「……純ちゃぁ~ん、怖かったよぉ~」

「よしよし……でも一体どうして?」

「わ、私は何も知らないぞ!普通に、用意されていた物を持って来ただけなんだからなっ!」

「ですよね……じゃぁ……すり替えられたって事……ですかね?」

「あぁ。おそらくな……でも誰が何のためにこんな事を……」

「あれ?そういえば……律先輩、齋藤さんに声がかかった時、既にバケツを用意していましたよね……?」

「へっ!?だって台本に書いてあったからさ」

「嘘を言うなっ!!そんな事、私の台本には書いてなかったぞ」

「嘘なんかじゃないやいっ!!私の台本にはちゃんと書いてあったぞっ!」

「あ、あの、私の台本にもそんな事は書いてなかったと思います」

「わ、私のにも……」

「梓に純ちゃんまで……なんだよっ!そんなに私を悪者にしたいのかよっ!!」

「あの……律さん、台本には何と書かれていたんですか?」

「えっと『裘が燃えさかるので、用意してある水をかける』だったかな?」

「それって、手書きでしたか?」

「よくわかったねぇ、憂ちゃん正解だよん」

「やっぱり……私、さっきから気になっていたんですよね。あの、ナレーターさん」

はいはい。

「もしかして、私達の持っている台本って……みんな違う内容だったりしますか?」

あ、ばれましたか。その通りです、印刷されている部分は同じなんですが、数名の方の台本に『指令』をボールペンで書き入れてあります。

「……と言う事は……そうか。律、ごめん、疑って悪かった」

「あ、いや、そんな、面と向かって謝られても……私だって……悪かったんだし」

「何でだ?別に律は悪い事なんかしていないだろ?」

「ん……いや……その……ちゃんと、澪に、伝えておけば、澪が、怖い思い、しなくて、すんだかな……って」

「まぁ、それは、そうなんだが……。てゆーかそういったネタばらし的な事って今までにやった事あったか?」

「無い……けどさ、いつもは危なくない事だから言わなかったんだけど、今回はさ、私が予想した以上に燃え上がったから……酷い事したなって……」

「……バカ律。そんなに後悔するんだったら前以て齋藤さんやムギに訊けば良かったじゃないか」

「うん……ゴメン。そこまで頭が回らなかった……ホントに……グズッ……ゴメン……」

「全く……いつもの律は何処に行ったんだ?」

「……グスッ……どっか……ヒック……いっちゃった……」

「……じゃぁ、いつもの律が戻ってくるまで、こうしててやるよ……」

「……ウゥッ……ヒグッ……グズッ……みおぉぉぉーーー!!!」


「ねぇ梓、これって取り敢えず『一件落着』ってやつ?」

「そうじゃないかな。……憂のお陰だね」

「えぇ?わ、私は別に何も……」

「何もして無くないよ。だって、憂が台本の事言ったから二人は仲直り出来たんだし」

「そうなの……かな?」

「そうだよ!この私が保障しまっす!!」

「もぉ……純ちゃんったら……。それにしても……律さんと澪さんって相変わらず仲が良いよね~」

「だよね~。梓と唯先輩に負けず劣らずって感じだよね」

「純ってば、変な事言わないでよ……」

「だって本当の事じゃん」

「……むぅ……。でもそれを言うならさ、憂と純だってそうでしょ?」

「えぇ~?そうかなぁ~。……憂はどう思う?」

「わ、私は、お姉ちゃんと梓ちゃんや、澪さんと律さんのほうが、仲が良いと思うよっ!」

「そんなに強調しなくてもいいじゃん……せめて『私達も同じ位かな』とか言ってよ……」

「あ、そうじゃないの!えっとね、時々なんだけど、とても羨ましいなって思うの」

「羨ましい?……梓と唯先輩が?」

「うん!だってさ、どちらもとっても仲良さそうだから、……私も、純ゃんともっと仲良くなりたいなって思っちゃったりするんだよね」

「……憂?」

「だけど、そんな事純ちゃんに言ったら変な顔されそうで心配だし、だけどやっぱりもっと

仲良くなりたいし、でもこういった時ってどうやって相手に伝えれば良いかわからないし!」

「憂……」

「そう考えたら、やっぱり今までと同じ距離感で居たほうが良いのかな?って思っちゃって

、でもこの想いを伝えずに終わるのは嫌だし!!だからどうしたらいいのかわからないのっ!!!」

「憂!!!!」

「ひゃうっ!!じ……純……ちゃん?」

「憂……なんで私が憂を抱きしめているんだと思う?」

「わ……わからない……」

「私も……憂と同じだよ」

「えっ……?」

「私も……憂ともっと仲良くなりたい。それも……できれば恋人として……ダメかな?」

「純……ちゃん。……ダメなんかじゃ……ないよ。でも……良いの?私なんかで……」

「……憂じゃなきゃヤダ。憂が良い……」

「純ちゃん……グズッ……じゅんちゃぁぁぁーーーん!!」

「ごめんね……私のせいで寂しい思いをさせちゃっt」
「はーい、そこまでそこまで」

ど、どうしたんですか?梓さん。

「どうしたもこうしたも……。あ、そうか。ナレーターさんは知らないんだよね。この二人が既に恋人同士で尚且つお互いの家を行ったり来たりしてる事」

そ、そうなんですか!?

