「サファリゾーンでのデートが無くなっちゃった。……シュン」

悲しそうに言う、ゆい先輩。

「今はそんなこと言ってる場合ですか。……また、今度行きましょう。この事件を終わらせて」

「……うん、そうだね」

なんとなく、元気を取り戻したようです。ゆい先輩の元気がないと私のリズムも狂ってしまいますからね。

「そうと決まったら、早速、ポケモンセンターに行こう」

「はい!」

私達は裏通りから、ポケモンセンターに行くことにしたんですが……。

「こっちにも、ポケモンの集団がいるね」

「ええ」

こっちの道には、サイホーンの群れがいます。やはり、強行突破しかありませんか。

「……」

「どうしたんですか、ゆい先輩」

「……なんかね、さっきの二ドラン達もそうだったけど、あのサイホーン達もね、怒ってるの」

「怒ってる?」

「うん。これは人間さん達への復讐だって」

「復讐?」

「そう。自分達を狭いところに閉じ込めて売り物にしたことに対する復讐だって」

ゆい先輩の言うとおりだとしたら、それは悲しいですね。たしかに、そういう見方もできるかもしれませんが、ポケモンと人間の新しい出会いの場でもあるのに……。

「……ゆい先輩」

「な~に?」

「説得できませんか?」

「どうして?」

「だって、このままじゃ、悲しいですし、満足に戦えませんよ」

「それはそうだけと……」

歯切れが悪いゆい先輩。

「どうしたんですか?」

「あのね、今、私達……囲まれてるよ」

「え!?」

周りを見ると、サイホーンだけでなく、ニドランの群れまでいます。

「いつの間に……」

「あずにゃんが考え事してた時かな?」

「気づいてたなら、教えてくださいよ」

「あずにゃんが考え事してるのは邪魔できないよ。こうみえても、トレーナーに従順なポケモンだからね。フンス」

「いやいや、ちゃんと教えて下さいよ。だいたい、今、無茶苦茶ピンチですよ」

周りを見ると、鼻息を荒くして、サイホーン達が私達に迫ろうとしています。

「大丈夫!あずにゃんは私が命に代えても、守ってみせるよ」

キリッと言うゆい先輩。……そんな顔は卑怯ですよ。

「と、とにかく、この場を突破しましょう。来てください、ヘルガー」

私はヘルガーを出します。私はゆい先輩を抱きかかえ、ヘルガーに乗ります。

「ヘルガー、安全な場所まで、逃げてください」

「ヘル!」

ヘルガーはその群れを飛び越し、一気に逃げました。

「楽しいね、あずにゃん」

「楽しんでる場合ですか!」

結構動きが激しいですし。

「そうだ!このまま、ポケモンセンターに行っちゃおう」

ゆい先輩が提案してきます。……まあ、妥当なところですね。

「ヘルガー、ポケモンセンターまで、お願いします。このまま、まっすぐ進んでください」

「ヘル」

私達はなんとか、ポケモンセンターまで到着しました。幸いにも、この周りには逃げ出したポケモンはいないようですね。

「戻ってください、ヘルガー。どうやら、このあたりはまだ、無事なようです」

「そうだね。まずは入ってみよう」

「ええ」

私達はポケモンセンターに入ってみようとしますが、自動ドアが開きません。

「どうしたんでしょうか」

「もう、皆逃げたからじゃない?」

「でも、逃げてたら、自動ドアも普通に開きますよ」

だって、慌てて、逃げるから、自動ドアの電源を切ることはないでしょうし。しばらく、様子を見てみると、ジョーイさんが中から、出てきました。

「あなた達も逃げ遅れたの?まあ、いいから、入って」

ジョーイさんは私達をポケモンセンターの中に案内します。そこには逃げ遅れたのか、何十人かの人達がいました。

「ここの人達は皆逃げ遅れてきたの」

「そうなんですか」

周りを見ると、逃げ遅れた人の中には、子供の姿もありました。これで、ポケモンが嫌いにならないでくれればいいんですが。

「あ、ジョーイさん、私のモンスターを回復できますか?」

「ええ、大丈夫よ」

「それじゃ、お願いします」

私はゆい先輩を含め、ボールを渡します。

「あら、あなた達は噂のトレーナーね」

「噂?」

「そう、噂。ジョーイ仲間でも噂なのよ。まあ、あなたのポケモンは特殊だからね。有名にもなるでしょ?」

