そして中間テスト明け。
唯「――クラスで一人、追試だそうです」←遠い目
律「なんかよくわからんけど予想できたよこの展開」
唯「というわけで澪ちゃん助けてー」ヨヨヨ
澪「えっ、私…?」
とは言ったものの、頼られるのはすごく気分がいい。
まぁ、相手が唯だからなんだけど。これが律だったら……あれ、普通に数日前に頼られて教えてやった気がする。
……いっそ二人まとめて見てやればよかったなぁ。期末からはそうしようか。
澪「仕方ないな…じゃあ今日勉強会するか」
唯「本当!? ありがとー!」
澪「いやいや、軽音部のためでもあるし気にしないで」テレテレ
唯「そうと決まったら先に帰って準備しとくよ! じゃあね!」ダッ
澪「えっ」
律「ちょ、おま、練習――は一応ダメなのか」
紬「追試で合格するまでは、ですね」
澪「……私達はどうすりゃいいんだ?」
律「……一回合わせとく?」
澪「いや、そうじゃなくて。私達唯の家知らないぞ?」
紬「あっ…」
お菓子を食べ、なんとなく唯を待ってみようという意味も込めて一回だけ三人で音合わせをしたが戻ってくるはずもなく、とりあえず部室を出て校門まで向かう。
律「…メールしてみるか」
澪「電話でいいんじゃないか?」
そう言い、私が携帯を取り出した矢先のこと。
?「あのっ!」
澪「ん?」
声をかけられ、振り向いた先にいたのは――
律「唯? 髪形変えた?」
唯?「あ、いえ、その、桜が丘高校の軽音部の方達ですよね?」
澪「うん、そうだけど……唯じゃないのか?」
どう見ても髪を後ろで縛った唯にしか見えないんだけどなぁ。
声も心なしか似ている気がするし。
律「うわっ、似てる!?」
紬「髪型以外瓜二つね…」
憂「あはは、よく言われます……それでその、お姉ちゃんが部屋を片付けてるので、呼んで来てくれって頼まれまして」
澪「なんで自分で来ないんだ…」
律「まぁ、姉妹といえど互いの部屋を勝手に片付けるのもアレだしな。どっちの言い分もわかるよ」
澪「さすが弟持ち」
紬「私達にはちょっとわかりませんね」
たぶんムギは使用人に部屋を片付けさせているからだと思う。
あくまで私の勝手なイメージではあるけど。
憂「そう遠くはないのでついて来てもらえますか?」
律「うん。よろしくね、憂ちゃん」
憂「あ、はい!」
澪「これからテストの度にお邪魔するかもしれないからな…」
憂「あ、あはは……」
そうして辿り着いた唯の家は…まぁ、普通の一軒家で。
憂「ただいまー。お姉ちゃーん?」
律「部屋は上?」
憂「はい、呼んできますから少し待っててください」タタタ
軽やかに階段を駆け上がっていく憂ちゃん。
健気な妹だなぁ。こう言っちゃ何だけど、ほわほわした唯より頼りがいがある。
いや、どっちが好きとかそういうのではないぞ、断じて。って誰に言い訳してるんだ私は。言い訳なんかするまでもなく、私が惹かれてるのは唯のほう――ってそれも違う!
ただ、ただ唯にはあの時のお礼を言いたいだけで、好きとかそういうのは断じて無いっ!!
