Ch.017 唯「でふじゃむ!」
唯「みんないらっしゃーい。ゲームしよ~」
律「おー!」
紬「やるやる」
梓澪「えっ」
梓「今日何の集まりでしたっけ……」
澪「合宿の打ち合わせのはず……」
律「唯ってどんなゲームするんだ? アクアノートの休日とか?」
唯「今やってるのは格ゲーだよ。結構好きなんだ~」
唯「KOFとかバーチャとか~」
律「えっと……今やってるこのHIPHOPな方達がバトルしてるのは何だ?」
唯「でふじゃむ!」
END
Ch.018 澪「私はそんなに魅力が無いか……?」
澪「私はそんなに魅力が無いか……?」
律「えっと……はえ?」
澪「だって、私がどれだけアプローチしても……」
律「いやだから何の話だよ?」
澪「それなのに……二人でいる時は急に優しくなるんだもん……ずるいよ!」
唯梓「へたれー」
律「なんだお前ら!?」
紬「もたもたしてると私が澪ちゃんにコクっちゃうよ!?」
律「え、えー……」
紬「……だめね。撤収」
唯梓「へたれー」
澪「甲斐性なしー」
律「いわれのない中傷とは。いわれのない中傷とは波動拳である」
END
Ch.019 紬「ティータイムオブザデッド」
このショッピングセンターに来てからどれくらい経ったっけ。
屋上でぼんやりと空を眺めながらそんな事を考える。
いろんなことがあったから随分昔からいるような気がするけれど実際のところは……ええと、忘れちゃった。
覚えているのはここに来た日も今日みたいにぽかぽかしたいい天気だったということ。
いつものように部室でお茶をしていると外から悲鳴が聞こえてきて、窓から外を見るとあちこちで煙が立ち上がっていて、校庭にはゾンビがうろうろしているっていうよくある話。
友達や先生が死んで、殺して、殺されて。
そんな中で私達軽音部の5人が無事なのは不幸中の幸いって言えるのかも。
みんなと協力し合って右往左往命辛々、ショッピングセンターに逃げ込んで立てこもることが出来た。
ここには食料や生活用品もあるし中にゾンビは入ってこられないから立てこもるのには打って付けだったの。
そう考えたのは私達だけじゃなかった。
だから私達以外にもショッピングセンターで一緒に立て籠もっている人達がいる。
その人達と協力しながら今まで何とかやってこられたけど、この先どうなるかは全く分からない。
耳に僅かに届く「ウー、ウー」という呻き声も今では殆ど気にならなくなっちゃった。
多分みんなそう。澪ちゃんだって怖がってないもの。
立て籠もって最初の頃はみんな怯えたり怒っていたり、おかしくなっちゃう人もいたけれど。
最初の頃か……。
ここに来てからの最初に起こった事件て言ったら、やっぱり澪ちゃんのことよね。
ショッピングセンターで迎えた二日目の夜。
私達5人は家具屋のベッドで寝ていたのだけれど、澪ちゃんとりっちゃんがトイレに行ったの。
りっちゃんのトイレに澪ちゃんが付き添う形でね。
ここからは聞いた話なのだけど、澪ちゃんが一人で待っている間に一緒に立て籠もっている大学生の男性の方に言い寄られたらしいの。
言い寄られたというか無理やり……。
どうせ助からないから、とかそんな事を言いながら。
でもそこに颯爽と表れるりっちゃん!
有無を言わさずその大学生にドロップキックして撃退。後日しっかり謝罪させたの。
あぁ、りっちゃんは最高ね。
その後は泣きじゃくる澪ちゃんを宥めてからふかふかのダブルベッドで二人仲良く就寝。
思えばみんなが変わってしまったのはこの事件以降だったのかもしれない。
この事件以降澪ちゃんは変わったわ。
その事件から1週間くらい経った頃、澪ちゃんとりっちゃんがいつものようにベッドで寝ていたのだけれど、暫くして二人でトイレに行ったの。
その帰りが遅かったから私は気になって二人を探しに行ったの。そしたら少し離れたベッドで二人の話し声がして。
好奇心に負けた私は二人の声を聞き取れる距離まで行って……盗み聞きしちゃった☆
正確には覚えていないけれど、要約すると……
「律……私律のことが」
「な、何言ってんだよ」
「私律となら……」
「おっおい、やめ……アッ」
大体こんな感じね。
当然澪ちゃん達はそのことを黙っているから、澪ちゃんの心境の変化は自分で想像するしかなかったのだけれど。
この状況と、先日の事件と、寂しさと……きっとそれらが澪ちゃんを変えちゃったと思うの。
そしていつしかそれに答えるりっちゃん。
本人同士が良ければいい、のかな。
本人同士が良ければいいと言えばもう一組。
澪ちゃん達がそういう関係になってから直ぐの事ね。
夜中に誰かの声がして目が覚めたの。
その声の主は梓ちゃん。それもすすり泣く声。
私が梓ちゃんの元へ行こうとした時、今度は唯ちゃんの声がしたから一先ず様子を見ることにしたわ。
