………21XX年……まんがタイムきららに連載していた『けいおん』の人気はアニメ化をきっかけに急上昇、その勢いはまったく衰えず、アニメが終了し何十年も経ったあとでさえ、多くの人に愛されて続けていた。
そして、文明の発達にともない人間にほとんど近いロボットが産み出されたことで、半ば必然的にHTTの五人のロボットも製造、販売されるようになった。
しかし、その結果『けいおん』というものは本来の姿を失っていく。ユーザーそれぞれのニーズに合わせたキャラ改変、自らの好みに合わせた新たな設定。皆自分の思い通りにいくのだから、誰かの作った自分がいないような物語など必要なくなってしまうのだ。そして、いつしか『けいおん』は人々に忘れ去られ、道端に捨てられた古新聞のように踏みつけにされていった。

これはそんな歪んだ世界の物語


澪「次、猫の真似!」

梓たち「にゃあ!!」

澪「一番大事なのは?」

梓たち「ご主人様の命令です!!」

澪「よーし、今日はここまでだ」

梓「あの、いいですか?」

澪「AZ‐753965、故障か?」

梓「いえ、相談があるんですけど…」

澪「わかった。あとで事務室に来るように」

澪「あのさ、少し事務室を借りていいかな?」

事務員「バグでもあったのか?」

澪「まだ決まったわけじゃないんだけど」
事務員「そうか珍しいな。昔はともかく今は全然バグなんて見ないものな」

澪「だよな、書類とか面倒だよ」

事務員「まあ、バグには気をつけたほうがいいぞ」

澪「そう?」

事務員「ああ、1つバグがあると歯車がずれるように、そこから全部狂っていくからな」

澪「それで相談というのは?」

梓「おかしいと思いません?」

澪「何がだ?」

梓「みんなまったく同じ。わたしって何なんでしょうか」

澪(これはバグってるのかな)

澪「そんなに深く考えないほうがいいんじゃないか?」

梓「いや、でもなんかバカらしくて」

澪「………」

梓「…どうしたんですか?」

澪「…いや、梓、お前はバグってるよ」

梓「…バグって何ですか?」

澪「ああ、知らないよな。わたしも実際に見たことは一度しかない」

梓「澪先輩ってどのくらいこの仕事してるんですか?」

澪「二年前くらいからじゃないか。でも、仕事でってわけじゃないんだよ」

梓「それで何なんですか、バグって?」

澪「機械の故障だよ」

梓「でも、わたし前の健康診断では良好でしたよ」

澪「そうじゃない、人間でいう心の問題なんだ。」

梓「心?」

澪「なんというか、ショートケーキの苺の部分にきゅうりがのってたらおかしいよな?そういう感じなんだ」

梓「余計わかんなくなりました」

澪「…」

梓「…たぶん、喩えがまずいんじゃないですか?……2つの意味で」

澪「…まあいいよ…それより、1つ訊いていいかな?」

梓「何ですか?」

澪「人間とロボットの違いって何だと思う?」

梓「えーと、死なないこととかですか?」
澪「死ななくても、電源がきれたらおしまいだよ。ロボットの死体処理場なんてのもあるんだ」

梓「じゃあ?」

澪「わたしが思うに人間は何にでも意味を求めようとするんだ」

澪「それに比べロボットはただただ自分の仕事をこなすだけだ」

梓「意味ですか」

澪「…だけどさ、わたしと梓がここでこうしてることに意味なんてあるかな?」

梓「…あったらいいな、とは思います」

澪「そうか、梓は人間みたいだな」

梓「あの、澪先輩のほうが人間みたいですよ…澪先輩ってもしかして人間ですか?」
澪「…それがわたしにもよくわかんないんだよ………さ、もう行っていいよ」

梓「わたしはどうなるんですか?」

澪「追って連絡する」


澪(あれは完全にバグだな)

澪「……バグ…か」カキカキ



個体識別番号 AZ‐753965
観察結果 『異常なし』


―――――

憂「」

憂「…」ペラッ

母「憂、ちょっといいかしら?」トントン

憂「どーしたのお母さん?」ガチャ

母「何度も言うようだけど、学校行ったらどうかしら?」

憂「またそれ」ハァー

母「私は憂のために…」

憂「わかってるよ。だけど、高校なんていく意味あるの?」

母「だってあなたずっと家に引きこもってちゃ…」

憂「でも、わたし高校の勉強くらいならできるし、家事もちゃんとしてるよ」

母「人との関わりは本からじゃ学べないわよ」

憂「そんなの…」

父「ただいま」

母「ほらっ、あなたからも言ってやってよ」

父「なんだ憂のことか。それなら今日友人にいいものをもらってきた」

憂「何これ?」

父「今流行りのYUI-ROBOTだ。しかも、明るい性格だっていうから憂にぴったりなんじゃないか?」

憂「…」

母「そうね、まずはロボットからでも…」
憂「…だよ」

母父「?」

憂「余計なお世話だよ!」バタン

母父「」


憂「YUI-ROBOなんて、所詮はただのロボットだよ。ロボットなんか欲しくないよ」

憂「…」

憂「」チラッ

憂「す、すこしだけならね…」ポチッ

ウイーン

唯「こんにちは!!わたしは唯っていうんだ~」ニコニコ

憂(テンション高い…)

