昔々のその昔
現在の京都に程近い山間の村に、一組の老夫婦が住んでおりました
「いい天気じゃのぉ、婆さんや」
「そうですねぇ、お爺さん」
「絶好の散歩日和じゃのぉ、婆さんや」
「そうですねぇ、お爺さん」
「……ってさー、何で私が翁なのぉ?」
「配役の都合らしいから仕方ないよ、純ちゃん」
「……憂は良いじゃん、嫗なんだから……私だって女役やりたかったよ」
「でも……ね、私は……純ちゃんと夫婦役が出来て……嬉しい、よ」
「……そか。なら……翁で良いや」
《なよたけの……》
ある日の事です。翁は日課の散歩で、近くにある竹林を散策していました
「……竹林って散策する価値あるのかなぁ?」
筍掘りのシーズンや竹の花見の時は最高ですよ。
「ふーん、そっか~。……ってあのぉ~、ナレーターさん」
はい。
「……独り言に反応されると……恥ずかしいんですけど」
おっと、失礼しました。では気を取り直して……。
翁が散策していると、奥の方に不思議な光が見えました
慌ててそこに近寄ると、一本の竹が輝いています
「な、なんじゃこりゃー!と、とにかく中を確かめないと!!」
急いで家に帰り、鉈を持ち、先程の竹の所へ戻ると、光輝くその部分をじっくりと観察しました
どうやら竹の一節だけが光り輝いているようです
「よし……それじゃぁ、この節の真ん中に思いっ切り鉈を振り下ろせば……」
『ちょっとちょっと!真ん中じゃなくて上の方だよ!』
「あ、そうか。真ん中じゃ梓が真っ二つだよね~。……でも~、それも面白いかもねっっっ!!!」
『にゃぁぁぁぁ!!!』
翁は楽しそうな顔で光る節の真ん中目掛けて鉈を振り下ろした!
キーン!!
鉈は見事に弾かれた!!
翁は5のダメージ!!
「い……ったーい!!」
『うふふふ~、そんな事も有ろうかと思って、節の上部以外はチタンコーティングしてあるの~』
「さ……さすがはムギ先輩……やりますね」
では、気を取り直して上部を叩きましょうか。
「仕方ないなぁ……ほい、コーンっと」
翁が鉈の刃を節の上部に軽くぶつけると、何故か斜めにスパッと切れて中からとても美しい女の子が現れました
「……なんだか色々と突っ込みたいけど……まぁいいや。えっと……おぉ!竹を斬ったら中からこんなに美しい女の子がー!」
何だか白々しいですね。
「ゴチャゴチャ煩い!」
翁は女の子を家に連れて帰り、嫗と相談してこの子を育てる事にしました
「でもさー、憂。育てるにしても私達そんなにお金無いよ?」
「大丈夫だよ、純ちゃん。私が機織りをして稼ぐから!」
「それ……違う話しじゃん……」
『あ、お金なら大丈夫だよ!』
「梓、それ本当?……あ、まだ梓じゃなかったんだっけ……。えっと……娘!それは本当か?」
『……まぁ、まだ人形だし名前が無いから仕方ないよね……。えと……おじいさん、光る竹を見つけたらそれを斬ってみて!』
「そうすると金が出て来るんだよね!」
『憂……私の台詞とらないでよ……』
「よっしゃ!それじゃ明日から光る竹を探すぞー!!」
翌日、翁は竹林に入り光る竹を見付けては斬る作業を繰り返していました
「おぉっ!金が一杯!!こっちも!あっちも!!」
大漁ですね。
「うん!これだけあれば三人で充分暮らしていけるよ」
そうですか。でも、金ばかりじゃ飽きますよね。
「ん?じゃぁ他に何が出るの?」
そこの……そう、それです。それを斬ってみて下さい。
「これ?よいしょ……コーンっと!……はぁ!?ゴールデンチョコパン!?」
どうですか?
「いや……確かに名前に『金』が入ってるけどさぁ~」
お気に召しませんか?
