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「しっかし……梓が書いたメールかぁ、どんな事書いてあるんだろうな」

「確かに、気にはなるな」

「どんな事が書いてあるのかしら~」

「まぁ、私は一度目を通したけどね」

「えっ!?じゃぁさっき梓が言ってた『読まれたくない理由』ってのも既にわかってるの?」

「う~ん……、多分そうじゃないかなって程度にはね」

「成る程……」

「さわ子先生、先輩方、ただ今到着しましたー」

「純ちゃん、憂ちゃん、いらっしゃい」

「……どうしたんですか?皆さん考え込んでいますけど……」

「ん?あぁ、かくかくしかじかで考え込んでいるだけよ。……まぁとにかくみんな読んでみなさい。梓ちゃん本人が書いたメールだけ表示してあるから」

「本当に読めば理由がわかるのか?」

「多分、ね」

「じゃぁ一通目から読みましょうか。えっと……」



件名 梓(梓姫)です

本文 ムギ先輩に言われてメールしました

   悩み事を書いて相談する

   という感じで書いてほしいと言われたのでこれから何通か考えて送りますね



「まぁ、普通だな」

「あぁ」

「えぇ」

「そうですね」

『普通でいいじゃないですか、最初のメールなんですから。……あの、この先も……読むんですか?』

「ん?そのつもりだけど」

『できれば……読まないでいただければ……嬉しいんですけど……』

「あぁ、さっき言ってた『読まれるとまずい』って事か?」

「だいじょーぶ、そん時は黙読するから。んじゃさわちゃん、次お願い」

「はいはい。それじゃぁね……これなら良いかしら?半年位経過したっていう設定のメールよ」



本文 突然ですが、恋って何ですか?

   私、とある人の事が好きなんです

   その人の事を想うと、それだけで胸が張り裂けそうになるんです

   さわ子先生、これが恋なんですか?



「一気にきましたなぁ」

「そうだねー」

『も、もう十分ですよねっ!だからこれでおしまいにしませんかっ?』

「いやいや、これだけじゃまだまだですなぁ~」

「折角盛り上がってきたんだし~」

「ムギ先輩もそう思いますか?」

「えぇ、もっちろ~ん♪」

『で、でもでも!』

「だから落ち着けってーの。ちゃんとまずい部分は黙読するって」

『あ、あの!律先輩!そうじゃなくて!』

「さわちゃ~ん。次はどれが良いかなぁ?」

「そうね……じゃぁこれかしら。因みに七通目よ」

『七通目……あ!そ、それは絶対にダメです!!!』

「だが私は見るぞ!」

「律!!」

「澪まで……そんなに私は信用出来ないか?」

「いや……梓があれだけ嫌がっているから……」

「見るだけだってば。えーと、どれどれ……」



本文 さわ子先生

   私、今まで好きな人の名前を敢えて書かないでいました

   何故かというと、その人は先生もよく知っている人だからです

   私が好きな人……、その人の名前は平沢唯と言います

   そうです。私が好きな……愛している人は、唯先輩なんです

   私自身、女の子なのに……って思った時もありました。

   でも、憂と純が、お互いに勇気を出して告白して、恋人になった時に私わかったんです

   好きになったのなら、そんな考えは小さな事だって

   だから、私決めました!

   唯先輩に勇気を出して告白します!