唯「あなたの名前は?」

憂「憂だよ」

唯「憂かぁ~いい名前だね!」

憂「ホントに?暗い名前じゃないかな」

唯「えー。なんか可愛い響きだよー。それにわたしと一文字違いだねっ」

憂「それって自分の名前を可愛いって言ってるんじゃ…」

唯「ぐさっ…バレちゃったかあー」

憂「…ふふ、バカみたいだよ」

唯「えへへーやっと笑ったね?」

憂「あっ」

唯「そうだ!憂はわたしの何ってことになるのかな?彼女とか?」

憂(彼女…そっか、こういうロボットってそういう目的で買う人が多いんだった)

憂「えーと、唯はわたしの……お姉ちゃんがいいかな」

唯「じゃあ、憂はわたしの妹だね?妹よ、よろしく~」ダキッ

憂「ちょっとやめてよ……お姉ちゃん///」
唯「いいではないか~」

憂「もうっ//」

グゥー

唯「あっ」

憂「ロボットってお腹すくの?」

唯「えーと、腹時計?」

憂「食べることってできるの?」

唯「うん!充電は別に必要なんだけどね」
憂「じゃあちょっと待ってて、ケーキ作るから」

唯「ケーキ?」

憂「得意なんだ…一応だけど」

唯「やったあ♪ケーキ大好き!」エヘヘ

――――

梓「はあー買い物面倒だなー」

梓「男さんも悪い人じゃないはずだけど……なんか違うんだよ……はあー、こんなこと考えちゃうなんて、わたしやっぱりおかしいのかな」

梓「あれっ、考え事してたら変な道にきちゃった。ここどこだろう?」

梓「あっ、あそこに人がいる。訊いてみよう」

梓「すいませーん……!!…何ここ…」

?「あれ?どうしたんだ?」

梓「律先輩!何ですかここ…って何してるんですか」

律「ああ、わたしこいつらの処理まかされてるんだ」

梓「そういうことじゃなくてゆ、指」

律「ムギのこの指の部分まだ使えそうだからな」ボキッ

梓「ざ、残酷ですよそんなこと」

律「そうかー?もう壊れてるんだぜー。ここは壊れたやつを集める死体処理場だしな」
梓「でも…仲間ですし」

律「仲間?知りもしないのにおかしいだろー。そんなこ、わたしたちだって初対面なのになんでそんなに馴れ馴れしいんだ?」
梓「それは顔とか…」

律「顔はないだろー。だって、わたしの顔半分つぎはぎでフランケンシュタインみたいじゃん」

梓「でも…」

律「いいか梓、お前があいつらを仲間だと思うのはそういうふうにインプットされてるからなんだよ」

律「それに比べてわたしは見てのとおり壊れてるからな。だから、こいつらを友達ともなんとも思わないよ」

梓「そんな…」

律「わたしの仕事はなあ。あそこのベルトコンベアまでこいつらを持っていって、プレス機でガシャンすることなんだぜ」

梓「お、おかしいですよ!そんなの」

律「だって見てみろよ、自分とまったく同じ顔のやつがこうやっていっぱいいる。こっちのほうがおかしくないか?」

梓「それはときどき考えますけど…」

律「考えるのかー、たぶんお前、いかれてるんじゃねー」

梓「わ、わたしもう帰ります。ここにいると変になりそうで」ダッ

律「……わたしと同じでな」

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

澪「ホントに行くのかよ、律」

律「ああ、バカらしいだろこんなの」

澪「でも、噂だろ?」

律「いや、わたしは見たよ。たしかに死体処理場の向こうにトンネルはあった」

澪「お前はバグってるんだ」

律「知ってるし。ムギはいくよな?」

紬「うん、わたしもおかしいと思うようになった」

澪「ム、ムギも前は行かないって」

紬「でも…りっちゃんの話を聞いてから」
律「そういうことだ。澪が行かないなら二人でいくぞー?」

澪「…わ、わかったよ」

律「よしっ、じゃあこれ」

澪「こ、これは?」

紬「ショットガンね」

澪「ど、どこでこんなものを」

律「それはいいだろ?これがあれば防衛ロボにも負けないぜ?」

う゛ーう゛ー

ダッソウシャハッケン ダッソウシャハッケン

律「くそっ、くらえロボット」バンッ

ドンッ

澪「はあはあ、これで全部か」

律「あそこを抜ければ、ちゃんとした世界に行けるんだな」

紬「…待って、りっちゃん危ない!」

ドカーン

律「む、ムギ!」

澪「ま、まだいたのか!」

