##12

純「いたた……おなかが痛い」

憂「大丈夫?」

純「昨日腹筋しすぎたかな……」

憂「腹筋?」

純「うん。なんか昨日さ、急に腹筋したくなって」

純「調子にのって100回…いや200回……とにかくかなりやったんだけど、おかげで筋肉痛に」

憂「なぁんだ、病気かと思っちゃった」

純「あー…腹筋なんてしなきゃよかった。慣れないことはするもんじゃないね」

憂「なんで急に腹筋やりはじめたの?」

純「んー…なんだろう、昨日はできると思って。元気が余ってたのかな」

梓「おはよ。純、マンガ持ってきたよ」

純「あっ、おっはよう」

憂「マンガ?」

梓「純が読みたいって言ってたやつがちょうどうちにあって」

純「ありがとね。これすっごい面白いんだよ」

憂「へー」

純「もう読んでて笑えちゃ…あははっ痛たたたっ!?」

梓「どうしたの!?」

純「いや…笑ったら腹筋に響いて……」

憂「純ちゃん、今おなかが筋肉痛なんだって」

梓「そうだったんだ……びっくりした」

純「あー…いたいー」

梓「どれぐらい腹筋したの」

純「えーと……300回ぐらいかな」

憂(あれ、100回じゃないの?)

