梓「ただいま~」
梓「ふぅ~」
今日も一日がほぼ終わりそうな帰宅後...
私は部活で使っているエレキギターを肩から降ろして、ギタースタンドに立てかけた...
立てかけつつも、複雑な思いが浮かんでは消え、浮かんでは消え...
梓(はぁ~...なんで唯先輩はレスポールスタンダードを持ってるんだろ...)
梓(しかも本家のレスポールだし...)
梓(分不相応だし...)
私はもともとジャズ指向だったんで、ソリッドギターにはあまり興味がなかった...
女子高生がロック系で扱えるギターは少ないことはわかってたけど...
現実を考えると、選択肢が少ないこともわかっていた
1. 体格的ハンディキャップ
そう、いくらロックバンドといっても、女子高生、しかも、私の様な小柄な体型だと、
扱えるギターは限られてくる。
これが絶対条件になってしまう。
もし、ジャズバンドで椅子に座っての演奏なら気にもならないけど、
そんな老獪な演奏スタイルを好む女子高生は人間国宝なみに少ないに決まってる...
.......
梓(やっぱ、唯先輩は凄いや...)
梓(唯先輩の体格だとフェンダーファミリーを選ぶのが普通でしょ?)
私は唯先輩の選択を(良い意味で)疑ってしまった...
梓(高校生で、レスポール本家のスタンダード持ってるって反則じゃん!!)
私はフェンダー(ジャパン)のムスタングという珍しいギターを軽音部弾いているけど、
このギターは手の小さいプレイヤー向きだけど、決して扱いやすいギターではないことは知っている。
本当は...
本当は...
中学2年の時にインターネットで見つけた「イ○ベ楽器のエピフォンジャパン在庫一層セール」で
で、目を惹いた「レスポールジュニア・テレビイエロー」が欲しくって、欲しくって...
でも半額になっていながらも5万円近くするこのギターは中学生に私には手が届かなくって...
両親にお願いしたら、
梓父「梓もなかなか見る目があるなぁ~」
梓父「いいよ!!、このギターは掘り出し物みたいだし、ホールドして一緒に見に行こう」
理解がある両親で良かった~
かくして、私はエピフォンジャパンのレスポールシグニチャーのレスポール Jr テレビイエローを入手できた。
1PUで、コントロールもボリュームとトーンだけのシンプルなギター...
びっくりするほどシンプルなギターだけど、愛用しているギタリストは数知れず!!
そんなギターを手にした私は家に帰って早速弾いてみた。
梓(良い!!良いよ!!)
梓(P-90 というピックアップってこんなにパワフルなんだ!!)
梓(おまけにギター自体も軽いし、ミディアムスケールだし!!)
梓(私がステージに立っても十分主張できるじゃん!!)
私はP-90 を1つだけ搭載しているこのシンプルなギターを
梓「あなたはこれからキューピーだよ(Pと9をひっくりかえしただけだけど)」
と命名した。
梓「いつか一緒に音を奏でようね!!」
私は根拠の無い浮遊感を覚えた
キューピー(QP)と名付けたレスポールJr...
私はQPをもって両親のいるリビングに向かい、洒落のわかる(に違いない)両親に対して
梓「.......」
ほんのちょっと芝居っ気をだした沈黙を醸しだし、意を決したように顔をして!!
梓「お父さんとお母さんに私の恋人を紹介します!!」
梓「愛しのQPです!!」
といってJrを差し出したら、父親は間髪を入れず
梓父「いやぁ~タケルノミコト君!!よろしく~」
梓母「よろしく~」
梓「タッ、タケルノミコト?」
梓「なっ?なんなのその名前!!」
梓父「だって、漢字で書くと、義武尊なんだろ?」
梓「????」
梓母「ロッドカバーのシグニチャーを見てみなさいよwww」
梓「?」
梓「..........」
梓「あっ!!」
ロッドカバーには
G
i
b
s
o
n
ゴシック文字で書いてある。
梓「うっ...」
梓「たしかに、ぎ・ぶそんって読める...」
というか、その方が名前らしいっちゃあ名前らしい
梓父「なっ?でもって武尊をタケルノミコトって読むとだな...」
父親の得意気な説明を遮るように私は
梓「そっ,そんな日本神話に出てきそうな名前はやだ~」
梓「P-90 を積んでるから、QPなの!!」
梓両親「あははっ」
梓父「いや、冗談冗談!!」
梓父「でも、そこまでそのギターを気に入ったんだったら、それだけで買った価値はあるな!!」
梓母「そうねぇ~www」
梓両親「大事にこき使ってやれよwww」
梓「うん!!」
それにして、さすがはジャズを生業とする両親だけあると思った。
とっさに武尊がでてきて、それをタケルノミコトって読む発想なんて私には無かったし
発想できたとしても花の女子中学生の私には、そんな武骨な名前を付けたくはなかった...
