ついに迎えた期限の日、日が暮れ篝火が焚かれる時間になってようやく唯麻呂が現れました


「中納言唯麻呂、只今戻りました。あずにゃ姫、こちらが『燕が産んだ子安貝』になります」

「よく戻られた。では、父様、母様、改めを……」

「翁殿。改め、お願いいたしまする」

「承知致した。では、改めさせてもらうぞ」


翁は唯麻呂から子安貝の入った箱を受け取り、嫗と共に中を改めました


「うむぅ……これは……どう思う?婆さんや」

「多分……それですね……お爺さん」

「父様、母様、それは子安貝では無いのですか?」

「うむ、子安貝ではないな……」

「梓姫もご覧なさい」

「では失礼して……こ、これは……」

「どう見ても違うじゃろ?……あーもー年寄り言葉めんどくさい!これからは普通に話そ、ね!」

「もぉ……純ちゃんたら……」

「でさぁ、梓もこれって絶対に違うと思わない?」

「ま、まぁね」

「ね!どう見ても『燕のフンがついた卵の殻』だよね!」

「ほぇっ!?そうなの!?」

「お姉ちゃん……ちゃんと確認したの?」

「えっ?だ、だって……置いてあるって言われたし……それしか置いてなかったし……」

「唯ちゃんごめんね~、琴吹グループ総出で探したんだけど……見つからなかったの……」

「まぁ、空想の産物ですからね……ムギ先輩は悪くないと思いますよ」

「そぉ?そう言ってもらえると助かるわぁ~。梓ちゃん、ありがと~」

「えと……それじゃぁ……私は……」

「失格ですね」

「しょ、しょんなぁ~。あずにゃ姫様~、お願いしますよぉ~。私、頑張って取ったんですから~」

「そんな事言われても失格は失格です!」

「うぅ~、あずにゃんのいけずぅ~」

「それじゃぁ……中納言唯麻呂も失格という事でオッケー?」

「うん。じゃぁ純、名簿に×印しておいて」

「ほーい。……てかさ、唯先輩も失格したって言うのになんだか嬉しそうだねぇ~」

「お姉ちゃんが無事だったからだと思うよ、純ちゃん」

「なるほど……愛ですなぁ~」

「ですなぁ~」

「……憂、純、それ以上言うと流石の私も怒るよ!」

「きゃー、梓ちゃんが怒ったー」

「怒ったー、アハハ~」

「……もぉ……二人共知らない!」


それから数日経ったある日、屋敷に豪華な牛車が現れました


「ねぇ、純ちゃん……これって……」

「帝の……牛車!?」


公家達があれだけ騒いでいれば帝の耳にも届くというもの。梓姫の噂を聞き、一目見ようと現れたのです


「あ、梓!み、帝が来たよ!!」

「帝ねぇ……興味無いなぁ~」

「と、取り敢えず上がってもらおうよ、ねっ」

「……仕方ないなぁ……じゃぁ憂、お願い」

「うん!」


嫗は恐る恐る車に近付き、帝に声をかけました

すると後簾がゆっくりと上がり、中から帝がおごそk
「ようやく私の出番がまわってきたわ~!梓ちゃ~ん、お待たせぇ~!!」

さ、さわ子さん。帝役なんですからもう少し落ち着いた演技をおねg
「んもぉ、このくらい良いでしょ~?みんなそれぞれに役を崩しているんだし」

それは、まぁ、そうなんですが。せめて登場のシーン位は台本通りでお願いできますか?

「ぶー、仕方ないわねぇ。……オホン、この屋敷に梓という名の姫が居ると聞いたのだが……真か?」

「は、はい!左様にございます」

「ふむ……ではその姫の許へ案内して貰えまいか」

「あ、こ、こちらです!どうぞ!!」


嫗は帝に最大級の敬意を払いながら、梓姫のもとへ案内しました


「この御簾の奥に居るのが梓姫でごz」
「梓ちゃ~ん!コスプレ用の衣装、い~っぱい用意してきたわよぉ~!!」

も、もう帝の台詞は終わりですかぁ!?