唯ちゃんが梓ちゃんのベッドに入って問うと、両親の事を思い出していたとのこと。
そうよね、この状況で両親のことを心配しないはずない。それに梓ちゃんは寂しがりや。泣いてしまうのも無理ないわ。
そうやって話していたら梓ちゃんも落ち着いてきたみたいで唯ちゃんに泣き顔を見られるのが恥ずかしくなったのね。梓ちゃんたら唯ちゃんに背を向けて寝始めたの。
そんな梓ちゃんを見て唯ちゃんが梓ちゃんの背中に抱きつく。
それからたっくさんの元気が出る言葉をかけて、それから……何を思ったのかしら。
「あずにゃんの事、慰めてあげるね」
って言い出して突然……。
その発想はなかったわ。
さらにまんざらでもない梓ちゃん。
死とそれ以上のものを見てきて二人にどんな変化が訪れているのか。
この前の澪ちゃん達の事も思い出して改めて考えたけれど、分からなくなってきちゃった。
今まではそんな事なかったのに。
そしてみんなの行動はさらに私を混乱させる。
あれは天気のいい昼下がりの午後。
昼食を取ってからみんなで屋上へ行って日向ぼっこする予定だったのだけれど。
「りっちゃ~ん重たいよ」
「がんばれーもう少し!」
何故か唯ちゃんとりっちゃんは屋上にダンベルを持って来たの。
それで何をするのか。聞かなければ良かったかも。
「これを落っことして下にいる奴らに食らわせるんだよ」
「ただ落とすだけじゃ詰まらないからな、最初に当てる奴を決めてそいつを狙ってダンベルを落とす!」
「ふんす!」
二人とも本気だった。
彼らだって元々は私達とおんなじ人間だったのに。
二人はそれを知っているでしょ? そんな事を聞いても特に反論しない澪ちゃんに梓ちゃんも。
結局私も二人を止める事はしなかった。
変わっていない私が悪い気がして。
寝る前にトイレへ行く途中、二日に一回はギシギシという音と男女の声が聞こえてくる。
ショッピングセンターで私達以外に立て籠もっている人。
姿は見えないけれど、朝たまに顔を合わせるあの二人だろう。
その人たちは元々赤の他人だったらしい。
それに日中はあまり一緒にいるところを見かけないのに夜になるとこうなっているの。
どうしてかと考えて割りと直ぐに見つかる答えは私には理解できないもので……。
そんなことを考えるのはやめてトイレへ。
その帰り道、今度は別の場所から女女の声が聞こえる。
これはりっちゃんと澪ちゃんの声ね。
何故だか溜息がもれて、それからちょっと近付いてみようと思って物陰に隠れながら様子を窺う。
別に見たかった訳ではないけれど、二人はどんな感じなのかが気になった。
息を潜めていると別の方向から足音が聞こえる。
いけない、誰か来ちゃった。
足音がした方を覗く。そこにいたのは何時ぞやの大学生の男性だった。
覗きかとも思ったけれど、彼は近くに来るまで全く気付いていなかったらしい。
二人と一人が同時に気付く。
「あっお前!」
りっちゃんの先制攻撃。また襲いに来たのか、それとも覗きかと、彼に罵声を浴びせる。
彼は必死に弁明している。元々は気の強くない人なのだろう。それがこの状況で希望をなくして、絶望に潰されないように、死ぬ前に……みたいな事を考えてしまったのかしら。傍迷惑な気の迷い、かな。
現に彼とは数回挨拶をしたけれどとてもそんな事をするようには見えなかったし、その数回全てで私にも謝罪をしていた。
それに一人でいるところを良く見る。
りっちゃんと澪ちゃんにもそれが分かっていたのかな。
きつめの罵声を飛ばしていたりっちゃんだけれど、澪ちゃんが遮るとあっさり止めた。
彼は一言謝ってその場を立ち去ろうとする。
そこで何を思ったのか、澪ちゃんが彼を引きとめたの。
「貴方も……こっちに来る?」
ぎょっとする私とりっ……りっちゃんは「え~」と言っただけだった。
澪ちゃんは何を言っているのか分かっているの?
りっちゃん、もっと驚いて、それからもっと否定して。
理解できない。
今までそこにいる三人の事を考えていたけれど、私の考えは全くの見当違いだったのかも。
それから彼と澪ちゃんはいくつか言葉を交わして、彼が踵を返したところで私はこの場から逃げた。
その日は中々眠れなくて、次の日の私達五人は全員寝不足だった。
それからこれは先週の割とまともな話。
みんながエンジョイしているように見えるこのショッピングセンター。それにも陰りが見え始めてきていたの。
一向にいなくならないゾンビ。
全くこない救援。
減っていく食料。
そんな中で生活していてみんな気が滅入ってきたのだ。
不意に誰かがここから出たいと言い出す。
当然同意の声が聞こえるけれど、出てどうするというもっともな意見が帰ってきて誰も答える事ができない。
「はぁー……ムギちゃんちの船があればどこにでも行けるのにね」
これは鶴の一声って言うのかな?