梓「どうせ50回ぐらいでしょ」

純「なにを!? もっとやってるって!!」

純「腹筋も割れた…気がするし」

梓「じゃあ確認するから触らせて」

純「え? いいけど――…」

梓「えいっ」ツンッ

純「あうっ!?」

梓「うーん、あんまり変わってないかな」

純「お腹いたいのにツツかれたー、梓がいじめるー!」

憂「よしよし」

梓「ごめんごめん、つい」

純「なんか最近わたしの扱いひどくない?」

梓「そんなことないって。それよりマンガ読まないの?」

純「うーん……家帰ったら読む。今はムリ」

純「はぁ~、今日一日こんな痛い思いをしなきゃいけないなんて」

憂「そういえば一時間目は体育だよ」

純「えぇっ……どうしよう、休もっかな」

梓「無理だって」

純「腹筋が痛くて走れないもーん」

純「あっ、話は急に変わるけどさ」

梓「ほんと急に変わったね…」

純「サイダーとソーダの違いってなに?」

梓「……なにそれ」

純「いや、朝から気になって」

憂「うーん、なんだろう」

純「梓は分かる?」

梓「え? 急に言われても」

純「なによ、軽音部でいっつも美味しいもの飲んでるんでしょ?」

梓「関係ないじゃん。しかもサイダーとかは飲んでないし」

純「えっ、高級なサイダーとか飲んでるのかと思った。一本5万円ぐらいの」

梓「どんだけ高いの!?」

憂「でも普段飲んでる紅茶も高いんでしょ?」

梓「うーん…具体的な値段は」

純「いいなー、ブルジャワで。羨ましい」

梓「ブルジャワ?」

純「うん、ブルジャワ。羨ましいなー」

梓「ブル…ジャワ?」

純「さっきからなに?」

憂「ひょっとしてブルジョワのこと?」

純「えっ? ……あっ」

梓「……」

純「……」

梓「ブルジャワ」

純「知らないの? ブルジャワ」

梓「えっそのまま通すの?」

純「そっかー、梓は知らないかー。ブルジャワ」

梓「純…間違いを素直に認めることは大切だよ」

純「憂は知ってるよね?」

憂「うーん…」

梓「知らないってはっきり言っていいんだよ、憂。ていうかそんな言葉ないし」

純「知らないのは梓だけだよ?」

梓「……じゃあブルジャワってなに?」

純「うん? ブルジャワ? そりゃもう……ブルーでジャワーって感じ」

梓「……意味は?」

純「意味は…ブルジョワに似たようなもん。まぁブルジョワの語源的な」

梓「……」

純「でもこっちの方が丁寧な言い回しかな。上流階級が好んで使うっていう」

梓「……」

純「ほんとだよ?」

梓「はいはい」

純「うわーん、梓がいじめるー!」

憂「よしよし」

梓「いじめてないから」

純「言っておくけどブルジャワなんて言葉はないから」

梓「知ってるから!」

純「はぁ……恥ずかしい」

憂「あははっ」

純「うぅ~…憂にも笑われた」

梓「変な嘘を重ねるからだよ」

純「だって引き返せなかったんだもん」

梓「で、ブルジャワってなに?」

純「もうなし! その話題はなし!!」

純「はぁ、腹筋も痛いし今日は心身ともに傷ついた」

憂「まだ痛む?」

純「うん、お腹動かすたびに痛い」

梓「筋肉痛ってしばらくしたら治るでしょ? 我慢しなよ」

純「えー、でも……」

憂「純ちゃん、我慢しなきゃめっ!」

純「えっ、きゅ、急になに?」

憂「えへへ、お姉ちゃんを叱る時みたいに言ってみた」

純「叱ったの? 今ので!?」

憂「うん」

梓「なんていうか…迫力がないよね」

憂「でも怒りすぎるとお姉ちゃん泣いちゃうし…かわいそうなんだもん」

純「それじゃ躾の意味ないって」

憂「もっときつめのお説教じゃなきゃだめかな?」

梓「うん、思いっきりきつめでいいよ」

憂「そう言われても…できるかな」

純「言葉遣いを荒くするだけでいいんだって」

純「例えば…ふざけんなコラー! とか」

憂「ふ、ふざけんなこらー!」

純「おんどりゃあ舐めとんのかボケェ!!」

憂「おんどりゃあなめとんのかぼけー!」

純「今すぐ若いもん呼んでくるから覚悟せえや!!」

梓(ヤクザ!?)

憂「かくごせえや!」

純「……全然こわくない」

梓「……確かに」

梓「ちゃんと叱らないと唯先輩はもっと甘えるよ?」

憂「お姉ちゃんに甘えられるならいいかなー」

梓「それがダメなんだって!」

純「ていうか考えてみれば妹に叱られる姉ってのも変だけどね」

憂「んー、でもお姉ちゃんが私を叱るってことないし」

梓「それはそうだろうけど」

純「じゃあさ、もし憂がお姉ちゃんに叱られちゃったらどうする?」

憂「お姉ちゃんに? うーん……」

憂「……いいかも」ボソッ

梓・純「いいの!?」

憂「怒ったお姉ちゃんもそれはそれで良さそうかな」

純「分かんないわ…平沢姉妹」

梓「私も……」

憂「梓ちゃんは叱られたいと思わない?」

梓「全然」

憂「えー、例えば……あずにゃんっ! もっとしっかりしないと怒っちゃうよ!」

純「おぉ…わざわざ髪型まで真似て」

梓「すごい……違和感しかない」

キーンコーンカーンコーン

憂「あっ、時間だね」

梓「一時間目は体育だっけ?」

純「いたた、筋肉痛が」

梓「だぶんそれじゃ休めないって」

純「はぁ…憂鬱」

憂「純ちゃんファイト!」

純「はっ! 憂に励まされると元気が出る気がする」

憂「えへへ」

純「とりあえず元気よく保健室に行ってこようかな」

梓「絶対つき返されるから」


放課後

純「ねぇ、コンビニ行かない?」

梓「え?」

純「思い出したんだけどさ、今朝サイダーとソーダの違いを聞いたでしょ?」

純「実際に飲み比べて確かめようと思って」

憂「うん、いいよ」

梓「わざわざそこまでする?」

純「気になるんだから仕方ないじゃん」

純「これでもし味が同じだったりしたら詐欺よ、詐欺!」

梓「詐欺…なのかな?」

純「コンビニは……あったあった」

ウィーン

純「あれっ、ソーダがない!?」

憂「サイダーしかないね」

純「はぁ~…検証失敗。今日ほんとついてない……」

梓「仕方ないって、諦めようよ」

純「……ついでにサイダー買っておく」

純「あーぁ、今日はなんでこんなついてないんだろう。厄日かも」ゴクゴク

梓「また今度挑戦すれば?」

純「んー……なんかもうどうでもよくなっちゃった」ゴクゴク

梓「はやっ!」

純「炭酸が染みるー…けほっけほっ! いたたたっ!?」

憂「ど、どうしたの!?」

純「サイダー飲んだらむせて…腹筋が……」

梓「もー、なにやってんの」

純「ごめんごめん、もう大丈夫だから」

梓「しっかりしてよ」

純「はぁ…今日は本当に不運……」

憂「これからどうする?」

梓「んー……あっ、CDショップに行きたい。新譜が今日発売だし」

純「CDショップといえばこの前おもしろいことがあったんだけどね、今でも思い出しても笑えて…あははいたたたっ!?」

梓「今度はなに!?」

純「いや…笑ったら腹筋が……」

純「あっ、いたっ!? つった!! 腹筋つった!!」

ボシャンッ

純「あっ、サイダーこぼした!? いたたたっ!!」

梓「……一人でなにやってるの」

純「見てないで……助けて……」

梓「助けてって言われても」

憂「純ちゃんファイト!」

純「……ム……リ」ガクッ

梓「なんか今日の純ほんとに気の毒だよね。見てて辛い」

憂「後でアイスでも買ってあげよっか?」

純「ほんと!? 私チョコミントね!」ガバッ

憂「よかった、元気になって」

梓「憂……甘やかしちゃダメだって」


##12 おわり



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最終更新:2011年07月12日 00:52