律「とうとう今日で私達も卒業だな」
唯「そうだね…」
梓「寂しくなります…」
澪「そうだな…」
今日は私達の卒業式。
楽しかった高校生活の三年間も、今日で終わりを告げる。
私達が少し落ち込んでいると、ムギちゃんが口を開いた。
紬「ねぇ今日の夜、家で卒業パーティしない?」
律「お!いいねぇ!」
澪「楽しそうだな!」
唯「いいね!やろうやろう!」
梓「あのぅ…私も行っていいですか…?」
紬「もちろん♪あと和ちゃんと憂ちゃんも誘いましょう!」
唯「やったー!ムギちゃん大好き!」ぎゅぅ
紬「あらあら♪唯ちゃんは甘えんぼうね♪」ナデナデ
律澪梓「……」
さわ子「私も行くから」
律「…!さ、さわちゃんいつの間に…?」
さわ子「…最初からいたわよ」
澪「なんか…ごめんなさい」
律「なぁみんな、最後に一曲だけ演奏しないか?」
唯「そうだね、これが高校生としての最後の演奏だもんね」
律「…そうだな」
唯「?」
私は少しだけりっちゃんが落ち込んでるように見えた。
こういう感情とは無縁のイメージなのに…
少し意外。
律「…よし!ワン、ツー、スリー、フォー!」
これが桜高軽音部としての最後の演奏。
心なしか、みんないつもよりも演奏に気合が入っているように思えた。
でも、私はいつも通りにギターを弾いていた。
だって、これが最後だなんて実感がなかったから、またいつもの様にみんなで好きな時に、HTTとして演奏ができると思っていたから。
だから私はあまり寂しくなんかなかった。
でも、この演奏が私達、HTTにとって最後の演奏になる。
ジャーン!
澪「よし!最後も完ぺきだったな!」
紬「えぇ、いつもより演奏に気合が入っていたわね♪」
唯「私はいつも通りかなぁ」
梓「…でも、これで最後だと思うとなんだか寂しいですね」
澪「まぁ、な…でもそれは桜高軽音部としての最後だろ?」
唯「そうだよ、HTTは永久に不滅です!」
梓「…そうですよね!またいつか、絶対一緒に演奏しましょうね!」
唯「うん!」
律「……」
澪「どうした律、さっきから元気ないな」
律「…私、卒業しない」
澪「…は?お前何言って…」
律「だって!!卒業したら毎日みんなと会えなくなるんだぜ!?」
りっちゃんが急に大きな声を出した。
それに私達は少し驚き、言葉を失った。
いや、それだけのせいじゃないだろう。みんな寂しいのを考えないようにしてたんだ。
そう思ってしまえば最後の部活が寂しいまま終わってしまうから。
みんなが俯いて黙っていると、澪ちゃんが口を開いた。
澪「たしかにそうだろうな、私と律以外はみんなばらばらの大学に行くんだから」
律「だからだよ…私大学なんて行きたくない!みんなとずっと一緒にいたいよ!」
律「私はこのメンバーだからここまでこれたんだ!このメンバーだから毎日笑っていられたんだよ!」
律「だからさ…みんなと毎日会えなくなるなんて嫌だよ…もっとずっと一緒にいたいよぉ…!」ポロポロ
私はりっちゃんが泣くところを初めて見た。
いつもは元気いっぱいで、涙とは無縁の人だと思っていたけど、それは私の間違いだった。
りっちゃんはこんなにも寂しがりやで、とても優しい人。
そんなりっちゃんが部長だったから、この軽音部はここまで続けてこれたんだと今更ながらに思った。
澪「…馬鹿だな律は、大馬鹿だよ」
律「うぅ…」ポロポロ
澪「みんな寂しいに決まってるだろ…こんなにも楽しくて…」グスッ
澪「素晴らしい仲間たちと離れなくちゃいけないんだから…!」ポロポロ
紬「私も本当は…寂しい…!」ポロポロ
梓「私だって…これから一人でどうすればいいか…!」ポロポロ
澪ちゃんにつられてみんなも泣きだす。
でも、私は涙を泣かすことはなかった。
唯「大丈夫だよみんな、寂しくなったらすぐにまた会えばいいんだよ」
澪「…そうだな、唯は前向きだな」
唯「えへへ…そうかな?」
澪「唯の言う通りだ律、寂しくなったらまた一緒に演奏しよう」
紬「そうです、またすぐに会えますから♪」
梓「そうですね、ここは唯先輩を見習わなきゃです」
律「…うん、そうだよな!みんなごめん!私としたことが少し悲観的になってたよ!」
唯「それでこそいつものりっちゃんだよ!」
澪「ほら、顔を拭けよ。そろそろ式に出るぞ」
律「おう!…みんな!本当にありがとう!私達はずっと仲間だ!」
そして私達は、最後の学校行事の卒業式にでた。
