トキワシティのある建物にて

『嫌になるわね~』

山中さわ子は呟く。今回の集まりは実験体の脱走に対するものだ。本来なら、研究班が全責任を負うべきはずだが、自分の部隊、すなわち、捕獲班が実験体の捕獲に失敗したからだ。ロケット団は大まかに分けて、3つのグループで構成されている。研究班というのは、ポケモンに関して研究していくところだ。もっとも、オーキドとかのようにポケモンの生態について研究するのではなく、軍事などに利用できないかといった研究だ。あの、実験体もその1つだ。1匹で、3種の進化を自由にするというのは、有用ではある。捕獲班というのはもっとも、業務の範囲が広い。野生のポケモンや珍しいポケモンの捕獲をメインとしているが、その後のポケモンの売却や戦闘員の訓練、ロケット団にとって邪魔な人物の誘拐等も含まれる。この班はタイプごとに班分けされており、梓達を襲ったのは、どくタイプの班だ。たかだか、1匹の捕獲だし、毒を喰らわせれば、問題ないだろうと判断したが、失敗した。最後に殲滅班。この班は組織でも、トップシークレットの情報であり、全様を知るものは殲滅班班長とボスのサカキのみである。主な業務はロケット団の運営や警察、政治家への根回しである。それだけでは、殲滅班とは言われないかもしれない。けど、この運営が問題で、裏切り者の抹殺も含まれる。また、組織にとって不要な者、邪魔な者を消す業務も行っている。そして、強い者しか、この班には入れないのである。

『まったく、あなたのせいよ』

山中さわ子は研究班の責任者の真鍋和に呟く。

『申し訳ありません。ですが、たかだか、1匹捕獲できない捕獲班にも問題あるんじゃないでしょうか』

『それを言われると辛いわね』

『もう、いいですか』

1人の女、曽我部恵は落ち着いて言う。

『どちらにしても、研究班の責任は免れません。捕獲班についても、部隊レベルの向上に取り組んで下さい。それでは、今日の議題について……』


ハナダシティのあるレストラン

「眠いよ~」

「もう!しっかりして下さい」

私達はファミレスで朝食を取っています。

「昨日はよく眠れたか?」

「はい、おかげさまでぐっすり寝ることができました」

「そうか」

澪先輩はにっこりと笑います。

「……コク……コク」

「あ、ゆい先輩寝ないで下さい」

「……あう。寝てないよ~……ぐう」

「説得力がありません。昨日は寝てないんですか?」

「……ぐっすり寝たよ~」

「まだ、寝足りたいんですか。ほら、料理も着ましたよ。早く食べないと冷めちゃいます」

「あずにゃん、食べさせて~」

「なんで、私が」

「……ぐう~」

「もう。仕方がありませんね。……ほら、アーンしてください」

「アーン」

パク。もぐもぐ、もぐもぐ。ぐう~。

「だから、寝ないで下さい」

「まあまあ、昨日が昨日だから疲れたんだろう。そっとしておきなよ」

「そういえば、澪先輩はこの後どうするんですか?」

「朝食が終わったら、イワヤマトンネルに行くよ」

「なら、その前に勝負してみませんか?どれくらい、強くなったのか、試してみたいので」

「……ごめんな。今回はやめとくよ。梓とはポケモンリーグで戦いたいんだ」

「……そうですか」

「それに今日くらいはゆっくりしてやれよ。……ゆいもこんな状態だし」

「ぐう」

「……そうですね」

「それじゃ、私は行くな」

「頑張ってください。それにしても、申し訳ないです。今日泊まるホテル代まで出してもらって」

「いいんだよ、気にしなくて……………一緒に寝ることができたしな」

「はい?すいません、最後の方がよく聞こえなかったんですけど」

「なんでもないよ。じゃあ、また会おうな」

「はいです」


私達は澪先輩を見送りました。

「これから、どうしましょうか、ゆい先輩」

「う~、寝たいよ~」

「もう!!どうしたんですか、今日は」

「あう~。別になんでもないよ~。ただ、眠いだけだよ~。……………昨日は調子に乗って、今日の5時まで、戦っちゃったんだもん」

「はい?いまなんて……」

「ねえ、今日は一緒に寝て過ごそうよ~、あずにゃ~ん」

「さすがに寝て過ごすわけにもいきませんよ」

それもいいかもしれませんが、ちょっともったいない気がしますし。

「仕方がありません。じゃあ、ゆい先輩は寝ていて下さい」

「あずにゃんは?」

「私はみんなのレベル上げをしてきます」

「え、や、やめた方がいいよ(昨日もあんなに付き合ってもらったのに)」

「何を言ってるんですか。ハナダジムにも挑戦していくんですからね。万全にしておかないと。じゃあ、いったん、ホテルに戻りましょう」

「ぐうぐう、ぐうぐう」

ゆい先輩はベットで気持ちよさそうに寝ています。一体、昨日、何をしてたんでしょうかね。テレビでも見てたんでしょうか?

