夜の商店街は、塾帰りの少年やミニスカートの女の子、電気屋の親父などで溢れかえっていた。彼らの一日分の疲労や苦悩が吐息に混ざって吐き出され、空気はどんよりとよどんでいる。
唯は一人、商店街をさ迷うように歩いていた。もうあれからずいぶんと時間がたったのに、まだ涙が次から次へと溢れてくる。
梓が、彼女が大切にしていた後輩が、彼女を欲望のはけ口にしたのだ。あの時されたことを思うと熱い吐き気がこみ上げてくる。
幸い吐きはしなかったが、その代わりに涙が溢れてくる。通行人の訝しげな視線が突き刺さるが、どうしても止められない。
唯は心底惨めだった。まるで一人裸で海をさ迷っているような気がする。人々のひしめく海を。 彼女をその海から助け出す声が聞こえたのは、ちょうどその時だった。
「おーい、唯ーっ。ゆーいー」
「澪…ちゃん?」


第二章:破


澪はラフな私服姿で、唯に明るく話しかける。考えてみれば、もう制服でいるには少し遅い時間だ。
「なんだ、遅いじゃん。梓との練習は…おいどうしたんだよ、泣いてるのか?」
澪が唯の泣きはらした顔を心配そうに覗きこむ。しかしこの瞬間、唯はひどく嬉しかったのだ。
梓にどす黒い闇で塗りつぶされた心に、暖かい金色の光が射し込む。唯は親友に深い深い感謝の気持ちを覚えた。
「ううん、何でもないっ」
唯はいつもの脳天気な笑みを顔に浮かべる。純白の歯を見せて、ニッと笑ってみせる。
今は親友を心配させたくなかった。


「思いっきり涙拭いたじゃん」
「いや、コンタクトがファーストで、その…」
唯の答えはしどろもどろで、目があちこちに泳いでいた。ことによると、梓と何かあったのかもしれない。
だが澪はあえて問わないことにする。唯にどんなことがあったにしろ、彼女の苦しみを蒸し返すようなことはしたくない。もしも話したくなったら自分から切り出すだろう。
「まあいいや。行こうか」
「え、どこへ?」
「やだなあ、忘れたのか?期末が近いから、二人で勉強しようってさ」

「…あ。そうだっけ」
梓の一件で、すっかり忘れていた。だが唯は、今回は自分の忘れっぽさに感謝した。こんな最低の一日に、予期せぬお楽しみがあったのだから。
「なんだ、忘れてたのか。梓と練習しすぎたな?唯はひとつ覚えると、他の全部忘れちゃうからなぁ」
「…」
明るみが射し込んだ唯の心に、漆黒の霜が舞い降りる。澪に悪意はないのだが、その一言は一瞬忘れかけていた記憶を取り戻すには十分だった。
「…唯?」
澪もすぐに唯のわずかな表情の変化に気づく。何か悪いことを言ってしまったのかと、不安げに唯の顔を覗き込んでくる。
「…いやいや、何でもないよ澪ちゃん!あははは!それより、早く行こうよ!楽しみだなぁ!」
…私は明るい平沢唯。唯は泣いたり悩んだりしない元気な子。友達を心配させない丈夫な子。唯ファイト、唯ファイト、唯ファイト…


整頓された部屋。勉強机にちょこんと置かれたパソコン。唯は澪の部屋を、そわそわと見回していた。
「そんなに珍しい?私の部屋」
「ううん、初めてくるところだから、ちょっとね。可愛いね、このパソコン」
「…可愛いか?」
実のところ、唯は妙に落ち着かなかった。何かとんでもない粗相をやらかして、せっかく温めた心をまた闇で覆ってしまうのが怖かったのだ。
「とにかく、珍しいな。唯が自分からすすんで勉強をするなんて」
「えへへー…でも、もうこんな時間だね」
唯は壁の時計を残念そうに、恨めしそうに見つめる。
「あのさ、唯…。実は今、親が二人ともいないんだ」
「?…うん、そうみたいだね」
いつも物事をはっきりと話す澪が、珍しく歯切れが悪い。
「…よかったら、泊まっていってくれないか?うちに」

「え、いいの!?」
唯にとって、この申し出は思いがけないプレゼントであった。実のところ、唯は今日は家に帰るのが嫌でたまらなかったのだ。
憂は間違いなく唯の泣きはらした顔を見て心配するだろうし、万が一着替えや入浴の最中に傷だらけの胸を見られたら一巻の終わりだ。
「…唯の方こそ、いいのか?」
「オールオーケーだよ澪ちゃん!ありがとう!やった、やった!」
「…やった、やった!」