梓(でも、Jrには武骨な名前の方が似合うかな?)
梓(いやいや!!QPはQP!!そんな武骨な名前は似合わない!!)
梓(まぁ~ B.C. Rich なんかだとそんな名前もいいかもしれないけどね...)
もちろん私が B.C. Rich を持つことは終生ない事は明白だから、
タケルノミコト君にはお会いすることはないだろう!!
梓(でもタケルノミコト君みたいな「男の子」には逢ってみたいなぁ~)
なんてことを考えながら私は自室に戻った
ところで...
後で聞いた話だとGibson を"ぎ・ぶそん"、もしくは"じ・ぶそん"と呼ぶのは有名な話だそうな...
ぶそんを、蕪村と書くか、武尊と書くか、はたまた不遜と書くか...
それは自由だそうな(パンク系は不遜と書くらしいけど)
...話は今に戻って...
軽音楽部での私の立場といえば、基本的にはサイドギターです。
リードは唯先輩のギターと、ムギ先輩のキーボードが担当してます。
唯先輩のレスポールの音色はソロでは映えますが、唯先輩はトーンチェンジをしません。
それどころか常にリアピックアップで Volume も Tone も常に10!!
梓(ギー太が可哀想)
とは思うものの、ムギ先輩は唯先輩の不器用さ(?)を知っているかのように
- オールタイムリアピックアップのVolume・Toneフル10
でも通用するようなアレンジを考えてくれているから、唯先輩もギー太もキラキラ輝いている。
私はというと音と見た目のバランスを考えてムスタングを使っている。
ムスタングを使うことに不満はないけど満足しているとは言えない。
梓(ほんとうはQPを使いたいんだけどなぁ~)
梓(唯先輩がレスポールスタンダードを使っている横で Jr を弾くのは...)
梓(いかにも「後輩なんで、一歩控えています」って感じがするし...)
梓(どうしたらいいんだろ?)
梓(一度、QPを持ってきてみようかな?)
些細な事でありつつも、気にしだすとモヤモヤが続く今の心境はどうしたものか?
梓「悩んでも仕方ない!!」
梓「先輩、憂、純、さわ子先生、それにお父さんやお母さんに思い切って相談してみよう!!」
梓「って思ったけど...」
梓「そんな大げさなことでもないよな~」
梓「まぁ、たかがギター一本!!」
梓「気楽に考えて」
梓「いけないからモヤモヤするんだよなぁ~」
梓「見た目のバランスと音のバランス...」
梓「考えれば考えるほど、考えがループするし」
梓「ハッ、これが10代の荒野!!」
梓「なーんてね!!」
梓「........................」
梓「だから10代の荒野なんだな~」
梓「流されるべきか、流されないべきか...」
梓「それが問題だ!!」
梓「.....................................................」
梓「.....................................................」
梓「.......................zzzzzZZZZZZZZZZZZZZZ」
チュンチュン
梓「はっ!!」
梓「もう朝なんだ」
梓「いつの間にか寝ちゃったんだ」
梓「でも、あっさり寝入ってしまったところをみると大した悩みじゃないんだな~」
梓「さっ、起きよっと」
いつもと変わらないような朝を迎え、
いつもと変わらないように学校に行って、
いつもと変わらないように授業を受けて、
いつもと変わらないように放課後がやってきて、
いつもと変わらないような部活を始めようと思っていたけど...
たまたま部室にはムギ先輩しかいなかったので、いつもとはちょっと違うことをしてみようと思った。
ムギ先輩はバンドの創作面の要で、作曲はもちろんのこと基本的な編曲もこなしてしまう、
スーパー女子高生。
そんなムギ先輩にギターの音に関して、質問する体で私の抱えているささやかなモヤモヤ感を
知ってもらおうと思った。
梓「あの~ムギ先輩?」
紬「なぁに?梓ゃん?」
ムギ先輩はティータイムの準備をしながら、笑顔を私にむけながら返事をくれた。
梓「ムギ先輩は唯先輩のギターの音に変化を付けたいって思いませんか?」
紬「へっ?それはどういうこと?」
梓「例えば、もっと柔かいというか丸いというか...キラキラとしたいうか...」
梓「専門的に言えばウーマントーンとか、ハーフトーンとか...」
梓「とにかく今のように1つの音色でいいんでしょうか?」
紬「うーん...」
ムギ先輩はちょっと考えたけど、ポワポワの笑顔をたたえながら
紬「唯ちゃんはワウペダルとデジタルディレイだけ使えれば良いのよ!!うふふっ」
............................
