さわ子「ふふっ、唯ちゃんよしよし」
さわ子「唯ちゃん、いっつも抱きつく側だったもんね?たまには抱かれる側になるのはどう?」ナデナデ
唯「……やめてよ」
さわ子「……唯ちゃん、本当は言いたくないこと勇気を出して言ってくれたのね。ありがと」
さわ子「……いい子。唯ちゃんはいい子よ」ナデナデ
唯「違うよ。私、いい子なんかじゃないよ」
さわ子「ううん、とってもいい子。唯ちゃんはいい子」
さわ子「ムギちゃんも澪ちゃんもりっちゃんも、それに他のみんな、私だって」
さわ子「……梓ちゃんだって、みんなが大好きないい子よ。唯ちゃんは」ナデナデ
唯「……違うよお……わたし……わだし……」ジワッ
さわ子「うーうん。違うくないわ。いい子いい子。唯ちゃんはとーってもいい子」ナデナデ
唯「……じゃな……もん……わだ……こ……じゃ……」ポロ…ポロ…
さわ子「んー?なぁにー?」ギューッ
唯「……っ」
唯「わだし……わだしいい子なんがじゃないもおん……」ボロ……
唯「わたし……いい子なんかじゃないよおおおお!!!うわあ゛あああああん!!」
ギューッ
さわ子「……ううん、そんなことない。唯ちゃんはいい子よ」
唯「違うもん!わだしっ!いい子なんがじゃないよ゛っ!」
唯「あずに゛ゃんに……いっばいひどいこと……ヒッグ……したし……」
唯「りっぢゃんにも……みお゛ちゃんにも゛……ムギちゃんにだっで……」
唯「いっぱい……グスッ……ひどいこと……いったもん……!」
さわ子「ううん……そのことを反省できてるんでしょ?じゃあ唯ちゃんはいい子よ」
さわ子「それに……唯ちゃんも辛かったのよね?本当はそんなこと言いたくなかったのよね?」ナデナデ
さわ子「辛かったんなら……今は、いーっぱい、泣きなさい。ねっ」ニコッ
唯「うう゛っ……さわ……ちゃ……さわちゃ……あ゛……ああ゛あ゛」ボロ…ボロ…
唯「うわ゛あああん!!うわ゛あああああああああんっ」
ギューッ
さわ子「……ふふっ」ギューッ
ねえ、唯ちゃん。梓ちゃんのどんなところ好きになったの?
えっ……うーんとね、いつもはね、すっ、ごく可愛いけど 、いつも音楽初心者の私に優しくしてくれるところかな。
後輩なのに、可愛い妹みたいで、それでいて頼れる先輩みたいな、お姉ちゃんみたいなんだ。
ふふっ、唯ちゃんて以外とお姉ちゃんに憧れてるのね。甘えんぼさんみたい。
ぶーっ、そんなことないよー。いつもは私がお姉ちゃんやってるんだもん!フンス
……ねえ、さわちゃん。わたしってやっぱりおかしいんだよね?女の子を好きになるなんて……
ううん、そんなことないわ。唯ちゃんみたいな人って意外といーっぱいいるのよ。
ほんと?
ええ、ほんとよ。
……その人たちって、みんな幸せになれてるのかなあ……
……それはわからないわ。だって……
ふにゃ……
……幸せになれるかどうかなんて、その人たち次第でしょ?