式の最中、周りの人達はみんな別れを惜しんで泣いていたけど、私には泣く理由がわからない。 どうして寂しくなったらすぐに会おうと思わないんだろう。
唯「はい」
名前を呼ばれて卒業証書を受け取る間も、私は今晩のムギちゃんの家のパーティーについて考えていた。
きっとすごく美味しい料理が食べれるんだろうなぁ…今からすごく楽しみ…
さわ子「あなた達が今日で卒業だなんて…なんだか信じられないわ」
律「さわちゃんにはこの三年間、本当にお世話になりました。どうもありがとうございました!」
一同「どうもありがとうございました!」
さわ子「いいのよ、色々あったけどなんだかんだで私も楽しかったわ。こちらこそ本当にありがとう」
唯「さわちゃん、寂しくなったらまた遊びに来ていい?」
さわ子「えぇ、いいわよ。いつでも歓迎するわ」
唯「えへへ…よかった♪」
さわ子「さぁあなた達、校門の前に並びなさい。最後の思い出の一枚を撮ってあげるわ」
紬「唯ちゃん、一緒に写りましょう」
梓「わ、私も…!」
唯「うん、いいよ!」
さわ子「…それじゃ撮るわよー!1+1はー?」
一同「にー!」(古いな…)
カシャッ!
……
唯「……」
この時の私は、寂しければみんなにすぐにでも会えるって本当に思っていた。
でも、それはあの時の私が子供だったからそう思えただけで、実際には寂しい時に会えたりなんかしない。
それは、みんなにはみんなの時間があって、高校の頃みたいに同じ時間を共有出来ないから。
唯「寂しいよ…」
今の私にはいくら寂しくてもみんなに会えないのは分かっている。
でもあの頃の無垢で純粋な私なら、今でもそう信じ続けているんだろう。
昔の自分がすごく羨ましい。
アルバムも全部見終えてしまった。
これを全部見終えた後に残ったのは、昔に戻りたいという思いと、今の自分に対する劣等感だけ。 こんなにも胸が苦しくなるのなら、最初から見なければよかった。
唯「はぁ…掃除の続きでもしよう…」
私がアルバムを閉じようとすると、最後のページの裏にもう一枚のページがあることに気が付いた。
唯「…?なんだろう…?」
よく見ると、その裏のページはアルバムの見返しの部分に軽くのりづけされているのがわかる。 私はなんとなく、その剥がれかかったページを開いてみた。
そこには
唯「…!!!」
……
唯「うわぁ~、すごく大きい家だね」
和「初めて来たけど、これは…」
憂「本当に私まで来てよかったのかな…?」
卒業式が終わった後、私達は夜まで一旦解散となり、
それから私達三人は言われた通りの時間にムギちゃんの家の前まで来ていた。
斎藤「ようこそお越しくださいました。私は琴吹家で執事を務めさせていただいてる、斎藤というものです」
和「ど…どうも…今日は御呼ばれして非常に光栄です」
唯「羊?」
憂「お姉ちゃんは黙ってて…!」
ばたん!
家のドアが勢い良く開かれた。
そこから現れたのは…
紬「斎藤!すぐに通しなさいって言ったでしょ!」
斎藤「申し訳御座いませんお嬢様」
紬「ごめんなさい三人とも…さぁ、どうぞ上がって♪」
唯「わぁ!お邪魔しまーす!」
憂「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」
和「今日はどうもありがとう、私まで呼んでもらえるなんて」
紬「いいのよ♪人数は多い方が楽しいもの♪」
唯「うわぁ…すごいや…!」
家の中に入った私は驚いた。
だって、大きなテーブルの上には見たこともないような料理、天井にはテレビでしか見たこともないようなシャンデリア。
今までムギちゃんの別荘には何度か行ったけど、そのどれよりも豪華な家だったから。
憂「お姉ちゃん待っ…!」
憂「うわぁ…すごい…」
和「素晴らしいわ…予想以上ね…」
どうやら感動しているのは私だけじゃないみたい。
二人とも開いた口が塞がらないようだ。
「おい三人とも!遅いぞ!」
唯「ん?」
私が声のした方に振り向くと、そこにはりっちゃんと澪ちゃんが立っていた。
唯「あ、りっちゃん!澪ちゃん!」
和「あなた達随分と早いのね」
澪「だって…馬鹿律が早く行こうって…」
和「呆れた…律は集合時間も守れないの?」キッ
律「うっ…だ、だって…待ち切れなかったんだもん…///」
和ちゃんに軽く睨まれたりっちゃんが、顔を少し赤くさせてもじもじしていた。
なんだか今日のりっちゃんは可愛いなぁ。これがギャップ萌えって奴かな?