とにかくその一言が発端になってあれよあれよと計画が纏まっていったの。
私の家が所有しているクルーザーのある港まで行って、そこからクルーザーで島を目指す。
そこには何の保証もないけれど、それよりも今の状況を打開したい。
軽音部含めみんながその意見だったわ。
私もその計画に同意したけれど少し置いていかれた気分だった。
私の目にはみんな少なからず楽しんでいたようにも見えていたから。
でもそうじゃなかったみたい。
ともかくこの計画の準備は早速始まる。
移動手段の車の確保に武器の確保……。
計画遂行は一週間後。
長い時間を過ごしたと錯覚させるこのショッピングセンター。
出来ればもっと楽しい気持ちで来たかったな。
他にも色々な事があった。それを思い出そうとしたところで屋上の扉が開く。
「あっいたいた、ムギちゃーん出発する前にお茶にしようよ!」
振り返ると軽音部のみんながいて、手には各々お茶会に必要なものを持っている。
「今日は天気がいいから屋上でお茶にしようってことになったんだぁ」
自然に笑う唯ちゃんを見ていると呻き声なんか耳に入ってこなくなる。
その表情はこうなる前の日常と変わらないように見えるけれど、本当は違う。
みんな変わってしまった。
そして私は変わっていない。
それが疎外感を感じさせる。
そのことが悲しくて私も変わってしまいたいと思う反面、このままでいたいとも思う。
みんながお茶会をしようって言ってくれて、その代わらない部分に安心しつつ唯ちゃんに返事をする。
「そうね、今日から当分お茶会出来ないかもしれないし今日はガッツリ飲もー!」
「おおー!」
みんなからティーセットやポットを受け取っていつものように準備を始めて。
お茶会の間も私はみんなに気を配る。
いつものように。
変わらないように。
今私がしている事は変わってしまったみんなに届くのかな、なんて考えていると
「ムギちゃんの入れるお茶はいっつもおいしーね」
「今日はこれから大変だってのにムギはいつも通りだな」
なんて事を言われちゃった。
嬉しかった。
ふと改めてみんなを見てみると、唯ちゃん以外はどこか緊張しているように見えた。
今みんなの考えている事を予想する。それが合っているのかどうか今の私にはわからない。
以前なら、
唯ちゃんはゾンビの事を忘れてクルージングのことばっかり考えていて、
澪ちゃんはやっぱり怖がっていて、
りっちゃんはそんな澪ちゃんを元気付けようとしていて、
梓ちゃんはそんな先輩達にいつも通りを感じているはず。
みんなが変わってしまった今は何を考えているのか正確に把握できない。
私も変わる事ができたらみんなの考えている事が分かるのかな。
そんなことを考えながらいつもの楽しいお茶会の時間は過ぎていきます。
END
Ch.020 夜の合図
律「ムギの別荘は居心地いいな」
唯「だね」
紬「みんな~今日はウィンナーコーヒー入れてみたんだけど」
唯「おいしそー!」
梓「いただきます」
律「たまにはこういうのもいいな」
澪「うん」
ズズッ
澪「!!」
澪(私のだけクリームが山芋おろしになってる……!)
紬「……」チラ
澪(今夜か……)
澪「ムギ、おいしいよ」
紬「ありがとう♪」
律「ところでさ、どうしてウィンナーコーヒーって言うんだろうな」
紬「あ、それはね……」
唯「よさこい!」クネクネ
紬「!!」
紬(なんてことっ! まさか唯ちゃんからお誘いがあるなんて……)
紬(どうしよう……ブッキングしちゃった)
律「ムギ?」
紬「あ、ウィンナーはオーストリアのウィーンから来てるのよ」
律「へえ~」
梓「そうだったんですか……いち、にっ、さん、しっ」
澪「どうした梓?」
梓「ちょっと指の運動がしたくなっちゃって」
唯「!!」
唯(えっ……どうしよう私もうムギちゃんに合図送っちゃったよ!)
唯(まずい……まずい……)
律「どしたー唯?」
唯「へあっ? なんでもないよ」
律「本当かー? どうせ夜ご飯の事でも考えてたんだろー?」
唯「そんな事ないよー」
律「今日はバーベキューだからなー」
律「……」
律「キャベツうめー!」
梓「!!」
梓(それはさりげなく会話に混ぜたつもりなの?)
梓(律先輩ってば二日連続だなんて……油断してた)
梓(どっどうしよう……)
澪「なんだよキャベツうめーって」
律「いや美味いじゃんキャベツ」
澪「そうじゃなくて唐突すぎるだろ」
律「うるせーキャベツみたいな胸しやがって」
澪「うるさいっ」
ゴチン
律「!!」
澪「あっ」
律(ま……まさか澪から誘ってくるとは……)
律(タイミングが悪すぎるぞ澪)
澪(しまったああああああ)
澪(ついやっちゃった……ムギが合図送ってたのに……)
澪(どうすればいいんだ……)
澪律梓唯紬「ああああ……」
澪律梓唯紬(今度から断りの合図も考えておこう……)
END
最終更新:2011年07月21日 02:35