病院前

「さて、リュウ太、ポリ太。君達はあずにゃん軍団の一員として、一緒にお買い物に行きたいと思う」

「リュウ(はい!)」

「ポリ(はい)」

「ちゃんと、リーダーの私についてくるんだよ。それじゃ、出発~」

「リュウ(はい!)」

「ポリ(はい)」

以下、ミニリュウとポリゴン2の会話は日本語訳で

「まずはあずにゃんの買い物から済ませようね。えーと、メモメモ」

買ってくるものは、お菓子と飲み物か。明日から、また、旅立つわけだしね。

「それじゃ、行こうか。隊長さんである私の後についてくるんだよ」

テクテク

私達はスーパーへと歩いていきます。

「あら、ゆいちゃんじゃない」

「ほえ」

突然、私の名前を呼ばれ、振り向くとエリカさんの姿が。

「こんにちは、ゆいちゃん。まだ、タマムシにいたの?」

「え、えっと、いろいろありまして」

あの戦いのことは秘密にした方がいいよね。

「エリカさんは何をしてるの?」

「私はこれを買ってきたの」

袋から、がさごそと取り出します。エリカさんが取り出したのは、『アズメイト限定ストラクチャーデッキ ゆいあずっ!』です。

「おお~、エリカさんも買ったの?」

「ええ。……恥ずかしいから、内緒にしてね」

「ねえねえ、ちょっとだけ見せてよ」

「いいわよ。どうぞ」

ふむふむ、なるほど。……えへへ~、可愛いな~。

「はい、ここまでです」

「え、もう少しだけ」

「ごめんなさい。私も行かなきゃいけないの。挑戦者もいるわけだし」

「そっか。仕方がないね」

「ごめんなさいね。でも、早く行ったほうがいいわよ」

「?」

「買占めに走る人もいるみたいですから」

「そ、それは大変だね。じゃ、さっさと行ってくるね」

「そうね、そうしたほうがいいわね。では私は行きますね。梓さんによろしくね」

「うん、伝えとくねー」

私は力一杯手を振る。

「じゃ、早速、アズメイトに……」

グッ

後ろから、私の服が引っ張られる。

「買い物ですよ、隊長」

「あう~、見逃してよ、リュウ太。売り切れちゃうよ~」

「駄目ですよ。マスターのいうことをしっかり守らないと」

「ポリ太もそんなこと言わないでよ。リーダーの言うことを聞きなさい」

「リーダーよりも、ご主人様です」

「なんて、あずにゃんに忠実なポケモン達。わかった、君達の言うことを聞くから」

ようやく、服を離してくれた、リュウ太。

「それじゃ、行きますか」

私達はさっさと買い物を済ませ、アズメイトに。

「さて、ここから、私達は聖地に入るわけですが、ここでは私の言うことをしっかり聞かなきゃ駄目だよ」

「それはいいんですけど、なんで、こんな、裏通りにあるんですか?」

「それは、本人未公認だからだよ。だから、ばれないようにしなきゃいけないんだ」

「いいんですかね、それ」

「いいんだよ。じゃあ、入ろうね」

私のバイト先は不気味だ。別に違法なこととかで、不気味とかじゃなくて、普通のレジ打ちとかのバイトなんだ。それ自体が不気味ではない。問題は、売られてるものが不気味なんだよ。

(なんで、同じものばっかり……)

私の周りはツインテールをした女の子、それ自体は可愛いのだけれど、店の中にはほとんど、そのグッズしかない。こんなものが売れるわけないじゃないと思うけれど、意外にお客さんがたくさん来る。しかも、結構なお金を使っていくわけですよ。先日きた眉毛が特徴的な人は相当な額のグッズを買っていったんですよ。世の中どうなってるんでしょうね。まあ、時給がいいから、いいんだけど。

ビューン

また、お客さんだ。

「いらっしゃいませー」

「わ~、たくさんあるね」

今度はどんなお客かと思ってみると、幼稚園児くらいの女の子がいました。まったく、世も末だ。
その女の子はミニリュウとポリゴン2を連れていた。……あの年で、珍しいポケモンを……。その女の子はレジにピョコピョコって歩いてきた。


「店員さん、店員さん」

「はい、なんでしょうか、お嬢ちゃん」

「『アズメイト限定ストラクチャーデッキ ゆいあずっ!』って、まだ、ありますか?」

「ああ。ちょうど、一つだけ、あるわ」

私はその子に手渡す。

「ほわ~、やったよ~」

その女の子はピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる。そんなに嬉しいのかな?

