トキワシティのある施設にある捕獲班部長の部屋

『サントアンヌ号の襲撃か』

『ええ』

山中さわ子は梓たちを襲った男、マコトに言う。

『次は失敗しないでよ』

本来なら、一度失敗した男にこんなことを頼むべきではないかもしれない。しかし、この男は強い。さわ子はいろんなトレーナーを今まで見てきているが、この男、マコトは強いと感じる。今回はイーブイ捕獲の指揮官を任せたが、こいつの実力なら、おそらく、さわ子の次に、つまり、副部長くらいの地位にはいけるだろう。……ただ、1点の弱点を除けば、の話だが。

『なんで、襲撃するんだ?』

『琴吹家が私達に対する資金援助を断ったからよ』

なるほど、とマコトは考える。しかし、これは殲滅部隊の管轄ではないだろうか。捕獲班も、邪魔者の誘拐等も行うが、もともと、本来の管轄ではない。それに、ここまでのことなら、殲滅班の管轄だろう。さわ子はそんなマコトの疑問を感じ取ったのだろうか、こう答えた。

『今回のはいわば脅し。本気で殲滅する必要はないのよ』

『なるほど』
ロケット団も組織の維持のためにはある程度の資金が必要である。ポケモンの売買だけでは足りないものだ。このため、資金を確保することは何より重要なのである。今回の襲撃でたくさんの犠牲が出れば、十分な脅しにはなるだろう。