「それにしても、幸せそうな寝顔ですね」

どんな夢を見てるんでしょうね。ゆい先輩のことだから、ケーキとかを食べてる夢でしょうか?起こすのも悪いので、サッサと行くとしましょう。一応、メモを残しておきましょう。

『ハナダの外れ、私達が戦った場所に行ってきます。 梓より』

これでよし。さて、行きますか。

「……あずにゃ~ん」

ビクッ。

「ムニャムニャ、そんなことしちゃ駄目だよ。……あん。変なとこ触んないでよ。……ムニャムニャ」

いきなり、名前を呼ばれてびっくりしましたけど、寝言ですか。というか、どんな夢を見てるんでしょうか。まあ、知りたくありませんけど。というより、知ってはいけない気もしますが。このまま、行ってもいいんですけど、なんとなくしゃくなんで、ちょっといたずらしてみましょう。

ツンツン。

私は柔らかそうなゆい先輩のほっぺをツンツンとつついてみる。プニプニしていて実に気持ちいい。癖になりそうです。

ツンツン、ツンツン。

「あう~」

ゆい先輩は少しうっとうしそうに寝返りを打ってしまいました。少しやりすぎたかもですね。私は今度こそ、黙って、部屋を出ました。


――――

「よし、ここでいいかな」

私はデルビルとイーブイを出す。

「前回、デルビルは頑張ってくれたんだけど、もう少し、レベルを上げたほうがいいから、今日も頑張ろうね、デルビル」

私はデルビルの背中をなでる。

「イーブイはまだ、使いこなせない部分もあるから、レベル上げとともに、そこらへんもやるけど良いかな?」

「ブイ」

「そっか。ありがとね」

ナデナデと頭をなでる。

「じゃあ、皆、今日も頑張ろうね!」


12時ごろ

「う~ん、よく寝た~」

私はちょうど、おなかも減ってきて目が覚めた。やっぱり、夜に特訓しても、こんなに眠くなったら意味ないね。今度からは気をつけなきゃ。
そういえば、あずにゃんはどこだろ?私は辺りを見回すとテーブルの上にメモがあります。うーんと、何々。

『ハナダの外れ、私達が戦った場所に行ってきます。 梓より』

なるほど、きっと、皆のレベル上げでもしてるんだろう。あずにゃんには内緒だけど、昨日の夜もやったし、皆には悪いことをしたかもしれない。

「う~ん、どうしよう?」

時間もお昼だし、迎えに行こうかな。私は準備をして、あずにゃんを迎えに行くことにした。

―――

「ふう~、ちょっと休憩しましょうか」

私は連携を確かめたり、イーブイの進化の使い方の確認を行ったりしました。なので、ちょっと、疲れました。

「イーブイ、こっちにおいで。ブラッシングしてあげますから」

こういうちょっとしたコミュニケーションも大事ですよね。トレーナーとして。

「ブ~イ」

「デルビル」

「デルビルもやってほしいの?ちょっと、待っててね」

私はイーブイのブラッシングをしつつ、デルビルの頭をなでる。嬉しそうにするイーブイやデルビルを見ると気分が良いですね。

「そういえば、もう、お昼ご飯ですね。唯先輩のところに戻りますか」


「残念だけど、それはできないな」


声のした方を見ると、見覚えのある服を着た3人の男がいました。周りには5匹のアーボックとマタドガス達がいます。

「昨日はよくもやってくれたな」

「あなた達は昨日捕まったはずじゃ」

「洞窟内部でやられたからな」

「逃げるのも楽だったわけよ」

なるほど、納得です。

「てめーのポケモンを奪って、ロケット団に戻ってやる」

どこまでも下種な人たちですね。でも、こちらはきついですね。デルビルとイーブイは疲れてますし、万全なのはハッサムだけですか。まあ、でも、問題ないですね。ハッサムは強いですし。

