「これで、邪魔する者は居なくなりましたね……梓姫!そちらにいらっしゃいますね」
『……帰って下さい!私は……地上で暮らしたいのです!』
「……そうもいきません。これは決まり事なのです」
『決まり事……私の意向は完全に無視なんですね』
「えぇ……そうよ。……だから、お願い。……嫌な事くらい、わかってる。でも……」
『和さん……ごめんね。私、和さんの気持ち、よくわかる。でも、私は……私は!あの奔放過ぎる月帝の許に戻る気などありません!!』
「……そんな閂と錠前一つで私から逃れられると思っているの?」
『はい!!思っています!!』
「そぅ、貴女も随分と地上で惚けたようね……こんな物、月光の力を使えばたやすく外れる事くらい覚えているでしょ?」
そう言って使者が両手を扉に翳すと、今までとは比べものにならない強い光が扉に降り注ぎました
すると、物音一つたてずに鍵が外れ、閂が動き、蔵の扉がゆっくりと開きました
「さ、そんな所に隠れていないで……えっ?……誰も……居ない!?」
「へっへーん!引っ掛かったなぁー!二人はとっくに逃げてったよーん!!」
「な、なんですって!?それは本当なの?」
「あぁ。梓姫は……既に抜け穴を通って安全な場所へ移った!月の使者でも手を出せない、太陽神の加護を受けた『聖域』にな!!」
「『聖域』ですって!?そ、それは何処なの?」
「うふふふ~、何処かしらね~。……『太陽が沈む事無く常に照らし続ける所』……残念だけど貴女には教えられないわ」
「お、教えなさい!今すぐに!!」
「そうはいきませぬ。先程も申したが、わしらにとって梓姫はなくてはならぬ存在なのじゃ」
「お爺さんの言う通りです、なので……お引き取り下され」
「でもまぁ、何処……というか今どうしているかくらいは教えてあげる」
「帝、それは真か?」
「帝の名にかけて誓うわ。それじゃぁ……梓ちゃ~ん♪唯ちゃ~ん♪今何をしているのかな~?……モニターかもーん!!!」
あ、それは私の台詞……。
「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ、気にしちゃダメですよ、ナレーターさん」
はぁ……わかりました。
「……さて、それじゃ今の二人を映してちょうだい!」
了解です。
……ここは屋敷から離れた……っておやぁ?何か変ですよぉ!?
「……樽G爆破しまーす!」
「オッケー!」
「……お、赤くなりましたよ!!」
「よっしゃ!えっと……罠はそっちか!!」
「ほれほれ~こっちだよ~ん」
「では私もそちらに……」
『……おい』
「んー?なーに、ねーちゃん」
「お!来たきたキタ━━━(゜∀゜)━━━!!」
「そのまま真っ直ぐ!!」
『……おい!』
「だからなーに?……よっしゃかかった!!」
「捕獲玉ポーイッ」
「私もポーイッ」
「オッケー!!ベリオ亜種ゲットーー!!!」
『おい!!聡!!!!』
「わわっ!!!お、驚かすなよ~」
『驚かすなよ~、じゃない!!なんでお前がそこに居るんだよっっっ!!!』
『てゆーか……聡の隣に居る君は……誰?』
「あれ?澪さんは会ったこと無いんだっけ?ほれ、挨拶」
「あ、えっと、田井中の友達の鈴木です」
『鈴木君か、よろしく』
『……ところで斉藤、あなたも何をしているのかしら?』
「御覧の通りでございます。お二方とパーティーを組んでモンハンをやっておりました」
『……そんな事を聞いているのではありません!!』
『あの、唯先輩と梓は何処ですか?』
「あぁ、それでしたら……ナレーターさん、すみませんが部屋の隅にある外部ケーブルのBをモニター端子に繋いでいただけますか?」
隅に……あぁ、これですか。少々お待ち下さい。
『……斉藤、なんでこんな事をしたのか今すぐ教えなさい』
「お嬢様……申し訳ございません。全ては唯様からのご提案でして……」
『唯ちゃんからの?』
「はい……」
……お取り込み中申し訳ありませんが、繋げましたよ。
「ありがとうございます。お嬢様、詳しくは唯様ご本人から説明があると思われますので……」
『……わかったわ』
では、外部スイッチを入れますね。
『……草原?』
『だな……おそらく外の』
『でも、なんで唯ちゃんはこんな事をしたのかしら……』
『まぁ、直接聞いてみればいいさ。おーい!ゆいー!!』『……』
『あれ?ゆいー!!あずさぁー!!返事しろぉー!!!』
『……』
おかしいですね……、斉藤さん!