律「……ちっ」

律「……澪、1人で行け、わたしが時間を稼ぐから」

澪「そんな…ムギや律をおいてけるわけ…」

紬「わたしのコト…ハ…イ……イ…」

澪「そんな…」

律「わたしも顔をやられちゃったみたいだしな」

澪「じゃあわたしも残る!」

律「ダメだ!!ここに残ってどうすんだよ、壊れたわたしたちはともかく、澪は記憶消されてまたもどるだけだろっ」

澪「………わかった」

律「幸せになれよ?」

澪「」ダッ

律「…さあロボットども、かかって来いよ」

ドカーン


タッタッタ

澪「はぁはぁ……バカ律………お前らのいない世界で幸せになれるわけないじゃないか…」

――――――――――――

――――――――

―――――

梓(そういうふうにインプットされてるか……いったいわたしって何なんだろ…)

梓「この路地裏、近道なんだよね」

唯「た、助けて……」

梓「へ、唯先輩?」

唯「あ、あずにゃん、わたしもう一歩も動けないよ」

梓「ど、どうしたんですか?」

唯「エネルギーが切れちゃった」

梓「……バカですか?」

唯「だってー充電するの忘れてて」

梓「仕方ないですね、わたしのわけてあげますよ」

ガコン

唯「あずにゃんもっとこっち寄ってよ」

梓「はずかしいですよ」

唯「だってーあずにゃんの短いから届かないんだよー」ギュー

梓「ちょっ、ちょっと///」

唯「ああっ、あずにゃんが入ってくるっ」
梓「変な言い方しないでくださいよ」

唯「よしっ充電完了!あのさ、お礼にケーキなんてどうかな?」

梓「少しなら平気ですけど」

唯「じゃあ、レッツゴー!」

梓「ゴー…?」

――――

梓「おいしいですね」モグモグ

唯「だねー。憂もここで働いたらいいんじゃないかなー」

梓「憂って?」

唯「妹なんだー。すごくおいしいケーキをつくるんだよ」

カランカラン

店員「いらっしゃいませー」

唯「あっまたあずにゃんだねー。もう三人目だよー。あずにゃんは人気者だ」

梓「…いや、違いますよ」

唯「そうだよ!あずにゃんはかわいいからみんな欲しがるんだねっ」

梓「そういうことじゃないです!!」バンッ

唯「え?」ビクッ

梓「あっすいません…ただ、まったく同じ中野梓でもみんなそれぞれ違うんじゃないかなって…」

唯「…え、ええと?」

梓「例えば、今わたしと唯先輩が一緒にいて話をしてますけど、明日になったらまた唯先輩は別の中野梓を中野梓と思って話をするじゃないですか……だから」

梓「…えっと…自分で言っててわかんなくなってきました」

唯「わたしもよくわかんないけど……つまりあずにゃんはわたしに、覚えててもらいたいんだね!」

梓「そうです?……そうなのかなあ」

唯「そうだっ、いいこと考えたよ!あずにゃんマジック持ってる?」

梓「持ってないですけど」

唯「あのモフモフの店員ならかしてくれるかな?」

唯「あのーすいませーん。マジックありますか?」

店員「店の奥にあると思いますけど…取ってきますね」

店員「あっどうぞ」

唯「ありがとう!」

梓「で、それで何をするんですか?」

唯「あずにゃん手出して」

梓「…?」スッ

唯「」カキカキ

唯「よしっ!できたあ」

梓「何ですかこのマーク?」

唯「この店のトレードマークのティーカップだよ」

梓「パクりですよ」

唯「いいんだよ!ほらっわたしにも描いたからこれでわたしたちはお互いを忘れないよ?」

梓「手のひらなんかに描かないでくださいよ………すぐ消えちゃうじゃないですか」
唯「えへへー明日もあずにゃんに会えるかな?……君だよ君」コツン

梓「はい、いいですよ」

トントン グツグツ

梓(玉ねぎが目にしみるなー)トントン

男「お前最近よく出掛けてるがどこに行っているんだ」

梓「唯先輩と会ってるんですよ」トントン

男「……そうか。今日も行くのか?」

梓「はい、まずいですか?」

男「いや…いいんだ………」

梓「あっ、いったあ」

男「どうしたんだ」

梓「いや、指切っちゃいました」

男「なんだ、お前最近になってになってからなにするのもぎこちなくなってるな」

梓「あ…すいません」

男(……唯先輩、か)


4
最終更新:2011年07月19日 02:48