律「おーい、澪? 何一人で悶えてるんだ?」
澪「な、何でもない!」
唯「ごめーん、みんなお待たせ! あがってあがってー」トテテ
紬「お邪魔しまーす」
澪「ホラ行くぞ律!」
律「はいはい…わかりやすい奴め」
律「――いやぁ、しかし姉妹でこうも違うもんかね?」
唯「何が?」
律「いや……」
私と同じような疑問を律も抱いていたようだ。そっくりなのは顔だけだな、まさに。
まぁ当の本人はわかっていないようだし気にしてもいないようだから多くは語るまい。
唯「あーそうだ、憂がお茶とお菓子準備してくれてたんだ、持って来るね!」ガチャ
澪「……本当に出来た妹だなぁ」
律「一家に一人欲しいですな」
紬「そうですねぇ」
律「あ、そこはムギから見ても同意なんだ…」
紬「?」
そうして唯が戻ってきたところで本題の試験勉強を開始する。
先にお菓子とか雑談とかにかまけてしまうとどんどん脱線していってしまうのは既に私も学習している。唯のやる気があるうちに私とムギで出来るだけ詰め込む作戦だ。
その作戦は間違っていなかった。だけど、一つ見落としていた事があった。
……赤点でこそないが、人に勉強を教えられるほど頭も良くない幼馴染の存在を。
澪「うるさい」
ぶっちゃけこの場には不要だ。仲間はずれも可哀相ではあるけれど、居ても何一つプラスにならない。
というかさっきからずっとソワソワしてて目障りでしょうがない。
律「そういえば憂ちゃんは?」
唯「なんか邪魔したくないからどこか行くとか言ってたよ」
律「ちぇー、一緒に遊ぼうかと思ったのに」
澪「ホントに何しに来たんだお前は…」
ま、そうやって誰とも仲良くなれるのは律の長所なんだけどさ。
そして、唯と似ている所でもある。そう考えると――いや、考えなくても羨ましいか。
紬「それにしても、お姉さんを立てるいい妹をお持ちね、唯さんは」
唯「……ムギちゃん、さん付けとかいいよー、くすぐったい」
紬「そ、そう? じゃあ…唯ちゃん?」
唯「うん、やっぱそっちのほうが落ち着くよ!」
紬「そ、そうかしら……」
唯「えっへへ~、ムギちゃーん♪」
紬「っ…///」
……ん? なんかムギが赤くなってるぞ。
律「(ムギと唯が一気に距離を縮めちゃったなぁ。いいのか澪?)」ボソッ
澪「(…どういう意味だよ?)」
律「(だーかーら、なんでお前はもっと積極的に行かないのかって話だよ!)」
澪「(いやいや……)」
積極的とか……それどこの恋愛相談だよ、まったく。
その、キ、キスこそされたけど、そういう目では見てないぞ、私は。そしてきっと唯も。
……いや、唯はそういう目で云々以前に忘れてるんだっけ。
あぁ、なんだろ、やっぱモヤモヤするなぁ。案外、律の言う通り積極的にいった方がいいのかな?
律のそういう積極性は、やっぱり羨ましいし。見習うべきなのかな?
――というわけで、唯が無事追試をクリア(しかも満点で)した後、私は積極的に一つの提案をしてみた。
澪「――合宿をします!」
名目は学園祭に向けた強化合宿。でも下心ももちろんあって、積極的に唯との距離を縮めて思い出してもらうためというのが本当の狙い。
もちろん、他のみんなの距離も縮まればよりいいんだけど。
とりあえず、そんな私の『下心満載だけど最終的には部のためにもなるはず』な提案はムギの所持している別荘で決行された。
――結果から言うと合宿自体は有意義なものだったと思う。
だが何より水着の唯は可愛かった。髪を横で束ねているのとかもうヤバかった。
……私、こんなキャラだったか?
