時間は経って、1年生の2月(話は梓が1年の時です...今更ながら)中旬

紬「みんなぁ~、ライブハウスを抑えられたわよ~」

一同「ん?」

紬「ほらぁ~、たまに練習してた梓ちゃんバンドのお披露目ライブよ!!」

紬「いろんな事を考えて3月の中頃かな?って思ってたんだけど」

紬「ちょうど良い場所が見つかったから、ブッキングしちゃったぁ~」ウフフ

一同「え~っ!!」

律「そんな急な話」

澪「そっ,そうだよ!!そんな話聞いてないよ」

紬「だって~、黙って進めてたんだもん♪」

みんなが冷静になったころ、ムギ先輩が詳細を話し始めた。

紬「まず場所はね、駅前から徒歩5分の場所にある小さなライブハウスなの」

紬「椅子は20席くらいだけど、スタンディングをすると100人は入れるところなの?」

紬「それで時間はね、3月○日の土曜日の15:00~17:00」

紬「ノルマはなくって、入場者はワンドリンクの500円だけでいいのよ」

紬「高校生の特権よ!!」

ムギ先輩の言っていることは最もです。

土曜日の15:00~17:00に時間があるのは中・高生くらい。

おまけにノルマはなくって、ワンドリンクで O.K. なんて好条件過ぎです。

ただ...

梓(2時間って長くないですか?)

そんな不安を打ち消すようにムギ先輩は

紬「そこでね?梓ちゃんが入部を戸惑ったジャズ研と合同ライブをしない?」

紬「ジャズ研だってビッグバンドばかりじゃないし、発表の場に苦労しているのは軽音部と同じはずよ」

紬「それなら、梓ちゃんバンド30分、ジャズ研1時間っていう割合でもいいと思うの」

律「ジャズ研に1時間で、ウチらが30分って不公平じゃないか?」

紬「でも、HTTが新曲を発表する場は新歓て決めてるじゃない?」

紬「それを考えると、HTTの出番は無い方がいいと思うの」

紬「そこで梓ちゃんバンドを推すのよ!!」

梓「いや、そこまで私の名前を出さなくても...」

私は照れ半分、本気半分で戸惑いを表現した。

でもなんでジャズ研なんだろ?

律先輩の友達とか、そのつながりとかでも良いと思うのに...

梓「あの、ムギ先輩?」

梓「なんでジャズ研と競演しようと考えたんですか?」

梓「律先輩の友達とかと一緒でもいいと思うんですけど...」

紬「それはそうなんだけど~」

紬「ジャズ研に梓ちゃんの本当の実力を知ってもらいたいのよ」

紬「それにジャズ研には梓ちゃんの友達もいるんでしょ?」

梓「そりゃいますけど...」

紬「私ね?梓ちゃんがジャズの話を良くしてたから、ジャズを聴くようになったの」

紬「さすがにモダンジャズはわからないけど、ジャズって自由なんだなぁ~って思ったのよ」

紬「さすがにロックのような気軽さはないけど、一体感はロック以上かもしれないかな?って」

紬「ジャズの一体感のためを感じたいために梓ちゃんはギターテクニックを研いてたんじゃないの?」

梓「.............」

紬「そしてテクニックがあるからこそ生まれる信頼感がジャズを演奏する面白さって思ってるんでしょ?」

梓(ムギ先輩...なんでそんなことがわかるんですか!!)

梓(そんな簡単な言葉で、そこまで的確に表現できるとは...)

梓(さすがはムギ先輩です。音楽を本当に自由に楽しんでいるんですね?)

