梓達が純達と戦った日のヤマブキシティ近くのある研究所にて

『……ハア……ハア』

『脱走したぞ。早急に捕まえろ』

『くそっ。どこに行きやがったんだ』

『貴重な実験材料だったんだぞ』

ボクは、ここから逃げなきゃと思った。この力は、こんな人たちに使わせちゃいけないと思ったから。

『多少、傷つけてもかまわねえ。さっさと、捕まえろ!!』

そして、願わくば、心の綺麗な人たちに使ってほしかったから。おそらくは異端であるこの力を。


――――

「このお花可愛いね、あずにゃん」

「そうですね~」

私達はニビジムでタケシを倒し、おつきみやま近くの宿泊施設にむかって、歩いているところです。

「ねえ。天気もいいし、ここで、おやつにしよっ」

「さっき、歩き始めたばかりですよ。まだ、早いです」

「え~」

「え~、じゃありません。我慢してください」

「うぅ~、分かったよ~」

「それにしても、ゆい先輩とういはどこから来たんですか。たしか、姉妹でしたよね?」

「うん、そうだよ~。でも、ごめんね。私達がどこから来たかはしゃべっちゃいけないんだ」

「そうなんですか」

「なんでも、人間さんは怖い存在だから、場所を知られたら、きっと、私達の居場所を荒らして奪っていくからって」

「なるほど」

「だから、本当は私達の住んでる島からは出ちゃいけないって決まりなんだ」

「そうなんですか。あれ?じゃあ、どうして、ゆい先輩やういはここにいるんです?」

「10年に1回だけ、島で主催するタッグトーナメントで優勝すると、そのコンビは島から旅立つことができるんだよ。それで、優勝したんだ」

「それはすごいですね」

「ういが頑張ってくれたんだけどね」

「やっぱり」

「まあ、私の妹だからね」

「似なくてよかったですね、ういは」

「むう~、失礼だよ、あずにゃん」

「でも、場所を知られちゃいけないのに、どうして、そんな大会を……」

「たしかに、秘密を守ることも大事だけど、外に興味のあるポケモンもいるし、閉鎖的でもいけない。でも、たくさん出しすぎると大変だからね。ある程度の強さも必要になってくるから、このトーナメントを始めたんだって」

「なるほど」

「もっとも、 昔はよく旅立ってたんだけど、最近じゃ、優勝しても利用しない人も多いけどね。だから、最近の大会はただの村の催しになってるんだって」

「へえ~。ゆい先輩はどうして、参加したんですか?」

「私はね、なんとなくかな」

「なんとなく、ですか」

「今まで、ダラダラしてたから、15歳になった時、なにかしないとニートになっちゃうって言われて」

「そ、そうなんですか」

ポケモンにもニートってあるのかな?