「はい」
お二人は外に居るんですよ……ね?
「そうです。おぉ、一つ言伝を忘れておりました」
言伝……ですか?
「はい。唯様より預かっております。『ナレーターさん、ちゃんと再開してね』との事です」
ちゃんと……ですか?……ちゃんと……ちゃんと……あ!そ、そうか!!
『あの、唯先輩の言伝で何がわかったんですか?』
純さん、キーワードは『再開』ですよ。
『再開……あぁーー!!なるほど~、手が込んでるなぁ~』
『お姉ちゃんらしいね~』
「それと、ナレーションを少し手直しされたそうです。そちらに置いてあるPCにメールで送ったと言っておられましたが」
PCにメールで……あぁ、これですね。えーっと、これは台本のこの部分を置き換えれば良いのですね?
「はい、そうです」
わっかりましたー!では早速再開しますよ!!
……ここは屋敷から離れたとある草原……
太陽の光がさんさんと降り注ぎ、薫風が走る度に若草が華麗な踊りを披露しています
草原をよく見ると、中央付近に小さな祠が一つ
その前に立ち、手を合わせる人影が二つ
梓姫と唯麻呂です
「唯麻呂様、こちらに奉られているのが……」
「はい。太陽神、『天照大神』様です」
「だから夜半を過ぎているのに太陽が天にあるのですね」
「えぇ。……ここならば、流石の月読命といえども手を出すことなど無理ではないですか?」
「……そうですね……」
『梓姫』
「その声は……和さんですか?」
『えぇ、そうよ。……まさかそんな所に逃げるとは思いもしなかったわ』
「……私も、こんな場所があるとは思いもしませんでした」
『もう一度、確認するわ。……梓、本当に帰る気は無いのね?』
「……うん。私は……さっきも言った通り、月帝の自由奔放ぶりが嫌なの!」
「あずにゃ姫……それ程までに月帝が嫌いなの?」
「だってそうでしょ!ある日突然『地上に降りて修業をしてこい』って言われて!有無を言わさずに竹型カプセルに乗せられて!!」
「そんな事を……?」
「地上で楽しく暮らしていたのに突然『帰ってこい』って言われて!!おまけに私を連れ帰る使者が幼なじみの和よ!!!なんで……なんでこんな酷いことばかりするのっっ!!!」
『……そうよね、今回ばかりは酷すぎるわね……』
「修業って何!?月の姫になるための修業だって言ってたけど!これじゃ……これじゃぁ……単なる……イジメ……だよぉぉぉ……」
「あずにゃ姫……泣かないで……ギュッ……いーこいーこ」
「唯麻呂さん……唯麻呂さぁぁぁぁーーーーん!!!ウワァァァーーーン!!!!」
『……和殿』
『和で良いわ、えーっと……澪御主人』
『澪と呼んでくれ。それで……その……月帝とは梓姫が言ったような人物なのか?』
『……えぇ。良くも悪くもその通りよ』
『良くも悪くも?』
『そう。……私と梓は共に孤児だったの。でも、月帝はそんな境遇にある子供達を集めてちゃんと育ててくれたわ。』
『……それが自由奔放となんの関係があるんだ?』
『大有りよ、だってそのために国の法律まで変えてしまったし』
『はぁ……自由奔放もそこまでいくと凄いな』
『それに、その性格のお陰で政も上手くいってるし。ただ……下手に上手くいっているから、今回みたいな事は全て見て見ぬ振りをされているのも、事実よ』
『……同じ帝を名乗る者として、にわかには信じ難いな……』
『まぁ、そうでしょうね。実際、月帝の良い面のみを見ている者からしたら有り得ない事ですから』
『孤児を育てる慈愛の心と孤児を突き放す鬼の心を持つのか……まるで地蔵菩薩だな』
『ジゾウボサツ?その名を聞いたことはありませんが……おそらく帝の言うそれと同じではないかと思いますけどね。……さて、ねぇ梓、聞こえる?』
「ヒック……うん……」
『もう一度聞くわ。……月帝の勅にそなたは従うか?背くか?どちらか速やかに答えよ』
「……私は……月には戻りません!」
『では、恩義ある月帝に背くのだな?』
「……恩義がある事は重々承知の上です。ですが、私にはその恩義をも上回る恩義が、地上の皆にあるのです!!」
