ハナダジム
「いよいよ、ジム戦だね」
「はい」
時刻は夕方。私はハナダジムの前に立っています。いよいよ、2個目のバッチに挑戦なんですけど……。
「やってますかね」
時間も時間ですし、前回のニビジムでは、やる気満々で行ったら、休みになってましたし。そう思って、ドアを見ますが休みっていう感じはしませんね。
「とりあえず、入ろうよ、あずにゃん」
「そうですね」
私はハナダジムの扉に手をかける。
「失礼しまーす」
中を見ると、体育館のようなホールがあり、中心にはプールがあります。そのプールには何枚かのビート版のイカダみたいなものが浮いています。
「誰もいないね」
「そうですね」
すると、奥から女の人が出てきました。その女の人は水着を着ていて、けしからん体(特に胸)をしています。
「あら、どなた?」
「あ、ジムリーダーに挑戦したいんですけど……」
「そうなの?ちょっと待ってね」
その女の人は奥に戻っていきました。
「今の人の胸、大きかったね」
「……そうですね」
「あずにゃんも私がもんで大きくしてあげよっか」
「何を言い出すんですか!!」
「そんな顔真っ赤にして、照れなくてもいいよ~。優しくするから」
「いいです!一体、どこから、そんな知識を仕入れるんですか」
「うーん、雑誌とか?」
「なんで、疑問系なんですか」
「私としては、小さくてもいいんだけどね」
「うるさいです」
頬を引っ張る。……ゆい先輩の頬は柔らかくていいな~と思ったのは内緒です。
「ごめんなしゃい~」
「あなたが挑戦者?」
奥から、先ほどの女の人とともに髪を片方に縛った女の人が出てきました。
「はい」
「私はカスミ。あなたの名前は?」
「私はゆいだよ~」
「可愛いわね~。あなたの妹?」
「違うよ~。私はあずにゃんのポケモンであり、ベストパートナーであり、恋び……モガッ」
余計なことを言い出しそうな、ゆい先輩の口をふさぎます。
「ポケモン?あなたが?」
カスミさんは訝しげに、ゆい先輩を見てきます。
「まったく。いつも、皆、信用しないんだよね」
とりあえず、いつものやり取り。
「面白いわね~。まさか、こんなポケモンがいるなんて。あなたの他にも、こんなポケモンいるの?」
「それは……内緒」
「それは残念ね。……さて、ジム戦だっけ?」
「はい」
「……ねえ、ちょっと、協力してくれない?」
「それでは、これより、ハナダジムリーダー、おてんば人魚、カスミと挑戦者は世界で一番ネコミミが似合う、マサラからきた、とっても可愛い、ツインテールの女の子、あずにゃんさんです」
「なんですか、あの口上は」
「えへへ~、さっき考えてくれって、言われたから、一生懸命考えたんだよ~。本当はもっと長かったんだけどね」
さて、私が何故こんなことになっているかというと。
『……ねえ、ちょっと、協力してくれない?』
『何をですか?』
『実は今日、ショーをやるんだけどね。できれば、あなたにも協力をしてもらいたくて』
『でも、私にはショーなんて出来ませんよ』
『ショーは私の姉妹がやるんだけど、あなたには、ショーの一環として私と対決してもらいたいのよ。ようは、観客の前で、戦ってもらいたいのよ』
『なるほど』
『面白そうだね、あずにゃん』
『そうですかね?』
『あなただって、ポケモンリーグに挑戦するんでしょ?そしたら、もっと、たくさんの観客の前でバトルをするのよ。練習だと思ってね。ね?』
『やってみようよ、あずにゃん』
『うーん、仕方がありませんね。言ってる事ももっともですし』
という事があったんですが……。
「どうして、私達は水着を着てるんですか?」
私はピンクの水着を、なぜか、ゆい先輩はスクール水着です。
「だって、プールにいるのに、普通の服じゃ変だよ」
「それはそうですけどね」
「それでは、使用ポケモンは2体。掛け金は1万円。先に全滅させた方が勝ちとする」
「カッスミちゃ~ん」
眼鏡をかけた、なんていうか、みるからにオタクっていうんですかね。そんな人達の野太い声が聞こえます。
「むむ。私も負けないよ。あっずにゃ~ん」
「変な対抗心燃やさないで下さい」
「それでは、バトルを開始します」
「行け、My Steady!」
カスミさんが繰り出したのは、ゴルダックです。
「出てきて、イーブイ」
「ニュー太は出さないの?」
「仲間になったばかりなので、まだ、特長とか把握してないんです」
それに相手は水タイプ。となれば。
「イーブイ、サンダースに進化して」
私はかみなりのいしを当てます。
「おっーと。ここで、あずにゃん選手はイーブイをサンダースに進化させました。情報によれば、あずにゃん選手ののイーブイは三種類の進化
を自由にできるらしいです」
