Ch.058 澪「ひよこ芋虫」
最初の出会いは中学三年の時だった。
私は律と夏祭りに出掛けて露店を見て回っていた。
露店の一つにくじ屋があって、そこにはいろんな動物が居たっけ。
そのくじ屋ははずれでもひよこがもらえるんだけど当時の私はどうしてもそのヒヨコが欲しくてくじを引いた。
結果ははずれ。つまりひよこをもらうことが出来たんだ。
どこにでも居るような普通の黄色いひよこでとっても可愛かった。
私は早速家に帰ってひよこの寝床を作って世話をした。
時折ピヨピヨと鳴くひよこが愛らしい。
だけど翌日ひよこを見て私は驚愕することになる。
澪「ひ……ひよこの色が灰色に変わっている」
律「うわほんとだ……どうなってるんだ?」
澪「わからない。寝る前までは黄色だったのに……」
澪「ど、どうしよう律!」
律「どうって言われてもな……」
ひよこ「ぴよぴよ」
律「とりえあず水でもあげたら?」
澪「そうだな……」
澪「ほら、水だよ」
律「それにしても……ひよこってこんなにくちばし長かったっけ? 普通の三倍くらいの長さがあるんだけど」
ひよこ「ぴよぴよ……」
ひよこが水に口をつけた瞬間。
くちばしがぽろっととれた。
澪「……え?」
律「ほへ……?」
澪「きゃあああああ!」
律「ええっ! や、やばくないこれ!?」
ひよこ「……」
ひよこは鳴かなくなった。
でも普通に水を飲み始めたので私達は見守る事にした。
律「ケガしてくちばしがとれたわけじゃなさそうだな」
澪「う、うん」
それでもこの異常な事態は十分怖かったけど。
やがて水を飲み終えたひよこに更なる変化が訪れる。
律「ん……?」
澪「ひよこの毛が濡れてる?」
律「え……表面がどんどん濡れてきてるけど……どうなってんの?」
澪「ひっ……」
毛が湿ってきたかと思ったらどんどんゲル状の液体が表面から溢れてくる。
澪「いやあああああ!」
そうしている間にひよこはみるみるゲルで包まれてしまう。
もう灰色の毛もなくなってしまって……しまいにはゲル状の身体が半透明に。
そうしてある程度の形になった時には一体の透明な芋虫がそこにいた。
律「うおおっ……」
律が身震いした。
私は気を失いそうになりながらもなんとかそれを眺めた。
ひよこ芋虫「……」
見たことのない形の芋虫だ。
まず何と言っても身体が透明なのだ。薄い緑と透明。
そして体長十センチ。ひよこの形跡は微塵もない。
元から虫が苦手な私の身体は震えていた。
これが昨日私が欲しがっていたひよこの姿だというのか。
だがひよこ芋虫はさらに私達を驚かせる。
テーブルにおいていたエサを食べ始めるとさらなる成長を始めた。
芋虫に変わった時は十センチ程度だった身体がどんどん大きくなっていき、二十センチになる。
私は恐怖で動けなかった。
ひよこ芋虫がテーブルはら降り始める。
そのスピードは芋虫のそれではなかった。
一瞬で私の足元に移動すると今度は私によじ登り始めた。
澪「ひぃぃぃ……!」
体長二十センチの芋虫が私の身体によじ登ってきた。
それだけでどうにかなりそうだったが、私はじっと耐える事にした。
これは元々私が昨日出会って好きになったひよこなんだ。それを振り落とすなんてことしちゃいけないと強く念じた。
体中を猛スピードで駆け巡るひよこ芋虫。
それを目を瞑って必死に耐える私。
いつの間にかひよこ芋虫は私の頭の上に乗っかっていた。
澪「っはあ……はあ……」
目の届かないところにいるおかげでなんとか我慢できた。
これは私が貰ったひよこなんだから私が育てないと。
この時の私はよくわからない理由でひよこ芋虫を育てる決意を固めた。
律「まじでそいつ育てるの……?」
澪「あ、ああ……」
震えた声で答える。
律「そもそもエサとかどうするんだよ」
澪「えっと、これ」
私は昼食用に作っておいたおにぎりを持った。
頭の上のひよこ芋虫にそれを近づけると……食べた。
律「うお……おにぎり食べるのかこいつ!」
澪「そっか、食べたか……良かった」
気持ち悪い事には変わりないが少しだけ以前の愛着が戻ってきた。
そうやって飼育してどれくらいの時間が経ったのか。
長かったのか短かったのか、あいまいで覚えていない。
気が付いたらひよこ芋虫は体長170センチの透明芋虫になっていた。