『……そう、わかった……じゃぁ月帝にはそう伝えておくわ』
『和さん……本当に良いの?』
『紬皇子……えぇ、これで良いんです。私も、今回の件に関しては少なからず思うところがあるので』
『でもさぁ、手ぶらで帰ったら大変な事にならないのか?』
『それくらい承知の上ですよ、律皇子。……まぁ、大変な事と言っても、私が姫になるだけ
ですから』
『『『『『『「「えぇっ!?」」』』』』』』
『そんなに驚かなくても……』
『いや、普通驚くだろ』
『……そうかしら?』
『うん!』『あぁ!』『えぇ!』『そうよ!』『そうですよ!』『それが普通ですよ!』
『……地上人の考えはよくえわからないわ……』
『いや、むしろ月の人の考えがおかしいと思うんだが……』
『……まぁいいわ。それで?梓はこれからどうするの?』
「私は……唯麻呂様と共にこうします!!」
梓姫はそう叫び、唯麻呂と固く手を繋ぎました
するとどうでしょう、二人を不思議な光が包み込み、辺りはまばゆい輝きに満たされました
「……斎藤さ~ん、ちゃんと見えなくなってますか~?」
『大丈夫ですよ、唯さん』
「唯先輩、急がないと!」
「ほいほ~い」
『……なぁ澪、あの二人は何をやっているんだと思う?』
『さぁな……。既に昨日決めたシナリオから逸脱しているしな』
『ワクワクするわぁ~』
やがて光は徐々に薄らぎ、二人の姿が再び露わになり……ってえぇぇぇーーー!?
「ナレーターさん、どうしました?」
いえ、どうもこうも……お二人の格好が以外過ぎたので……つい。
「んもぉ、折角ポーズ決めてるんだからちゃんとやってよぉ~」
『いや、その格好は誰が見ても驚くと思うぞ』
『律の言う通りだ。なんでそんな格好しているんだ?』
「……変ですか?」
『変も何も……なんで梓も唯先輩も普段着なのさ』
「いやぁ~、実は昨日の夜テレビ見てたら急に閃いてさぁ~」
『閃いたって……唯、何を閃いたの?』
「あのね、和ちゃん。昨日の天気予報で今日は晴れて心地好いって言ってたんだよ」
「唯先輩……それだけじゃ通じないと思うんですけど」
『……つまり、晴れて心地好いから、スタジオじゃなくて外にしたって事ね。ついでに終わったらそのまま外でのんびりまったりしようと思った……でしょ?』
「おぉ!さっすが和ちゃん!!」
『まぁね、伊達に長い付き合いじゃないし』
『じゃぁ……斎藤は昨日の夜に唯ちゃんから連絡を受けていたのね』
『はい。他言無用と言われましたので……お嬢様、申し訳ございません』
『まぁ、そういった理由なら仕方ないわ。今回は許してあげる』
『お嬢様、有難うございます』
『あれ?でも一つおかしくないか?』
「ほぇっ!?りっちゃん、どこかおかしい所あった?」
『いや、唯達じゃなくて……おい、聡』
『なーに?』
『お前がここに居るのは良いとしてだ、何で鈴木君も居るんだ?』
『斎藤さんに頼んで連れてきてもらった』
『そうじゃなくて……何で連れてきたかって事!』
『あぁ、そっちか。……暇だったから』
『……そんな理由で呼んだのか?』
『だって、電話したら暇だしオッケーって言ってたから』
『鈴木君……本当?』
『あ、はい』
『はぁ……最近の若者はよくわからんなぁ』
『お前も最近の若者だろ……』
『聡よりは年上だいっ!!』
『はいはい……』
「あの~、すみませんけど~」
『梓ちゃん、な~に?』
「そろそろ再開していただけませんか?」
「このポーズとってるのも辛いんだよ?」
『……そんな戦隊モノの決めポーズみたいなのしてるんだから仕方ないんじゃない?てかポーズやめれば良いじゃん』
「いやぁ~そう言われてもですねぇ~」
「なんかさ、タイミング逃したら辞めづらくって……」
『なにそれ……ま、いっか。梓と唯先輩だし』
『そうだね~』
「純だけじゃなく憂まで……」
「二人共……しどいよ……シクシク」
まぁまぁ、ではお望み通りに再開しますよ。
最終更新:2011年08月18日 20:49