どうでも、いいですけど、あずにゃん選手ってやめてもらえませんかね。
「なるほど。弱点を突いてきたってことね。でも、弱点だけじゃ勝てないわよ。ゴルダック、れいとうビーム」
「ゴルダック」
「避けて下さい」
サンダースは、隣にある、ビート版のイカダに逃げます。サンダースのいた、ビート版のイカダはれいとうビームをくらって、凍ってしまいました。危なかったです。
「反撃です。十万ボルト」
「ダース」
「ゴルダック」
「ダック」
ゴルダックはビート版から水の中に落ちて、十万ボルトをかわし、水の中に潜りました。
「出たっ。カスミちゃんのシーステルス戦法だ」
「言ったでしょ?タイプの相性だけじゃ勝てないって」
「まだ、一回かわされただけですよ。まだ、勝負はついてません」
「なんだと。カスミちゃんに生意気言うな」
「引っ込めー」
なんか、外野がうるさいですけど、気にしないでおきます。
「足元に気を付けなさい」
「はい?」
サンダースの足元のビート版がひび割れて、ゴルダックが魚雷のように攻撃してきました。
「ダース」
「出ました。ゴルダックの得意技、水中からのロケットずつきだー」
サンダースは上に跳ね上げられました。
「ゴルダック。サンダースを水中に引きずり込みなさい」
ゴルダックはサンダースを掴み、水中に引きずり込みました。
ブクブク、ブクブク。
しばらく、サンダースの息の泡がありましたが、ついになくなりました。
「さあ、サンダースはこれでおしまいかー」
「当たり前だろー」
「カスミちゃんに勝てるわけないだろー」
その時、何か水中から浮いてきました。
「おっと、どうしたことか。浮いてきたのはサンダースとゴルダックだー。どちらも気絶しているぞー」
「何があったんでしょうか」
「審判、判定は!?」
「両者、戦闘不能。今の勝負は引き分けです」
「カスミちゃんの勝ちに決まってるだろー」
「お前、審判買収してんじゃねえのかー」
さっきから、あの人達は何なんでしょうか。
「おっと、只今、水中の映像が届きました。早速、確認してみましょう」
映像がモニターに流れます。
「まず、ゴルダックがサンダースを水中に引きずり込みます」
「ここまでは分かるよね」
「そうですね」
「その後、サンダースは水中まで引きずり込まれますが、ここでサンダースはゴルダックの腕に噛み付きます。その後、サンダースは十万ボルトを繰り出し、自分の息が苦しい中でも、必死にゴルダックを逃がさないようにしたわけです」
「やるわね、あなたのサンダース」
「あ、ありがとうございます」
「あずにゃん、あずにゃん」
「何ですか?」
「こういう時は『カスミさんのゴルダックもね』って言うんだよ」
「なにを言ってるんですか」
「では、両者。次のモンスターを」
「さて、私の番かな」
私はハッサムを出そうとしてる所に、ゆい先輩が言いました。
「何を言い出すんですか」
「大丈夫、大丈夫。私はあずにゃんのポケモンでもエースだよ。任せなさい」
「エースかどうかは疑問ですけど……分かりました。ゆい先輩、任せました」
訳の分からない技を出しますけど、まだ、1回も負けてないんですよね。それにやる気になってるのにそのやる気を削ぐわけにもいきませんし。
「行け、My Steady!」
カスミさんはスターミーを出してきました。
「さて、次のバトルはカスミはスターミー、挑戦者のあずにゃん選手はゆいを出してきました。情報によれば、このゆいはこの容姿でも、ポケモンであり、ロリコンの皆様は喚起の渦でしょう」
なんて事を言い出すんでしょうね、あの実況。
「さて、行くかな」
浮き輪を持って、準備運動をするゆい先輩。
「なんで、浮き輪を……」
「だって、深いし」
ゆい先輩は、プールに飛び込み、手近のビート版のいかだに乗りました。
「それでは、バトル再開!!」
「いけ、スターミー、こうそくスピンさせながら、たいあたり!」
スターミーは手裏剣のように体を回転させて、突っ込んできました。
「よけてください、ゆい先輩!!」
「よけろって言っても……」
「プールに飛ぶ込んでください」
ゆい先輩はなんとかプールに飛び込んでかわしました。しかし、スターミーは方向をかえ、ゆい先輩の飛び込んだところに向かってきます。
「あう~、このプール、やっぱり深いよ~」
「のんきなこと言ってないでよけないと……」
「そんなこと言ったってさ……」
ゆい先輩はバシャバシャと必死に泳いで、直撃は免れましたがその衝撃から、再び、ビート版のいかだに飛ばされました。
「こうなったら、プールにちなんだ技を出すしかないね」
ゆい先輩の奥義ですか。いつも、訳の分からない技ですけど、常に勝ってはいるので、ここは期待しましょう。
