「逃げたんじゃないの?」

「まあ、ここまで来たらね。いいじゃないの、別に」

「それよりも、梓ちゃん。どうするの?警察官とか、たくさんいるよ」

「そうですね、これではうかつには……」

「あずにゃん、あずにゃん」

「どうしたんですか?」

「上を見て、上」

「上?」

私達が物陰から、上を見ると、炎を纏った鳥がいました。

「あれは何、純ちゃん」

ういは純に問いかけます。

「あ、あれは、えーと……」

「ふふん。2人とも分からないんだね、私が教えてあげよう」

ゆい先輩が得意げに言います。さすがはゆい先輩です。

「あれはね、……火の鳥だよ!!昔の巨匠の漫画家さんが書いたあの鳥だよ」

「へえー、そうなんだ。やっぱり、お姉ちゃんはすごいね」

「さすがはういのお姉さんね」

「えへへ~、それほどでも~」

「いやいやいや、違いますから」

「えー。じゃあ、あれは何なのさ」

ゆい先輩は気持ちよく褒められていたためか、私が否定するとちょっと、ムッとしたような、顔をしました。

「あれはカントー地方に伝わる、伝説のポケモンの1匹、ファイヤーです」

「へー、そうなんだ」

「さすがは、梓。物知りね」

「うー。でも、物知りなあずにゃんも可愛い~」

ギュッと抱きついてくるゆい先輩。そして、頭をナデナデし始めます。

「や、やめてくださいよ~」

「いいではないか、いいではないか~」

「(お姉ちゃんは本当に梓ちゃんのこと好きなんだな~)」

「ジー」

「どうしたの、純ちゃん」

「いや、なんかさ、ういって、シスコンみたいじゃん」

「本人前にしてすごいこと言うね」

「だからさ」

純の回想

うい「よくも、お姉ちゃんを。梓ちゃんはじっくり苦しんで死んでもらいます」

梓「や、やめてよ、うい」

うい「フフフ、お姉ちゃんに群がるゴキブリは死んでもらいます」

おもむろに、火をつける。

梓「あ、熱いよ、うい。し、死んじゃうよ」

うい「それでいいんだよ。ハハハハハ」

「みたいな感じに、嫉妬するというか、ヤンデレみたいになるんじゃないかと」

「な~にそれ。私がそんなこと思うはずないでしょ。私はお姉ちゃん達が幸せになれればいいんだよ」

ういは少し怒り気味に言う。

「ごめん、ごめん」

「だいたいね、純ちゃん。もし、お姉ちゃんと梓ちゃんがくっついたとしよう」

「うん」

「そしたら、私には、お姉ちゃんがもう1人できるのです」

「そうだね」

「そのうえ、いつもとは違う、表情のお姉ちゃんや幸せそうなお姉ちゃんも見ることができるのです。そして、もう1人のお姉ちゃんの梓ちゃんにも甘えることができるのです」

「そういう、可能性もあるかもしれないわね」

「そうなれば、3人とも幸せになれるのです」

「あれ、ういのトレーナーの私は?」

「……それよりも、上のファイヤーの様子を見よう」

「おーい、ういさん。私は?」

「話は終わりましたか?」

「うん」

「ねー、私は?」

「しつこいよ、純ちゃん」

「何を話してたの?」

「内緒だよ、梓ちゃん」

「そんなことよりも、ファイヤーだよ、あずにゃん」

「そうですね」

ファイヤーは警察官の集団の方に向かっていきます。

「(ねえ、うい)」

「(な~に、お姉ちゃん)」

「(あずにゃんにひどいことしたら、ういでも許さないよ)」

「(さっきの話を聞いてたの?だったら、私こそ怒るよ)」

「(ごめん、ごめん。ただ、違う世界のういならやりかねないかなーって)」

「(??? そんなことより、ファイヤーの様子を)」

「(そうだね)」


『ファイヤーがこっちに向かってくるぞ』

『どうしますか、部長』

『うむ。ファイヤーは伝説のポケモンであって、まだあまりデータはない。素早く、攻撃をしろ!』

『はい!』


警察官達は拳銃などをファイヤーに向けます。ま、まさか、あれを撃つ気じゃ。

「撃てー」

隊長らしき人の指示で、ファイヤーにバズカーなどが発射されます。しかし、ファイヤーは美しく、羽ばたき、その攻撃をかわし、口にいっぱい、炎を溜めて、警察官や自衛官達にかえんほうしゃ攻撃を仕掛けてきます。

