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「……もう、一時間も経っちゃいましたか。そろそろ、やめますか」

こうして、振り返ると、ゆい先輩とも長く旅をしたんですね。初めはどうなることかと思いましたが、今ではなくてはならないそんざ……
って何を考えてるんでしょうか。でも、そう考えても問題ないくらい、私を助けてくれましたし。
きっと、ゆい先輩がいなかったら、私はここにはいなかったですし……って、私はさっきから、ゆい先輩のことばっかり考えていますね。
どうしたんでしょうか。

「えー、まだ、いいじゃん」

「そうだよー、もっとしてよー」

私がそんなことを考えていると、女の子達が話しかけてきました。

「別にいいですけど、時間は大丈夫ですか?」

「うん。だから、続きー」

「おつきみやまの話をしてー」

「はいはい。じゃあ、続きを……」

「私も、一緒に聞かせてもらえないかしら?」

いきなり、大人びた声がしたので、びっくりして、その声の方を見ると、髪の長い眼鏡をかけた綺麗な女の人が立っていました。

「あの、どちら様ですか?」

「あ、失礼。私は山中さわ子。さっき、あなた達の会話が聞こえてきたから、悪いと思ったんだけど、聞かせてもらってたの」

「そうなんだ~」

「いいよ、お姉ちゃんも一緒に聞こう」

ゆい先輩と女の子達に温かく迎えられる、山中さん。でも、私には1つの疑問が生まれました。この人はいつから、聞いていたのでしょうと。
さっきまで、近くに人がいませんでしたのに。私の気のせいかな?
でも、それだけじゃない。なにか、私の勘なのだけど、この人は、何回も会ってるのロケット団の1人よりも、なにか、別の意味で違った恐怖を感じます。

「どうしたの?怖い顔してるよ、あずにゃん」

「べ、別になんでもないです」

「それで、私から、提案があるんだけど、聞いてくれる?」

「何ですか?」

「話を聞くのもいいんだけど、バトルを見せてくれない?」

「バトル?」

「だって、あなたみたいな、ポケモンのバトルなんて興味あるじゃない?」

「そういえば、そうだね」

「ゆいお姉ちゃんのバトル見た~い」

私は再び、疑問が出てきました。だって、私がゆい先輩をポケモンだと証明したのは、だいぶ前です。
その時には山中さんは確実にいなかったです。仮にいたとしたら、とっくに、私達の会話に入ってきてもいいはずですし。