「引っ込め~」
「この、ロリコンめ~」
あんな連中の前で負けるのは絶対に嫌なので。
「行くよ~。ゆいちゃん真拳超奥義『ゆいちゃん☆ドキドキ☆スゴロク』」
ゆい先輩はルンル~ンと鼻歌を歌いながら、スゴロクをやるために準備をしています。このときの会場の気持ちは、対戦相手のカスミさんはもちろん、さっきから、私に罵声を浴びせてくる人たちとも、一致していたでしょう。
(……プール関係ないじゃん)
「さてと、サイコロを振ってと……ちぇ、1か」
「はっ。スターミー、こうそくスピンさせながら、たいあたり!」
「1マスと……さて、私の技の始まりだよ」
「!?」
今まで、プールだった場所がどこかの音楽室みたいな場所に変わりました。真ん中では二人の女の子が勉強をしています。……どこかで、見たような人っていうか、私とゆい先輩(大)ですが。
『あ、間違えちゃった。消しゴム、消しゴムっと』
私は周りを見ると、ちょうど良い所に消しゴムがあります。それを取ろうとして……
ぺタ。
『『あ』』
ちょうど、消しゴムを取ろうとしたのか、私の手とあずにゃんの手が触れ合ってしまいました。
『あ、ごめんなさい。手が触れてしまって』
『いいよ、きにしなくても』
あずにゃんと手が触れちゃった。
ドキドキ。
「スターーーーミ」
スターミに電流が走ります。
「なんなのよ、この技は」
「この技はドキっとすることをすごろくで体験することで、敵にダメージを与えるんだよ」
フンスと得意気に解説するゆい先輩。
「さて、サイコロを振ってと。やった、6だよ。6マス進めて、と」
「スターミー、もう一度、攻撃よ」
スターミーは再び攻撃態勢になります。しかし、ダメージで反応が鈍っていたのか、ゆい先輩の技が発動します。
ある夏の日の休日にて。
『突然、夕立だなんて、運がないよ~』
今日、私達はお出かけをしていた……のはいいんだけど、突然夕立が起きて、急いで走るはめに。
『ゆい先輩。あそこで雨宿りしましょう』
私達はバス停の屋根の下に入りました。
『急に雨が降るなんて、運が悪いですよね』
『うん、そうだ……ね』
私はたまたま、目をあずにゃんの方を見たんだけど、雨で濡れているからか、服が透けていて、ブ、ブラが透けて……女の子同士なんだから気にするのもおかしいのかもしれないんだけどさ。い、一応、好きな女の子のだし……
『どうしたんですか?』
『な、なんでもないよ』
ドキドキドキドキ。
「スターーーーーーミ」
スターミに電撃が走ります。
「……」
会場全体が異様に静かになりました。きっと、このふざけた技にあきれているのでしょう。そんな空気を知ってか、知らずか、ゆい先輩はのんきにサイコロを振ります。
「やった、また、6だ。6マス進めてっと。後、3マスだ」
電車にて
『今日は疲れたね』
『そうですね』
今日は二人で遊園地に行ってきたんだ。こういうのをデートっていうのかな?こう思うのはおこがましいかな?なんて考えてたら、ふと、右肩が重くなった気がした。
『どうし……!?』
『……すう……すう』
隣を見るとあずにゃんが可愛らしい寝顔で可愛らしい寝息を立てています。し、し、しかも、私の肩で!!
ドキドキドキドキドキドキドキドキ。
「スターーーーーーミ」
スターミに稲妻が走ります。
「……」
ゆい先輩の攻撃のたびに会場の雰囲気が重苦しくなっているような気がします。
「……なあ。あのゆいってのと、トレーナーのあずにゃんって可愛くないか?」
「ああ。大きさこそ違うけど、見かけはそっくりだしな。単体でも十分なのに2人揃えば、破壊力は倍以上になるぞ」
さっきまで、私にブーイングしていた人たちも急に意見を変え出しました。そして、どこから、ともなく、
「ゆーいあず、ゆーいあず」
と、コールが始まりました。
「え、何なんですか、急に」
周りを見ると、さっきまで、ショーをしていた人や準備をしていた人、司会者まで、つまり、ジムの関係者まで、コールに参加しています。これじゃ、カスミさんが1人に……と思って、カスミさんを見ます。
「ゆーいあず、ゆーいあず」
……カスミさんまでコールに参加しています。……これじゃ、スターミーは会場でものすごくアウェーです。せめて、私だけでも、心の中でちょっとだけ、応援してあげましょう。ゆい先輩は周りのそんな空気を気にしないで、やっぱりサイコロを振ります。
「やったー。ちょうど、3だ。1,2,3、と。わーい、ゴールだよ~」
今度はどこの場所なんでしょうか?どこかの教会のようです。ん?あそこにウエディングドレスを着ているのは、ゆ、ゆい先輩!?
最終更新:2011年08月02日 01:23