いや、あの時からだ。合宿の夜――
唯『――やっぱり音楽っていいね! 合宿しようって言ってくれた澪ちゃんのおかげだよ! ありがとう!!』
――露天風呂で唯に手を握られ、真っ直ぐ感謝の言葉を告げられた時。
皮肉にも、感謝の言葉を伝えようとずっと前から心に決めていた私より先に。そんな私に対して告げられたその想いに。
素直で綺麗なその心に、私の心もきっと揺り動かされてしまった。
……これが恋愛感情だとは言い切れないけれど、それでもこの時から、唯の言葉が、仕草が、私の中で大きな意味を持つものに変わっていった。
――そして、学園祭も近づいた頃。今更我が軽音部に顧問がついた。
さ「――で、学祭でやる曲は?」
この人が顧問の
山中さわ子先生。唯に黒歴史を暴かれ、律に脅されて堕ちてきた哀れな子羊だ。
もっとも、顧問のいなかった軽音部にとっては救世主なのだが。
ともあれ、美人で評価も高い先生が顧問についてくれたのは心強い。唯達によって晒されてしまった内面のアレっぷりは抜きにしても、だ。
というわけで、言うことには従おう。
澪「えっと、歌詞なら……」
唯「あるのー? 見たーい!」
澪「ひっ!? 唯はダメ!!」
唯「ええっ!? なんで…?」シュン
澪「ああっ、いや違う、その、恥ずかしいから…」
別に誰に見られても恥ずかしいんだけど、特に唯には…その、失望されたりしたら嫌だし…
さ「どうせ全員に見られるんだから一緒でしょうに。それどころか皆の前で歌うかもしれないのよ? 早く渡しなさい」
澪「は、はい……」
日々少しずつ書き溜めていたルーズリーフの中から一枚、山中先生に渡す。
自信作…というわけでもないけど、今のところ唯一最後まで書ききった歌詞だ。
唯「あぁ~……見たかったのに」
澪「ご、ごめん…」
紬「どうせ見れますよ、すぐに。ね?」
唯「うん……」
……落ち込む唯を見ると、胸が締め付けられる。
そんな顔をさせたのは私だ。いつもの私の、いつもの行動が。そう思うと、悔いる気持ちで一杯になる。
澪「……ううん、やっぱり私が悪いよ。こういう時は恥ずかしがってちゃいけないんだ…!」
恥ずかしがりな性格は私のコンプレックスの一つだ。だからこそそういうのとは無縁そうな律や唯が羨ましく映るのであって。
それに加えて、今回のは軽音部の進退に関わること。恥ずかしがってる場合じゃなかったんだ。
恥ずかしいけど、恥ずかしくても、唯と一緒に学園祭で演奏するんだと考えるとそうも言ってられない。私に出来ることは何でもして、成功させないと。
絶対に成功させる、そのためにはまず私が変わらないと!
律「………ふーん」ニヤニヤ
……と意気込んではいたんだけど、
フワフワターイム フワフワターイム
さ「うおぉ、体が…背中が…」カイカイ
律「しまった、澪だってことを忘れていた……てかお前、まだこんな詩を…?」カイーノ
澪「だ、ダメかなぁ…?」
少なくとも、褒めてくれてはいないのはわかる。
やっぱりダメなのかな…? 唯に見せなかった私の判断は正しかったのかなぁ…
さ「うっ、その……」
律「ゆ、唯はどう思う?」
澪「あっ、待って、見せちゃダメ――」
と手を伸ばすも、すんでのところで唯が先に取ってしまう。
唯「ゲットだぜー!」
澪「ちょ、ダメだってば!」
紬「まぁまぁまぁ」ガシッ
澪「ちょ、離せムギ――ぃ痛い痛い! 何この怪力!?」
紬「うふふ♪」
唯「………」ジー
ああああぁぁ……唯に、唯に読まれてるぅ……
やだ、ダメだ、人生終わった……
唯「すごくいい…」キラキラ
律「マジでー!?」
唯「私はすごく好きだよ、この歌詞!」ガシッ
澪「ほ…ほんと?」
唯「うんっ!」
人生始まった。超始まった。
どうしよう、すっごく嬉しい。きっと私、また赤面してる。
……あれ、でも待てよ? ちょっと不思議ちゃんな面もある唯がマトモな芸術感覚を持ってるかは怪しいような…
紬「いいんじゃないでしょうかっ!」ウットリ
さ「わ、私もこういうの好きかもー」キャピ
律「あれぇ!?」
先生、さっきまで微妙な表情してたくせに…
ムギはなんか私達のやりとりを見てから肯定しだした気がするし…
まぁ、それでも認めてもらえたんだとしたら嬉しいけど。特に唯に認められたのは。
紬「じゃあ多数決で決定ね!」
唯「わーい!」
律「とほほ……んじゃボーカルは澪、頑張って」
澪「えっ!? 無理! こんな恥ずかしいの歌えないよぉ!」
律「おい作者」
いや、その、恥ずかしがりを克服しようとは思ってるんだけど!