時は過ぎて私は高校生になる。
そこで私は命の危険に晒されることになった。
放課後の校舎で私と律とムギ、それにひよこ芋虫は追っ手から逃げていた。
ちなみにこの時にはすでにひよこ芋虫に対する恐怖はなくなっていた。
それでもひよこ芋虫はいつも私を驚かせてくれる。
突然だった。
ひよこ芋虫が変形してヒトガタになったのだ。
色は透明のままだったけど。
あとちょっとひょろい。
弱そうに見えたので戦力には入れない方向で考えたが一応銃は持たせておいた。
暫く校舎を逃げ続けていると私達は追っ手に出会ってしまう。
その追っ手は私達と同年代で、同じ制服を着て、髪を二つの黄色いヘアピンで留めていた。なかなかかわいい。
でも銃を持っている。
私達は咄嗟に物陰へと隠れて様子を窺う。
だがそこでひよこ芋虫が突然追っ手に向かって突っ込んだ。
ひよこ芋虫と追っ手の銃撃戦が始まる。
ひよこ芋虫は動きが早く普通に強かった。
何発か撃たれたがそれより多く相手に打ち返して勝利した。
その後、ひよこ芋虫は死んだ追っ手に触れた。
何をしているのか疑問に思っているとひよこ芋虫の身体はみるみる追っ手と同じ顔、服装へと返信していった。
澪「なっ!?」
この時は流石に声が出た。
色々頭の整理が追いつかないが、それどころじゃないので逃走再開。
その後も追っ手が現れる。だがひよこ芋虫は強かった。
もうすぐ校舎の外に出られるというところで突然前から追っ手のボスらしき人物が現れてこちらに銃を向けた。
だがひよこ芋虫が速攻でボスに一発入れる。
私達が安堵しかけた瞬間、ボスから三発の銃弾が返って来た。
律とムギが倒れる。多分死んだ。
ひよこ芋虫は足を撃たれて倒れた。
ボスはひよこ芋虫に向かって何発も銃弾を撃ち込む。
それでもひよこ芋虫は数発打ち返して、今度こそ勝利した。
私はボロボロになったひよこ芋虫に近寄って抱き抱えた。
今は少女の姿をしているひよこ芋虫は弱々しく笑ってから目を閉じた。
END
Ch.059 甘美な酩酊
律「乾杯!!」
唯「いえーい!」
澪「ごくごく」
紬「ごくごく」
梓「くぴくぴ」
和「ごく……え、これって」
HTT「ぷはー!」
和「ねえ律、今みんなが飲んでるのって……」
律「何? ただのジュースだよ。ほれ」
和「どれどれ……『ジュースみたいなお酒』って、ちょっと律!」
律「え~?」
律「硬いこというなよーいいじゃん!」
和「良くないわよ。澪も普通に飲んでるってことはお酒だって教えないで飲ませたわね」
律「うひょー!」
和「!?」
律「せーいかい!」
和「ちょっと、もう酔っ払ってるの?」
律「なにい!?」
律「酔ってないよ! 全然酔ってない!」
律「なあ澪!?」
澪「ぐびぐび……ふう」
澪「えっ何? 私の詞が聞きたいって?」
澪「よーしよく聞いてろよ!」
澪「ときめきシュガー」
澪「……」
澪「りつぅー! 忘れちゃったよー!」
律「細かい事気にするなよ!」
澪「そうだよな!」
律澪「うえーい!!」
和「……」
和「……あっ、ムギももう飲むのやめたほうが」
紬「え? 美味しいよ?」
和「そういう問題じゃなくて」
和「……ってあんた何杯飲んでるのよ」
紬「10缶くらい?」
和「もう!? 飲みすぎよ」
紬「おいしくってついつい」
和「大丈夫なの?」
紬「何が?」
和(……ざる)
梓「ちょっと、聞いてるんですか唯先輩!」
唯「聞いてるよ」
梓「私達はもっと練習するべきですよ。せっかくみなさんいいものを持っているんですからそれを生かすべきです。唯先輩だって……」
唯「はいはい」
梓「それにですね――」
唯「あずにゃん、澪ちゃんが呼んでるよ?」
梓「え?」
唯「澪ちゃん、あずにゃんが澪ちゃんとお話したいって」
澪「私の詞が聞きたいって? よーしこっちこい」
梓「何言ってるんですか、今はそんな話じゃ」
澪「ときめきシュガー」
和「……」
唯「ふう」
和「唯は大丈夫なの?」
唯「まあ大丈夫だよ」
和「意外ね」
唯「……ねえ和ちゃん、キスマークの付け方って知ってる?」
和「はあ?」
唯「私が教えてあげよっか?」
和「あんた……」
律澪「いけー!」
梓「聞いてくださいよ!」
紬「ぐびぐび」
和「……」
和「ぐびぐび」
END
最終更新:2011年07月21日 02:57