   でも……多分、私はフラれると思います

   だって、唯先輩にとって私はただの『後輩』

   いつもの抱き着きだって、ただのスキンシップだって事、わかってますから

   だけど、言わないでウジウジとしているよりは、言って砕けた方が気持ち的に納得出来そうなんです

   私、これからは後悔しない生き方をしていきたいんです

   でももし、唯先輩がオッケーしてくれたら

   その時は、一番に報告しますね



   それでは、失礼いたします


   P.S. 支離滅裂な文章になっちゃってすみません



『ヒック……ヒック……グズッ……』

「あ、梓ちゃん!どうしたの!?」

『グズッ……読まないでって……エグッ……言ったのにぃーーー……ウワァァァァーーーン』

「え?で、でもさ、誰も声に出して読んでないぞ!」

『あのね、りっちゃん……メールの内容ね……モニターに……全部……映ってるの……』

「えぇっ!?……そう、だったのか……梓、ゴメン。悪かった」

「ご、ごめんね、梓ちゃん」

「私も……梓、本当にゴメン」

「……私達みんな同罪よ。梓ちゃんがあれだけ嫌がっていたのに……その理由も聞かないで勝手に読んでいたんだから……。梓ちゃん、ごめんね……」

『ヒック……グズッ……ウグゥ……』

「……唯ちゃん、聞こえる?」

『あ、はい』

「……あなたの出番よ。わかるわよね」

『はい。……あずにゃん、泣かないで』

『ウゥッ……ヒグッ……グズッ……ウゥッ……』

『あずにゃん……』

『ゆ、ゆいぜんばいぼ……ヒック……おどろぎばじだよで……エグッ……』

『うん……驚いた』

『ぞうでずよで……ウグッ……ごんだごど……おどろがだいでいだれるびど……グズッ……いばぜんよで……』

『……』

『ヒック……グスッ……へ、変ですよね!私が、唯先輩を、好きだなんで……ヒック……おかしい……グズッ……です……よね……』

『……おかしくなんかないよ』

『嘘!!』

『嘘じゃないよ』

『だって、唯先輩は色んな人と仲良くしているし……グスッ……抱き着いたりも……ウゥッ……してるじゃ……エグゥ……ないですかぁ……ウワァァァーーーン』

『あずにゃん!!』

『……ヒック……』

『さっきの純ちゃんじゃないけど……なんで私があずにゃんをギュッてしているか……わかる?』

『わかり……ウゥッ……ません……』

『あのね……私も、あずにゃんが好き。愛してる』

『ほんとう……グスッ……ですか?』

『うん。……私ね、何度も……あずにゃんに告白しようと……思ってたんだ』

『……グズッ……』

『でもね、私は……あずにゃんみたいに勇気がなくて……臆病だったから……告白……出来なかったの……』

『唯先輩……グスッ……』

『だからね……グズッ……今……とても……嬉しいの……』

『ゆい……せんぱい……』

『あずにゃん……グスッ……遅くなっちゃたけど……私にも言わせてもらえる……かな?』

『……はい』

『あずにゃん……私、あずにゃんが好き。愛してる。だから……この先もずっと……一緒に居てもらえますか?』

『唯先輩……それじゃまるで……』

『まるで?』

『……プロポーズじゃないですか……』

『あ……ホントだねぇ~』

『もぉ……ふふっ』

『えへへ。……ねぇ、あずにゃん』

『ふふふっ……なんですか?』

『……やっと、笑ってくれたね……』

『……?』

『あずにゃん……今日、ここに来てから一度も、笑っていなかったから……』

『そう……ですか?』

『うん。……笑ってはいるけど、本当の笑顔じゃなかった』

『本当の……?』

『本当の。あずにゃんが心から嬉しい時にだけ見せる本当の笑顔。今日は一度も見せていなかったから……心配だったんだよね……』

『……気づきませんでした……』

『だからね……今、あずにゃんが本当の笑顔を見せてくれて、とても嬉しいよ』

『……唯先輩が……』

『ん?』

『唯先輩が、一緒に居てくれれば……それだけで私はいつでも……本当の笑顔を、見せてあげられますよ』

『……という事は……』

『私からもお願いします。……この先ずっと……一緒に居て下さい』

『……うん』

「……お~い、お二人さ~ん……って、聞こえてないか……」

あ、向こうのモニターは全てオフにしてあります。

「あ、そうなの?てかそれを早く言ってくれよっ!気を遣って損したじゃないか……」

「照れてるりっちゃんって可愛らしいわぁ~」

「よ、よせやい!」

「えぇ~?だって本当にそう思うんだもの~。澪ちゃんもそう思うでしょう?」

「へっ?あ、あぁ。コホン……た、確かに、少し、カワイイと、思う……ぞ」

「みぃ~おぉ~。なんで澪までそんな事言うんだよぉ~。余計恥ずかしくなるじゃんかぁ~」

「そ、そんな事言われても……。私は、ただ、事実を述べただけだぞっ」

「お、追い打ちをかけるなよぉぉーー」

「うふふふふふふ」


「先輩達……楽しそうだね」

「うん、そうだね~。あ、お姉ちゃんと梓ちゃんも楽しそうだよ」

「ホントだ。……凄く楽しそうに笑ってる」

「……良かったね、お姉ちゃん、梓ちゃん」

「うん。二人とも……おめでとう。……あ、そうだ。先生に聞きたい事があるんですけど……」

「何かしら?」

「さっき、梓からのメールは一度目を通したって言ってましたよね」

「えぇ」

「それはつまり、梓が一番嫌がるであろう七通目のメールを、敢えて私達と唯先輩に見せた……という事ですよね」

「その通りよ。……なんでそんな事をしたんだろうって顔をしているわね……。良いわ、種明かししてあげる。ちょっと!そこの三人もこっちに来なさい!!」

「「「はーい!」」」

「んで、さわちゃんな~に?」

「あなた達も気になるでしょ?私がなんで七通目を見せたか」

「それは、確かに気になります」

「それについて、種明かししてあげるわね」

「種明かし……トリックを自らばらす……つまり全てを話すという事?……りっちゃん警部

!犯罪のにおいがします!!」

「あぁ、そうだな……ってムギ、しないから」

「えぇ~!?……ショボーン」

「いや、えぇ~じゃないし、おまけに落ち込まれても困るし。てかさわちゃんの話しきこうぜ」

「はぁ~い」

「はぁ、全くムギもムギなら律も律だな……。それで先生、なんで七通目をわざわざ見せたんですか?」

「……えっ?あぁ、ごめんね。りっちゃんとムギちゃんの掛け合い漫才が面白くてついボーッとしちゃってたわ」

「……面白かったんだ……」

「……純ちゃん、それは言わない約束だよ……」

「えっと……あぁ、理由ね。それはねぇ……んーっと……ちょっと待ってね……」

「……携帯に何かしらのヒントが!?やっぱりこれは犯罪のn」
「それはもういいから」

「……あ、これこれ。このメールを見てちょうだい」

「それって……唯から?」

「……だな、えっと……」



件名 さわちゃんこんばんわ

本文 えと、突然のメール、ゴメンナサイ

   実は、さわちゃん……いえ、人生の先輩であるさわ子先生にどうしても聞きたい事があるんです

   恋って何ですか?

   私、とある人の事が好きなんです

   その人の事を想うと、それだけで胸がドキドキしたり、ギュッってなったりするんです

   さわ子先生、これが恋なんですか?



「字面こそ違えど……」

「文脈はほぼ同じだね……」

「で?さわちゃんはどう返事したんだ?」

「ちゃんと返事したわよ、それが『恋』だって」

「おぉ!いつになく真面目だ!!」

「当たり前でしょぉ~?教え子から送られてきた直々の相談メールなんだし……それに、嬉しかったからね」

「嬉しかった?唯ちゃんからのメールが嬉しかったんですか?」

「相談されたって事と、成長を知ることが出来たって事でね……。あ、これこれ。次はこのメールを見てちょうだい。因みにさっきから約半月後に届いたメールよ」

「どれどれ……」


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最終更新:2011年08月18日 20:30