「そ。それに、衣装で見えないけれどお揃いのネックレスをしてるし」

はぁ。

「んで、そこに通されたペアリングには『J to U』『U to J』って彫られてて更にお互いの誕生石が埋まってると」

つまり……。

「ラブラブって事。ねぇ……何でいきなりこんな小芝居始めたのさ」

「えへへ~、何でだと思う?」

「何でって……そんなのわからないよ」

「ヒントは……私と憂の台本は二人で一冊です」

「二人で一冊……ハッ!もしかして今のやりとりが……?」

「だーいせーいかーい!!」

「『指令』として書かれていました~!!」

「でも……どうして今なの?」

「今っていうか……」

「キーワードが出たらお願いしますって書いてあるだよね~」

「ね~」

「キーワード?どんな?」

「えっと、梓ちゃんが『憂と純だってラブラブじゃない?』というような発言をしたらお願いしますって書いてあったの」

「だから梓がもしそういった感じの事を言わなかったら……」

「さっきのやりとりは無かったって訳か……成る程。……あれ?でもおかしくない?」

「……どこかおかしい所あった?」

「あ、別に憂と純は問題ないんだけど……あの、ナレーターさん」

はい、何ですか?

「ナレーターさんは『指令』の全てを知っているんですよね」

えぇ、そうですよ。

「じゃぁ何で二人が付き合ってる事を私が言った時……ってまさか!」

あ、ばれましたか。そうです、私にも『指令』があったんですよ。

「……だから、敢えて知らないふりをしていたんですか……」

はい、その通りです。ですが、流石にお二人がそこまでの関係とは知りませんでしたが……。

「だから演技っぽく無かったんですか……成る程」

「でも大変だったよ~。特に打ち合わせとかしてなかったからさぁ~」

「純……それにしては随分と息が合ってた気がするんだけど」

「まぁ、ね。憂の考えてる事なら大体わかるからさ」

「もぉ……純ちゃんったら……」

梓さん……。

「言わないで……聞いた私がバカだったって今物凄く実感してるから……」

……物語を進めましょうか。

「……お願い……」

了解しました。


右大臣澪御主人が失格となった翌日、今度は大納言聡御行が疲れた表情で屋敷に戻ってきました


「……」

おや?聡さーん、出番ですよー。

「あぁ、聡なら来ないよ、てゆーか居ないよ。ホテルに戻るって言ってた」

「へっ!?律先輩、何でですか!?」

「『頭数合わせで来ただけだし、この先大して出番無いし、龍の首の珠探しの演技するんだったらM○P3の古龍倒してた方が良いや』だってさ」

あの、それで律さんは引き留めなかったんですか?

「まぁ、実際そうだし……特に居なくても問題無いかなぁと思ってね」

「と言うことは……猫勝負で梓はオトモに負けたのか……」

「オトモ言うなぁぁぁぁーーー!!!てゆーか私は猫じゃなぁぁぁーーーい!!!」

「だって……ねぇ憂」

「あず『にゃん』だもんねぇ……純ちゃん」

「にゃぁぁ……反論出来ない自分が歯痒い……」


それから二日程経過し、今日が期限の最終日ですが最後の一人となる中納言唯麻呂は未だ姿を見せません


「唯麻呂様……今何処に居られるのですか……?」

「梓姫、唯麻呂さんを信じて待ちましょう」

「うむ、もしかしたら今も子安貝を探しているのかもしれぬしのぉ」

「ですが、梓は心配です……」

「……台詞抜きで?」

「いや、それは流石に無いけどさ」

「そっか」

「純ちゃん、梓ちゃんの事だから、本心ではきっと心配しているんだと思うよ」

「もぉ……シナリオではもう少ししたら来るんだから心配する必要なんて無いじゃん」

「それもそっか。あーでも気になるなぁー、唯麻呂さんは今一体何をしているのかなぁー」

「純……わざわざこっちをチラ見しながらそんな事言う必要あるの?」

「えー、だって、ねぇ憂」

「うん、そうだよね、純ちゃん」

「……ぶぅ……」

あの、皆さん。なんでしたら唯麻呂さんが今何をしているのかお見せしましょうか?。

「ホントに?見たい見たい!!」

「はい!私もお姉ちゃんが気になります!!」

「……私も……見たいです……」

「おやおや、先程とは打って変わって素直ですなぁ」

「そうだねぇ~」

「い、いいじゃん!気になるんだから!!」

「うんうん、素直が一番だよ、梓ちゃん」

「憂の言う通り!!……とまぁ、梓をからかうのはこれくらいにしておいて……ナレーターさん」

はい。

「あの、一体どうやって唯先輩の様子を見るんですか?」

あぁ、それはですね……こうします!モニターカモーン!!