「て、撤退だー」

自衛官の人達は慌てふためいて、逃げる。それもそうだろう。かえんほうしゃ攻撃には違いないが、きっと、普通のほのおタイプのモンスターを集めても、20匹くらいのかえんほうしゃの威力だったんだから。

「ね、ねえ、梓。本当にいくの?」

「……怖いけど、行くしかないよね」

「ほ、本気?」

「本気だよ。あんなポケモンを倒せるとしたら、ゆい先輩くらいだよ」

「え!?むむむむむむむ無理だよ、さすがに」

「大丈夫です、ゆい先輩なら!!普段はちゃらんぽらんでも、やる時はやるって、信じてますから」

「今日ほど、信頼の2文字が重いと感じたことはないよ!」

「さて、場も和んだところで、この混乱に乗じて、シオンタウンに潜入しましょう」

「随分、場慣れしてるわね」

「それほどでもないよ」

「……うう、なんか、私って、ほのぼのとしてる漫画とかの主人公とかだったりする気がするのに、こんなのあわないよ」

「なにを言ってるの、お姉ちゃん?」

「ゆい先輩のことはほっといて、行きますよ」

私はゆい先輩を抱きかかえ、シオンタウンへと向かいました。


シオンタウン

上空を見ると、ファイヤーはいません。どうやら、ファイヤーは警官隊に攻撃して、引っ込められたのでしょう。

「さて、ここまで来たのはいいですけど、どうしましょうか」

上空にファイヤーはいないと言いましたが、地上にはロケット団がたくさんうろうろしています。

「まずは、その友達のところに行くんじゃないの?」

「それはそうですけど、この数のロケット団に見つからないように行くのは……」

「それは厳しいね」

「まあ、とりあえずは、裏通りを通っていくしかないですね」

私達は人気の少ない道へと、歩を進めました。


「おい、怪しい奴だー、捕まえろー」

「な、なんで、私達、追いかけられてるのー」

「ゆい先輩のせいですよー」

回想

「ここは危ないですね。私の合図で、走って、あの路地に隠れましょう」

「うん、分かった」

「……今です」

「よし」

ツル、バタン

「だ、大丈夫ですか、ゆい先輩」

「……う、うん、大丈夫」

「あ、あそこに誰かいるぞ。捕まえろー」

「というか、梓がゆい先輩をおんぶしてればよかったんじゃない?」

「たしかにそうかもしれないけど、今はそれを言ってる場合じゃないよ!」

「そうよね」

純とともに、後ろを振り返る。だいたい、10人くらいだろうか。でも、これ以上、追われると人数がさらに増えるかもしれません。

トゥールルルル

「あ、あずにゃんの電話だ。もしもし~」

私の背中にいるゆい先輩は私のバックから、携帯を素早く取り出し、電話に出る。

「のんきに電話なんかしてる場合じゃありませんよ」

「……分かりました。あずにゃん」

「何ですか?」

「次の路地に飛び込んであの建物に入って」

「どうしてですか?」

「いいから」

「……分かりました。純」

「うん」

私達はゆい先輩の指示通りに、路地に飛び込み、建物の中に入りました。

「くそ、どこ行った」

「この路地に入ったはずだが」

「とりあえず、奥に行くぞ」

「おお」

ロケット団員の足音がなくなりました。

「ふ~、どうやら、助かったみたいね」

「ところで、お姉ちゃん。誰から、電話だったの?」

「フジさんからだよ。この建物に逃げてるはずだよ」

「おお、梓君」

奥から、前にシオンタウンであった老人、フジさんが出てきました。

「フジさん、無事だったんですね。モブ太君は?」

「うむ、無事じゃ。今、この建物の地下に隠れているのじゃ。梓君とゆい君も無事で何折じゃ。ところで、そちらの2人は……?」

「あ、私は鈴木純です」

「私はういです。えーと、私は、一応ポケモンで……」

「私の妹だよ~」

「なるほど、なるほど。純君達もありがとう。では地下に……」

私達はフジさんの案内で地下に来ました。地下には、何匹かのポケモンとモブ太君がいました。

「あずさお姉ちゃん、ゆいお姉ちゃん、お久しぶり。……えーと、そっちの人達は?」

「あ、私は鈴木純です」

「私はういです。えーと、私は、一応ポケモンで……」

「私の妹だよ~」

「僕はモブ太です、よろしくお願いします」

「随分、丁寧な子ね」

「ところで、フジさん達はどうして、ここに?」

「なんとか、逃げてきての。捕まると、ポケモンタワーに集められるようじゃ」

「どうしてですか?」

「人質のようじゃな。ちょうど、携帯でも見れるぞ」

