澪『……で、どういうことか説明してくれないか? 消えたんじゃなかったのか?』

唯「いやぁ……いろいろありまして。恥ずかしいから交代してくれない?」

澪『ん、まぁ……いいけど。もういいのか?』

唯「うん、大丈夫だよ」

じゃあ、と言われたとおり今唯が見ている景色や聞いている音に意識を集中してみる。
すると、急にそれらの情報量が多くなったような気がして……『私』が戻ってきた。
スジがいいね、と私をまた軽く褒め、唯は語り始める。

唯『えっと、ね。やっぱり心残りがありすぎて、ね。ダメでした』

澪「……例えば?」

唯『もちろん、何も言わず残してきた憂のこと。やっぱり間違ってたね、私』

そりゃあ、そうかもしれないけど。でも今、こうして解決したのなら、あながち間違いでもなかったのかもしれないと思う。
結果論に過ぎないのかもしれないが、それでもちゃんと救われたんだ、憂ちゃんは。

唯『あと……恥ずかしながら、やっぱり澪ちゃんのことが…』

澪「…恥ずかしい、って? 一度は大丈夫と言っておきながら心配されてる私のほうが恥ずかしいぞ」

唯『あ、ううん、そっちじゃなくて……その……あの…ね?』

歯切れが悪いなぁ、一体何だろう?

唯『……澪ちゃんがね、誰と幸せになるのか、気になっちゃって……』

澪「………はい?」

唯『ほ、ほら、私はもう死んでるはずの人だから、澪ちゃんと一緒にいちゃいけないから、ね? でも、そう考えたはずなのに、あれから澪ちゃんのことを考えると悶々とするというか……気になるというか…』

澪「………」

唯『言っちゃ悪いけど、誰とも一緒になってほしくないというか……ご、ごめんね? 自分でもよくわからなくて…』

澪「……ぷっ、くくっ、そうか、そう思ってくれてたのかぁ……ははっ」

唯『な、なんで笑うのー!?』

……いやぁ、本気で安堵した時って笑いが零れるんだなぁ。それとも、嬉しかったり幸せを感じたりしたからかな?
私の存在が、唯が消えられないほどの未練になった。それってすごく嬉しくて幸せなことじゃないか。

唯『と、とりあえずそんな風にうじうじしてたら消えようにも、ね…?』

澪「……消えなくていい、ってことだろ? きっと神様がそう言ってるんだよ」

神様が本当にいるのなら、まず唯を死なせたりなんてしないだろう、とも思ったけど。
そんな神様がここにきて情けをかけてくれたのだとしたら――ドリームタイムをくれたのだとしたら、それを逃す手はない。

澪「……一緒にいてよ、唯。私は、やっぱり唯に一緒にいてほしいよ」

唯『……そうだねぇ。澪ちゃんは私が見てないと、さっきみたいに憂を襲っちゃうかもしれないし、お姉ちゃんとしてそれは不安だね』

澪「あ、あれは!! 唯にもう会えないから、寂しくて――っていうか唯だって、「だめー!」とか言って頭突きは酷いだろ!」

唯『うっ……あれは、その、なんか悔しくて……澪ちゃんが、私以外の人とキスするのが…』

澪「唯が、唯がいてくれるなら、もう絶対にあんなことしない。約束するから」

唯がもういないから、唯が幸せになれって私を突き放したから、弱い私は憂ちゃんに流されてしまった。
結果的に見れば浮気だし、しかもそれを人のせいにしてるとも言えるけど、それでも、唯がちゃんとここにいるってわかった今なら、もう絶対にこの気持ちは揺るがない。

唯『……嬉しいけど、その、やっぱり私が澪ちゃんを束縛しちゃうのも、何か違うような…』

  『それと、ね。えっと、澪ちゃんと憂が仲良くするのは嬉しいんだよ。二人とも大事な人だから。どうせなら一生一緒にいてくれれば安心だとも思ってたし。でも……』

澪「でも、いざそういうのを目の当たりにしたらダメだった、と」

唯『うん。二人がケンカしててもぐっと堪えてたのに。泣きそうになってもずっと我慢してたのに。それなのに、あの時だけはダメだった』

……それは、嫉妬と自惚れていいのだろうか。
まぁ何であれ、あそこで唯が止めてくれなければ、もう二度と本物の唯とは会えなかっただろう。憂ちゃんと優しく甘く傷を舐めあい、二人で生きていったのだろう。
もっとも、今の状態も『この世にいない人に縋っている』ことには変わりはない。だから、どっちが正しいとも言えない。きっとどっちも世間から見れば間違っていて、でも私達から見れば正しいんだ。