たしかに、ゆい先輩みたいなポケモンは他にはいませんけど。そして、ジョーイさんは素早くポケモンを回復させてくれました。

「ありがとうございます」

「いいのよ。きっと、助けがくるから、一緒に待ってましょうね」

ジョーイさんはそう言って、他の方の様子を見に行きました。

「私達は一応助けに来たのにね」

「そう言っても、信じてくれませんよ」

「とりあえず、私達も周りの様子を見に行こうよ」

「そうですね」

私達はポケモンセンターを歩き回ることにしました。周りを見ると、皆、疲れたような表情をしています。

「ヒック、ヒック」

「大丈夫?」

私が歩いていると小学生の低学年くらいの子供が泣いていたので、声をかけました。

「お父さんとお母さんは?」

「……ヒッグ、はぐれちゃった」

「そっか。でも、大丈夫。すぐに見つかるよ」

「本当?」

「今すぐには無理だけどね。でも、大丈夫」

「……信じていいの?」

「うん」

「……ありがとう」

「うーん、さすがは私の嫁。優しいね」

「なにを言ってるんですか」

「この子はお姉ちゃんの妹?」

「違うよ、私はあずにゃんのポケモン兼恋人のゆいだよ~」

「恋人(仮))です」

「この子がポケモン?」

「ええ」

いつもの動作をパパッと行います。すると、その子の表情が曇ります。

「どうしたんですか?」

「だって、ポケモンなんでしょ?ひどいことしない?」

「私はそんなことしないよ~」

にやーとした表情をするゆい先輩。

「本当に?」

「本当、本当」

「……じゃあ、信じる」

「うん、信じなさい」

「ねえ、ポケモンっていうのは怖いものじゃないんだよ」

「でも……」

「さっきのポケモン達もきっと嫌なことがあって怒ってるだけなんですよ。君だって、嫌なこととかあったら、怒るでしょ?」

「……うん」

「ポケモン達も同じなんですよ。ちょっと、怒ってるだけ。だから、ポケモンを嫌いにならないでね」

「……うん、分かった」

「それじゃ、私はちょっと、パソコンのところに行ってきますね。行きましょう、ゆい先輩」

「うん」

「……ねえ、僕も行ってもいい?」

「……いいですよ。一緒に行きましょう」

私はパソコンで、ポリゴン2を預け、ガルーラを引き出しておきます。

「……後、どれくらいで出られるのかな」

不安そうに小さい男の子が聞いてきます。

「すぐに出られますよ」

とは、言いますけど、まったく、見通しが立っていませんね。さて、どうしましょうか。

「もう、殺すしかないだろう!!」

突然の大きな声で、見てみると、あっちで、なにやら、集団ができていて、金髪の男の人が叫んでいます。

「ポケモンは人間の道具なのに、反発するんだから、駆除してやるべきなんだ」

その金髪の男は、なにやら、散弾銃(?)みたいのを持って、宣言しています。その集団の他の人も、同じようなものを持っています。

「どうしたの?」

「あ、ジョーイさん。あの方々達は?」

「ああ。なんでも、ポケモンや動物の猟をやってる人達みたいよ」

「そうなんですか。随分、過激なことを言ってるみたいですけど……」

「ねえ。でも、大丈夫でしょ。外のポケモンの数は多いから、あれだけの武器じゃね」

ジョーイさんは苦笑して言います。

「なにも起こらなきゃいいんですけどね」

「そうね」

私達の思いが通じなかったのか、私の日頃の行いが悪いのかは分かりませんが、いきなり、

ガッシャーン

という音がしました。その音の方を見ると、ポケモンセンターの自動ドアが破壊され、そこから、ケンタロスの集団が入ってきました。

「うわああああ」

「つ、ついにここにも……」

「た、た、助けてくれ」

ここに非難してきた人達の間に動揺が走っています。なんとかしないと。

「くそが。出て来い、ウインディ」

さっきの金髪の男はウインディを出してきました。……正直、ほっとしています。さすがに、あの銃でポケモンを撃つことはしませんでしたか。しかし、あのウインディはなんとなく、顔がやつれている気がします。まあ、トレーナーのあの人を見ても、ちゃんと育ててるとは思えませんけど。

