唯「蜘蛛の糸」


平沢唯:オヤツスキー「うひょっ、ひょっ、ひょっ、このケーキちゃんたちは頂いていくよっ!」

田井中律:手下「残念だったなスパイダー梓、今日はあたしたちの勝ちだぜ」

平沢憂:手下「ごめんね、梓ちゃん、お姉ちゃんが食べたいっていうから」

鈴木純:手下「梓も食べたかったら一緒に来てもいいよーっ」


中野梓:スパイダー梓「ふざけるんじゃないですっ!」


真鍋和:語り

『いつの時代のことでございましょうか、美味なる菓子ばかりを好んで狙う
 おやつはごはん団と名乗る女盗賊団が巷を騒がせておりました。

 しかし闇があればまた光もございます。
 彼女らの前にひとりの超能力少女が立ちはだかったのでございます。
 その名をスパイダー梓と申しました。

 両者の戦いは激しく火花を散らすこともなく
 それはもうまったりとしたものでございました。


 そんなある日の事でございます。
 彼女達の運命を大きく変える事件が起こったのでございました』



唯「うひょっ、ひょっ、ひょっ」

憂「お姉ちゃん、その笑い方変だからやめたほうがいいよ」

唯「え~、せっかく練習したのに~」


梓「おのれっ!オヤツスキー!私の蜘蛛の糸からは逃れられないですよっ!」

唯「へへぇダメダメ、あずにゃんこれが目に入らないの?」

梓「そ、それはっ?!」

唯「動くとこの爆弾が爆発するからねっ」

梓「ぬぅ!」

律「おい、唯それ本物だから」

憂「お姉ちゃん取り扱いには気を付け……」

唯「大丈夫だよ、セーフティが掛かってるからここ押しても、ほら」

カチッ

唯「へ?」

憂「あ」

純「あーっ!」

律「やべえってっ!!」



唯「あずにゃん逃げてっ!」

梓「あっ……」



どっかーーーーん!!!!!!

 パラパラ……

           シーーーン


和『轟音と共に辺り一面の物が消し飛び、後に残ったのは累々たる瓦礫の山ばかりでございました』


ぢごく!

唯「みんな死んじゃったねえ、りっちゃん」

律「お前のせいだろがーっ!」

唯「うーん、こんなことになるとはね」

憂「地獄落ちちゃったね」

唯「仕方ないよ、いろいろ悪いことしてたから」

憂「私はお姉ちゃんと一緒ならどこでも楽しいよ」

唯「憂はいい子だねぇ、よしよし」

憂「えへへ」


純「平沢姉妹は脳天気でいいよねえ」

律「まったくよー」


澪:獄卒「こらーっ!なにサボってるんだ!」

唯「あ、澪ちゃん」

澪「なれなれしく呼ぶんじゃないっ、さあ練習だ練習、始めるぞーっ」

唯「えーっまたぁ?