唯『めちゃくちゃだよね、私。消えるって言っておいて消えきれないし、ケンカはよくてキスはダメだし。もう自分で自分がわからないよ……』

澪「……わからないまま、消えたくはないだろ?」

唯『………』

澪「一緒にいてよ。見てたんでしょ? 私、唯がいないと何も出来ないんだよ…?」

唯『みお、ちゃん……』

澪「私も私がわからないよ…! 唯に会うまでは唯に会うことを支えに生きてこれたけど、会っちゃったら…唯無しじゃ生きていけなくなっちゃった…!!」

わからないとはいうけれど、わかっていることもある。それほどまでに私は唯が好きで、唯がいないと生きていけないということ。
唯もそれくらいはわかってくれてると嬉しいんだけどなぁ。

唯『澪ちゃん、でも、それでも私は……』

澪「……ゆい、私は唯がいい。唯に一緒にいてほしい。だから難しいことは抜きにして、唯の本音だけを聞かせて欲しい」

唯『……私も…澪ちゃんがいい。澪ちゃんと一緒にいたいよ。でもそれは――』

澪「誰も迷惑なんてしないよ。憂ちゃんも頑張るって言ったし、私は唯がいないとダメなんだから唯が負い目に感じることなんてないよ」

唯『でも、私は……本当ならもう死んでて…』

澪「そうだね。だから唯には身体がない。私の身体を使わないと何も出来ない。不便だよね。だから、この世に居る事くらい許されてもいいと思うよ」

唯『でも…それによって、澪ちゃんの将来も、時間も奪っちゃうわけで…』

澪「唯のいない時間に意味なんてないよ。唯のいない将来なんて欲しくないよ」

唯『で、でも、でもでも……きっと、何か、いろいろダメで…』

澪「何を言われようと私は唯と一緒にいるよ。唯も一緒にいたいって言ってくれたよね?」

私らしくない自信過剰なセリフ。胸を張って、私は愛されてると信じ切って語りかける。
臆病な私にこんな時がくるなんて思わなかったけど、ずっと唯に助けてもらってきたんだ、たまには手を引いて、引き寄せてあげないと。

唯『……一緒にいたいよ。許されるなら、一緒がいいよ…! 澪ちゃんのこと、大好きだもん!!』

澪「じゃあ私が許すよ。だから唯も、私が許すことを許して? そして、私が唯と一緒にいたいって言うことを許して?」

 「これからずっとずっと、一瞬も離れずに全ての時を二人一緒に生きて、そして一緒に死ぬことを許して?」

唯『っ……いいなぁ、それ……好きな人と、死ぬまで全てを共有できるって、すっごく幸せだよね……』

澪「うん。そうだね」

唯『いいのかな…? こんな私が、そんな幸せを貰っちゃっていいのかな…?』

『こんな私』なんて言うけれど、唯は何も悪いことはしていない。
ちょっとだけこの世の理から外れているだけで、外れてしまっただけで、唯自身には何の罪もない。
むしろ、私のほうが罪深い。昔は律を信じきれなかったし、ここ数日だと唯の身体を傷つけようともしたし、和に八つ当たりもしたし、憂ちゃんとなんて喧嘩もした挙句に身体を重ねようとした。
だから、むしろ、唯が私でいいと言うのなら。こんな私でもいいと言ってくれるなら。こんな私のあげる幸せなんかでいいと言ってくれるなら。