「いいよ、見せてあげる」

「ちょっと、ゆい先輩」

「な~に、あずにゃん」

「勝手に決めないで下さい。この子達にも予定があるかもしれませんよ。それを置いても、夜ですし」

私は山中さんから、早く離れたかった。だって、今までのどの敵よりも怖い気がしましたから。

「私達は大丈夫だよ」

「そうだよ、ちょっとくらいなら」

「ほら、皆も言ってるし、大丈夫だよ」

「それじゃ、外に出ましょうか」

皆、山中さんの誘導で、外で、バトルをすることになりました。ポケモンも全員回復していますが、なにやら、不安です。

とりあえず、近くの森の中に。街頭もないので真っ暗です。

「真っ暗だね~」

「ちょっと、怖いよね

「おばけ出そうだよね」

「おばけ!?あずにゃ~ん、怖いよ~」

ギュッと、抱きついてくる、ゆい先輩。でも、怖そうではないので、ただ、抱きついてきただけでしょう。

「ここで、バトルですか?」

「ええ」

さっきから、この人の放っているオーラが怖いです。何か、異質なものを感じます。

「それじゃ、始めましょう」

「え、ええ」

「あずにゃん、よけて!!」

私はその声を受けて、奇跡的に素早く避けることができました。私がいたところにはサイドンの鋭いツメが刺さっていました。
後、一歩遅れていたら……

「何をするの、さわちゃん!!」

私が背筋を凍らせていると、ゆい先輩は山中さんに言いました。
……まだ、会ったばかりなのに、さわちゃんというあたり、社交性が強いといいますか、なんというか。

「何って、バトルよ。命がけのね」

「ふ、ふざけないでください。きてください、ハッサム。バレットパンチ」

私はハッサムを出して、先制攻撃を仕掛けます。

「サイドン」

サイドンもそれを受け、ガシッと両手を持ち、力比べを始めます。

「ふ~ん、強いわね。……でも」

「……!! あずにゃん、ニュー太を出して!」

「え!?」

「ハッサム」

力比べをしている、ハッサムの背中に、空気の刃が襲い掛かります。

「サイドン」

その攻撃で、怯んだ、ハッサムをアームハンマーで地面に叩きつけます。

「ハッサム! 後ろからなんて、卑怯ですよ」

「卑怯?どこがかしら?それよりも、次の攻撃に気をつけなさい」

「!?」

その瞬間、空気の刃が今度は私達に向かってきました。私は何とか、それをかわします。

「あずにゃん、他のポケモンを出さなきゃ」

「そうですね。来てください、ニューラ、デルビル」

「そんな、2体でどうするの?サイドン」

倒れている、ハッサムにアームハンマーで追撃を加えていた、サイドンがこちらを見ます。
……まずいですね、この2体じゃ、あいつにはきついです。

「ハッサム」

その隙を突いて、ハッサムは素早く、起き上がり、こうてつのはさみを使った、メタルクローでサイドンを引き裂きます。

「ハッサム!!今のうちです。デルビル、これに火をつけて下さい」

私はデルビルにそこらへんに落ちてた、枝に火をつけてもらいました。

「君達はこれを持って、宿泊所まで逃げてください」

「……でも、お姉ちゃんは?」

「私はこの悪い人を倒してから、戻ります」

「大丈夫?」

「死んじゃ嫌だよ」

「大丈夫です、私にはゆい先輩もついてますし」

「!!」

「そっか。ちゃんと無事に帰ってきてね」

「はい。明日は一緒に朝食を食べましょうね」

「うん」

「ニューラ、デルビル。この子達の護衛をして。終わったら、すぐに戻ってきて」

「ニューラ」

「デルビル」

「そんな簡単に行かせると思ってるの?」

再び、空気の刃が襲い掛かります。

「しゃがんでください!!」

私の合図で皆、しゃがんでかわします。

「早く、行ってください。出てきて、イーブイ」

私はイーブイを出します。しかし、相手がどんなタイプか分からない以上、対処のしようがありませんが、ひとつだけ、確かなことがあります。
この技はおそらく、エアスラッシュ。だとすると……。

「イーブイ、これで進化してください」

私はイーブイをかみなりのいしでサンダースに進化させます。エアスラッシュはひこうタイプの技で、覚えられるのはひこうタイプです。
だとすると、相手はひこうタイプ。ならば、でんきタイプのサンダースが有効です。

「サンダースね、なるほど。でも、どこからの攻撃か、分からなければ、意味がないわね」

その声とともに、空気の刃が迫ってきます。……でも、これで場所が分かりました。

ジリジリ。

「どうして、後ずさるんですか!」

「……あずにゃんはあれに私が勝てると思う?」

「……やっぱり、無理ですか」

ここは退くしかないですか。私は、サンダースとハッサムを戻し、逃げ出そうとします。

「私が逃がすと思う?」

サイドンは私達に向かって、突撃しようとしています。

「ゆい先輩、早く逃げますよ!」

「うん。……イテッ」

私に向かってこようとするゆい先輩が

ドテッ。

と転んでしまいました。

「大丈夫ですか、ゆい先輩」

「あう~、大丈夫だよ~」

「あ、危ないです、ゆい先輩」

サイドンはハッサムを粉砕した、アームハンマーをくらわせる為にゆい先輩に向けて、拳を振り上げます。

「ご、ごめんなさい。あめちゃんあげるから、許して~」

「サイドン」

サイドンは拳を振り落とします。

「危ないです、ゆい先輩」

私はゆい先輩を庇うように覆いかぶさります。でも、きっと、無駄でしょう。その拳は私もろとも、ゆい先輩を粉砕するでしょう。
そんなことを考えながら、私はその拳が振り下ろされるのを待った。

「ニューラ」

ドーン。

私が最後を覚悟した時、ニューラの鳴き声とともに、サイドンが倒れる音が聞こえます。

「ニューラ」

「デルビル」

「ニューラ、デルビル」

この2匹が戻って来てくれたら、まだ、戦えます。

「よし、じゃあ、行きますよ」

「待った、あずにゃん」

「何ですか?」

「抱っこして~」

「……」

私はゆい先輩を抱っこして、ついでに頬をつねります。

「いふぁいよ、あずにゃん」

「とりあえず、無事に逃げましょう」

「結局、逃げるの?」

「まだ、相手は2匹のみ。そのうえ、まだ、敵が隠れているかもしれませんから」

私達は改めて、逃げ出します。

「サイドン」

サイドンは起き上がり、再び、こちらに向かいます。

「ニューラ、こおりのつぶてで、サイドンを足止めしてください。デルビルは私達を先導してください」

それぞれの連携で、私達は逃げ出しました。

「いいコンビネーションね。でも、無駄よ」

空気の刃が私達の行く手を遮ります。

「また、クロバット!?」

もう、回復したんですか。私はもう一度、サンダースを出します。

「無駄よ、今度は移動するもの」

その言葉通り、逆の方から、空気の刃が襲い掛かってきます。

「……くっ!?」

私は何とかかわしますが、完全にかわしきれず、腕にかすってしまいました。

「あ、あ、あずにゃん、腕から血が……」

「かすり傷ですから、心配しないで下さい。……くっ」

とはいっても、ちょっと痛いですね。

「あずにゃんの綺麗な肌が……プチ」

「あの、ゆい先輩。どうしたんですか?」

「……あずにゃん、降ろして」

「で、でも……」

「いいから!!」

「は、はい」

「何をする気か知らないけど、無駄ね」

空気の刃がゆい先輩に向かって迫ってきます。

「フン」

ゆい先輩はお玉を出し、空気の刃が出てきたところに投げます。……って、お玉!?

