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あずにゃんはあの日の様にまた悲しい顔をしていた。
その顔は、いつかの私を思い出させるようで…私はあずにゃんから顔を背けた。
もうあんな苦しい思いはしたくないから。

梓「先輩…聞いてください」

唯「何…?」

あずにゃんがこちらにゆっくりと近づいてくる。
今にも泣いてしまいそうな顔で…

梓「…実は私は…先輩のことが…」

周りがシーン…と静まり返る。
まるでここだけ時間が止まってしまったみたいに。

唯「私のことが…?」

梓「先輩のことが…」

次に続く言葉が何となくだけどわかる。
でも、それをあずにゃんの口から聞いてしまえば、私は全てが崩れてしまうような気がして…
もう元には戻れないような気がした。

梓「先輩のことが…!」

「すげー!!!なんじゃこりゃー!!!」

唯「…!」

梓「…!」

突如中庭に誰かの声が響く。
それと同時に私とあずにゃんの時間は再び動き出した。

律「なんだよこのステージ!?ライヴでも始まるのか!?」

澪「誰のだよ…」


唯「わ、私達のだよ!ね、あずにゃん!」

梓「……」

唯「あ…」

あずにゃんは黙って俯いたままだった。
どうしよう…私の予想が本当なら…私は今まであずにゃんに酷いことを…

唯「……」

梓「…そうです!私と唯先輩のライヴステージへようこそ♪」

唯「あずにゃん…」

梓「ごめんなさい唯先輩、さっきの話は忘れてください」

唯「でも…」

梓「いいですから。ほら、みんなに唯先輩の成長した姿を見せるんですよね?」

あずにゃんがにこりと笑ってこちらに手を差し出してきた。
その顔からはさっきの様子はうかがえなくて、あれは私の勘違いだったのかと思わせるほどだった。

唯「…そうだね!その為にムギちゃんにお願いしてステージを立ててもらったんだから!」

私はあずにゃんの手をぎゅっと握り返した。
その手は暖かくて、あの日二人で手を繋いで歩いたことを思いだした。

あの時のあずにゃんの手は、今日より冷たくなかった。


梓『えっ!?今日の卒業パーティでライヴをやりたい!?』

唯『うん、びっくりサプライズだよ!花火をババーンと打ち上げてさ!』

梓『花火って…ムギ先輩の許可はもらったんですか?』

紬『うちはいいわよ♪びっくりサプライズなんて楽しそうですもの♪』

唯『だよねぇ♪ムギちゃん大好きー♪』ギュッ

紬『あらあら♪私も大好きよ♪』

梓『……どうしてこの事を私だけに話したんですか?』

唯『ん~?どうしてって…あずにゃんになら話しても先にいいかな?って思ったんだ』

梓『…どうしてですか?』

唯『あずにゃんに隠し事はできないからね…ってただ私が誰かに話したくてしょうがなかっただけなんだけどさ』

梓『…そうですか、まぁ何とも唯先輩らしいですね』

唯『えへへ…照れるなぁ』

梓『ほめてないですよ…あと今日のライヴなんですけど、私も一緒にステージに立っていいですか?』

唯『あずにゃんも?別にいいけど…』

紬『…唯ちゃんはね、今日のライヴで成長した自分をみんなに見せたいんですって。だからここは…』

梓『私は唯先輩に聞いてるんです!お願いです先輩…私も一緒に演奏させてください!』

唯『…わかったよ。一緒にがんばろうあずにゃん!』

梓『! はい!』


唯「みなさん!卒業おめでとうございます!今日のライブは私とムギちゃんとあずにゃんの三人で企画した、サプライズライヴです!」

律「へぇ…唯のやつ憎いことするじゃん」

澪「どうやらサプライズを用意したのは私達だけじゃなかったみたいだな」

律「だな…仲間を想う気持ちはみんな一緒か」

唯「えーそれじゃ、聞いてください!」

唯「翼をください!」


ジャーン!

あずにゃんと二人だけでギターを弾くなんてあの日以来だ。
あの日はあずにゃんの気持ちがわからなかったけど、今は何となくわかるよ。

…でも、ギターを通じてじゃないのが少し悔しい。

ジャーン!

私達がギターを弾き終えると、後ろから大きな花火が打ちあがる。
みんなそれに驚いて目を丸くしていた。

律「すげー…」

澪「あぁ…最初の夏の合宿を思い出すな…」

紬「すごいわ…綺麗…」

和「唯ってこんなにギター上手だったっけ…?」

憂「お姉ちゃんも梓ちゃんも素敵…」

どうやら私のサプライズは大成功の様だ。
本当にやってよかった…。あずにゃんもそう思ってくれてるのかな?