二人は子供みたいにはしゃぎまわる。唯は普段は大人びている澪の子供っぽい一面を見て、何だか可笑しくなってきた。
「じゃあ憂ちゃんには私から連絡しておくな。唯を一晩お預かりしますって」
「頼むぜ相棒!」
「晩ご飯、唯の好きなの作るな!」
「アイス!アイス!」
「あ、汗かいただろうし風呂入れておくな」
「あ…うん」
風呂。そういえば風呂のことをすっかり忘れていた。否応なしに胸の傷に、心の傷に向かい合わなければならない。風船のように軽く舞っていた唯の気持ちが、急に石のように重くなり、真っ逆さまに地面に叩きつけられてしまう。


階下から聞こえてくる澪の鼻歌を聞きながら、唯はたまらなく憂鬱だった。参考書の文字が、頭のしかるべき場所に収まってくれない。
風呂が永久に沸かなければいいのに。例えば突然の断水とかで止まってしまえばどんなにいいだろう。
「ゆーいー、風呂沸いたぞー」
澪が弾んだ口調で唯を呼びにきた。
「勉強はさっぱりして、食うもの食ってからでも十分できるだろ?」
「…うん」
「そうと決まれば行こう、今すぐ行こう!」
え?
「澪ちゃん…まさか二人で一緒に入るの?」


「え、そうじゃないのか?」
澪が無邪気に聞き返す。
唯の心に、急速に暗雲がたちこめる。私は醜い傷跡がたくさんつけられた貧相な体を、友達に晒さなくてはならないの?
「でも、二人で入ったら狭くないかな?」
「む、失礼だな。自慢じゃないけど、うちは風呂場だけは大きいんだよ。冬場は寒くてきついけど…それとも、私と入るのは嫌か?」
また澪が唯の顔を不安げに覗き込む。その目はすでに潤み始めている。唯は断りきれなくなってしまう。
「…いいよ」
「本当に?やった!YATTA!じゃあ行こう、今すぐ行こう!」
「…押さないでよ、澪ちゃん」

長い黒髪、スラッとした脚、双子の高山のような白い突き出た胸。そしてその頂き。
唯はしばし、自分の置かれている状況も忘れて澪の完璧とも言えるスタイルに見とれていた。合宿で何度か見たはずなのに。
「どこ見てんだ、唯のエッチ」
澪が唯の視線に気づき、ほんのりと顔を赤らめ、その完璧な胸を隠してしまう。
唯も急に恥ずかしくなり、何もないところに視線をさまよわせる。制服に手をかけた瞬間、今度は澪の視線が彼女の胸元に集中していることに気づく。
「…あの、澪ちゃん。あんまり見ないでほしいんだけど」
「唯だって私の見ただろ?だからお返し」
胸だけは勘弁して。私のは小さくて形もヘンだし、何より傷跡が…唯はその先が言えない。だからじっと黙っている。

困り果てた顔で黙り込んでしまった唯を見て、澪はそれ以上しつこく見つめるのを諦める。
「あー、わかったわかった。唯は脱いでるとこ見られるのは嫌なんだな?先に入ってるから」
「うん…ありがとう」
唯は感謝の念がどっと溢れてくるのを感じた。

…とはいえ、このままではどのみち澪に裸体を晒さなくてはならない。
唯は普段あまり使わない脳をフル回転させ、バスタオルを巻いて入浴することにする。

その頃澪は、そわそわして落ち着かない気分だった。
まるで面白いテレビを見れずにいる子供のような心境だ。やっぱりどうしても見たい。強い願望が焦りとなって苛む。
ガラス越しに見えないだろうか?澪はすりガラスの戸についた水滴をこすり、顔を押しつけるが、戸の向こうは夢の中の世界のように薄ぼんやりとしてよくわからない。
急に戸が勢いよく開いて、澪はまるで漫画のように弾き飛ばされた。
ベタッと無様に潰れたカエルのような澪を見て、唯はあっけにとられる。
「澪ちゃん…何してるの?」


唯は不安の暗い炎が自分の中に生まれたのを感じた。
澪ちゃん、私の着替え覗こうとしたの?まさか澪ちゃんも、あずにゃんと同じに…?ううん!そんなことない、そんなことない!
私は信じてるよ、信じてるからね。澪ちゃん。唯ファイト、唯ファイト、唯ファイト…
「や、やあ唯…」
「澪ちゃん、何してんの?」
大の字に倒れてる澪は、ばつが悪そうな顔で頭をポリポリと掻いた。少し濃い色の胸の頭頂部や秘部を覆う黒い茂みに目がいってしまい、唯は赤面する。
「それより唯…」
「なーに?」
「なんでバスタオル巻いてはるん?」