私はムギ先輩に感心しつつも、もう1つの意図を感じとれた。

梓「ムギ先輩?ムギ先輩はその気持ちをジャズ研に伝えたいのですよね?」

紬「うーん...そんな大げさなことはないけど...」

紬「ジャズは堅苦しくないことをジャズ研に感じてもらいたいという気持ちは少しあるかも~」ニコッ

紬「りっちゃん?澪ちゃん?唯ちゃん?今回は梓ちゃんの晴れ舞台にしてくれない?」

律「そっだな~、お膳立てはムギがやってくれたことだし」

澪「私も別にいいよ。ベースソロがあるっていっても難しいフレーズでもないし」

律「たしかに!!曲自体は3コードの簡単な4ビートだし」

唯「ちょっと、ちょっとみんな~、皆はいいけど私の出番は?」

紬「うふふっ!!唯ちゃんにはとっても難しいお願いがあるのよ!!」

紬「実はね?」ゴニョゴニョ

ムギ先輩は唯先輩の耳許で内緒話をしたと思ったら...

唯「え~~~~~~っ!!」

唯「そんなことできないよぉ~~~~~~!!」

紬「唯ちゃんなら大丈夫よ!!」

紬「私が練習につき合ってあげるしね」ニコッ

唯「うーん...ムギちゃんがそこまで言うならやってみるよ!!」

紬「うん!!唯ちゃんなら大丈夫!!」

唯「エヘヘッ」

二人で何かサプライズを企んでいるようです。


ジャズ研との折衝は、さわこ先生とムギ先輩が行ってくれて、無事話がついたようです。

最初の30分はジャズ研、次の30分は私たち、最後の30分はまたジャズ研の3セット

各セットの間は15分の休憩(というかセッティング時間)

セットリストは各セットで自由に考えてくれたらいいということにした。

ところで、このセットの組み方って結構美味しいなぁと思う。

押しても私たちでは無く3セット目のジャズ研が影響を受けるだけだし、

もし、前のセットが早めに終わったら、私たちに余裕ができる

さて、肝心な曲の方はと言えば

1. At The Woodchopper's Ball.

2. How High The Moon.

どちらも私のギターをメインにしたインストなんだけど、

一曲目は私がひたすら早弾きを続ける曲で、途中でムギ先輩がキーボードソロを軽くからめると
完コピではないけど、雰囲気はでてる。

この曲を弾くにはやっぱり QP でないと無理!!ムスタングだと体力が持ちません。

二曲目に唯先輩がサプライズで絡むことになっている。

最初に聞いたときはちょっとびっくりしたけど、ムギ先輩はエラ・フィッツジェラルドまで辿りついて、それを組み込んだアレンジを実際に演奏してみると新鮮そのものだった。


各セットのセットリストはわからないまま向かえた、いよいよ本番当日...

ジャズ研とのガチンコ(?)勝負は私自身とっても興奮する。

私はジャズの良さを知っているつもりだったけど、軽音部に入って信じられない才能を目の当たりにした。

その才能が「お気楽」に構えた今回のライブが「真剣だろう」ジャズ研にどれだけ立ち向かえるのか?

それとも「真剣さなんか才能の前には無意味」なのか?

軽音部の私としては「才能」を認めたいけど、ジャズマニアとしては「真剣さ」が才能を凌駕して欲しい...


リハは当然のごとく逆リハ...

意外な事に、ジャズ研は新3年のユニットを最初に持ってきて、最後に(現)1年のユニットをエントリしてきた。

梓(そっかぁ~、ジャズ研はいちおう Big Band 形式なんで、セッションユニットやヒュージョンユニットって発表の場が結構ないんだ.

梓(でも...リハを聴いてる限りあんまり期待できないかなぁ~)

わたしたちはリハでは、演奏する予定のない「Summer Time」をぶつけてみた。

ムギ先輩曰く

紬「リハーサルでは音のバランスさえわかれば良いんだから、練習曲でいいのよ!!」

紬「それに手のうちは最後まで明かさないのが、勝負の常套でしょ?」

ムギ先輩のプロデュースセンスは...