「出てきて、ハッサム」

私はハッサムを繰り出しました。

「マタドガス、アーボック」

「行きなさい、ハッサム。バレットパンチ」

ハッサムは先制攻撃を仕掛けます。そのおかげで、マタドガスをまずは倒しました。

「次もやるです、メタルクロー」

続いて、アーボックにも攻撃を加えます。

「シャーボック」

アーボックもふっ飛ばして、倒しました。これで、後、3匹です。

「どんなもんですか」

「くっくっくっ。まあ、これくらいは計算どおりだな」

「強がりですか。情けない連中ですね」

「まあ、こいつを食らってから言いな」

そう言って、ロケット団はハッサムにビンの入り口に紙を入れて、火をつけて、投げてきました。あれはなんていうんでしたっけ、そうだ。

「火炎瓶!?」

「そのとおり」

ハッサムははがねタイプでほのおタイプ、すなわち、火の技が弱点です。つまり……

「ハッサーーム」

ハッサムに大ダメージということです。

「大丈夫ですか、ハッサム。戻ってください」

「これで、切り札は消えたわけだ」

「私には、まだ、2匹います」

「そんなに弱ってる奴が2匹いてもな~」

たしかに、今までの特訓のせいで疲れきってますからね。

「こっちは残り、3匹。そっちは2匹。おまけに妙な奴もいない。終わりだな」

「くっ」

どうすればいいんでしょうか。


「お~い、あずにゃ~ん」


「あ、ゆい先輩」

「チッ、また、あのガキか」

「むむ、これはあずにゃんのピンチだね」

「かまわねえ、やっちまいな」

「それじゃ、早速いくよ~(格好よく倒して、あずにゃんになでなでしてもらおう)ゆいちゃん真拳奥義『ゆいあず☆ちょっと残念な昔話』」

あれ?今回はいつもと違いますね。人形が出る様子もありませんし、名前も無茶苦茶だし。

「まず、初めのタイトルは『アズサの恩返し』」

「誰かー。助けてください」

「むむ。あれはあずにゃんじゃないか。しかも、罠に掛かってる」

「助けてください」

「もちろんだよ」

罠を外す。

「ありがとうございます。このご恩はいずれ返します」

「いいよー、別に」

「いいえ、絶対返します。それではまた」

その日の夜

コンコン。

「はーい。どなた?」

「私は今日助けてもらったアズサです。約束どおり、恩返しに来ました」

「そんな~。悪いね~」

「では、恩返しの品です」

10円ガム。

「………」

「………」

「意味わかんないよー」

アーボックにパンチ。

「別に恩返しのために助けたんじゃないけどさー」

キック、キック、パーンチ。

「シャーボック」

「でもさー、恩返しなんて言われたら、期待しちゃうじゃない」

ワンツー、ワンツー。

「物なんて要求しないけど、せめて、ネコミミをつけたあずにゃんを一日抱きつける券をあげるとかさ、やることあるんじゃないかなー」

「なにを言ってるんですか、ゆい先輩!!」

エネルギーを右手に溜まってます。

「ゆいちゃんパーンチ」

アーボックはふっ飛ばされてしまいました。

「なんだ、今の技は」

「くそ、マタドガス、ベトベトン」

2匹はゆい先輩に襲い掛かろうとします。

「次のタイトルはね、『ゆい太郎』」

「さあ、さっそく、鬼ヶ島に出発しよう」

「はいです。皆、頑張ろうね」

「ニャー」

「……」

「あの、あずにゃん。この2匹は……」

「あずにゃん2号とスッポンモドキのトンちゃんです」

「………」

「これじゃ、戦えないよー。ゆいちゃん昇竜拳」

マタドガスを上にふっ飛ばします。

「あずにゃんはいいとしても、あと2匹はなんなのさー。ゆいちゃんキック」

ベトベトンすらもふっ飛んでいきます。何なんですかね、この技。

「さて、残りは君たちだね。最後に一番残念な話をしよう」

「くそ。なんなんだ、こいつの強さは」

「いったん退くか」

「そうするか」
勝てないと分かったら、逃げるんですか。相変わらず、卑怯な連中です。

「一番残念な話……それは」

ゆい先輩は逃げ出す、ロケット団を先回りします。


「この話だよーーーーーー」

と、叫んで、まず1人をキックで、ふっ飛ばしました。なにを言ってるのかはよく分かりませんが。

「もっと、書き手が良ければ、もっと、あずにゃんとイチャイチャして、それこそ、18歳未満お断りな展開もあったかもしれないのにさー」

まったく、言ってる意味がわかりません。

「くらえー、ゆいちゃん百烈拳」

ロケット団に百烈拳を叩き込みます。

「何事かね、この騒ぎは」

この騒ぎを聞きつけたのか、おまわりさんがやって来ました。

「ロケット団が襲ってきたんです」

「何!?」

その後、私達を襲ってきたロケット団の人達は見事に捕まりました。

「事情聴取などで、結局一日が潰れちゃいましたね」

「そうだね。でも危なかったね、あずにゃん。私が来なかったら、どうなってたことか」

「そうですね。今回は本当に助かりました」

「ねえねえ、あずにゃん。私のこともっとほめても良いんだよ~。例えば、ナデナデしたり、ほっぺたにチュ~、とかさ」

「調子に乗らないで下さい」

でも、そうですね。卑怯ですけど、気になってたことを聞きますか。

「撫でるくらいならしてあげますけど、1つ条件があります」

「条件?」

「昨日の夜なんで遅くまで起きてたんです?」

「それは………してたんだよ」

「はい?」

「特訓してたんだよ~」

「特訓?」

「うん。皆に付き合ってもらって、今日の5時まで」

「ぷっ、くくくくく」

「笑わないでよ~、こっちも真剣なんだから」

「すいません」

ナデナデ。

「あう~」

気持ちよさそうにする、ゆい先輩。

「どうして、急に、こんなことを?」

「澪ちゃんに負けたくなかったんだ」

「はい?」

「あずにゃんは澪ちゃんを見る目がとても、尊敬してるというかある種の安心感みたいな感じだったから、私が強くなれば、そんな眼で私を見てくれるかなって」

「……ゆい先輩」

いつも、ちゃらんぽらんに見えてもやるときはやるんですね。

「今度からは、そういう時は私に言ってくださいね」

「どうして?」

「どうしてって、私は……」

「私は?」

「ゆい先輩のパ……トレーナーですから。……さ、夕食でも取りましょうか」

「うん!」


ハナダ編① 「VS残党」終了



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最終更新:2011年08月02日 01:11