「まぁ、食べられるから良いや。さってと……こんだけ稼げば充分だよね~。憂に見せてあげなくちゃ~」
翌日も、翌々日も、竹林に行く度に金を見付けては持って帰る日々を続け、気付いた時には
貴族と肩を並べるほどの大金持ちになっていました
「うっわー!凄い屋敷だよ!!一体何部屋あるんだろ……」
「私達だけじゃ広すぎるよね~」
「まぁ、後々必要になるんだから、このくらいでも良いんじゃない?」
「……あれ?さっきまでチビチビ人形だったのに……何で出てきたの?」
「純……話しの中ではもう三ヶ月経っているんだけど……」
「あれ?でもそんな事誰も言ってないよ?」
「そんな、憂まで……あれ?そういえば言われていないような……ナレーターさーん」
はいはい、なんですか?
「確か三ヶ月経った……んだよねぇ?」
……そのナレーションはこの直後ですよ。
・
・
・
「へっ!?にゃぁぁぁ!間違えたぁー!!」
まぁ良いじゃないですか。では……。
娘は日毎に成長し三ヶ月経った今では、この世の者とは思えない程の美しさと、仏のような
慈悲の心を持った娘になっていました
「そろそろ髪を結い上げる頃ですねぇ」
「もうそんな時期になるのか……子供の成長は早いのぉ」
「それに、名前を付けないといけませんねぇ、純じいさん」
「そうじゃのぉ、憂ばあさん」
「どんな名前がいいですかねぇ」
「そうじゃのぉ……よし、ここは御室戸斎部の中野を呼んで名付けてもらうかのぉ」
「それは良いですね、では早速手配してもらいましょうか」
数日後、屋敷にやって来た御室戸斎部中野は、娘の容姿を見t
「ひゃっほー!やっと名前付きで出られるぞー!!」
「ちょっとちょっと……まだ私達の名前は確定していないんですよ」
「え゛?そうなの?」
「えぇ、そうですよ。まぁ、私は非公式ながらも一応名前は出ていますけどね」
「でも、確かあのシーンでは両親の名前が……」
「確かに出ていましたけどね、ただ残念ながら父であるあなたの名前は判別出来ていないんです」
「……なんてこった……」
「というわけで、名付け親となる中野母でーっす!!」
「……夫の……中野父です……」
ナ、ナレーションに割り込まないで下さいよ!ちゃんと出番があるんですk
「そんなの待っていられないわよー!」
「というわけで、娘の名は『なよ竹のあずさ姫』に決定する!」
「は、はい!!ありがとうざいます!!」
「よかったね、梓」
「これでちゃんと梓ちゃんって呼べるよ~」
「それじゃぁ、皆を呼んで祝宴だー!」
翁と嫗は髪の結い上げと名付けの祝宴を三日三晩執り行いました
それはそれは素晴らしい宴で、梓姫の住む国だけでなく隣国や離れた国からも人が集まる程でありました
「あ、あの……」
おや、中野夫妻じゃありませんか。こんな所で何をしているんですか?
「えっと……この後の出番は……」
ありませんよ。
「「えっ!?」」
あんな風に割り込んでくるんだから、当たり前じゃないですか。
「「そ、そんなぁー」」
あ、お帰りはあちらからお願いしますねー。
宴から数日経つと、梓姫の噂を聞き付けた公家や貴族、更には庶民までもが一目見ようと屋敷に集まりはじめました
しかしどれだけの貢ぎ物を差し出しても、梓姫は誰とも会おうとはしませんでした
そのため、日に日に屋敷を訪れる輩は少なくなっていき、最終的には五人の公家や貴族だけが残りました
その五人の名前は律皇子、紬皇子、右大臣澪御主人、大納言聡御行、そして中納言唯麻呂
梓姫に対する想いは他の誰にも負けていないとそれぞれ自負しています
「梓ちゃん……なんで誰とも会おうとしないの?」
「なんでって……そんな『私は金持ちなんです!』的な態度を示されてもどうかなって思うし」
「まーねー、それにいくら『大切にします!』って言われても本心はわからないしねぇ」
「純の言う通りだよ……」
「でもね、一応設定では私達もう七十歳なんだよ」
「当時の平均寿命から言えば、私達は妖怪レベルだよね」
「だからさ、結婚とか……考えてもらえないかな?」