澪「あたりまえだっ、お前らは生前繰り返した罪の罰として、この練習地獄で永遠に楽器の練習をするんだ」

唯「ちぇ、楽しそうだからギター選んだけど、こう休みなしじゃ大変だよ」

律「あたしこのまま永遠にドラム叩くのかよ」

純「だって練習地獄だからしょうがないですよ」

律「んー?お前結構澪のこと好きだよな」

純「そ、そんなことないですよ」

律「そうか?同じベース選んだしな、ぐふふ」

純「なんですかその笑いは、やめてくださいよ」

憂「うふふ」

純「ちょっと、憂もやめてよっ」


律「なあ澪、もう今日は終わりでいいじゃん」

澪「おいおい、なに言ってるんだ、ほら最初から通しでやるぞ」

律「やだよ、もう疲れたし。そうだっ、合宿で血の池温泉行くってのはどうだ?」

唯「いいね、行こう行こう」

純憂「さんせー!」

澪「おまえら、練習しようよ……」

純「澪さんも一緒に行きましょうよ~」

澪「やだっ」

唯「じゃあひとりになっちゃうよ?」

律「寂しいぞー」

澪「ううっ……向こうでも練習だからなっ」

唯「はい決まり~、うひょっ、ひょっ、ひょっ」


血の池地獄温泉

唯「ふあー、いつ来てもここのお湯は鉄臭いねー」

憂「そうだね」

律「鉄分豊富だからな」

純「血だしね」

憂「純ちゃん、身も蓋もないよー」


澪「私は灼熱サウナ行ってくる」スタスタ

律「ほう、ナイスバディ維持も大変ですなぁ」

澪「うるさいっ」

純「あっ私もサウナ行きます。ほら憂も行こうよ」

憂「うん、お姉ちゃん行ってくるね、のぼせて湯あたりしないように気をつけるんだよ」

唯「わかってるよ~」


律「おーい唯ー、ほらほらこうやってると浮いたり沈んだりして面白いぞー」

唯「おおっ、私もやるよー」


和『この様子を極楽浄土、蓮池の畔より見下ろしている者がおりました』


和『極楽浄土の蓮の池、その池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、
  そのまん中にある金色のずいからは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。
  極楽は丁度朝なのでございましょう』


梓「オヤツスキー、あんなところに……」

紬:お釈迦様「どうしたの?梓ちゃん」

梓「あ、お釈迦様」

紬「なにを覗き込んでるのかしら」

梓「ちょっと知ってる人が見えたんで……実は、私がここに来る原因になった人なんですけど」

紬「へえ、詳しく聞かせてくれるかしら」

梓「はい、私生前はスパイダー梓って呼ばれてて、悪と戦ってたんです……」

紬「それは知ってるわ」

梓「ええ、糸が出せるんですよ、それで悪党を捕まえてました」

紬「糸……それでスパイダー」

梓「あの人も悪党で、ある日~……


梓「~というわけで間違って爆発しちゃったんです」

紬「それであなたは極楽へ、オヤツスキーは地獄へ落ちたのね」

梓「そうなんです、仲間といっぱい悪事を働いてましたから地獄へ落ちて当然なんです……けど」

紬「けど?」

梓「でもあの人、あの一瞬私を庇って、助けようとしてくれたんです……」

紬「ふうん……」

梓「変な人なんです……」

紬「いいわよ、梓ちゃん」

梓「えっ?」

紬「糸を降ろしてあげて」

梓「でも……いいんですか?」

紬「ずっとそう思ってたんでしょ、顔に書いてあるわよ」

梓「……なんでもお見通しなんですね」

紬「降ろしてあげなさい、もしそれを上がってこられたならその人を極楽へお迎えしましょう」

梓「じゃ、ちょっと失礼します……んっ」

プリッ

梓「んーっ」プリプリプリ……

紬(……)


紬(……糸ってお尻から出すのね……)


和『さてこちらは地獄の底の血の池で、律達と一緒に、浮いたり沈んだりしていたオヤツスキーでございます。
  何気なく頭を挙げて、血の池の空を眺めますと、そのひっそりとした暗の中を、遠い遠い天上から、
  銀色の蜘蛛の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、一すじ細く光りながら、
  するすると自分の上へ垂れて参るのではございませんか』


唯「うひょっ、ひょっ、ひょっ……あれ?この糸なんだろ?」

唯「紙がついてるや、りっちゃーん、ちょっと見て~」

律「唯どうしたーっ?」

唯「うん、上からこの糸が下りてきたんだけどさ、この紙になにか書いてあるんだよね」

律「へえ?読んでみろよ」

唯「ええと、この糸は極楽浄土へ繋がっています上ってくればいいです、だって」

律「マジかっ?」

唯「極楽へ行けるんだって、どうするりっちゃん?」

律「そりゃ行くっきゃねえだろ、唯上ってみろよ」

唯「よーし、ほいっと、んしょ」


唯「んしょ、んしょ」


唯「ふう結構簡単に上がれるよ!」

律「よーし、あたしも上るぞーっ」 グイッ

ミ……シッ

唯「んっしょ、んっしょ 」 

…シッ

律「よっ、よっ」

…シッ


唯「んっしょ、んっしょ 」 

律「よっ、ほっ」

…シッ


ゆらっ ぐらぐらっ

ミチッ!

唯「わっ!なになに?」

律「なっ?!あっ下だ」


憂「おねーちゃーん!どこいくのーっ?危ないよーっ」  グイッ

純「私も連れてってくださいよーっ!」 グイッ

澪「こらーっ!」 グイッ

ミチッ!

