梓「律先輩はきっと必死になって助けてくれます」

律「んなこと分からねーし」

梓「じゃあ、一度熱中症になってみようかな」

律「ばか言ってないでこっち来いっ」

梓「……はーい」

梓「それにしても、体育なんだったらサボらなくてもよかったのに」

律「めんどい」

梓「怠け者」

律「何を今更」

梓「ドラム叩いてるときはあんなに一生懸命なのに」

律「そのときは集中できるんだ」

梓「その集中力を授業にも回しましょうよ」

律「授業は嫌い。ドラムは好き」

梓「頑張りましょうよ、受験生」

律「そもそも受験するかも分からないし」

梓「じゃあどうするんですか」

律「さぁ」

梓「……律先輩は仕方のない人です」

律「ほっとけ」


梓「ここって先生が見回りに来たりしないんですか?」

律「ん。来たことないな」

梓「ふぅん」

律「大体、こんな暑い日に屋上まで見回るのはよっぽどの物好きだよ」

梓「それもそうですね」

律「……」

梓「そういえば、律先輩と初めて会ったのも屋上でしたね」

律「そうだっけ」

梓「去年の四月です。覚えてないんですか?」

律「忘れた」

梓「……ばか」

律「うるせーし」

梓「屋上に上がっていく人を見かけたから、ちょっと覗いてみたら律先輩がいて」

律「……」

梓「そしたら律先輩、いきなり仏頂面で睨んできたんですよ」

律「ふぅん」

梓「覚えてないんですか?」

律「うん」

梓「……」

梓「屋上に上がっていく人を見かけたから、ちょっと覗いてみたら律先輩がいて」

律「……」

梓「そしたら律先輩、いきなり仏頂面で睨んできたんですよ」

律「ふぅん」

梓「覚えてないんですか?」

律「うん」

梓「……」

梓「恐喝とかされるのかなって思っちゃいましたし」

律「んなことするかっ」

梓「だって、不良の人に見えたんですもん」

律「あのなぁ」

梓「けど、話してみたら意外にいい人だなって」

律「意外には余計だ」

梓「くす、ごめんなさい」

律「ちっ……」

梓「そっか、まだ一年か」

律「もう一年だろ」

梓「……そうですね」

梓「さっき澪先輩、熱心に走ってましたよ」

律「あいつは真面目だからな」

梓「いいんですか、どんどん置いてかれますよ?」

律「別に、ずっと前に差をつけられてるよ」

梓「……律先輩っていつから澪先輩と一緒なんですか?」

律「さぁ、十年ぐらいかな」

梓「そっか、十年か……」

律「それが?」

梓「幼なじみっていいなって」

律「別に、何てことないよ」

梓「でも親友とは違うじゃないですか」

律「んーそうか?」

梓「そうですよ……幼なじみは子供のときにしか作れませんから」

律「別に幼なじみだからって特別扱いはしないけど」

梓「周りがしちゃうんです」

律「ん?」

梓「……何でもありません」

梓「……」

律「……」

梓「こうやってのんびり空を眺めてるってのもいいですね」

律「だな。ちょっと雲が増えてきたけど」

梓「私は快晴よりも、少しぐらい雲がある方が好きですよ」

律「何でまた」

梓「だって、雲一つない空って寂しいじゃないですか」

律「そういうもんかな」

梓「ほら、あんな風にちぎれた雲とかいいなって思います」

律「ふぅん」

梓「他からはぐれちゃってるけど、何だかその分生き生きしてて」

律「私には行き場をなくしてるように見えるけど」

梓「行き場も何も、別にどこに行ってもいいんです。雲なんだから」

律「ん。それもそうか」

梓「……確かに律先輩って雲みたい」

律「何だよ急に」

梓「澪先輩が以前言ってたんですよ」

律「またあいつは変なことを」

梓「ふわふわしてて、気ままに生きてる感じが似てるって」

律「……」

梓「そういう律先輩が羨ましいって言ってましたよ」

律「知らねーし」

梓「すごく的確なたとえだと思うんですけど」

律「雲みたいって言われてもなぁ」

梓「高い所とか好きそうだし」

律「何とかとけむりは高い所が好きってか?」

梓「そんなこと言ってません」

律「……」

梓「それに、高い所は私も好きですよ」

律「知ってる。こうやって屋上に来るぐらいだもんな」

梓「……まぁ、そういうことです」


律「ふぁ~あ」

梓「眠いんですか?」

律「ん。普段なら寝てる時間だから」

梓「今って普段でも授業中ですよね」

律「そうだよ。それが?」

梓「……」

律「んー我慢できない」トローン

梓「ちょっと律先輩っ?」

律「あ、ダメだ。寝ちゃいそう」

梓「今から寝るには中途半端な時間ですよ」

律「うん、だから梓起こして」

梓「私がですか?」

律「チャイム鳴るまで寝る」

梓「……」

律「お願い」

梓「分かりました、鳴ったら起こしますね」

律「ん、よろしく」

律「そんじゃ、おやすみ」

梓「……」ジー

律「……何だよ」

梓「ひざ枕はいかがですか?」

律「は?」

梓「コンクリートの壁だと硬くて痛いですよ」

律「いやいつもこうやって寝てるし」

梓「さっき肩貸してもらったお礼です」

律「……」

梓「ね?」

律「んじゃ、お言葉に甘えて」

梓「はーい」

律「……」ゴロン

梓「頭痛くないですか?」

律「ん、大丈夫。おやすみ」

梓「おやすみなさい、律先輩……」


律「」スヤスヤ

梓「……」

梓(寝付きのいい人)