唯「やったねあずにゃん!」

梓「……」

でも、あずにゃんはまた悲しい顔をしていた。

ねぇ、お願いだよあずにゃん…そんな悲しい顔しないでよ…
そんな顔されたら…私は…

唯「あずにゃ…」

私があずにゃんに声をかけようとすると、あずにゃんはステージから下りてそのままムギちゃんの元へ駆け寄った。

梓「……」ゴニョゴニョ

紬「……」

どうやらあずにゃんはムギちゃんに何かを伝えているらしい。
でも私にはその内容がわかる訳がなく…
私が黙って二人を見ていると、あずにゃんは私の視線に気が付いたようで
ちらっとこっちをみた後、ムギちゃんの手を引いて家の中へと戻ってしまった。

憂「どうしたんだろう梓ちゃん?」

律「きっとトイレじゃねー?ムギの家広すぎるから場所がわかんなかったんだろー」

澪「だといいけど…」

和「なんだか思い詰めた顔をしてたような…」

唯「……」

律「おーい唯、いつまでもステージに立ってないで下りてこいよ」

唯「…え?あ、あぁ!今下りるよ!」

本当にりっちゃんの言う通りトイレならいいんだけど…

嫌な予感がおさまらない…

律「それじゃそろそろ私達も…」

澪「え?ムギと梓はいいのか?」

律「いいって!後でちゃんと渡すからさ!」

和「あなた達も何かあるの?」

律「あぁ!私達のサプライズは…これだ!」

りっちゃんが手にぶら下げた紙袋から、人数分の本を取り出した。
それを次々と配っていく。私にも本が手渡され表紙を見てみると、そこには

和「なにこれ…?」

唯「…桜高軽音部卒業アルバム?」

りっちゃんの少し雑な字で、その本のタイトルが書いてあった。

律「へへ…澪と私の二人で作ったんだ!」

澪「私は写真を撮るのが好きだからさ…今まで撮った思い出を何かにまとめられたらなぁ…って」

唯「へぇ~、ありがとう二人とも♪」

和「でも私までもらっちゃっていいのかしら?」

憂「私も…」

律「まぁもらってくれよ。二人の写真は一枚しかないけどさ!」

和「どれどれ…」パラパラ…

憂「…本当だ、卒業式の写真しかないや」

さわ子「…あれ?私の分は?」

唯「ありがとう!一生大事にするね♪」

律「おう!あぁ、後唯は家に帰ってからそのアルバム見ろよ?」

唯「? どうして?」

澪「まぁいいから。さて、後はムギと梓だけだな」

律「二人はこれのこと知ってるから後で普通に渡せばいいだろ~?」

唯「え?どうしてあの二人は知ってるの?」

澪「…!この馬鹿律!まだ内緒だって言ったろ!」

律「ははっ!大丈夫だって!ちゃんとノリづけしたから、しばらく何のことかわからないよ」

澪「はぁ!?そんなことしたら見れないだろ!?」

律「ふふふ…それこそが私のサプライズ!忘れた頃に見つけたら感動もんだろ?」

澪「…もう呆れて言葉も出ない…」

二人は何を隠してるのかな?
でも、今はそんなことよりあの二人の方が…

唯「そうだ!そのアルバム、私があずにゃんとムギちゃんに渡してくるよ!」

澪「え?そのうち戻ってくるだろ」

唯「いいから!渡してきてあげるって!」

澪「そ、そうか?ならお願いするよ」

唯「うん!まかせて!」

私は澪ちゃんからアルバムを半強制的に奪い取り、ムギちゃんの家へ走った。
二人は何をしているか、何を話しているか気になったから。

あの嫌な予感はまだおさまってくれない。


ばたん!

唯「はぁ…はぁ…!」

私が勢いよく玄関のドアを開けると、中にドアを開く音が響く。
それ以外に全く音がしない。

「…、……」

…いや、微かに何か聞こえる。
これは…人の声?多分あの二人のどちらかの声だろう。

唯「……」

私は息を殺して声のする方へ進んだ。
何故殺す必要があるのだろう。私はあの二人の話を盗み聞きしようとでも思っているのだろうか?