「え、だ、ダメかなぁ?」
「いや、ダメじゃないよ?可愛いし。いや、むしろすごく可愛い!」
可愛い?唯の胸にまた不安の炎が灯る。普通、可愛いなんて表現を使うだろうか?ただバスタオルを巻いただけの姿に。
「でも、風呂の中では取ってくれよ」
「えっ」
「えっ」
それでは全く意味がない。

「いや、だってそのままじゃ体も洗えないし、そのタオル使えなくなっちゃうし」
正論だけに、唯も返答ができない。足元がふらついてきた。まるで錐のように尖った山のてっぺんで、バランスをとって立っている気分だ。
「な、唯。取ろうな」
「嫌っ!」
澪が手を伸ばしてくる。唯はその手を払いのけ、うずくまってしまう。タオルをぎゅっと抱きしめたまま。
プルプルと寒さにさらされた子犬のように唯は震えていた。熱い涙が一筋、頬をつたい落ちる。
「ごめんね澪ちゃん、ごめんね…」
「唯…」
…私は元気で明るい平沢唯。こんな怯えた姿は見せない唯。友達を大切にする唯。唯ファイト、唯ファイト、唯ファイト…
「…そんな声出されたら、私もう、我慢できないよ」


え?


「唯っ!」
「きゃっ!」
次の瞬間、唯はタイルの上に横になり、天井を見つめていた。澪の白い胸が、威圧的に眼前で揺れている。
唯は自分を押し倒した、親友の顔を見る。その目はもはや自分のよく知る澪のそれではなかった。欲に流された一匹のメスの獣のそれだった。
「唯が、悪いんだからな、唯が言うこと聞かないから、こんなに可愛い声出すから…」
「唯が悪いんだ、唯が悪いんだ、唯が悪いんだ…」
唯は必死で澪の腕から抜け出そうとするが、自分よりも背が高く、力も強い澪にかなうはずがない。凄まじいパニックが、沸騰した湯のように唯の中で暴れまわる。
「澪ちゃん止めてよ、澪ちゃんってば!やだやだぁ!離して、離してよ!やだあぁぁぁぁぁ!」


…目の前の澪の姿が霞む。温かい金色の光が、あっさりと消されてしまう。それも、与えてくれた本人の手によって。
どうして?どうして裏切るの?信じてたのに。友達だって信じてたのに…!
澪の荒い息が、髪にかかる。彼女の湿った非情な手が、タオルを剥がしてしまう。
唯は最後の抵抗にと、胸を両手でしっかりと隠す。顔が熱い。唇が今にも泣き出しそうにヒクヒクと動く。
「唯の裸…色白ですっごくきれいだよ、アソコも…いいな、いいな…」
澪が品定めでもするように唯を観察する。優しい言葉の一つ一つが、たまらなく気色悪かった。
「…胸」
「ふぇ?」
「…胸も見せてっての!早く早く!」
澪の手が乱暴に、唯の最後の抵抗を解いてしまう。爪が腕に刺さり、熱い痛みが走る。
「…おい唯、これは…」

白い肌に残る生々しい爪跡。薄く残る乾いた暗褐色の血。薄い桃色の頭頂部にまで刻まれた深い傷跡。
澪はしばし、唯の胸の惨状を呆然と見つめた。傷の状態を見るに、そう古くにつけられたものではない。
「ひどい…いったい誰がこんなことを…」
唯の中で、何かが決壊した。生まれたままの姿で、声をあげて泣き出してしまう。
「だ、だから嫌だったのに…ッ!澪ちゃんは、こ、こんなことしないってッ…信じてたのにッ…!うわぁあああ」
さめざめと泣く唯を抱きしめようと、澪は手を伸ばした。だが、その手は邪険に払いのけられてしまう。手の甲に、熱い痛みが走る。
それでも澪は唯の肩を抱きしめる。見られたくないところを全て晒してしまい、無気力になってしまった唯の頭をそっと撫でる。
唯の髪が、澪の胸の先端にあたった。敏感な部分をこすられて、体中に痒みを伴った電気が走る。 澪の肌に鳥肌がたった。先端がどんどん硬くなっていくのがわかる。
「唯ごめん…もう限界」