「さっきやったんだから良いでしょぉ?それとももっと続けろっていうの?」

あ、はい……出来れば、ですg
「嫌!」

そ、即答ですか……。

「当たり前じゃない、面倒だし。だから、良いわよね♪」

……シナリオを進めるためですので、致し方ありませんが目を瞑りましょう。

「固いのねぇ……まぁいいわ。えっと……という訳なので、さぁ!梓ちゃん!!好きな衣装を選びなさい!!」

「そ、そういわれましても……てゆーか、もう着ていますし……」

「……それもそうよねぇ……はぁ、じゃぁ仕方ないか……折角作ったのになぁ~」

「あの……つかぬ事をお聞きしたいのですが……」

「な~に?」

「一応舞台は日本なんですけど……なんで衣装が洋服……それもゴスロリクラロリ甘ロリだらけなんですか?」

「あら~、純ちゃん良いところに気が付いたわね~。なんでかって言うとね……『♪炭水化物と炭水化物の』はい!」

「え、あ、ゆ、夢の……コラボレーション……」

「正解よ!つまりこれは平安日本と中世ヨーロッパのコラボレーションなの!」

「は、はぁ」

「どちらも絢爛豪華だった時代……だけど決して交わる事の無かった時代……それを私がコラボしてみせようと思ったんだけど……まぁ、仕方が無いわね……これで我慢するわ」

「……?」

「梓ちゃ~ん、こっちにいらっしゃ~い。取っておきのネコミミ持ってきたわよぉ~!」

「え……でも、御簾から出てはいけない決まりなので……」

「え~?……じゃぁいいわ、こっちから行くから」

「あ!それも駄目なんです!!決まりですから!!!」

「決まり……?でも梓ちゃんの隣に唯ちゃん居るじゃない!」

「えっと、まぁ、唯先輩ですし」

「お姉ちゃんですし」

「とまぁ、そーゆーことですし」

「クッ……そんな理由にもなっていない理由で私を拒むなんて……」

「さわちゃん、理由ならちゃーんとあるよ!」

「えっ!?あら、そうなの?ごめんね~、先生はやとちりしちゃった。それで?その理由ってな~に?」

「それはもちろん、あずにゃん……じゃなくて、あずにゃ姫分の補給です!フンスッ」

「……あの……唯ちゃん?言っている意味がちょーっとわからないんだけど……」

「だから~、『あずにゃ姫分補給』だってば~。さわちゃんだって、大好きな人をぎゅーってするとほわぁ~んってなって気持ちいいでしょ~?」

「……」

「あれ?さわちゃん、どうしたの?うつむいて肩を震わせてるけど……」

「……ゆ・い・ちゃん♪」

「はい」

「ちょっと、こっちにいらっしゃい♪」

「え……えと……」

「さっさとこっちに来なさい!!」

「は、はひぃ!」

「ね、ねぇ梓。もしかして今のが……」

「そう。あれがデスデビr」

「そこ!こそこそ話さない!!」

「ひぃぃぃっっ!!」

「す、すみませんでしたぁぁぁーー!!」

「……さてと。唯ちゃん、私の前に座りなさい♪」

「はいぃ……それで、あの、私、何か、いけない事、しましたかぁ!?」

「したわよぉ~♪だ・か・ら~♪」

「だから?」
 ・
 ・
 ・
「こうするのよぉぉぉっっっ!!!さっきの台詞を言ったのはこの口かぁ!この口かぁぁっっ!!この口かぁぁぁっっっ!!!」

「いひゃいいひゃい!はわひゃんおえんあひゃ~い!!!」

「……唯先輩って、天然と言うか無邪気と言うか……本当に噂通りの人だったんだね……」

「うん……部室でもたまにやられてるよ……」

「前は家でもお父さんやお母さんにやられてたよ……」

「ふぅ……唯ちゃん!金輪際さっきみたいな台詞を言わない事!わかった!!」

「はい……申し訳ございませんでした……」


梓姫の姿を見る事が出来なかった帝は、せめてもの手土産としてネコミミを翁に預け、

PC及び携帯のメールアドレスと電話番号を嫗に教え、屋敷を去って行きました


「……ネコミミやメールやケータイが平安にあるかぁぁぁぁっっっっーーーー!!!!」

「純……」

「ん?」

「……ツッコミお疲れ」

「……あんがと」

その後も多数の公家や貴族が梓姫に面会を申し込みましたが、誰ひとりとして会うことは叶いませんでした

ただ唯一、帝とだけはメールでの悩み相談等で親交を深めていきました


「だからメールって……」

「純ちゃん、そんなにツッコミばかりしてると疲れちゃうよ……だからさ、程々にしておいたほうが良いんじゃないかなぁ」