澪「貰ってほしいんだ、唯に。誰よりも大好きな唯に、私の全てを貰ってほしい」

唯『……っ、じゃあ、じゃあ私もあげるから! 私にあげられるもの全部あげるから!』

澪「……うん、ありがと、唯……」

唯『……澪ちゃん…えへへ……』




律「――やれやれ、ようやく解決、か。ハラハラさせやがって」

さ「どう? 信じた?」

律「まぁ、この目で見たなら信じないわけにもいかないよなぁ」

さ「ふふっ、複雑な気分?」

律「いいや、それが澪の幸せなら、そして唯の幸せなら、私に文句は何も無いよ。仲間だからな」

さ「よっ、部長!!」

律「茶化すなよさわちゃん」

和「結局、あの子達は依存から抜け出せないのよね。だったら一緒にいなくてどうするの、って話よ」

律「いつから居たんだ和」



―――
――



【2】


そして新年度――


ワァァァァァァ

澪「――放課後ティータイムでしたー!! 新入生のみんな、ありがとう!!」

唯を失った軽音部だけど、どうにか今は四人で回している。ボーカルは全て私だし、ギターも梓一人だけど、案外なんとかなるもので。

梓「澪先輩、かっこよかったです!」

澪「ありがとう。梓もいい音させてたよ。さすが」

梓「えへへ、そんな。しっかりやらないと唯先輩に笑われますもん。笑ってませんよね? 唯先輩」

唯『笑うわけないよー! あずにゃんすごいもん』

澪「凄かった、ってさ。仲良しで羨ましいよ」

梓「……澪先輩たちには負けますよ」

澪「そうかな。ありがとう」

結局、メンバー全員に唯と憂ちゃんのことは話した。律と先生が協力的だったのに加え、やっぱりムギも梓もいい奴だから素直に信じてくれた。
そして憂ちゃんについては今年、なんと桜が丘高校の二年に編入してきた。先生も方々を駆けずり回ったとか頭を下げて回ったとかムギが何かしたとか律が殴り込みに行ったとか、私の知らないところでいろいろあったらしい。一体どれが真実なんだ?


ともあれ、旧知の友人も同じクラスにいたようで、彼女を通じて梓とも仲良くやっているらしい。
唯も「あの子とあずにゃんなら安心」と言っていた。いいことだ。
……私も、出来る限り助けようと思う。唯に憂ちゃんの姿を見せてあげたいし、今は綺麗に収まったとはいえ、私が傷つけてしまった面は多い。それこそ『イイ人』でも見つかるまでは面倒を見るつもりだ。

律「――よ。お疲れさん」

紬「お疲れ様です。唯ちゃんも」

澪「うん、ありがとう」

紬「澪ちゃんの人気はうなぎのぼりよ。新入部員も期待できるんじゃないかな?」

律「どうかなぁ。澪目当てで入ってくるって、逆に言えば一年で辞めるってことだろ? あまりいい気分はしないなぁ」

唯『そうだとしても、やってるうちに楽しくなって残ってくれるって!』

澪「ふふっ、唯が経験から言ってるぞ? やってるうちに楽しくなってやめられなくなる、って」

律「ははっ、そりゃ確かにありうるな」

……軽音部の皆は、私と唯の関係を全て知っても変わらず接してくれている。
それは本当にありがたいことで、きっとこの先、そう簡単には手に入れられないもので。絶対に失ってはいけないもので。
私は本当に、数え切れないほどの人たちに助けられているんだなぁと実感して。

唯一無二の永遠の親友はお礼を告げてもそっぽを向くし、板挟みになっていたクールに見えてお人よしの親友も「出世払いで」といって聞く耳を持たないけれど。

それでも、私は助けてくれた皆に何かを返したい。何かを返さないといけない。
……できれば、幸せを分け与えるような形で。唯から貰った幸せは、この人たちがいたからこそなんだ、って。

澪「……いいよね、唯?」

唯『ほえ? ごめん、聞いてなかった』

澪「…いや、言ってないから」

唯『……ん、だったら、澪ちゃんの思うとおりにやればいいと思うよ』

澪「へ? どういうこと?」

唯『澪ちゃんが心の中で考えて出した結論は、いつだって優しい答えだから』

澪「………」

……そして唯は今、私に足りないものをいろいろと補ってくれている。
ライブで緊張しそうでも、唯がいつも励ましてくれる。MCも恥ずかしいけど、唯がいろいろ言葉を考えてくれる。
ファンの子達との交流の時も、私なら人見知りしそうな人が相手の時も、唯が背中を押してくれる。

余談気味だけど、唯と入れ替わることで左右両ききの人にもなれるし、ギターもベースも弾ける。
本当に心から、唯と一緒なら怖いものなんて何もないと思える。

だから私は、何事にも全力で取り組める。向き合える。そして楽しめる。
私が楽しいと、唯も喜んでくれる。唯が出来ないことを私がやり遂げた時は、私以上に喜んでくれる。
私も、私には出来ないことを唯のおかげで切り抜けるたび、それが唯の長所なんだと尊敬するし、同時にそんな凄い子が私の恋人だと鼻が高くなる。


お互いに補い合う私達は内面的な所で正反対だ。でもだからこそ、一緒にいれば誰よりも理想の関係になれるんじゃないか、と思う。

もちろん、正反対だからこそ衝突もするかもしれない。でもそれ以上にお互いが大事だから、きっとすぐに互いの納得する妥協点を見つけ出せると思う。
そして、衝突した以上の幸せをまた見つけるんだ、二人で。


そうして、私達はいつまでも二人で一緒にいるんだ。最後の最期まで一緒にいるんだ。
他の誰にも真似できないくらいの時間を、他の誰よりも近い距離で過ごすんだ。



――これは、私と唯の、すこしふしぎな人生のお話。




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       ヽ| l l│<オワーリ
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最終更新:2011年07月25日 22:33