これは、私が秋山さんを知るよりも、前のお話。



私の名前は佐々木曜子。

桜が丘女子高に通う、普通の高校二年生です。


部活は特にやっていませんが、受験のために塾に通っています。

夏休みの間は夏期講習があるので大変です。

でも、塾にも友達はいるし、退屈はしていません。


先生「こないだのテストですが、秋山さんが満点でした。おめでとう」

澪「あ、ありがとうございます・・・」


彼女の名前は秋山澪さん。

私と同じ、桜が丘女子高に通う二年生。

一年の頃は同じクラスだったけど、今は別のクラスです。

秋山さんはとっても頭が良くて、塾でもよく褒められています。


秋山さんと話したことはほとんどありません。

塾が一緒と言っても、秋山さんは講習だけ出ていて、平常授業は受けていません。

学校でも仲良しグループは違うし、なんとなく顔を知っているだけの関係。

お互い意識したりもしませんし、声をかけたりもしません。



先生「それじゃあ今日はここまで。次回までにちゃんと復習をしておいてくださいね」

授業が終わると、当然みんなが帰る支度を始めます。

文恵「曜子ちゃん、帰ろー」

曜子「うん」



帰り道。

仲良しの文恵ちゃんと一緒に帰ります。


文恵「あ・・・」

曜子「どうしたの?」

文恵「前歩いてるの、秋山さんじゃない?」

曜子「・・・ほんとだ」


秋山さんとは帰る方向が同じです。

でも、講習生の秋山さんは、塾に仲良しの人はいないようです。


文恵「秋山さんって美人だよね~」

曜子「そうだね、スタイルもいいし・・・」


文恵「ねぇ、知ってる?秋山さんって、ファンクラブあるんだよ」

曜子「ファンクラブ?」

文恵「うんうん、去年の学園祭で、とってもカッコよかったから出来たんだって!」

曜子「へぇ・・・」


カッコいい人だとは思ってたけど、ファンクラブがあるなんて知りませんでした。

なんだか住んでる世界が違う人のようです。


曜子「じゃあ私こっちだから、またね」

文恵「うん!また明日!」


文恵ちゃんと別れて、私は家へと向かいました。


――――

曜子「ただいまー」

曜子母「おかえり曜子」

曜子「ママ、今日のテスト、成績良かったんだよ」


最近、私の成績はなんだか良い感じです。

それはもしかしたら、塾が楽しいからかもしれません。

友達と一緒なら、たとえ勉強だって楽しいです。


曜子「じゃあお風呂入って寝るね」

曜子母「はいはい。明日は確か、登校日だったわね?」

曜子「うん」


明日は夏休みの間の登校日。

久々にクラスのみんなと会うことができます。

やっぱり友達に会うのは楽しみです。


曜子「それじゃおやすみなさい、ママ」



次の日。

今日は登校日です。

久々の制服に袖を通して学校へ向かいます。


朝早くから教室は騒がしく、みんながお喋りをしていました。


律「お、佐々木さん久しぶりー」

曜子「久しぶり、田井中さん。おはよう」


田井中律さんとは、一年の頃からクラスは一緒。

一緒に遊んだことはないけれど、いつか遊んでみたいです。

律「でさームギ、今日珍しく澪のやつが寝坊してさー」

紬「起こさなかったの?」

律「電話で起こしたけど、待ってるの暑いしー置いて来ちゃった」


田井中さんは、軽音楽部の部長をやっています。

一緒に話してる琴吹さん、まだ来てないけど平沢さん、そして秋山さんも、軽音楽部です。

高校でバンドだなんて、いかにも「青春っ!」って感じがして、少しうらやましいです。


澪「今朝はごめん!律!」


放課後、秋山さんが教室に飛んできて、田井中さんに謝っていました。


律「澪が寝坊なんて珍しいなー、唯じゃあるまいし」

唯「あ、酷いよりっちゃん、今日だって遅刻しなかったのに」

澪「実は遅くまで作詞しててさ・・・ママも起こしてくれないし」

