梓「唯先輩! かき氷買ってきましたよ!」

唯「ありがとうあずにゃんっ」

梓「はいっどうぞ……」

梓は河川敷で座っていた唯にかき氷の容器を手渡すと

寄り添うように隣へ座った

梓「もうそろそろかな」

ヒュルルルルル……

ドーン!!

唯「花火……」

梓「始まりましたね!」

唯「もう……あれから三年経ったんだね」

梓「唯先輩……」



――三年前 平沢家


憂(ん……朝か)

私は憂……私の一日は隣で一緒に寝ている大切な人を
起こすところから始まる


憂(お姉ちゃん!朝だよ起きて~)

唯「」ZZZ

憂(もう! 起きないと……キスしちゃうんだから)

チュッ 

唯「ん………」

ペロペロ……

唯「あぁ……ん……」

憂(おはよ! お姉ちゃん!)

唯「憂……おはよ~」


……
………

唯「え……と……朝ご飯は……」ペタペタ

お姉ちゃんは生まれた時から目が不自由だった

唯「ごめんね憂~ちょっと待っててね!」

唯「お待たせ~! さ、食べよっか」

憂(わーい! 頂きます!)

私はというと……生まれつき言葉を喋ることができず
手がお姉ちゃんのように上手く動かすことができなかった
手探りで家事をこなすお姉ちゃんの姿を見る度に
何もできない自分が心底情けなくなる

でも、そんな私にも一つだけお姉ちゃんの役に
立てることがあるんだ……

唯「じゃ、行こっか!」

憂(うん! 掴まってお姉ちゃん!)


――学校

律「おーす唯!!」

梓「おはようございます唯先輩!」

澪「憂ちゃんもおはよう!」

紬「朝から仲がいいわね~」

唯「あっこの声は……みんなおはよ~!」

憂(おはようございます!)

律「憂ちゃんは偉いなぁ~毎日唯を学校まで送って」

憂(えへへ……)

唯「ありがとね~憂~!」

憂(うん、行ってらっしゃいお姉ちゃん!)

律「行こっか!」

唯は律が差し出した手に触れた

唯「大丈夫だよりっちゃん! ほら、杖もあるし」

律「手を出しただけだよ~ん!」

唯「ぶー」

学校に通っていない私はお姉ちゃんを学校まで送り届け

帰りにまた迎えに行くのが日課だった

お姉ちゃんが学校から出てくるまでどこで暇を潰そう

寂しさを感じずにはいられない時間がまた始まる……


――放課後

律「おーい! 唯~!!」

唯「りっちゃん! ゴメンね~いつもいつも私のクラスまで
  迎えにきてくれて」

律「気にするなって! なな! 今日はさ……」

唯「えぇ!? うん、もうそろそろ学校に来てるはずだけど……」


……
………

律「あ、いたいた! 憂ちゃーん!!」

憂(あっ! 律さん!)

律「ちょっと憂ちゃんに見せたいものがあるからおいでよ!」

憂(え!? いいんですか? 私は……)

律「ほらっ! 早く早くぅ~!」

憂(ちょ……律さん引っ張らないで~)


――音楽室

律「おっすー!!」

澪「遅かったじゃないかり……憂ちゃん!」

憂(わぁ~ここがお姉ちゃんのいる学校かぁ)

律「たまにはいいだろ?見つかったって怒られやしないって!」

唯「うーーいーー!」だきっ

憂(お姉ちゃ~ん!)

紬「憂ちゃんお菓子が余ってるんだけど食べるかしら?」

憂(えぇー! いいんですかぁ!?)

紬「はい、マドレーヌよ!」

唯「よかったね憂~!」

憂(おいしいよぉ~……ありがとう紬さん!)

紬「うふふ……気に入ってくれたみたいでよかったわ」

梓「さて、ギャラリーもいることですし今日という今日こそは……」

澪「練習するぞ!」

律「えぇ~もうちょい待ってくれ~」

唯「ムギちゃんお茶おかわりー!」

澪「お前ら……」


……
………

唯「よし……と」

憂(わぁ~! お姉ちゃんかっこいい!!)