「ひいっ!」
唯は突然、バスタオルの上に投げ出される。背中に鈍い痛みが走る。
澪がのしかかってきた。唯は逃れようと必死にもがくが、後ろは壁。どうにもしようがない。
「キスするよ」
告げられた次の瞬間、唯の悲鳴は彼女の唇に阻まれてしまう。あまりにせっかちに唇を押しつけたせいで、歯が当たってしまった。唯の口の中に、鉄のような血の味が広がる。
澪は明らかに梓よりも下手だったが、それでも唯に恐怖感を与えるには十分だった。唯は身がすくんでしまい、まったく抵抗しない。
「く、唇。唯の柔らかい唇。やった、私のものにしてやった。つ、次は胸だ、唯の胸胸胸」
うわごとのようなことをブツブツと呟く澪を見て、唯は再びあの焼けるような吐き気を喉に感じた。 澪の汗ばんだ手が、唯の胸をがっちりと掴む。
「びゃあぁあ、痛い痛いッ!」


梓にさんざん傷つけられた胸を、澪の手が無遠慮に揉みしだく。完全に癒えていない傷を圧迫され、燃えるような痛みが駆け巡った。
「んん、やっぱり、や、柔らかぁい。唯の、ミルク飲みたい。あぁああミルク欲しいよぅ」
どもりながら荒い鼻息をフンフンと吐きかけてくる。唯は息がかかった場所が、ジンマシンをおこすのではないかと思った。
澪の唇が、唯の胸の先端に触れる。瞬間、唯の体に白熱した雷が落ちた。全身から力が抜けるような快楽と、唯は必死に戦う。
「お願い澪ちゃん、もう止めて、ね、今なら許してあげるから!…ひぁあっ!」
澪が唯の胸にむしゃぶりついてきた。先端を口に含み、不器用に吸引する。
梓につけられた傷に澪の唾液が染みる。唯は快感と激痛の狭間で苛まされる。


澪にベロベロと犬のように胸を舐められている間、唯はだんだん澪が気の毒に思えてきた。
そうだ、秋山澪中野梓もとても気の毒な人間なんだ。他人の痛みや苦しみのわからないかわいそうなヒトなんだ。だからこうして友人を辱めて、乳房を意地汚く舐めても平気なんだ…。
少しでも身をよじると、澪は容赦なく歯を突き立ててくる。胸の先端を噛まれた時の痛みは、並大抵のものではない。激痛の閃光で吹き飛ばされそうになる。
しばらく唯の胸を味わっていた澪が、急に顔を上げた。解放され外気に触れた胸に、切なげな震えが走る。
「なあ、唯…私のも、舐めてくれないか?ほら、もうこんなに硬くなっちゃったから…」
澪はそう言うと、ふっくらとした胸を突き出してくる。確かに、その白い胸に咲く濃い色の先端は、今にも吸ってほしそうにピンと反り返っている。
だが唯は、首を縦には振らない。目の前の矮小に同情はしても、言いなりになる気はさらさらない。
「…言うこと聞いてくれないと、憂ちゃんに言っちゃうからね。唯の胸の傷のこと」

えっ…。
唯にとって、それはそれだけは避けたい事態だった。
憂がもし知ってしまったら、ひどく心配して傷の状態を確かめようとするだろう。醜い傷跡を見てしまったら、あの妹はどんなに怖がるだろうか。想像もしたくない。
「澪ちゃんお願い、憂は、憂だけは巻き込まないで!」
唯の心からの叫びだった。止まったはずの涙が、また溢れ出す。澪はそんな唯を見て、口元に嫌な笑いを浮かべる。
「じゃあ、これは取引だ。唯は今から私の奴隷。何でも言うことを聞くんだぞ。その代わり、憂ちゃんには何も教えないから」
唯は機械人形のように首を何度も縦に振る。澪はほくそ笑むと、改めて胸を突き出してくる。
「ほら、早くしゃぶって」
「…」
突き出された胸の突起物を、唇ではさんで舌ですくう。途端に澪は大げさなまでに反応を示す。体をウナギのようにくねらせ、唯の髪を掴む。
「ふ、わぅぅ…」
唯は構わずに、舌で突起全体を包む。そのまま、強弱をつけて吸引する。唾液を絡ませる。
とにかく澪の気のすむようにやらなければならない。もし澪が機嫌を損ねたらおしまいだ。
「っひゃはっ!…ゆ、唯、どうだ唯。私のおっぱい、マシュマロみたいにふわふわ、だろ?」
ジョークのつもりらしいが、全く笑えない。むしろ楽しかった思い出を汚されて不愉快だ。ついつい力を込めてしまう。
「はあぁあっ、唯の、唯の歯があたってるぅ!イイよ、唯イイよっ!!」
澪の嬌声が、風呂場に響く。