……
さわ子「……そ、幸せになれるかどうかは、唯ちゃん……あなた次第なのよ」
さわ子「……でも、唯ちゃんなら大丈夫」
さわ子「だって唯ちゃんには……」
……
次の日からの部活。
私は何事もなかったように部室に行った。
部室では、いつもの調子の律先輩、澪先輩、ムギ先輩がいて、
そしてただ一人、いつもと違い、借りてきた猫のように周囲を警戒しながらムスッとした顔をしている唯先輩がいた。
昨日、無理やり帰らされた後、唯先輩とどうやったら仲直りできるかを考えてみた。
しかし、結局思いつかずいつものように話かけようと、
したの……だが、
唯「……」ギロリ
唯先輩が、まるで「話かけるな」とでも言いたげに無言で私を睨んできて、私は何もできずにいつもの席に座った。
うう……昨日は家に帰ってから、唯先輩とどうやって仲直りしようかずっと考えてたのに……
……結局なにも思いつかなかったけど……
でも、まずは唯先輩と話し合える状況にならないと話しにすらならないや……
どうも唯先輩はまだ私に怒ってるぽいし……うう、私なにをしたんだろう……
…
とか、梓は考えてるんだろうな……。あーあ、あんな涙目になっちゃって……
しかし、それにしても……
唯「……」
チラッ
梓「……」ウルウル
サッ
唯「……///」
……さわちゃんの話聞いた後だと、なんかわかりやすいなー……
なんなんだよあいつは。なんでそんなチラ見してんだよ。
あれじゃ突き放そうとしてるんじゃなくて、ただ単に意固地になってるだけじゃねーか。小学生かよ。
律「……練習すっか」
私がそうポツリと言うと、みんなは無言で立ち上がって楽器の準備、手入れを始めた。
私も立ち上がり、ドラムの位置に歩いていった。その時、唯がもう一度梓をチラ見するのが見えた。
……
一通りの練習が終わり、下校時間になると、唯先輩は「じゃ、私帰るね」と
独り言のように告げて言って部室を出て行ってしまった。
唯先輩がいなくなった部室に、また気まずい雰囲気が漂いだした。
律「……なんか、私と澪が前にケンカしたときもこんな空気だったのかな……」
律先輩が投げやりにポツリと言った。澪先輩もあの時を思い出したのか、気まずそうな顔をした。
紬「……梓ちゃん、どう?唯ちゃんと……」
梓「……ダメです、今日見てた通りです。唯先輩は私と目を合わせようともしてくれません」
律「……合わせようとするんじゃなくて、まず唯に声すらかけれてないもんな……」
梓「仕方ないじゃないですか……だって唯先輩が……」
律「そりゃそうだけど、まずはどうにかして唯と無理やりでも話し合わなきゃ……」
澪「律」
律「ん、なんだよ?」
澪「……そういうのはさ、ほら、当事者が……素直になんなきゃ……できないもんだろ?」
律「?」
澪「だ、だから……言いたいこと、ちゃんと言える覚悟を持たないと……」
律「……なんだよ澪、ちゃんとはっきり言えよ」
澪「……っ、だ、だから!私とお前が仲直りしたときみたいに、意地張ってる方が素直になんなきゃだめなの!」
律「……はい?」
澪「だっ、だから……今はまだ、唯が、本当の自分を隠してるから……まだきちんとは話し合えないと思う……」
澪「……だから、まずは唯を素直にする方法を考えよ?な?梓」
梓「……唯先輩を……素直に……」
律「おいちょっと待てよ澪。あんとき意地張ってたのはどっちだよ?どう考えてもお前だろ?」
澪「んな、なに言ってんだ!あれは律が私におかしい態度とるから……」
紬「ま……まあまあ……」
律「へーん、なんだい。結局私がいなくて寂しかったくせに」
澪「……っ、そ、そうだよ!律がいなく寂しかったの!///」
律「……へ?///」
紬「あらあらまあまあ///」
梓「唯先輩……」
……
帰宅。
唯先輩を素直にする方法か……それにしても、どうして唯先輩は私に対して怒ってる理由を教えてくれないんだろう。
『……別に、何もしてないよ』
『ただね、昨日言った通り』
『私はね、中野さんの事が大っ嫌い、なんだよ』
もしかしたら……唯先輩は本当に生意気な後輩の私を心の底から嫌ってるだけなのかもしれない……
梓「……」ウルウル
……だめだ!こんな弱気になってちゃ!
梓「……っ!」ゴシゴシ
ムギ先輩が言ってた!「唯ちゃんは梓ちゃんのこと嫌いになんてなってない」って!
そして私も言った!「みんなを信じる」って!
梓「……ぜったいに、あきらめるもんか」
しかし……どうしたらいいんだろ……
唯先輩の気をひくもの……好きなもの……
ケーキ? ギター? ごろごろ?
……軽音部?