「それでね、ういと一緒に村長さんに教わりにいったんだよ」

「村長さん?」

そういえば一度言ってましたね。村長さんがどうとか。

「そうだよ。私達の村では、学校の他に、誰か、師匠さんをついてもらって、バトルの修行をできたりするんだよ~」

「なるほど。でも、村長さんは人気じゃないんですか?よく、ゆい先輩が弟子になれましたね」

「失礼だね、あずにゃん。村長さんは強いんだけど、皆とは考えが合わないって言ってたんだ」

「なるほど。だから、弟子がいないんですね。ゆい先輩は大丈夫だったんですか?」

「私は大丈夫だったよ。だから、ここにいるんだよ~」

「そういえばそうですね。どんなことを教わったんです?」

「バトルについての戦い方とか、後、えーと、例えば、ポケモンとして大事なことって何だと思う、あずにゃん」

「いきなりな質問ですね。そうですね、やっぱり、強いってことでしょうかね。正解は何ですか」

「村長さんが言うにはね、心が大事だって」

「心ですか」

「どんなに、すごい力を持ってても、心が弱いとそれを生かしきれないんだって」

「なるほど」

「後ね、どんなに邪悪な力を持っていても、綺麗な心を持っていれば、いいんだとも言ってたよ」

「つまり、精神論みたいなことを教わったんですか」

「うん、そうだね。あとね、よく言ってたのはトレーナーとの絆は大事にしなさいって」

「そういえば、トレーナーのことを恋人みたいにとかなんとか」

「私達はトレーナーの人達に尽くさなきゃいけないからね。だから、家族や恋人のようにその人のことを好きになって、尽くしていきなさいって」

「そうなんですか」

だから、ゆい先輩は普段から、恋人だとか言ってたわけですか。つまり、誰でもよかったのかな?なんだろう、なにか、もやもやする。

「だから、ゆい先輩は私の恋人だとか言ってたんですね」

そんなことを考えてたからだろうか。つい、そんなことを口走ってしまいました。

「まあ、そうだね」

「じゃあ、私じゃなくてもよかったんですか?」

「それは違うよ、あずにゃん。たしかに恋人恋人って言ってたのは村長さんから教わったからでも、それとは関係なしにあずにゃんのことは好きだよ。いつも、一生懸命だし。私はあずにゃんのポケモンになれてよかったと思ってるよ」

「……」

「あれ?あずにゃん、顔が真っ赤に……」

「もう、この話はやめましょう」

「え、別にいいけど。じゃあさ、今度は私が聞くね。どうして、あずにゃんはポケモンマスターになろうと思ったの?」

「そうですね。楽しいかなって、思ったんですよ」

「楽しい?」
「はい。私の両親がポケモンレンジャーだったんで、その影響で、ポケモンの知識や技術を深めていきたいなって。この旅でいろいろなポケモンと接する機会もあると思ったからですね。まあ、やる以上は目標は大きく持った方がいいですし、バトルは楽しいですからね」

「そっか。じゃあ、私もあずにゃんがポケモンマスターになれるように全力で頑張るよ。だから、期待しててね」

「はいはい」


そんなこんなで、宿泊所に。

「ここで休んで、明日出発するんだね」

「そうです。明日は朝早くから出発して、一日でおつきみやまを越えたいですね」

「つまり、今日はもうゆっくりできるってこと?」

「そうですね」

「じゃあ、この後、ゆっくりと……」

「駄目です。今から、皆で特訓です」

「ええ~。おやつは」

「後で、買ってあげますから、合間で食べてください」

「あーうー」


私達は宿泊施設で部屋の手続きをし、荷物を置いた後、外に出ることに。

「さあ、特訓です」

「特訓って、何するの?」

「とりあえず、レベル上げです。まだ、デルビルも経験不足ですし、いつまでも、ハッサムに頼るというわけにもいきません」

「もう、あずにゃんたら。私に頼ればいいのに」

「頼りにしてほしかったら、普段からしっかりして下さい」

「あう~、あずにゃん冷たい~」

「それから、手持ちのポケモンも増やしたいですね。今のゆい先輩を入れた、3匹でも決して弱いわけではありませんが、多いに越したことはありません。もう少し、多ければ、ゆい先輩達の負担も大分減るはずです」

「そうすれば、バトル中でも、あずにゃんといちゃいちゃできるんだね」

「……ゆい先輩。少しは真面目にしてください」

「はい」


――――

「戻れ、デルビル」

「わ~、あずにゃん。これで、30匹目だね。おめでとう」

「おめでとう、じゃありませんよ。結局、1回も戦ってませんよ。戦ったのは全部デルビルじゃないですか。ゆい先輩も戦わなきゃ駄目ですよ」

「大丈夫、大丈夫。私はいざとなれば強いから」

「いざとならなくても、強くなって下さい。……ふう~、そろそろ帰りますか」

私達は宿泊施設に戻って来ました。その施設の中にはレストランなどの飲食店が並んでいます。私達はポケモンセンターで回復後、そこで夕食を取ることにしました。

「今日の晩御飯は何にする?」

「そうですね~、ゆい先輩は食べたいのありますか?」

「私は何でもいいよ」

「まあ、適当に決めましょう。それから、お風呂にも入りたいですね」

「そうだね。あずにゃん頑張ってたんだもんね」

「ゆい先輩も頑張ってください」

「分かってるよ。……でも、結局、ポケモンゲットしなかったね」

「まあ、これといってほしいのもありませんでしたからね。まあ、おつきみやまでもゲットするチャンスもありますから。それに今日はデルビルの経験値を積ませることが重要だったんですし」

