「久しぶりだな。ポケモンセンターでは世話になったぜ」
「えーと、誰でしたっけ、ゆい先輩」
「さあ?」
「なっ!?お前ら……」
「なんか、怒ってるよ、あずにゃん」
「いけませんね、短気で。カルシウム取らないと」
「ねー」
「忘れたのか、ポケモンセンターで、俺の邪魔をしたのを」
「んー、なんでしたっけ?」
「あ、思い出したよ、あずにゃん」
「思い出したんですか」
「うん。あれだよ、ケンタロスに散弾銃を撃とうとして、失敗し、ジョーイさんに気絶させられた人だ」
「ああ」
「その思い出し方はどうかと思うが、まあ、そうだ」
「なんで、あなたがここに」
「決まってるだろ。ラプラスは珍しいから売れば金にもなる。あるいは賢いから随分強いだろうから、自分で使うってのもあるな」
「なっ。そんな理由で……」
「ここにいる連中なんて、似たような奴ばっかりだろ」
「……まあ、いいです。サッサと始めましょう」
「ルールは1対1。途中の回復はなしです。両者、よろしいですね」
さっきから、同じ口上を言ってるんですから、大変ですよね。
「はい」
「おう」
「それでは、両者、スタンバイしてください」
「くくく、そっちはそのガキで来るのか?」
「む、私はガキじゃないよ!」
「ゆい先輩。ちゃちな挑発に乗っては駄目ですよ」
「ではいきます。準備はいいですか?」
「はい」
「おうよ」
「それでは……」
「「「バトルスタート」」」
「来い、エビワラー!」
エビワラー!?澪先輩と同じモンスターですか。
「よし、任せましたよ、ゆいせん……」
その時、私のモンスターボール……ハッサムのボールがブルブルと震えています。
「どうしたの、あずにゃん」
「いえ、来て下さい、ハッサム!」
「よし、任せて……えっ、サムちゃん!?」
私はゆい先輩ではなく、ハッサムを出します。思えば、ゆい先輩だけでなく、ハッサムも澪先輩のエビワラーにゆい先輩のようにボロ負けではなく、遊ばれた上での負けですからね。早く、リベンジしたいのでしょう。
「なんだ、そのガキじゃないのか」
「ええ。あなた程度に、ゆい先輩はもったいないですし」
「……舐めるなよ。エビワラー、マッハパンチで先制だ」
エビワラーはハッサムに素早く接近し、早いパンチをハッサムに繰り出します。
「サム!」
ハッサムはそのパンチを避けきれずに、まともに喰らいます。
「たいしたことないな。エビワラー、ほのおのパンチだ!」
怯んでいるハッサムにエビワラーは炎を拳にこめて、パンチを繰り出します。
「どうだ、これで終わりだ」
「……たいしたことないですね」
「なに」
「私はもっと強い、エビワラーを育ててる最高のトレーナーを知っています。あなた程度のエビワラーではハッサムには勝てません。ハッサ
ム!」
ハッサムはパンチを繰り出すエビワラーの攻撃をそのハサミで受け止めます。
「何だと!」
「サム」
ハッサムは苦痛の表情を浮かべつつも、エビワラーを押し返します。
「反撃ですよ、ハッサム。まずはでんこうせっかです!」
ハッサムはエビワラーが体勢を立て直そうとしているところに体当たりを仕掛けます。
「エビ」
エビワラーはハッサムの攻撃を受け、なんとか、立ち上がります。
「まだ、いきますよ。エビワラー、きりさくです」
ハッサムはエビワラーの胸にそのハサミで切り裂きます。
「……エビ」
エビワラーはその攻撃を受け、顔を苦痛に歪め、膝をつきます。
「トドメです!ハッサム、アイアンヘッド!」
ハッサムは鋼のような硬さを持つ頭をエビワラーに直撃させ、エビワラーは目をグルグルさせ、気絶してしまいました。
「エビワラー戦闘不能。ハッサムの勝ち。よって、中野選手の勝利です!」
「オオー、スゲー」
「本当に3連勝しやがった」
観客のどよめきや歓声が聞こえます。
「すごいですよー、梓ちゃん、ゆいちゃん」
アンズさんも喜んでくれているようです。
「くそが!この役立たず」
金髪さんは気絶から、ようやく体を起こした、エビワラーを蹴ります。
「な、何をしてるんですか!」
「何って、教育だよ。俺はスパルタなんだ」
「スパルタって……。ただの八つ当たりじゃないですか!自分のポケモンなんですから、大切にして下さい」
「何だと!」
金髪さんは私に掴みかかろうとします……が。
「やめないか」
その手を忍者服を着た変わった人……キョウさんが掴みます。
「キョウさん!」
「やあ、梓君」
「くそが!離せよ」
金髪さんはその手を振りほどき、会場を去ろうとします。
「あ、あの、エビワラーは……」
「知るか。勝手にしろ」
そう言って、金髪さんは行ってしまいました。どうでもいいですけど、私、あの人の本名知らないんですよね。
「どうしましょうか、エビワラー」
「……エビ」
エビワラーは悲しそうにうつむきます。
「なら、私が引き取りますよ」
「あ、アンズさん」
アンズさんが私達のところに近づき、そう言います。
「でも、いいの?」
「いいもなにも、ポケモンが仲間になるのに、嫌ってことはないよ」
「それもそうだね」
私としたことが大切なことを失念していました。
「では、お願いね」
「任せなさいな。いいよね、お父さん」
「何も問題はないな」
「オッケー。じゃあ、行こうか、エビワラー。一緒に梓ちゃんを応援しよう」
「エビ!」