『今回、あなたが連れて行ったどくタイプ班は全滅だったわね』

先日のイーブイ捕獲のための襲撃失敗、残党による梓たちへの襲撃失敗により、全滅していた。

『もとより、雑魚だったからな』

『強気ね。でも、こっちはどくタイプ班の班員を再構成しなきゃいけないのよ』

『そんなことより、何故、サントアンヌ号を?脅しなら、自宅でいいだろ』

『犠牲は多い方がいいと思わない?』

『なるほど』

自宅では家族のほか、せいぜい家政婦くらいだが、サントアンヌほどの客船なら、何百、何千人の関係ない奴の犠牲が出るだろう。マコトは考えただけでも興奮する。

『パーティーがあるからね。会長や社長本人は出ないけど、そのパーティには会長の孫も出るらしいから』

『……名前は?』

『名前は琴吹紬。って言っても、あなたが興味あるのは名前じゃないでしょ。なかなかの上玉よ』

『当然、犯してもいいんだよな?』

『いいわよ。ちゃんとビデオに収めてね。会長に送ってあげるから。裏ビデオにも流せるし』

『了解』

笑っているマコトを見ながら、さわ子は溜息をつく。これがなければ、それなりに上にいけるのだろう。

『とりあえず、詳細は後で言うから、その時の指揮は頼むわよ』

『了解』

ほくそ笑み、マコトは部屋を去っていった。

――――


ハナダのホテル

「……ほわ~。朝か」

さて、着替えて、準備しないと。

「う~ん。ムニャムニャ」

可愛らしく、寝ているゆい先輩を見る。幸せそうな寝顔ですね。柔らかそうなゆい先輩のほっぺを見る。昨日もやったけど、もう一回だけ。

ツンツン。プニプニ。ツンツン。プニプニ。

……楽しいですね。本当に癖になりそうです。

「あう~、……アイスだ~」

「え、ちょっと」

ゆい先輩は寝ぼけて、アイスと勘違いしたのか、私の指をペロペロと舐めてきます。

「あう~、これは今までに食べたことのない味だよ~」

舐めてただけだったんだけど、口に入れて、チュパチュパと吸ってきます。そう、例えるなら、赤ちゃんが哺乳瓶を吸ってる感じですね。その
上、舌で私の指を舐めてきます。

「ちょっと……、ゆい先輩、やめて下さい」

「ほえ……」

ゆい先輩は目をパッチリとして目を覚ました。

「……」

「……」

「……あずにゃん、朝からエッチだね」

「な!!」

「朝から、私の口を使って、指をチュパチュパさせるなんて……あずにゃんたら、もう」

「ち、違います。これは、ゆい先輩が勝手に……」

「照れなくてもいいよ~。エッチなあずにゃんも可愛いよ~」

「だ、だから、違います!これはゆい先輩が寝ぼけて、私の指を舐めたんです!」

「そんなに、掴みかからないでよ~。仕方がないな~。あずにゃんがそうだって言うなら、そういうことにしておくよ~」

「納得してもらえたなら、結構です」

いまいち釈然とはしませんが。

「ほら。起きたなら、準備して下さい」

「はいはい」


私達は準備をして、朝食を取ることに。

「今日はどうするの?いちゃいちゃするの?」

「それは選択肢にもありませんけど、とりあえず、ジムに……」

「よう、梓じゃないか」

「はい?あ、律先輩」

「久しぶりだな。ここ、いいか?」

「はい、どうぞ」

「どうだ、バッチの方は?」

「そうですね~、まだ、バッチが1個で……、律先輩は?」

「私は、つい先日に3個目をゲットしたよ」

「そうですか。昨日、澪先輩に会いましたよ」

「そうか。あいつ、強くなってるぞ。戦ったか?」

「いいえ。誘ったんですけど、断られちゃいました」

「まあ、そうだろうな。……梓に酷い事出来ないだろうしな」

「はい?」

「そういえば、えーと、そこにいるちっちゃいの、名前は……」

「ゆいだよ~」

「そうそう、ゆいだったな。強くなったのか?」

「もちろんだよ~。私とあずにゃんの愛のち……モガッ」

「どうでしょうかね。ハハハハ」

「なんだ、その不自然な笑い」

「まあ、いいじゃないですか。気にしないで下さい」

「そうか。今日の予定はあるのか?」

「いえ、まだ、決まってはいませんが」

「なら、マサキに一緒に会いに行かないか?」

「マサキ?それって、誰、あずにゃん」

「たしか、すごいポケモンマニアでパソコンつうしんのポケモンあずかりシステムを作ったらしいですね」

「そう、そいつだ」

「でも、なんでですか?」

「一度、会ってみるのもいいと思っただけだよ。せっかく、旅に出たんだし」

「なるほど」

バッチ1個しかない私にとっては、早くジムに挑戦したいんですが、しかし、律先輩の言うことも一理ありますし、久しぶりに会ったんですから、律先輩ともう少し、お話ししたいですし。マサキさんにもちょっと会ってみたいですし。私がちょっと悩んでいると、

「……やっぱり、私と一緒は嫌か?」

と、律先輩が不安そうに聞いてきます。

「あ、別にそういうわけじゃないですよ。いいですよ、行きましょう」

「そうか。……よかった」

律先輩は安心しているようです。

「むう」

「どうしたんですか、ゆい先輩。急に不機嫌になって」

「……別に。デザート頼んでいい?」

「別にいいですよ」

その後、ゆい先輩はデザートをガツガツ食べてたんですけど、どうして何でしょうか?

「それじゃあ、行くか」

「はいです」

「がんばろ~」

朝食後、早速出発することに。

「そういえば、今までの旅で面白いこととかあったか?」

「面白いことですか?う~ん、面白いことはなかったですけど……」

私は、おつきみやまでの死闘について簡単に説明しました。

「梓、お前、澪がいなかったら、やばかったんじゃないか?」

「そうですね。本当にそう思います」

「……なあ、旅をやめた方がいいんじゃないか?」

「え?」

「だって、ロケット団が梓達に復讐しに来るかもしれないだろ。現に昨日も来てるわけだし。次に襲われたら、本当にやばいんじゃないか」

「……律先輩」

律先輩は心底心配してるような表情で言います。きっと、私のことを考えて、言ってくれてるんでしょう。私は本当に良い先輩達を持っていると思います。

「ありがとうございます。でも、そんな奴らのために自分の目標を諦めたくありません」

もし、そんな奴らのために自分の目標を諦めたりしたら、今まで、私と一緒に頑張ってくれた律先輩達や支えてくれた両親達にも申し訳ありません。

「よく言ったね、あずにゃん。私がナデナデしてあげよう」

「ちょっ、やめて下さいよ」

肩車をしているので、私の上にいるゆい先輩が頭をナデナデしてきます。

「……そっか」

律先輩はなんていうか、寂しいような、嬉しいような、よく分からない顔で言います。

「どうしたんですか?」

「……いや、別に。梓も成長したんだな~、って」

「なにを言ってるんですか」

「そうだよね~。あずにゃんもだいぶ成長したよ」

「ゆい先輩まで。だいたい、ゆい先輩は私と会ってそんなにたってませんよ」

「あの時は、毎日、いろんなポケモンを見て、眼を輝かせてたな~」

「なんですか、急に」

「昔を懐かしんでただけだよ。あの頃はなにかあれば、澪先輩~、ムギ先輩~、だったからな」

「りっちゃんは何も言われなかったの?」

「……ああ」

「……それは悲しいね」

「分かってくれるか」

「うん」

「勝手に捏造して、意気投合しないで下さい」

目の前で、ガシッ、っと手をつなぐ二人を見て、私は言います。確かにそんな気もしますけどね。

「なあ、梓。私と一緒に旅をしないか?」

律先輩は唐突に頬を赤らめて言います。

「律先輩と?」

「ああ。また、あんな連中が襲ってくるかもしれないだろ。旅を続けるにしても、2人なら、まだ、安全だろ」

「それはそうですけど……」

私のことが心配なんでしょう。顔が赤いのも、そんな理由で恥ずかしいからでしょうね。

「……私とじゃ駄目か?頼りにならないか?」

普段の律先輩とは思えないほど、不安そうに聞いてきます。どうしたんでしょうか?