梓(うわぁ~、そこに触れちゃった~)
梓(ライブの場面でも足元にはエフェクタもスイッチもない上にアンプ直なのに...)
梓(そこに踏み込んだらフォローできませんよ)アセアセ
紬「大丈夫よ梓ちゃん!!だれもそんなに気にしていないし」
紬「それに、重箱の隅をつついてたら感動なんて生まれないものwww」
梓「そんなもんですかぁ~...」
紬「そんなもんでぇす!!」
ムギ先輩のおおらかさの前では大いなる矛盾も微細なものです。
梓(では、私のギターの音についてはどう思ってるのかな?)
梓「じゃあ、ムギ先輩!!私のギターはどうですか?」
梓「音色とかアタックとか!!もっとバリエーションがあってもいいのか!!今まででいいのか!!」
私はちょっと興奮したのかな?いつも以上に矢継ぎ早に言葉をつないでしまった...
紬「ちょっと、ちょっと梓ちゃん」
紬「少し落ち着いてね」
紬「梓ちゃんの言っていることが良くわからないわ」
紬「だから、ちょっと落ち着いて!!
紬「ねっ?」
紬「そうそう、こういった話はお茶でも飲みながらゆっくり話をしましょ!!」
梓「...そうですね...失礼しました。」
紬「まぁまぁ、そんなに深刻な顔をせずに」
ムギ先輩は1脚は私のために、もう1脚はムギ先輩自身のためにお茶を用意してくれた。
紬「さてっと」
紬「梓ちゃんが言いたいことって何かしら?」
紬「ギターの音色とか言っていたけど」
紬「今のポジションに不満があるの?」
梓「いえっ、違うんです。」
梓「その~なんというか...」
いざ表現しようとするとシドロモドロになってしまうものです。
梓「その~...」
紬(ニコニコ)
ムギ先輩は、黙って私の言葉を待ってくれています。
プレッシャーを与えるでもなく、ただひたすら見守ってくれているようです。
梓(ムギ先輩はなんでも受け止めようとしている)
梓(それなら、私も思いっきり気持ちをぶつけなきゃ!!)
私は意を決して口を開いた。
梓「唯先輩って、いつも同じ音色ですよね?」
紬「?」
梓「ムギ先輩はギターには詳しくないと思うんですが、唯先輩のギー太って音のバリエーションが多いギターなんですよ!!」
梓「それなのに、それを活かさないでいるのはもったいないと思います!!」
梓「ギー太を持っている唯先輩はズルいです。」
梓「唯先輩がギー太を使いこなしていたら、私は何も不満は無かったのに...」
梓「ギー太が可哀想です!!」
私は何を言ってるんだろ?それが証拠にいつもニコニコのムギ先輩が困惑してる...
..........沈黙............
紬「あのね?梓ちゃん。」
紬「私はギー太の事がわからないし...そもそもギター自体がわからないの...」
梓「すいません...」アセアセ
紬「ううん、誤らなくてもいいのよ。」
紬「でもね?梓ちゃん」
紬「唯ちゃんは、まだまだ初心者なのよ。」
紬「曲の途中で音色を変えたり、それどころか曲ごとに音色を変えるのはまだ無理だと思うの」
紬「私はどんな曲でも無難にプレイできると思う音なら、それでいいと思ってるの」
梓「.........」
紬「梓ちゃんにできることでも唯ちゃんには無理なのよね~」
梓「わっ、私も今のギターでは音色を自由に変えられません。」
梓「ムギ先輩にはわからないことですけど、私の弾いているギターは音色を変え難いギターなんです!!」
紬「???」
梓「変え難いと言ったら語弊があるんですが、とにかく扱い難いギターなんですよ。」
紬「え????でも、なんでそんなギターを梓ちゃんはつかってるの?」
梓「......」
ちょっと言葉に詰まってしまった。
本当はQPを弾きたいのに...
唯先輩が可愛いというだけで選んだギー太が高校生の初心者には分不相応なギター...
ギー太がレスポール・スタンダードでなければ QPを使えたのに...
ムギ先輩に相談しようとしたところで間違いだったのかな?
こういったことは澪先輩の方がわかってくれたかも...
最終更新:2011年07月24日 23:15