でもさすがに全校生徒の前で自分の脳内世界全開の詩を歌うなんてハードル高すぎるって! もうちょっとゆっくりやっていこうよ!
律「むぅ…予想はしてたけど、澪がダメとなると…」
唯「」キラキラ
律「…唯、やってみる?」
唯「えっ!? で、でも私、そんなに歌うまくないし…」テレテレ
律「あっそ。んじゃムギだな。あーもったいないなー、唯がやるって言えば決まりだったのになー?」チラッ
唯「わ、私歌う! 歌いたい! お願いします!!」ビシッ
……私が恥ずかしいと思った歌詞にここまで熱を上げる唯の感覚は、やっぱりきっと少しズレている。
ともあれ、唯が歌う方向でボーカルも交えた練習をすることになったのだが……
唯「――ギター弾きながら歌えない…」ズーン
さ「仕方ないわねぇ……一週間つきっきりで特訓してあげる!」
唯「せ、先生っ!」
さ「まずは歯ギターのやり方――」
唯「それはいいです」
律「――へぇ、唯のやつ、今度はさわちゃんとフラグを立てるつもりか」
澪「フラグ?」
律「一週間のつきっきりの特訓で一気に仲良くなるって事」
澪「ッ!?」
その時、私に電流走る――!
残念ながらひらめき的な意味ではなく、ショックの方で。
澪「わ、私も付き合います!」
唯「ほへ?」
澪「ほら、こう、私達、ベースとギターだから! ライブパフォーマンス的な練習もしますから特訓に付き合います!」
さ「歯ギター?」
澪「それはいいです」
っていうか勿論パフォーマンスも嘘だ。何かと理由をつけて唯と一緒にいたいだけ。あるいは唯と誰かが私の知らないところで仲良くなるのが気に入らないだけ。
……あれ、なんかイケナイ思考回路になってきてないか、私。
律「――んじゃ私らは帰るけど…」
さ「後は任せときなさいな。一流のギタリストに仕上げてみせるわ!」
澪「………」
律「なんかいろいろ不安が残るけど…まぁ、いいか」
紬「それじゃあお先に失礼しますね」
唯「またねー」
帰り際に律が親指を立てていった。うざい。
さ「……さーて、それじゃ始めますか! あ、澪ちゃんは帰りが遅くなるって連絡しといたほうがいいわよ?」
澪「私は、って? 唯は憂ちゃんに連絡しなくていいの?」
唯「あ、うん、大丈夫大丈夫」
澪「大丈夫って、そんなわけ……」
あんな健気でいい子の妹さんを不安にさせるのはどうかと思うぞ、唯。
さ「あー、そっちは私が連絡しておいたから、ね?」
澪「いや、さわ子先生ずっと一緒にいたじゃないですか…」
さ「連絡しておくから、ね?」
澪「…はぁ、まぁ、そう言うなら…」
腑に落ちないけど、とりあえず電話をかけに部屋の隅へ。
さ「……ごめんね、うっかりしてた」
唯「いえ…いつかは言わないといけないとは思ってるんですけど」
……何を話しているんだろう、二人は。よく聞こえない。
澪「あ、ママ。今日から一週間、練習が長引くから。うん、うん、大丈夫。ごめんね――」
最終更新:2011年07月25日 22:15