徐々に徐々に進んでいくと、その声は泣き声に変わる。

唯「この泣き声は…あずにゃん?」

私は少しだけ足を速めた。
徐々にその泣き声は大きくなっていく。
そして…

唯「…ここから聞こえる」

私は声のもとまで辿り着いた。

「…は…ギ先輩に…」

やっぱりここに二人はいる…でも、よく聞こえない。
私はドアにそっと耳を押しあてた。
仲間の内緒話に聞き耳を立てるなんて、私はなんて最低なんだろう。

それでも…今は好奇心の方が勝っていた。

梓「…私は最初、大好きな唯先輩が笑っていられるならそれでいいって思えていたんです」グスッ

紬「……」

梓「唯先輩のことだって諦めたつもりでいました…でも…」

梓「…やっぱり諦めきれませんでした」

紬「……」

梓「最初は唯先輩の恋がうまくいくように応援してたんです…」

梓「私だけじゃないです…みんなでです…」

梓「…だから、唯先輩とムギ先輩が付き合った時、すごく嬉しかった…」

紬「……」

梓「…でも、それと同時に悲しかったんです」

梓「私は…心のどこかで唯先輩の恋なんて実らなきゃいいのに…って思ってたんですよ…」

梓「あはは…最低ですよね…唯先輩の恋を手伝ったのだって、もし振られたら優しくしてくれた私になびくかもって…」

梓「…そう思ってたんですよ」

紬「梓ちゃん…」

梓「だから…私は二人が付き合ってからも応援した「ふり」をしてたんです」

梓「もし別れたら私にもチャンスが…なんて思ってたから…」

紬「…残念だけど、私は唯ちゃんと別れるつもりはないわ」

梓「…さっき唯先輩も同じことを言っていましたよ」

紬「唯ちゃんも…?なんだか嬉しいわ」

梓「やっぱり二人はお似合いですね…実は今日のライヴだって、唯先輩に最後のアピールをしようと思ったからなんです」

紬「アピール…?」

梓「はい…楽器にはその人の気持ちが宿ります。だから私はギターに唯先輩を好きだって気持ちをいっぱい詰めたんですよ」

紬「それで唯ちゃんは…?」

梓「…多分私の気持ちに気がついたと思います。それでも唯先輩はムギ先輩が好きなんですよ。だから…」

梓「…私は今日で本当に唯先輩のことを諦めることにします」

唯「……」

あずにゃんはこんなにも私を想っていてくれたんだ…
それなのに私は…こんなにもあずにゃんを苦しめた…

もうこれ以上は聞いてはいけない。私はそう思ってそっとその場を去ろうとした。

…でも、聞いてしまう。一番聞きたくなかった言葉を。

紬「そう…ねぇ一つ教えて」

梓「はい、なんですか?」

紬「いつから唯ちゃんのことが…?」

梓「…初めて部室で抱きつかれた時からです」


唯「…え?」

私の頭に今までの記憶が甦る。
今まで私はあずにゃんに何の躊躇いもなく抱きついたりしていた。
それは、私なりのスキンシップであって…何の考えもなく行っていたこと。

…でも、それのせいであずにゃんは私のことが好きになって、結果私はあずにゃんを苦しめた? 私の軽はずみな考えと行動のせいで…あずにゃんはこんなにも苦しんだのに…
なのに私はあずにゃんよりムギちゃんをとった。あんなにあずにゃんからのアプローチがあったにも関わらず、私は責任も取らずに自分のやりたいことだけをやって…
それをあずにゃんはずっと悲しい目をして見ていたんだ…どうして気が付かなかった…

…私は、最低だ。
こんな自分勝手な私にみんなを仲間だなんていう資格はない…

気が付けば私はムギちゃんの家を飛び出し、自分の部屋のベッドにもぐり泣いていた。


―数日後

プルルルルルr

「もしもし唯ちゃん、どうしたの?」

唯「あ…ごめんねムギちゃん、急に電話しちゃって…」

「いいわよ♪それでどうしたの?」

唯「…あのね、私達、もう別れよう」

「え…」

唯「…ごめんね突然」

「…どうして?」

唯「なんかもうね…疲れちゃった…」

「そんな…私の何がいけなかったの!?教えてよ…!ねぇ…!」

唯「ムギちゃんは悪くないよ…悪いのは自分勝手な私…」

「違う!唯ちゃんは自分勝手なんかじゃないから…!だからお願い…!考え直して…!」

唯「もう無理だよ…このままだとムギちゃんまで傷つけちゃう…」

「傷つける…?もしかして…私と梓ちゃんの話を…!」

唯「…そういうことだから、それじゃ…」

「あ…唯ちゃん待って!まだ話たいことが」

ブツッ 

唯「…ごめんねムギちゃん」

みんなであんなに努力して実らせた私達の恋。
それは、あまりにも呆気ない幕切れだった。


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最終更新:2010年01月22日 17:47