梓「……だめだ、思いつかないや……」
気を紛らわすためにテレビをつけた。
やっていたのは今年の正月に放送された2時間のサスペンスドラマだった。
梓「あ……これ私見てなかったやつだ」
どうやら再放送らしい。
気分転換にでも見てみよう。私はそう思い、テレビ画面に意識を向けた。
ちょうど出てきたドラマのタイトル。『赤い指』
……
……まさかドラマからヒントを得ることになるなんて……でも、これならいけるかも……
唯先輩の好きなもの……大切なもの……『軽音部』
そして……それだけじゃダメだ……もうひとつ必要だ。
…
『こんなに可愛くて……大好きな梓ちゃんだもん……私達も……唯ちゃんも……嫌いになんてなるわけないよ……』
…
梓「……っ!///」
……ええい、もう、こうなったら思い込んでやるしかないです!
唯先輩の好きなもの!
ケーキ!
ギター!
ごろごろ!
軽音部!
そして……あ、あずにゃん!
そうです、唯先輩はきっと私のことが好きなんです。そう思い込んでやります。
そして、唯先輩の大好きなものを……ぶち壊してやります!
……
prrr…
律「はいもしもーし、りっちゃんだよーん」
律「どしたー?梓?」
梓『こんな時間にごめんなさい、律先輩』
律「いいよ、そんなこと。で?なんかあったのか?あ、唯と仲直りする方法思いついたのか?」
梓『……』
律「あーよかった。ここ最近数日さー、部室の中あんな雰囲気だろ?なーんか居心地悪くってさー」
律「でも気づいたか?唯のやつ最近練習量増やしてるらしいぜ?……まあ、あんま変わってねーけど」
梓『律先輩』
律「澪もなんか最近歌詞思いつかないらしいし、ムギもやたらマンボウの真似のレパートリー増やそうとしてるし」
律「さわちゃんなんかあの日以来部室に顔も見せに来ないんだよなー。あっそうだ明日の帰りにさ」
梓『私、軽音部をやめます』
律「だめっ!」
梓『……!』
律「だめだよ……やめてよ……それだけはやめてって言ったじゃん……」
梓『……先輩』
律「梓言ったじゃん……唯と何があっても仲直りするって……あきらめんなよ……」
梓『先輩』
律「方法思いつかないのか?私も一緒に考えるからさ。お願い、冷静になって」
律「私たち……5人で放課後ティータイムなのに……最近、お前と唯があんなになって……バラバラになりそうで……私怖くって……」ポロ…
律「でも……わたしじゃ……何も……できない……」ポロ…ポロ…
梓『……律先輩』
律「……グスッ」
梓『……退部届は、明日渡しますね』
律「……っ!あずさあっ!」
梓『聞いてください』
梓『私は明日唯先輩の目の前で退部する意思を見せつけます』
律「……つまり、退部するフリってこと?」
梓『いえ、もしそれで唯先輩が私と向き合ってくれないなら……その時は……』
律「おまっ……それって……!」
梓『そうです。これは懸けです。唯先輩が私のことを好きでいてくれるかどうか確かめるための……』
律「……おまえ」
梓『……///』
梓『……もうひとつあります』
律「……なんだ」
梓『……これから言うことは、明日退部届を出したあとにすぐ行います。』
梓『……そのことを、他の皆さんには、絶対に知らせないでほしいんです』
律「……その賭け、勝算はあるんだよな?」
梓『……わかりません。でも、わからないけど。私、私だって……』
律「……梓?」
梓『っ!……わたしだって!唯先輩のこと好きなんだもん!』
律「!」
梓『だから……絶対成功させてみせます……!』
律「……」
律「……わかったよ、言ってみ……」
……
……次の日
ガチャッ
梓「……こんにちは」
唯「……」
澪「あっ、梓 遅かったな」
紬「今お茶出すわね」ガタッ
私が部室に入ると、気まずそうな空気が漂っていた。
しかし、こんなやりとりは゛あの日゛以来いつもの事だったのでそれほど気にもならなかった。
梓「いえ、結構です」
澪「梓、そう言わずにさ……」
梓「……今日はすぐにいなくなりますから」
澪紬「……え?」
唯「……?」
最終更新:2011年08月17日 00:07