唯「ああっ糸がっ」

唯「そんなに引っ張っちゃだめだよーっ糸が切れちゃう」

ミチッ

唯「だめだってーーーーーっ!!」


 ミチミチッ……!


和『梓の糸は今にも切れんとばかりに悲鳴のような軋みをあげております。
  しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。
  その玉のような白い花の何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居るのでございました。

   やがて……』

律「よっこらしょっと!……おおっ、ここが極楽かぁー」

唯「ねっ、そっと上がれば糸切れなかったでしょ」

憂「お姉ちゃん、危ないことしちゃだめだよー」

純「うわぁきれいなところ」


梓「あのー、他の人もどんどん上がってきちゃってるんですけど……」

紬「あらあらまあまあ」


憂「あっ梓ちゃん!」

純「梓!あんたこんなところでお尻出して!」

唯「えっ?あずにゃん?」


梓「ひゃっ!見ちゃだめですっ」 プツリッ

紬「はい終了~ここまで~」


和『糸は梓がお尻を隠した途端、急にぷつりと音を立てて断れました。
  後続いてに上ってきていた亡者共は血の池へまっさかさまに落ちてしまいました。
  後にはただ、糸はきらきらと細く光りながら、
  月も星もない空の中途に短く垂れているばかりでございます』


唯「あずにゃん!元気だったー?」

梓「何言ってるんですか、死んでるんですよ、私達」

唯「んもう、あずにゃんったらあーっ」スリスリ

梓「よ、よしてくださいよ、お釈迦様の前ですよ」

紬「いいのよ、いいのよ~」

唯「これあずにゃんの糸だったんだ、ありがとね~」

梓「お礼ならお釈迦様に……」

唯「ほーい、みんなお礼言って~」

律・憂・純「ありがとうございまーす!」


紬「うふふ、よかったわね、梓ちゃん」

梓「え、いやあの……」

紬「ねっ」

梓「……はい」


澪「やあ、いいところだなぁ、花がいっぱいだ」

律「なんで澪まで来てんだよ」

澪「そんな冷たいこと言うなよ」

律「地獄の獄卒のくせに」

澪「だって寂しいじゃないか……お前らがいなくなっちゃたらひとりでバンドも出来ないしさ」

律「また他のメンバー探せばいいじゃないか」

澪「やだ、お前らがいい」

律「お、お断りだっ!」



憂「律さんなんか嬉しそうだね」

純「なんだかんだで一番仲いいしね」


律「そこっなんか言ったか?」

純「何も言ってませーん」

澪「なぁいいだろ、なぁー、バンドやろうよー」

律「参ったな……唯、どうする?」

唯「私はいいよ~、せっかくギター弾けるようになったし楽しいもん」

律「そりゃあたしだってドラム好きだけどさー、あの練習量はきついからなあ」

澪「あれは地獄の決まりだから仕方なかったんだよ、」

律「ちっ仕方ねーな、じゃ度を超えた練習はなしだぞ」

唯「澪ちゃん、お手柔らかにっ」

憂・純「お願いしまーす」

澪「あ、いや……こちらこそ」

梓「あの……そのバンド、私も……そのう、一緒に」

唯「ほんとっ!?」

純「梓、楽器できるの?」

梓「ギターなら少しだけど……」

唯「いいよっ、ねっ、りっちゃん、澪ちゃん」

律「おういいぜー」

澪「もちろんだ、頑張って練習しような」

紬「私も私も~」

梓「えっ?お釈迦様も?」


和『……往生後ティータイムの誕生でございました……』


澪「よーしっ練習するぞー!」

梓「おーっ!」

律「えー?今からかよー、話が違うじゃんよー」

唯「ちょっと休んでからにしようよ~」

紬「じゃあお茶にする?いいお供えのお菓子あるんだけど」


唯・律「おーっ!」

憂・純「おおーーっ!」

梓「えっ?お釈迦様?ちょっと獄卒さん、何とかいってくださいよ」

澪「お、おーっ」

梓「ええーっ?!」


和『極楽も俄に騒がしくなってまいりました
  しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。
  その玉のような白い花の何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。
  極楽ももうひる近くなったのでございましょう』

唯「うひょっ、ひょっ、ひょっ」

憂「お姉ちゃん、その笑い方やめようよー」



                           おしまい~♪



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最終更新:2011年07月19日 02:40