唯はこの受難が終わる時をひたすら待ち続けていた。ついさっきまではあんなに魅力的だった澪の胸は、今はただの拷問の道具にすぎない。
今の澪は、普段の精悍で大人びた彼女と同じ人物とは思えないほどひどい有り様だった。薄く開いた目は快楽で濁り、半開きの口から涎をこぼし、全身をだらんと弛緩させている。
たぶん、ラリっているとはこういう状態なのだろう。覚醒剤や大麻だけが麻薬ではないのだと唯は悟った。今の澪は、さしずめ性中毒者だ。
やがて澪は唯の髪をつかみ、胸を舐める舌を止める。
「あのさ、唯…。胸もイイんだけど、今度はこっち、舐めてくれる?」
澪が指し示したのは、黒い茂みに覆われた秘所であった。

「…」
こうなることは予想していたが、唯は不快感で固まってしまう。
汚物を排泄する穴に顔を近づけるなんて、考えただけで胸が悪くなる。まして相手は気色の悪い澪だ。今すぐにでも逃げ出したくなる。
澪は固まってしまった唯を見て、わざとらしい優しさを含んだ口調で告げる。
「嫌ならいいんだよ?これからちょっと憂ちゃんに電話するだけだから。唯のおっぱいの面白いアート、鑑賞してもらおっか」
「…やるよ。やるから待って」
唯は声を腹から絞り出す。胸の中で吐き気が沸騰した湯のように泡立っているが、無視する。
澪の股間に顔を近づけると、何かが発酵したようなひどい臭いがした。唯はそれだけでもどしそうになった。口の中に、酸っぱい刺激のある味が広がる。
たぶん、ここで吐いたら澪は激怒するだろう。そして憂に唯の胸のことを電話で伝える。それだけは避けなくてはならない。唯は必死でこらえる。
だが、それ以上顔を近づけることもできない。
よく見ると、黒い茂みに紛れて白い汚れのようなものがこびりついている。たぶん、きちんと洗ってないのだろう。唯はまたしても吐き気と戦うはめになる。
ついに業を煮やして、澪は唯の髪をつかみ、無理やり股間に押しやった。チクチクとした下の毛の感触が気持ち悪い。 唯の目尻から、また涙がこぼれ落ちる。

唯は顔を歪めつつ、震える舌先で澪の汚れた秘所の壁をちょっとだけ舐めた。すぐに澪がビクッと反応を示す。唯の顔をはさむ両脚が震える。
鼻が曲がりそうな悪臭を吸いこまないよう、唯は口で呼吸しなければならなかった。息苦しくてたまらない。
嫌悪感をこらえながらチロチロと舌を動かす。唯はふと、部室で梓にされたことを思い出す。あれからまだわずか二、三時間しか経過していないなんて。
わずか数時間の間に、唯は二人の人間に身も心も陵辱されつくしてしまった。たぶん今日のことは、一生悪夢としてつきまとうだろう。
唯の舌が、澪の蕾をとらえる。途端に澪は凄まじいまでの反応を示した。熱帯の鳥のような声をあげ、腰をガクガクと揺らす。唯の顔を陰毛がくすぐった。


「ゆっ、唯ぃ!そこ、そこもっと舐めてっ!早く、早くぅ!」
澪が理性のかけらもない口調でせがむ。唯は口いっぱいに唾液を含み、澪の蕾に塗りたくる。本当は顔に吐きかけてやりたかったのだが。
澪が手汗でじっとり湿った手で唯の髪をつかみ、上下に揺する。秘所から垂れ流される蜜が、唯の顔を伝い落ちてゆく。
やけどしそうに熱く湿った股間に顔をうずめ、唯はひたすらに舌を動かし続ける。

澪の淫らな声が高くなったので、上目づかいに見上げる。澪は自らの胸を虐めて楽しんでいた。荒々しく揉みしだき、先端を強く摘む。
澪は自分を愛しているのではなく、自慰の道具に利用しているだけなのだと改めて気づかされる。そういえば梓も、失神して無抵抗の唯を使って自慰にふけっていた。
結局、私はただの道具にすぎないんだ。考えてみれば、軽音部に入部した時も数あわせ同然の扱いだったじゃないか。どうして気がつかなかったんだろう。どうして信じたりしたんだろう…。 唯は鼻がツンと痛くなるのを感じた。また涙が溢れそうになる。
「…唯、も、もう出そう…。全部受け止めてね…」


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最終更新:2010年03月01日 18:05