頼もしい&楽しい限りです。

澪先輩、律先輩、唯先輩が全幅の信頼を寄せる事がわかります。

才能も技術もありながら決してでしゃばらず、各々の才能を活かしてベストなアレンジで曲を活かすムギ先輩。

「縁の下の力持ち」ってムギ先輩のための言葉です。

ムギ先輩はそんな私の気持ちを知ってか知らずか

紬「さぁ皆?いよいよ出番よ!!」

紬「さっきのセットは上手かったけど、私たちは梓ちゃんを活かした演奏をしましょう!!」

一同「お~っ]

紬「梓ちゃん?楽しいことは潜在能力を最大限に引き出すんだから」

紬「梓ちゃんが目一杯たのしんで、みんなの能力を引き出してね!!」

全くムギ先輩にはかないません。

澪先輩、律先輩、唯先輩はテンションマックスです。

ムギ先輩はとことんユニットを楽しむ気満々です。

余裕があるって、なんと気持ちがいいんでしょう?

最初のセットではジャズ研の先輩方が楽しそうにフュージョン系の演奏をまとめてきました。

テクニック的には文句なしの完コピです。

でも、なんというか...

完コピすぎて面白みが無くなってしまいました。

梓(...上手いけど、もっと息づかいを感じられるような演奏を聴きたかったなぁ~)

ジャズ研という珍しいクラブがありながら、認知度が低い理由がなんとなくわかったような気がします。

同時に私がジャズ研に入れなかった理由もわかったような気がします。

ジャズ研の最初のセットはちょっと押し気味だったけど、私たちの演奏にはさほど影響はありません。

そもそもエフェクタをあまり使わないセットなんで、アンプのトーンとボリュームをあわせる時間があれば十分です。

今日のために先輩たちはスイングっぽいリズムを練習してくれました。

スイングっぽいだけでいいんです。

さていよいよ本番。

今日の律先輩はアート・ブレイキー
今日の澪先輩はロン・カーター
今日のムギ先輩はオスカー・ピーターソン

そして今日の唯先輩は...


いつもとかわらない唯先輩です。

そんなことを考えながら、ステージにあがりました。

最初の曲は唯先輩の出番はありませんが、最初の MC をかってくれました。

唯「え~っ、みなさんこんにちわ!!」

唯「今日はお越しくださりありがとうございます。」

唯「いや~、さっきの演奏は凄かったですね~。」

唯「私も、あれくらいギターが弾けたらいいんですけど...」

あれっ?唯先輩のこの口調だと話が長くなりそう...

と心配したのも束の間

唯「さて、今日は軽音楽部が誇るギタリストの梓ちゃんをメインにして」

唯「軽音楽部もジャズ研に負けないところを披露したいと思います。」

唯「では、桜ケ丘軽音楽部特別ユニット「あずにゃんず」です。」

ネーミングセンスは理解不能ですが、MC終了と同時に律先輩がスネアを「タンっ♪]と叩きました。

8分休符後に始まったのはまさに

It's showtime!!

私は QP と名付けたレスポール Jr をひたすら弾きつづけました。

律先輩は少し前のめりになりつつもリズムをキープしてくれてます。

澪先輩は楽しそうに速めのウォーキングベースを弾いてます。

今日の二人は私のサポートに徹しつつも演奏を楽しんでいるようです。

リズムが絡まってうねりになっています。

梓(これがスイングなのかな?それにしてもこのリズムコンビは本当に仲がいいんだなぁ~)

正直私もスイングというものを実感したことがないけど、このリズムの唸りがスイングなんでしょう。

最初からソロで飛ばして5分ほどしたところで、ムギ先輩のそろに交替しました。

ムギ先輩はエレピの音で華麗にソロを展開しています。

まさにオスカー・ピーターソンのような華麗なソロです。

梓(さずがにクラシックの基礎があるからテクニックは完璧だ)

梓(おまけにフレーズも完コピではなく、ところどころ雰囲気で弾いているみたい。)

私はムギ先輩のソロの間はコードすら弾かなかった。

ムギ先輩、澪先輩、律先輩がふと顔を合わせ、アイコンタクトをとったと思ったら。

私も予想していなかった、澪先輩のベースソロが始まった。


澪先輩のソロはお世辞でも上手いとは言えませんが、とっても楽しそうです。

しばらくしたら律先輩のドラムとムギ先輩のキーボードが入ってきます。

私は3人の先輩を見ながら、合図を待っています。

律「もう一丁!!」

最後の仕上げです。

ルーズな構成、ルーズな打ち合わせでしたが、最後の見せ場に関してはしっかり打ち合わせをしていました。

阿吽の呼吸でクライマックスを迎えます。

C6 => F9 => C6 => C6 => G9 => F9 => C6

ジャーン....

