも遊べるんだし」
純「だからそんなしょんぼりした顔しないのっ」
梓「二人とも……うんっ」
梓「今日は私、楽しかったよ。二人と遊べて」
憂「ふふっ」
梓(本当に…楽しかった)
純「あっ、じゃあ来年は海で受験勉強でもする?」
梓「いや、それはさすがに……」
##10 おわり
最終更新:2011年07月12日 00:49