「クロバット」

しかも、命中し、クロバットが出てきました。

「ゆいちゃん真拳超奥義『無我の境地』」

そういうと、今度はクロバットに10万ボルトを仕掛けました。

「クロバーーーート」

クロバットはその攻撃で、大ダメージを受けながらも、つばさをうつ攻撃でゆい先輩に迫ります。そして、
その攻撃はゆい先輩に命中……したかと、思いましたが、すり抜けてしまいました。
今度はかげぶんしん!?そして、横から、ハイドロポンプ攻撃を仕掛けます。さっきから、次々と、不規則にバトルスタイルが変化します。
一体、ゆい先輩に何が…!?

「この奥義はある週刊漫画雑誌から、編み出した技なんだよ~。今まで、見てきた、技を繰り出すことができるんだ」

そう言うと、クロバットにかみなりパンチを当てて、クロバットはふっ飛んで、気絶しました。

「やったね!」

ゆい先輩は私に向かって、笑顔でVサインをします。

ドキン。

あれ、なんですか、私の心臓。まるで、気になる子の笑顔を見て、ドキンってなる、主人公みたいな感覚は。その時、

バシーン。

「ニューラ!」

ニューラがサイドンに叩きつけられました。あの,サイドンの戦闘力は一体……!?

「まだ、私がいるよ。いっくよ~、 ゆいちゃん真拳……くっ」

その時、ゆい先輩の足がガクッと崩れ落ちました。

「大丈夫ですか、ゆい先輩」

「う、うん(この奥義はすごい、あずにゃん分を使うから、あずにゃん分が不足しちゃったよ。でも、ここで私が倒れたら……)。
早く倒そう、ゆいちゃん真拳コスプレ奥義『ゆいDEメイド』」

バーンと煙がゆい先輩を包み込みます。しかし、いつも、思いますが、この、ネーミングセンスは何なんでしょう。
煙が晴れると、ゆい先輩がメイド服姿です。……正直、可愛いです。

「さて、時間もないから、行くよ」


『ゆい。今から、お仕事を頼むから、よろしくね』

『うん』

あれ?いつもと違いますね。『私』はなんていうか、主人みたいな格好をしていますが、ゆい先輩のほうは大きさはそのままです(服装はメイド服)。
というより、主人みたいな『私』以外はいつもみたいにフィールドも変わってませんし。

『それで、お仕事はな~に』

『私』はサイドンを指さし、

『あの、置物を綺麗にして下さい』

ニコッと怖いことを言う『私』。

『分かったよ』

ピョコピョコってサイドンに近づくゆい先輩。

『まずは、洗剤をかけないとね』

サイドンに何かをかけるゆい先輩。

「サーーーーーーーーイドン」

サイドンの体がプシューと煙をあげて、溶け出しています。

『あ、間違えて、硫酸かけちゃった。テヘッ』

……可愛らしく言うゆい先輩だけど、やってることは恐ろしいですよね。ちなみに、テヘッてところで、一瞬見惚れてたのは内緒です。

『気を取り直して、お掃除をしよう』

サイドンにあらためて、洗剤をかけるゆい先輩。

『あずにゃんのた~めな~らえんやこ~ら~』

鼻歌を歌いながら、のんきにサイドンを洗い始めるゆい先輩。歌はちょっとあれですけど。

「サーーーーイドン」

洗剤の泡が目に入ったのでしょうか、目を擦って苦しんでいます。

『さて、水をかけて、お終いっと』

どこから、持ってきた、ホースを持って、サイドンに水をかけます。サイドンの弱点はみずタイプ。サイドンは苦しそうにもがいています。

『あずにゃんお嬢様、サイドンのお掃除終わりました』

『よくやりましたね、ゆい』

ナデナデ。

『えへへ~』

『次はモップがけです』

『ハーイ』

「サイドン、いい加減に倒しなさい」

「サイドン」

『お掃除、お掃除~』

サイドンの進む道をモップで掃除し始めます。果たして、モップが意味あるのか分かりませんが。サイドンが足を一歩踏み出した時、ツルッと

滑って、転びました。

「どうして……あっ!」


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最終更新:2011年08月03日 03:07