「別にそういうわけじゃないですよ。律先輩の気持ちは分かりましたけど、律先輩はバッチ3個で私は1個。律先輩を足止めするわけにも行き
ません。……それに」

「それに?」

「私は強くなって、皆さんに挑戦したいんです。だから、どんな困難にも挑戦していきたいんです!!」

律先輩と一緒だと律先輩を頼ってしまいますし。それだと、強くなれませんし。

「あずにゃん、すごい燃えてるね、りっちゃん」

「ああ。少年漫画みたいなノリだな」

「人がやる気になってるのに水をささないで下さい」


なんだかんだで、マサキさんの家に。

「こんなところで1人で暮らしてるんですね」

「風変わりな奴だよな」

「まったくだね、近くにコンビニもないし、不便極まりないよね」

「郵便とかも大変ですよね」

「ああ。新聞なんかもな。毎朝、こんなところにも届けると思うと……」

「うわっ。はげしく嫌だね」

「冬とか、すごく寒いのに、こんな寒いところまで」

「冬も辛いけど、夏はもっと辛いだろうな」

「まったく、こんなところに住むなんて迷惑だよね」

「……聞こえてるよ、君達」

中から、茶色の髪をした男の人が出てきました。

「君達は私の家にいちゃもんをつけに来たのかな?」

「すいません。そういうつもりじゃないんです」

「そうそう。ものすごく遠かったから、つい口から出てしまったというか……」

「……はあ。まあ、いいよ。で、何をしに来たんだい」

「珍しいポケモンを見せてもらいたくて来ました」

「分かった。とりあえず入りなさい」

私達は客室に通されました。

「なにか、飲むかい?」

「あ、いえ、お構いなく」

「私はジュースが……モガッ」

失礼なことを言い出すゆい先輩の口を塞ぎます。

「……フフ。じゃあ、ジュースでも」

「……すいません」

でも、ばっちり聞こえてたようです。……恥ずかしい。

「それで、どんなポケモンが見たいんだい」

「ものすごく、かっこいいやつ」

「ものすごく、可愛いやつ」

律先輩とゆい先輩が同時に言います。

「ちょっ、二人とも。もう少し、遠慮して下さいよ」

「まあまあ。でも抽象的過ぎるね。君は何かあるかい?」

「私は……パソコンつうしんのポケモンあずかりシステムをどうやって作ったのか知りたいです」

「そんなのつまんないよ~」

「そうだそうだ~」

「いいじゃないですか、別に」

「君達は面白いね。そこの小さい子はえーと……」

「そういえば、自己紹介がまだだったな。私は田井中律だ」

「私はゆいだよ~」

中野梓です」

「私はマサキ、ともう知ってるよな。それで、ゆいちゃんは田井中さんの妹かな?」

「違うよ。私はこれでも、立派なポケモンなんだよ」

フンスと胸を張ってゆい先輩は言います。

「君が?面白いことを言うね~」

マサキさんは将来はウルトラマンになるんだって、言う子供を見る大人のような目で見ます。

「む、信じてないね。あずにゃん、いつものを」

「そんな、常連の店に来た客みたいに言わないで下さい」

そして、いつものようにボールの出し入れを。こうしなきゃ、信用されないポケモンも珍しいですよね。

「これは驚いたね。君はどっちのポケモンなんだい?」

「私はあずにゃんのポケモンだよ~」

そう言いながら、ゆい先輩は私に抱きついてきます。

「あずにゃん分補給~」

「ふむ、随分仲がいいね」

「それはそうだよ。私達の関係はトレーナーとポケモンの枠を超えてるんだよ~」

「な、何を言い出すんですか」

「へえ、例えば?」

「あずにゃんたら、私が寝てる間に、私の口に指を入れてチュパチュパさせるんだよ~」

「な!!ちょっと待って……」

「……君にはそんな趣味が……」

「梓。同性愛はいいけど、さすがにロリコンっていうのは……」

「なにを言ってるんですか」

「そうだよ。私は18歳だからロリコンでもないよ」

「そういうことを言いたいんじゃありません」

「なるほど。合法ロリ、と言うやつだね」

「ある意味、梓のほうが珍しくないか?」

「確かに。同性愛のうえにロリコンというのは珍しい」

「だから、違いますよ。何で、皆、温かい眼で見るんですか」

「もしかすると、ゆいちゃんを連れているのも……」

「え、そうなの、あずにゃん。でも、安心していいよ。私はどんなあずにゃんでも受け入れてみせるよ」

「それは私だって、そうだ」

「りっちゃんは無理だよ。だって、体型が受け入れられないから」

「ふん。私の力で、梓をロリコンから救ってみせるさ」

「君達の愛は素晴らしいね」

「………」

「ん?どうしたの、あずにゃん」

「…………い」

「い?」

「いい加減にして下さーーーーーーーーい」


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最終更新:2011年08月02日 01:16