ふぅ~

汗が吹き出します。

なんとも言えない充実感で体全体が興奮しています。

ミック・ジャガーが「ライブの興奮は性的興奮そのもの」といっていたのをふと思い出しました。

残念ながら私は性的興奮の意味がわかりませんが、今の気持ちがそれなのかも知れません。

ジャズ研つながりの友人が多数をしめる客席からも大きな拍手が起こってます。

ジャズ研の人たちも驚いたように私たちを見ています。

そりゃそうでしょう。

律先輩も澪先輩もムギ先輩も(そして唯先輩も)非凡な才能を持っているんですから。

ちょっと誇らしげに客席を見回したら、さわこ先生が友達とおもわしき人たちと談笑しています。

まるで自分の手柄のような顔をしていますが、それだけ演奏が良かったんでしょう。

客席が落ち着いた頃、私たちは次の曲の準備を始めました。

唯先輩もここで登場です。

いつもの唯先輩と違うのは持っているギターがギー太ではなく、私のムスタングというところです。

唯「あずにゃんのギターってギー太より大きいんだね?」

最初の練習の時に、ムスタングを持った唯先輩はちょっと驚いた様子でした。

[How High The Moon]

澪先輩とムギ先輩が率先してアレンジしてくれたこの曲はかなりのこだわりを持っています。

私は QP + コンプレッサー + コーラス + エコーと珍しくエフェクタを多用しています。

唯先輩は ムスタングのフェイズアウトでリズムを弾いてもらいます。

律先輩、澪先輩、ムギ先輩はいつものセッティングですが、
澪先輩はトーンを3あたりの丸めの音にして、ムギ先輩はハモンドっぽい音にしています。

共通して言えることは音を控えめにしているところでしょう。

当然ギターが目立ってしまいますが、それが澪先輩・ムギ先輩の狙いのようです。

実は唯先輩はこの手の曲が苦手なようなので、練習でもバッキングが上手く弾けなかったのですが、

澪先輩とムギ先輩はそれを上手くごまかす方法を唯先輩に授けたようで、強引なようで自然なバッキングが完成しました。

さっきの曲とうってかわったバラード調のこの曲。

簡単だけどタイトル通りの気持ちを伝えなければ駄曲になります。

ゆったりと自分の演奏に酔う位の感傷が必要であるのに、必要以上の感傷に浸ると駄曲になります。

梓(そうなんだよ!!Jazz をプレイするってこのギリギリの緊張感が必要なんだよ)

梓(楽譜にない部分は感性でしか伝わらないんだよ)

梓(その感性を共有できる人がいないと Jazz を演奏しても楽しくないんだよ)

私はこれから演奏する楽譜の上では簡単なこの曲に、とてつもない期待を持っています。

梓(どこまでいけるんだろ?)

梓(律先輩、澪先輩、ムギ先輩、唯先輩!!どこまでもどこまでも高いところにいけると良いなぁ~)

以前、この話を澪先輩とムギ先輩にしたら一笑にふされました。

澪「おいおい!!それは買い被りすぎだろ」

澪「私等は、所詮高校生のお遊びバンドなんだから、そんなに期待しないでくれよ」

紬「そうそう!!まずは演奏することよ!!」

紬「でも、その時の気分次第では、どこまでも高く高~く」

紬「梓ちゃんがそう感じてくれたら良いだけよ」

全く、どこまで欲が無いんでしょうか?

ほんの少し欲があれば、プロデビューも夢ではないんですよ?

でも、そんな純粋な先輩達だからこそ、素敵な曲を作り、素敵な演奏をするんでしょうね。


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最終更新:2011年07月24日 23:19