私達は1階に行って、ニュースを見ると、たしかに、ニュースで、そんなことを言ってました。

「ど、どうして、こんなひどいことを……」

「さっきのニュースではロケット団は伝説のポケモンを手に入れてるようじゃな」

「え、ええ。さっき、ファイヤーがいましたから。そんなことより、フジさん達も脱出しないと……」

「あずにゃん、外から、何か聞こえるよ」

ゆい先輩が私の言葉をさえぎり、そう言いました。私は外の声に耳を傾けます。

中野梓とそのポケモンゆい。この町のどこかに隠れてるのは知ってるんだ。人質を開放してほしければ、ポケモンタワーまで来いよ。今なら、おまけで、外のロケット団には見逃させてやる。おつきみやまとサントアンヌ号での決着をつけようぜ』

という、声が聞こえました。

「……あんた、モテモテね」

「……まったく、嬉しくないけどね」

「あずにゃんや」

「何ですか?」

「これは行くしかないね」

「できれば、遠慮したいですけどね」

「純ちゃん、私達も」

「仕方ないわね。これも乗りかかった船よ」

「お姉ちゃん達、頑張って!!」

「……梓君はいい仲間を持ったのう。よし、これを使うのじゃ」

「なんですか、これ?」

「この建物にあった、パソコンじゃ。ここで、メンバーを調整するがいい」

「随分、ご都合主義ですね」

「まあ、細かいことはなしじゃ」

「あ、でも、フジさん達も危ないですよね」

「そうね」

「私達なら心配ない」

「でも、心配ですので、なにか、ポケモンを……」

私は、ヘルガーとポリゴン2とガルーラを出します。

「皆、私が無事に帰ってくるまで、護衛よろしくね」

私は皆に言うと、任せろといわんばかりに、頷いてくれました。そして、モンスターボールに戻し、モブ太君に渡します。

「これをモブ太君に預けておくね。ロケット団が攻めてきた時に使ってね」

「うん、ありがとう、梓お姉ちゃん」

「……」

「どうしたの、純」

「いや、なんで、いちいち、ポケモンに挨拶するのかなーって」

「だって、仲間であり友達じゃない。一応、言っとくべきでしょ?」

「それはそうだけどね。ポケモンを友達かー」

「純だって、ういとはポケモンというより、友達みたいなものでしょ?」

「それはそうだけど、他のポケモンにはねー」

「なんか、歯切れが悪いね。何が言いたいの?」

「いや、純粋にすごいなーって」

「なにそれ?」

「でもでも、私とあずにゃんは仲間とか友達じゃなくて、恋人同士なんだよ~」

と、ギュッとゆい先輩が抱きついてきます。

「恋人!?あんた、そこまで……」

「こ、恋人同士じゃなくて、恋人(仮)です!」

「似たようなものじゃない」

「たしかに、似てるけど……はっ!?」

「どうしたの、梓ちゃん。私の方を見て」

「だ、だって、この後……」

梓の回想

うい「よくも、私のお姉ちゃんを……!?」

梓「ごめんなさい、ごめんなさい」

うい「謝ったって、許さないよ」

グサ、ザクザク

うい「……中にだれもいませんよ」

「みたいな、展開だけは勘弁してね」

「……なんで、純ちゃんだけでなく、梓ちゃんにもそんなイメージが」

「え、純と同じ思考?それは嫌だなー」

「どういう意味よ」

「あずにゃん、ちゃんと謝らなくちゃ駄目だよ」

「分かってますよ。ごめんね、うい」

「ううん、別にいいよ。そのかわり、一つ聞かせて」

「何?」

「……梓ちゃんは本当にお姉ちゃんが好きなんだよね?」

「そ、それは、えーと」


「正直に言ってね」

ニコッと言う、うい。笑顔がこんなにも怖いと思ったのは久しぶりだ。

「……す、好きだよ。というか、本人の前で聞くの、それ?」

「さっきの仕返しだよ」

「あ~ずにゃ~ん。私も好きだよ~」

スリスリと頬をこすりつけてきます。


「しかし、茨の道ね。同姓の上に、片方は幼稚園児みたいな容姿だし、おまけに人間とポケモン。困難なことばかりよ」

「でも、大丈夫だよ、きっと」

「……そうね」

「そ、そんなことより、ポケモンタワーに行きましょう」

まだ、じゃれついてくるゆい先輩をどかしながら言います。

「頑張るんじゃよ、4人とも」

「梓お姉ちゃん。僕、この3匹と一緒におじいちゃんを守るね」

「よろしくね。……じゃあ、皆、頑張りましょー」

「「「おー」」」


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最終更新:2011年08月03日 04:08