「せっかくだから、もう少し、見ていこうっと」

「早く帰らなきゃ、マスターが心配します」

「分かってるよ、ちょっとだけ」

なんか、ポケモンと会話し始めてるよ。この子、大丈夫かな。どこがとは言わないけど。

「ルンルンル~ン」

その女の子は鼻歌を歌いながら、店内を歩き回っている。そして、ある場所に止まった。

「……このペンダント」

女の子が止まったのはギターの形をしたツインテールの女の子が描かれているペンダントの前だ。値段は10000円だから、幼稚園児には買
えないものだ。

「値段は……高い」

その子は財布を開けてみる。

「……足りない」

グスンと涙ぐんでいる。まあ、こればかりは仕方がない。その子は諦めたのか、また、店内を歩き回るけど、諦めきれないのか、また、そこに戻ってきた。……仕方がないな。

「ねえ、お嬢ちゃん」

「ん?な~に」

「このペンダントがほしいの?」

私はギターの形をしたツインテールの絵があるペンダントを指差す。

「違うよ。こっち」

女の子が指差したのは、その隣にある、ギターの形をしたショートボブの女の子が描かれているペンダントだ。なんとなく、この子に似てる気がするのは気のせいだろう。

「どうして?」

「プレゼントしたいから」

「プレゼント?」

「そう。いつもお世話になってるから」

その子の目は真剣だった。こんな時代でもそんな目を出来る人がいるとは、って私、何者だよ。

「……でも、お金足りないし、これだけ、買って、帰るね。精算してください」

「……うん、分かった」

「?」

「お嬢ちゃんは特別だよ。私がこのペンダントを買ってあげる」

「え、でも、高いし……」

「気にしない、気にしない」

そう言って、私は ギターの形をしたショートボブの女の子が描かれているペンダントと……ギターの形をしたツインテールの女の子が描かれているペンダントを渡した。

「え、こっちは……」

「こっちは優しい心を持った、お嬢ちゃんのために私がプレゼントしてあげる」

「でもでも、こんなに高いのは……」

「ここのバイト、時給がいいからね。……でも、そうだな。お嬢ちゃんが大人になったら、返してくれればいいから」

「……わかった、きっと返しにくるね」

「うん、じゃあ、約束」

私はペンダントをプレゼント用に包装して、渡してあげた。

「ありがとー。きっと、お金を返しにくるからね~」

その女の子はポケモン2匹を連れて、帰っていった。

「あ~あ、今月厳しいな。どうしようかなっと」

私は柄にもないことをするべきじゃないなって思った。まあ、あの子の笑顔が見れてよかったけどね。


病院

「遅かったですね」

「ごめんね、寄り道してて」

「まあ、いいですけど」

「あずにゃん。……あの、これ」

「なんですか?」

「プレゼント。いつも、お世話になってるから!」

「あ、ありがとうございます。……開けてみても?」

「うん!」

あずにゃんは包装紙を綺麗に取っている。

「……ペンダント。……ゆい先輩にそっくりな顔をした絵がありますね」

「うん。私のは、あずにゃんそっくりなのがあるよ。これはいつも、お世話になってるあずにゃんへのプレゼントだよ~。いつも、ありがとう」

「……また、恥ずかしいことを」

「? なにか言った?」

「高くなかったですか、これ」

「え、えーと、それは……うん、高かったよ」

「……ゆい先輩のお小遣いだけじゃ買えない気がするんですけど」

「バ、バイトして稼いだんだよ」

「ゆい先輩の容姿じゃ、雇ってくれないでしょ」

「なんか、傷つく言い方だね」

「そんなことよりも、正直に話して下さい」

「……はい」

「……はあ」

「ごめんなさい。やっぱり返してくるね」

「いくらですか、これ」

「合計で20000円くらいかな」

「じゃあ、これ」

あずにゃんは財布から、お金を出す。

「これで、その店員さんに払って来てください」

「でも、いいの?」

「……ゆい先輩の気持ちは嬉しかったですし、このペンダントは気に入りましたから。早く行ってきて下さい。帰ってしまうかもしれません
し。ヘルガーを渡すので、なるべく早く」

「……ありがとう、あずにゃん。私、行ってくるね」

「さてと、帰るかな」

バイトの時間も終わりだしね。

「お疲れさん」

「はい、店長」

その時、自動ドアが開いて、さっきの女の子が入ってきた。

「忘れ物?」

私は尋ねた。

「これ!」

その女の子は20000円を渡してきた。

「え?これは?」

「さっきのお金」

「え、でも……」

「受け取って」

「……分かった」

私はそのお金を受け取る。

「ちゃんと返したからね。ありがとう、お姉さん」

その女の子は急いで出て行った。

「嵐のような子ね、まったく」

それにしても、あの子があんなにしても、プレゼントをあげたかった人はどんな人なんだろう。いつか、会ってみたいと思った。


病院

「えへへ~」

「ご機嫌ですね」

「まあね~」

「……早く寝て下さいね。明日は早く出て行きますから」

「うん、分かってるよ~」

「それじゃ、寝ましょう」

「ねえ、あずにゃん」

「何ですか?」

「このペンダントがあれば、どこでも、お互いが思い出せるようになるね」

「……突然何を言い出すんですか?」

「……だって、ミュウツープロトタイプみたいなことがあるかもしれないし……」

「……縁起でもないこと言わないで下さい 。ゆい先輩は私のポケモンですし、……い、一応、恋人(仮)なんですから、ずっと一緒なんです。

私の目の届く範囲にいてください」

「……プロポーズ?」

「なっ!ち、違います。私はそんなつもりじゃ……」

「もう~、あずにゃんたら~。こんなところで言わなくてもいいのに」

「う、うるさいです。さあ、もう寝ますよ、おやすみなさい」

「おやすみ~」

今日は楽しかったな~。明日も楽しい日でありますように。私はペンダントにそんなお願いをしながら、眠りについた。


タマムシシティ編 エトセトラ 「ある1日」 終了



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最終更新:2011年08月03日 03:55