紬「まぁまぁ♪みんな集まったことだしそろそろ…」
みんな?誰か一人足りないような…
私がそんなことを考えてると玄関から声が聞こえた。
「まてよ」
…あぁ、そうだ。大事な人を一人忘れていた。
「てめぇら…お世話になった恩師を忘れるとはどういうことだよ。あぁ?」
唯「さ、さわちゃん…」
律「べ、別に忘れてなんか…」
さわ子「嘘つけよ!今全員集まったから…とか言ってたろうが!」
紬「そ、それは…」
さわ子「どうせ私は…どうせ私は…!」グスッ
唯「さ、さわちゃん泣かないで…」
紬「美味しい料理もありますし…ね?」
さわ子「そうね、早く食べましょう」
澪「……」
律「立ち直り早いなぁ…」
憂「あれ?梓ちゃんは?」
紬「あぁ、梓ちゃんなら少し遅れてくるみたい。ね、唯ちゃん」
唯「うん!」
憂「? ふーん」
紬「それじゃそろそろ始めましょう♪」
澪「そうだな。律、部長のお前が始めろよ」
律「OK!それじゃみんな…」
律「卒業おめでとー!!!」
一同「おめでとー!!!」
チーン!
りっちゃんの掛け声と同時に、みんなが乾杯をした。
みんなはいつも通りの笑顔で、やっぱり私には寂しいなんて感情は湧かなかった。
だって、私達はいつまでもずっと仲間なんだから…
でも、この日を最後に私は、憂以外のこのメンバーと会うことはなかった。
私達が食事やお喋りを楽しんでいると、りっちゃんが急に真面目な顔になった。
律「…なぁ、梓のやついくらなんでも遅くないか?」
澪「確かに…、一体どこで何してるんだろうな?」
憂「心配です…」
みんなが心配するのは最もだろう。だってこんな大事な日にあずにゃんがなかなか来ないんだから。 でも、私はあずにゃんが何故遅れてくるのかを知っていた。
和「ねぇ唯、あんた何か知ってるんでしょ?」
唯「ん~、そろそろ来るはずなんだけど…」
それにしても少し遅いなぁ。ちょっと心配になってきた。
そう考えていると勢いよく入口のドアが開かれる。
ばたん!
梓「先輩!遅くなりました!」
唯「ほら来た!」
律「梓!?お前ずいぶん遅かったなぁ」
澪「今まで何してたんだ?」
梓「まぁちょっと…それより先輩!早く準備しなきゃ!」
唯「そうだね!」
紬「それじゃ行きましょうか」
和「三人ともどこ行くの?」
憂「それに準備って?」
唯「すぐにわかるよ!呼んだら中庭に来てね!」
…
梓「ムギ先輩、本当にいいんですか?」
紬「いいのよ、もし何かあったら斎藤が何とかしてくれるから」
斎藤「お任せ下さい。消火の準備は万全です」
唯「頼もしいなぁ~」
紬「それにしても…みんなの驚く顔が目に浮かぶわね♪」
梓「喜んでくれるといいんですけど…」
唯「大丈夫だよ!みんな喜んでくれるって!」
そうだよ、喜ぶに決まってる。
私の成長をみんなに見せてあげるんだ!
…
梓「…よし、先輩!準備できましたよ!」
紬「こっちもできたわよ」
唯「こっちも大丈夫だよ!」
紬「それじゃ、みんなを呼んでくるから少し待っててね」
ムギちゃんが小走りで家の方へと走っていった。
みんながくるまでの間、私とあずにゃんの二人っきりか~
唯「…えへへ」
梓「…なに笑ってるんですか?」
唯「なんか、あずにゃんと二人っきりになるの久しぶりだね」
梓「確かにそうですね。あれから唯先輩はムギ先輩につきっきりでしたからね」
唯「もしかして寂しかった?…な~んてね♪」
梓「……」
唯「…あずにゃん?」
梓「…先輩。先輩達は大学に入ってもお付き合いを続けるんですか?」
唯「もちろんだよ!」
梓「…そうですか」
唯「あずにゃん…どうしたの?」
最終更新:2010年01月22日 17:46