「そうそう。憂の言う通りだよ~。ノンビリゴロゴロリラ~ックスだよぉ~」

「……唯先輩が今ここに居るってのが、一番ツッコミたい点なんですけど……」

「良いじゃん。唯先輩なんだし」

「そうだよ。お姉ちゃんなんだから」

「その流れさっきやったし!!……ってもぉいい!疲れるからツッコミ止める!!」

「でも……ツッコミするよね」

「するね」

「私も~そう思うよぉ~」

同じく私もそう思いますね。

「……なんでナレーターまで同意するのよ……」

「まぁ、ナレーt」
「それはもういいから!!」

「……やっぱりね」

「……ツッコミいれたね」

いれましたね。

「……おちつけぇ~……おちつくんだわたしぃ~……素数を数えて……1・2・3・5・7・11・13・17・19・22・24・26・29・31・37・41・53!!!!」

あの、途中間違えてますよ。

「……いーのっ!!!」

そうですか。

「そうなのっ!!……ったく……。あ、そうだ。ナレーターに聞きたいんだけどさ」

はい、なんでしょうか。

「さっき『悩み相談』って言ってたよね……それって何の相談?」

気になりますか?

「ま~ね~。だって私達が居るのにも関わらずわざわざ帝とメールで相談するんだよ!?気にならない訳が無いでしょ」

では、次のシーンまで時間を進めましょうか。

「あ、それなんだけどさぁ、何で次のシーンは三年後なの?」

変ですか?

「そりゃあ変でしょ。まぁ一日ずつとまでは言わないけど、一ヶ月とかワンシーズン毎とか、そんなペースで進めても問題は無いんじゃない?」

いえ、それが……その……大有りでして。

「そうなの?」

はい。原作でもこの間の事は描かれていないんですよ。

「はぁ」

なので……申し訳ありませんが、一気に三年進めさせていただきたく……。

「そうなんだ。なら、いいや。ちゃっちゃと進めちゃって」

純さん、ありがとうございます。では……っとその前に少々準備を……。

「準備?」

はい。齋藤さん、例の物を梓姫さんにお願いします。

「かしこまりました。では……こちらをお渡しいたします」

「えっと……ノートPC?」

「必要なソフトは既に起動しておりますので、どうぞ開いてみて下さい」

「あ、はい。……メーラー?送信済みトレイにメールがいっぱい……。あの、これってもしかして……」

『梓ちゃん、その通りよ』

おや、さわ子さん。いきなり何ですか?

『何ですかもなにも……何?このメールの数々は……』

『さわちゃんみせてー。……うぉっ!!こ、こんな沢山のメール、私には到底出来ない!!だがしかし、澪ならば可能……だよな』

『私にふるな!それに……いくらなんでもこの数は私だって無理だ。先生、梓からのメールは一体何通あるんですか?』

『全部で980通、まぁ実際に梓ちゃんが書いたのは十通なんだけどね。確か件名に『梓(梓姫)です』って書いてあるのがそうよね?』

「あ、はい。その通りです」

因みにそれ以外はスタッフとアルバイトに書いてもらいました。

「へぇ~。……どんなのか読んでみたいなぁ~」

「あ、私も読んでみたい~」

「ちょっ!純!憂!」

「という訳で、見に行っても良いですか?」

あ、ではお二方も隣のスタジオへどうぞ。

「あ、そ、それは困る!」

「なんで?」

「……なんでも」

「じゃぁさ……まずい部分を黙読するんなら良いでしょ?」

「でも……」

「なら今ここで教えてよ、なんて書いたのかを」

「そ、それは……ゴメン、ちょっと無理……かな」

「それじゃぁ見なきゃ尚更わからないじゃん。という訳で私と憂は向こうに行ってくるね~」

「あ、ちょ!ちょっと待ってよ!!」

おっと、梓さんはそこから出てはいけませんよ。

「えぇっ!?そんなぁ~」

決まりは決まりなので……すみません。モニターで様子を見ていて下さい。

「大丈夫、私が一緒に居てあげるからね」

あ、では唯さん、梓さんをお願いしますね。

「は~い。……あずにゃ姫様~、むぎゅぎゅ~」

「にゃ、にゃぁぁぁっっっ!で、でもっ!!あのメールはっ!!!」

「んもぉ、あずにゃ姫様、落ち着いて下され。ねっ……いーこいーこ……」

「ふみゅぅぅぅぅ……」

ではカメラを隣のスタジオに切り替えまして……。


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最終更新:2011年08月18日 20:26