唯律紬「ママ?」

澪「お、お母さん!」


秋山さんは、恥ずかしそうに顔を赤らめていました。

ママって言うのがそんなに恥ずかしかったのかな。

4人はとっても仲良しです。


律「じゃあ部室行くか」

澪「あ、今日夕方から塾あるから、練習はそれまでな」

唯「今日のおやつは何~?」

紬「今日はいちごタルトよ」


今日も夏期講習はあります。

学校は午前で終わるので、講習が始まるまで少し暇です。

文恵ちゃんと一緒に、適当に商店街でもぶらぶらしようかな。


文恵「曜子ちゃん、行こー」

曜子「うん」


文恵ちゃんに誘われ、美味しいと評判のケーキ屋に来ました。

店内の甘い香りが、食欲をそそります。


文恵「何にしよっか」

曜子「うーん、私は・・・いちごタルト、かな」


店の中のお客さんはほとんど女性です。

やっぱり女の人は誰でも甘いものには目がないみたいです。


文恵「ねぇ、曜子ちゃん」

曜子「何?」

文恵「曜子ちゃんって、秋山さんのこと好きなの?」


曜子「ぶっ」

文恵「あ、変な意味じゃなくて」

曜子「な、何で?」

文恵「だって最近、何かと秋山さんのほうばっかり見てるし・・・」


言われて初めて気づきました。

そういえば最近、秋山さんをなんとなく意識していたかもしれません。

今までそんなことは無かったのに、何でだろう。


曜子「・・・き、気のせいじゃない?たまたまだよ」

文恵「何だぁ、つまんないの」


特にやましいことはないけど、文恵ちゃんにはとりあえず黙っておくことにしました。

もしかしたら、私の勘違いかもしれないし。


曜子「秋山さんとはほとんど話したことないし、クラスも違うしね」

文恵「そっかー、でも秋山さんってほんと美人だしクールだし、憧れちゃうなぁ」

曜子「そんなに言うならファンクラブ入ってみたら?」

文恵「えー、そこまではいいよー、恥ずかしいしねー」


文恵ちゃんと他愛の無い話をしていたら、塾の時間が来ました。


曜子「あ、そろそろ塾行かないとね」

文恵「そうだね、もうこんな時間。行こっか」


お店のいちごタルトはとっても美味しく、3つも食べてしまいました。

お小遣いが少しピンチだけど、美味しかったからいいよね。

私たちはお会計を済ますと、そのまま塾へ向かいました。


――――

先生「で、ここが已然形なことから・・・」


授業中、さっき話に挙がった秋山さんに、自然に目がいってしまいました。

秋山さんは少し身長が高いので、座っていても少しだけ頭一つ飛び出ています。

真っ黒でまっすぐな髪は、お手入れも大変そうです。



先生「はい、じゃあ今日はここまで」


・・・考え事をしていたら、いつの間にか授業が終わっていました。

帰ったらちゃんと復習しないと。


文恵「曜子ちゃん、帰ろー」

曜子「うん、そうだね」

―――

文恵「じゃあね、曜子ちゃん」

曜子「じゃあね」


文恵ちゃんといつもの場所で別れて、家へと向かいます。

と、ここで用事を思い出しました。


曜子「あ、そうだ、シャー芯の換え、買うんだった・・・」


私は向かう方向を変え、コンビニへ立ち寄ることにしました。

コンビニに入ると、そこには見知った顔がありました。


曜子「あ、秋山さん・・・」


たまたま秋山さんがレジの前で会計をしていました。

私には気づいてないみたいです。

秋山さんが買っていたのは・・・・・・マシュマロとココアでした。


曜子「・・・・・・ふふっ・・・」


クールな印象の秋山さんが、甘くて可愛いものを買っていたのを見て、

私はなんだかおかしくなるとともに、どこか親近感を覚えました。


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最終更新:2011年08月08日 00:20