律「いくぞー! 1・2・3・4!」

お姉ちゃんは高校に入ってバンドを始めた

目が見えないかわりに聴力が人の数倍も発達していたお姉ちゃんは

どんな音でも瞬時に聞き分ける特技を持っていた

バンドを始めてからお姉ちゃんは毎日が凄く楽しそう……

私といる時間が少なくなったのはちょっと寂しいけど

生き生きとしたお姉ちゃんの顔を見るのが私の生きがいでもあった

澪「しかし……唯もよくここまで上達したよな」

唯「えへへ……ギー太のどこを触ったらどの音が出るのか
  耳と体で覚えちゃった!」

梓「それにしても一回聞いただけで
  メロディーを覚えちゃうんだから凄いです!」

澪「それを勉強に生かせたらもっと凄いんだがな」

唯「う……それは言わないでぇ~」

あははははは……

憂(いいな……私も学校に行けたらな……
  みんなと一緒に……)


……
………

律「じゃあな~!」

澪「また明日!」

唯「うん! ばいば~い!!」

唯「じゃ、帰ろっか!」

憂(うん!)


梓(唯先輩……)


―――

唯「……ねぇ、憂~」

憂(なぁに?)

唯「昔この道であたしがいじめられた時……
  憂が助けてくれたよね! 覚えてる?」

憂(どうしたのいきなり~? ……覚えてるよ!確か……)


……
………

男の子A「おい平沢が来たぞ!」

男の子B「ホントだ……よし」

男の子B「はいダメ~! ここは通れません~」

唯「!! 通してよぉ……」

男の子A「お前なんでいっつも杖ついてんだ? 
      おじいちゃんか?」

男の子B「ははは~! おじいちゃんおじいちゃん~!!
      ほらよっと」ヒョイッ

唯「あ! 返して!返してよぅ~」

憂(お姉ちゃんをいじめるな!!)

唯「憂……」

男の子A「な、なんだこいつ……」

憂(お姉ちゃんをいじめる奴は私が許さないんだから!)ズイッ

男の子B「わ、悪かったよ……ほら、返してやるよ」

男の子A「お、おい、行くぞ!」

男の子B「待ってよー!」

唯「うぅ……ありがとううい~」


……
………

憂(懐かしいなぁ……)

唯「いっぱいいっぱい守ってくれたよね!」

唯「これから憂に何かあったら……私が守るね!」

憂(お姉ちゃん……ありがと!)


――その夜

唯「ごちそう様でした!」

憂(ごちそう様でした!)

唯「うーいー! お風呂入ろっか!」

憂(わーい! 入る入る!)

……
………

唯「よし! 私が洗ってあげよう!」

憂(え! いいよ……って私自分じゃ洗えないんだった……)

唯「ほらっ!座って座って!」

憂(ごめんねお姉ちゃん何から何まで……)

ゴシゴシ

シャカシャカ

唯「あ……ここ……憂のおっぱ~い……」

憂(あああ! そこは……ちょっと……)

唯「あれ……もしかして気持ちいいのかなぁ~?」

憂(やだ……恥ずかしいよぅ)ハァハァ


……
………

唯「はぁ~気持ち良かった~! さっぱりさっぱり!」

憂(気持ち……良かった……)ハァハァ

ピンポーン

憂(あれ? 誰だろうこんな時間に……はーい!)タタタ

ガチャッ

梓「あれ、開いてる」

憂(あ!梓ちゃーん!)

梓「憂~! こんばんは!唯先輩いるかな?」

憂(お姉ちゃーん! 梓ちゃんが来たよー!!)タタタ

憂(あれ……なんか頭がボーっとする……
  のぼせたのかな……)

唯「え? 誰か来たの?」

梓「唯先輩! 鍵もかけないで物騒じゃないですか!」

唯「あ、あずにゃ~ん! ゴメンうっかりしてた……」

唯「どうしたのこんな時間に?」

梓「あ、いや……たまたま近く通りかかったから
  アイス食べるかなって思って……」

唯「アイスー!? 食べる~!!入って入って~」

梓「あの、唯先輩……ご両親は?」

唯「あ、仕事で海外に行ってて今はいないんだぁ」

梓「え!?」

唯「でも大丈夫! 家事なら私一人で何とかできるし……」

唯「それに……憂もいるから寂しくないよ!」

唯「ね! うーいー!………憂?」

憂(え?……うん!!)

梓「知らなかった……」

梓「唯先輩! これからたまに遊びに来てもいいですか!?」

唯「もちろんだよ~!」

梓「それと……明日から
  毎日迎えに行っても……いいですか?」

憂(え?)

唯「私なら憂がいるから大丈夫だよ~?」

梓「一緒に行きたいんです!」

梓「少しでも……唯先輩と一緒に……」

唯「あずにゃん?」

梓「あ、いえ!! なんでもないです!」

梓「じゃ、じゃあ今日はこれで失礼します!!
  また……明日」

唯「うん! ばいばーい!!」

憂(…………)


2
最終更新:2011年08月03日 18:00