「ディ」

ウインディはケンタロスと対峙します。

「タロス(随分、やつれているな)」

「ウインディ(関係ないだろ)」

「ケンタロス(人間なんかに仕えてるからだろう。どうだ、我々と一緒に来ないか?)」

「ウイン(さすがにそれは……)」

「タロス(こっちに来れば、こきつかわれることもないぞ)」

「……」

「どうした!サッサと戦え!」

「……」

「タロス(どうする?)」

「ねえ、ゆい先輩」

「なんだい、あずにゃん」

「さっきから、あの2匹、会話してるような気がするんですけど」

「勘がいいね。たしかに、会話してるよ」

「どんな会話ですか?」

「なんでも、トレーナーを裏切って、私達と一緒に行かないかって、いう話をしてるよ」

「なるほど。……ちょっと、やばくないですか」

「……あずにゃんもそう思う?」

「ええ」

あの金髪の男がウインディに好かれてるとは思えません。案の定、ウインディは金髪の男の方を見て、吠え出しています。

「て、てめえ、ご主人様を裏切るのか」

金髪の男は散弾銃をウインディに向けます。さ、さすがにそれはまずいです。

「ワンワン!」

ウインディが金髪の男を威嚇するように強く吼えると、金髪の男はヒイイっと、怯えて、散弾銃を落として、腰を抜かしてしまったようです。

「お姉ちゃん、怖いよ」

さっきの男の子が私の陰に隠れます。このままじゃ、大変なことになるかもしれません。

「ゆい先輩、この子を頼みます」

「分かったよ。頑張ってね~」

ゆい先輩はその男の子と一緒に、物陰に隠れます。そうしてる間にも、ウインディは金髪の男に襲いかかろうとしています。

「危ないです、来てください、ガルーラ」

私はガルーラを素早く出し、ウインディと対峙します。

「ケンタロス(お前も、人間の味方なんかやめて、我々と一緒に来い)」

「ウインディ(そうだぞ、人間に従ってるなんて、不自由だけだぞ)」

「ガル、ガルーラ(たしかに、そこで腰を抜かしてる男がトレーナーだったら、私もそっちについていたでしょうね。だけど、私のトレーナは

そんな男よりも素晴らしいの。そっちにつくことはできないわ)」

「ケンタロス(そんな小娘がか)」

「ガルーラ(あなた達には分からないことでしょうね。さあ、もう言葉は要りませんよ)」

なんだか、ガルーラも会話していますけど、まったく、分かりません。そして、ウインディはガルーラにとっしんを仕掛けてきますが、ガルーラはそれを受け止め、投げ飛ばしました。まるで、お相撲さんのようです。それを見て、ケンタロスもこっちに向かって、とっしんを仕掛けてきます。しかし、さっきのウインディよりも勢いがあります。

「ガルー」

ガルーラはそれを正面から、受け止めます。そして、ケンタロスの頭にピヨピヨパンチをリズミカルに繰り出します。ケンタロスはそのパンチで混乱したようで、目をグルグルと回しています。そのケンタロスにメガトンパンチを繰り出し、ケンタロスを横に突き飛ばします。

「ケンタロス」

その戦闘を見守っていた、ケンタロス達が、こっちにやってきました。くっ、ガルーラ1匹では厳しいですね。

「ねえねえ、お姉ちゃん」

私が物陰から、あずにゃんの戦闘を見守っていると、男の子が話しかけてきました。

「なんだい?」

「あのお姉ちゃんは大丈夫かな?」

「大丈夫、大丈夫」

あずにゃんは滅茶苦茶強いからね。なんたって、私の嫁だし。

「……でも、このまま戦うのは悲しいよね。さっきのウインディとか見ちゃうと」

「……たしかに」

さて、私に何が出来るか、考えてみよう。

「………そうだ」

「なにか、策があるの?」

「歌を歌おう」

「数が多いですね」


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最終更新:2011年08月03日 04:01