梓(いつもは目つき悪いくせに、寝顔は可愛いんだなぁ)

梓(本当に無邪気な顔……律先輩に似合わない)クスッ

梓(……)

梓(ホイッスルが聞こえる。先輩たちのかけ声も)

梓(あ、ヒコーキ雲だ。きれいな二本筋)

梓(中々消えないってことは、明日は雨かな)

梓(……)

梓(さっきの雲どっか行っちゃった。入道雲もとっくに見えない)

梓(……空って目まぐるしく変わるんだな)

律「……」スースー

梓(……)

梓(いきなり消えたりしたらいやですよ、律先輩)

梓(それにしても、あれから一年しか経ってないなんて)

梓(……)

梓(律先輩は忘れたかもしれませんけど、私にとっては大切な思い出なんですよ)

梓(…………)



――――


律『へぇ、ジャズが好きなんだ』

梓『はい、親がジャズ奏者なんです』

律『サラブレッドってやつか』

梓『そんな大したものじゃないですよ』

律『部活はジャズ研とか?』

梓『それがその、どうもしっくりこなくって』

律『ふぅん』

梓『何か、私のやりたいことと違ったっていうか……』

律『……』

梓『多分、部活には入らないと思います』

律『……』

梓『でも音楽は続けたいから、外バンを組もうかなと』

律『……じゃあさ』

梓『?』

律『軽音部に来るか?』

梓『軽音部って……あったんですか?』

律『失礼な』

梓『あ、ごめんなさい』

律『これでも一応部長なんだ』

梓『へぇ~』

律『……』

梓『……溜まり場ですか?』

律『ちげーよ!』

律『私含めて四人だけの小さな部だけどさ。楽しいぜ、すっごく』

梓『どんな部なんですか?』

律『お茶して駄弁って、時々練習』

梓『……練習は時々ですか』

律『めんどいし』

梓『……』

律『今日ちょうど新歓ライブやってるから来いよ』

梓『はぁ』


~~

ジャーン ジャジャッ


ワーワー! パチパチ!

憂『わぁ~、お姉ちゃん格好いい!』

梓『……』

憂『ごめんね、わざわざ付き合ってもらって』

梓『……』

憂『えっと、梓ちゃん?』

梓『……』


~~

ガチャッ

梓『し、失礼します』オズオズ

澪『あ、いらっしゃい』

律『おぉ! 来てくれたんだ、ありがとう』ニコニコ

梓『は、はい』

律『ほら、この前話した逸材だよ』

澪『へぇ、この子が』

梓『……』

律『ささ、中入りなよ。お茶とお菓子用意するから』

梓『はい、それじゃ』

梓(あれ? この前会ったときよりいい人に見える)

律『……』ニヤリ

梓『?』

律『唯、ムギ。退路を断て』

唯『イエッサー!』

紬『りょうか~い』

梓『へっ?』

律『……』ノッシノッシ

梓『え、え~と?』

律『』ギュッ

梓『あ、あの……?』

律『部員一名、確保』

梓『えぇ!?』


~~


梓『ちょ、やめてください!』

さわ子『うん、よく似合ってるじゃない』

唯『あずにゃん可愛い~!』

梓『あずにゃんって何ですか!』

唯『ネコ耳が似合うから』

梓『……』

さわ子『このままメイド服にも挑戦しましょ』

唯『さんせい!』

梓『り、律先輩! お茶飲んでないで助けてください!』

律『何で。いいじゃん』

梓『よくないです!』

律『可愛いよ』

梓『!』ドキッ

唯『ほぇ?』

律『』ズズ

梓『……』

唯『どしたの、あずにゃん』

さわ子『へぇ~……』


~~


ガチャッ キー

梓『……』コソコソ

律『ん、何だ梓か』

梓『は、はい』

律『お前が屋上来るなんて珍しいな』

梓『その、話がありまして』

律『話?』

律『……』

梓『やっぱり、一年生が私だけだと後々大変かなと』

律『……』

梓『ただでさえ少ない人数が減ることになって』

梓『……その、軽音部には申し訳ないんですけど』

律『梓。勘違いすんな』

梓『』ビクッ

律『別に一人減ったところで何もないだろ。軽音部は四人で一年間やってきたんだから』

梓『……』ズキッ

律『人数減るのはどうでもいい。私たちの代で軽音部がなくなるのは残念だけど』

律『最終的に決めるのは梓だから、それは仕方ないと思う』

梓『……はい』

律『だけど、私は梓に辞めてほしくない』

律『軽音部のためにとかじゃなくて……お前とバンドやるの楽しいから』

梓『へっ?』

律『……』

梓『あ、あの。今何て』

律『お前とバンド続けたいっつったんだ!』

梓『!』

律『……何度も言わすな』

梓『え、えっと』

律『……』プイッ

梓『律先輩……』


3
最終更新:2011年07月23日 01:41