「……純ちゃん……天井から液晶モニターが下りてくるよ……」

「今って確か……平安時代って設定だよねぇ」

まぁまぁ、細かいことは気になさらずに……。

「そんな事言われてもさぁー、気にならずにはいr」
それでは準備も整いましたので現場を呼んでみましょうか。

「なっ!私の発言遮った上にスルー!?」

屋外ロケ現場の紬さーん。


『は~い。リポーターの紬で~す。私、一度で良いからリポーターってやってみたかったの~』

お約束はしなくて良いので、リポートお願いします。

『了解しました~。……ごちら、現場の琴吹です。中納言唯麻呂さんですが、今まさに子安貝が有るという燕の巣目指して岩山を登っております』

「……あんな高いところを……」

「お姉ちゃん、フリークライミングしてる……」

『あ、因みに現在唯麻呂さんが登っている地点は、地上から約300メートルになります』

「そんな高さを……さっすが唯先輩!これぞ愛の成せる技だね!」

「愛って……純……やめてよ……恥ずかしい……」

『ではここでカメラを切り替えて唯麻呂さんの表情を見てみましょう』

「おぉ……凛々しい……」

「お姉ちゃんカッコイイね……」

「……」

「どったの?梓」

「……かっこ唯……」

「梓ちゃん……」

「憂、スルーしてあげるのが親友の務めだよ……」

『唯麻呂さんは梓姫の願いを聞いたのち、様々な文献を読みあさりつい先日ここにたどり着いたそうです』

「そうだったんだ……唯先輩、無理難題を押し付けてすみません……」

「……他の四人にも無理難題を押し付k」
「まぁまぁ……純ちゃん、スルーするのが親友の務めでしょ?」

「……りょうかい。それにしても……この映像ってどうやって撮ってるのかなぁ?」

「うーん……空撮だと思うけど……」

「空撮ねぇ……でも何か……変な気がするんだよなぁ~、何だろ……うーん……」

あ、ほらほら、そんな事言っている間に向こうはクライマックスを迎えていますよ。

「えっ!?」

『登り始めて一昼夜、燕の巣まであと少しです!唯麻呂さん、頑張ってください!!』

「い、いつの間に……てか一昼夜って実際だったら有り得ない!!」

「お姉ちゃん!もう少しだよ!!」

『さぁ!ラストスパートです!!』

「唯先輩……頑張って……」

『……あずにゃ姫のぉ……ためなぁらぁ……えんやこーら!!……やったー!とうちゃーく!!』

「すごいすごい!唯先輩流石です!!」

「やったね!お姉ちゃん!!」

『おぉ!これこれ……燕さんごめんね~。よいしょっと……子安貝取ったどぉーーー!!!』

「こんな時でもお約束を忘れないとは……」

「まぁ、唯先輩だし」

「まぁ、お姉ちゃんだし」

「それで良いのか二人共。……あれ?唯先輩ヤバいんじゃない?」

「「えっ?」」

『お!そういえば私、岩山にへばり付いているんだったっけ……じゃぁ手を放したら……まずい……よね』

何を悠長に解説しているんですか、素直に落っこちましょうよ。

『あ、そうだね~。おっとっとっとっとっとっとぉぉぉーーーー!?』

「お姉ちゃーーーん!!」

「唯せんぱーーーーーい!!!!」

『きゃーあー、おーちーるー』

「……なんか切羽詰まっているような声じゃ無いような……てか変だよ!背景動いて無い!!」

あ、ばれましたか。

『実はこれ、琴吹グループの映像チームが作ったCGだったの~』

「やっぱり……何か変だとは思ったんだよね~。あんなセット屋外に無かったし……」

『純ちゃんすご~い!まさか見抜かれるとは思わなかったなぁ~。……というわけで、唯ちゃん、もう起き上がっても大丈夫よ~』

『ふぅ……流石に後ろに倒れ込むのはドキドキしたよ~』

「……私の叫び声を返して欲しいです……」

「梓ちゃん……今回ばかりは私もそう思うよ……」

『それじゃぁ、あずにゃん……じゃなかった、あずにゃ姫、今すぐに子安貝をお持ちいたしますので少々お待ち下さいませ』

『現場からは以上でーす!』

紬さん、ありがとうございました。では皆さん、再開して……ってどうされましたか?

「あ、えっと、何か……ねぇ憂」

「うん、色々と……ねぇ純ちゃん」

「そだね、疲れたよ……ナレーターさん」

そ、そうですか。……あの……再開しても……よろしいです……か?

「いいですよー」

「がんばりまーす」

「わたしもー」

はぁ……では、再開しますね。


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最終更新:2011年08月19日 22:58