「……わかった……そのかわり、条件を付けたいんだけど……」
梓姫は五人を屋敷に招き入れ、御簾の奥からその条件をそれぞれに伝えました
「律せ……じゃなくって、律皇子」
「はい」
「『仏の御石の鉢』を持ってきて下さい」
「ははっ!畏まりました!」
「紬皇子」
「はい」
「『蓬莱の玉の枝』を持ってきて下さい」
「畏まりました~」
「右大臣澪御主人」
「は、はいっ!」
「『火鼠の裘』を持ってきて下さい」
「ね、鼠っ!?ひぃぃぃぃ……か、畏まりましたぁー」
「大納言聡御行」
「あ、はい」
「『龍の首の珠』を持ってきて下さい」
「龍っすか!?はぁ……畏まりました」
「唯先輩」
「……ほぇっ!?」
「……あ、間違えました……。コホン、中納言唯麻呂」
「は~い」
「『燕の産んだ子安貝』を持ってきて下さい……って、出来ますか?」
「うーん、難しいかも……。でも、あずにゃ姫たっての願いなんだから、頑張るよ!」
「……なんですか、その『あずにゃ姫』って」
「あずにゃんだからあずにゃ姫だよ~」
「意味わかりませんよ……」
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。それで、期限はいつまでなの?」
「あ、一週間後でお願いします」
「では、探しに行くとするか!……まぁ、私が一番乗りだろうけどね~」
「ねーちゃんには負けないぞ」
「わ、私もだ!」
「私、結構楽勝かも~」
「私も負けないよぉ~」
五人はそれぞれ梓姫が望む物を探しに旅立って行きました
それから二日後……
「よっしゃー!やっぱ私が一番乗りだなっ!!てなわけで律皇子、只今戻りました!!」
「以外と早かったですね……では、『仏の御石の鉢』を見せて下さい」
「はい!こちらでございます」
「……純……どう思う?」
「どう思うって言われても……ねぇ、憂」
「うん……これって、金魚鉢……だよねぇ」
「テヘッ、ばれたか」
「『テヘッ』じゃありません!では、律皇子は失格という事で」
「そうだねー」
「けってーい!」
「そ、そんなぁ~」
翌日、紬皇子がホクホク顔でやってきました
「梓姫さま~、『蓬莱の玉の枝』お持ちしました~。これになりま~す」
「おぉ……これは……」
「確かに……根が銀、枝が金、そして真珠の実がなっているよ!」
「うふふ~、琴吹グループに頼んで作ってもらったの~」
「「「……は?」」」
・
・
・
「……あ!いっけなーい!」
「つまり……偽物だという事……か」
「そうだね……純ちゃん」
「偽物を持って来るなんて言語道断です!紬皇子も失格です!!」
「はぁ……失敗しちゃったなぁ~」
そのまた翌日、今度は右大臣澪御主人が怯え顔でやってきました
「えと……梓姫さま……お望みの物をお持ちしました……」
「……なんでそんなにも怯えているんですか?」
「だ、だって……鼠だぞ!しかも裘だぞ!!」
「はぁ……では、見せて下さい」
「こ……この中に入っているから……」
「そこまで怯えるのもどうかと……まぁいいです。純、開けてもらえる?」
「はいよ~、パカっと」
「一応鼠の裘っぽいけど……純ちゃんはどう思う?」
「うーん……わからないなぁ~」
「じゃぁ、取り敢えず燃やしてみたら?」
「あ、そうだね。えっ……と」
「はい純ちゃん、松明だよ」
「サンキュー。ではこれを……」
梓姫に促され、翁は燃え盛る松明を裘の上に載せました
もしこれが本物ならば、松明のみが燃え尽きるのですが……
「あ、火がついた」
「……燃えてるねぇ……てかなんか燃え方激しくない!?」
「なんかバチバチ言ってるよっ!!」
「なんでだっ!?わ、私はちゃんと用意されていた偽物を持ってきたぞっ!!」
「でもでもっ!!どんどん激しくなってきてるよっ!!」
「だ、誰かっ!水!水を持って来てっ!!」
齋藤さん!!
「ちょっと待った!水なら用意してあるぞ!!」
「律!?」
「あそーれっと!!」
……ふぅ、無事に消えましたね。
最終更新:2011年08月18日 20:11