「今日だけでも、結構、経験値を稼げたんじゃないかな?これで、ポケモンマスターに一歩近づけたね」

「まだまだです。今のままじゃ、澪先輩達には追いつけません」

「そういえば、研究所にいた女の人達って知り合いなの?」

「はいです。あの人達は私が博士の助手をしていた時の先輩なんです。きっと、ゆい先輩達とも、良いお友達になると思いますよ」

「そうなんだ。その人達は強いの?」

「強いですよ。その中でも、澪先輩はすごいと思います」

「そうなんだ」

「私も澪先輩のような、トレーナーになれるように頑張りたいです」

「……」

「あれ?どうしたんですか、ゆい先輩」

「別に。あずにゃん、あれ食べたい」

「ん?どれですか」

「あれ」

なになに。料亭ですか。値段は1万円ですか。たまには、いいか……って、1万円!?

「無理ですよ、さすがに」

「やだ。これがいい」

「どうしたんですか、急に。わがまま言わないでください」

「むう~」

「あっちのファミリーレストランにしましょう」

「……それでもいいけど、今日、あずにゃんと一緒に寝てもいい?」

「分かりました。それでいいので勘弁してください」

「……分かったよ」

ゆい先輩はしぶしぶ承諾してくれました。それにしても、急に不機嫌になるなんてどうしたんだろう?


夕食後、お風呂に。ここでは湯船があるらしく、今まで、シャワーしかなかったので、久しぶりに湯船に入れます。

「広いね~、あずにゃん」

「そうですね~」

なかなか広い大浴場ですね。たまにはいいものです。

「あずにゃん。頭、洗って~」

「はいはい」

「わ~、この子達可愛い~」

「すいません。なでてもいいですか?」

女子大生くらいの女の人達が話しかけてきました。皆さん、けしからん体をしてますね。特に上半身が。

「別にいいですけど。ゆい先輩は大丈夫ですか」

「うん。大丈夫だよ~」

まあ、ゆい先輩は18歳っていってるけど、小さい子供みたいな感じですしね。撫でたくなるのも分かります。

「じゃあ……」

なでなで。なでなで。

うーん。実に気持ちの良い撫で方ですね。まるで、猫を撫でているようです。ゆい先輩も気持ち良さそうにしてます……って。

「わ、私も撫でるんですか!?」

「可愛いね、この二人」

「君達、姉妹かな?でも、全然、似てないね」

「名前はなんて言うの?」

「私はゆいっていうの。こっちは梓ちゃんって名前で、あだ名はあずにゃんっていうんだ」

「あずにゃん?面白い名前だね」

「二人はどんな関係?」

「え、えーと」

「ああん。もう我慢できない。もっと、なでなでしよう」

「私も」

「私も~」

「むむ。私も負けないよ~」

「ちょ。皆さんやめて下さい。ゆい先輩も対抗しないで助け……にゃ、変な所触らないでくだ……にゃーーーーーー」


……

「はあ。まったく酷い目にあいました」

「楽しかったね、あずにゃん」

「全然楽しくありませんよ」

私達は入浴後に今日、止まる部屋に戻ってきました。この部屋はベットが二つあって、あまり、広くないけど、ゆい先輩は小さいので、特に狭いってことはない。値段はちょっと高かったけど、たまにはいいですよね。

「ふう~、せっかく、お風呂に入ったのに、疲れました」

私はベットの上に腰掛けます。

「でも、楽しかったよね。こういう出会いも旅の醍醐味だよね」

「それはそうですけど」

普通の交流だったらいいんですけどね。

「また、会いたいね」

「そうですね~」

ゆい先輩はさっきの女子大生の人達ともすぐに打ち解けてましたし。私としてはできれば、遠慮したいのですが。

「あずにゃん、あずにゃん」

「なんですか」

私がゆい先輩のほうを振り向くと同時に、

「えいっ」

という、可愛いという声とともに、ゆい先輩が枕を私に向かって投げてきました。

ボムッ。

そんな音ともに私の顔に枕が当たりました。

「わ~い。命中したよ~」

「……」

「あれ?あずにゃん、怒った?」

私はその問いに答えずに、枕をゆい先輩に投げました。

「わぷっ」

「仕返しです」

「むむ。やったね、あずにゃん。勝負だよ」

「望むところです。やってやるです」


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最終更新:2011年08月01日 21:30