「その前に回復させてやれよ」
キョウさん親子はエビワラーを引き連れて、観客席に戻っていきます。
『さーて、3連勝を果たした、中野選手はサファリゾーン園長に挑戦する権利を得ましたー。さあ、園長が入場してきます』
バーンという、火薬とともに、園長さんが入場してきます。
「やあ、中野君。前回の事件の解決はありがとう」
「え、ええ。どういたまして」
にんまりとそんなことを言ってくる園長さんに少し、調子が狂います。
「そして、3連勝、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「それではルール確認です。今回は園長戦ということで、メンバーは3対3。両者、よろしいですね」
「ふむ、それでいい」
「駄目です」
「それでは、両者、スタンバ……え?」
「どうしたのじゃ、中野君」
「私は園長さんとは6対6を要望します」
「ちょ、ちょっと、中野選手……」
「ふむ、どうしてじゃ?」
「私が勝ったら、賞品の今、展示しているラプラス達を全部逃がしてあげて下さい」
私がそう言うと、園長さんの表情が変わりました。
「私に金づるを逃がせと」
「ポケモンは金づるじゃありません」
「金づるじゃよ。A○Bも金づるじゃろ」
「その人達も金づるじゃありません。……たぶん」
「……まあ、いい。じゃあ、それを受けてやる代わりにこちらにも条件を出させてもらう」
「いいですよ、何ですか?」
「中野君のポケモンの中で、珍しく、金になりそうな、その女の子のようなポケモン……ゆい君をもらおう」
「ええっ。私!?」
「ちょ、ゆい先輩は賭けられません!」
「負けるのが怖いのかのう。まあ、受けられないなら、私も受けん」
「くっ」
たしかに、向こうの意見も間違ってはいませんが……この条件は。
「いいよ、あずにゃん」
「え?」
「私、受けるよ、その条件」
「ゆい先輩!」
「ほほう。いい度胸じゃのう」
「だって、私は信じてるもん。あずにゃんの勝利を」
「!!」
「くくく。それで、中野君はどうする?」
「……分かりました。その条件を飲みましょう」
「よし。だが、他のルールについてはどうするのじゃ。回復するかのう」
「いいえ、私は回復はいりません」
「……私も舐められたものじゃのう」
「梓君は回復を受けないのはきついな」
「どうして?梓ちゃんは強いよ」
「強くても、3戦により、相手に手の内を見せてる上に体力も万全ではない。3対3なら、回復してるのを出せばいいが、6対6ではそうもいか
ん」
「なるほど」
「私が回復をいらないので、もう一つ条件を飲んで下さい」
「何じゃ?」
「私が勝ったら、サファリゾーンの園長を辞めてください」
「……ほう」
「ポケモンを金儲けの道具にしか見えないあなたはサファリゾーンの園長にふさわしくありません」
「言いたいことを言ってくれるのう。だが、それなら、こちらのリスクが大きいのう」
「ならば、それに加えて、園長さんが勝ったら、私を好きにしていいですよ」
「……ほう」
「ちょ、あずにゃん。それは……」
「ゆい先輩が体を張るのに私が張らないのは駄目ですからね」
「で、でも……」
「私も信じてるんですよ」
「?」
「ゆい先輩が私、いや、私達を勝利に導いてくれることを」
「……分かった。2人で頑張ろうね」
「違いますよ。2人と5匹で……皆で頑張りましょうね」
「そうだったね」
「いいじゃろう。私も独り身でのう。私が勝ったら、お嫁にでもなってもらうかのう」
「……かまいません」
「では、それでいいのかのう。もう変更は出来んぞ」
「ええ」
それにしても、自分の身体もかかってるのに随分、のんきですね。その時、観客席の方から、会話が聞こえてきました。
「でもよ、実際問題として、園長が辞めても、すぐに代わりが来るわけじゃないだろ」
「ああ。それまで、園長が業務を行うわけだ」
「梓さんだって、ずっと、ここにいるわけじゃないしな。きっと、それまで、のらりくらりとかわして、結局、園長として、居座るんじゃない
か?」
「だとすると、実質、ノーリスクだな」
「その分、園長の方が有利か」
「……」
「と、いうわけじゃよ。いまさらの変更はなしじゃよ」
「分かって……」
「待つのじゃ!」
そんな声とともに白いひげを生やしたおじいさんが、フィールドに来ました。……あの人は!?
「会長さん!」
「久しぶりじゃな、梓君にゆい君」
「あ、あなたはポケモン大好きクラブの会長。な、何をしに来たんですか」
「ラプラスを見に来たんじゃ。……それよりも、今のやり取りじゃが、安心せい。この園長の後任など、すぐに見つけてやる。だから、遠慮なく、戦うんじゃよ、梓君」
「は、はい」
「じゃ、邪魔をしないでもらいたい」
「邪魔じゃないよ。ただ、正々堂々の戦いを見たいだけじゃ。それじゃ、梓君。頑張るんじゃよ」
「はい!会長さん」
「なんじゃ」
「ありがとうございます」
「……フフ」
嬉しそうに席に戻る、会長さん。
「さあ、これで、5分と5分の勝負ですよ、園長さん!」
「いいじゃろう。私とて、小娘如きには負けん!!」
いよいよ、ラプラスとゆい先輩、そして、私自身を賭けた、負けられない戦いが始まろうとしました。
グレンタウン編① 「ラプラス争奪戦・前編」終了
最終更新:2011年08月03日 04:27