梓「……」
カレンダー:二十一日、律先輩バースデー!
梓「もう一週間切っちゃった」
梓「何か贈り物したいけど、私じゃ何もできないなぁ」
梓「はぁ、普段から家事習っておけばよかった」
チュン チュン
梓「たい焼きでも買ってあげればいいよね」
梓「いや、ここは奮発してハーゲンダッツにしてあげよう」
梓「うん、そうしよう。あの人ラムレーズン好きだし」ケッテー!
梓「……」
梓「…………」
――――――
律『あっずさ~、カレーできたぞ』
梓『わ~、いっただっきま~す!』
パクパク モグモグ
梓『おいしい! 律先輩のカレー大好き!』
律『それだけ美味そうに食べてもらえたら、作りがいがあるよ』
梓『甘口でコクがあって、優しい味です』
律『はは、そりゃどうも』
パク…
梓『……』
律『どした?』
梓『あの、律先輩』
律『んー?』
梓『いつも、ありがとうございます』
律『うん』
梓『律先輩のおかげで、一人のときも心強いです』
律『いいんだよ』
梓『……』
律『親がいない時は、私を頼れって言ってるだろ』
梓『……はい』
――――――
梓「……」
梓「自信ないけど、やってみよ」
梓「こんなときにしか恩返しできないもんね」
梓「誕生日といえばケーキだよね」
梓「よし、立派なケーキを作って律先輩を驚かしてやろ」
サンプン クッキング!
梓「……」
梓「ケーキってどうやって作るんだろ」
梓「とりあえず卵は温めるよね」
梓「う~ん、でも卵一個のためにお湯を沸かすのももったいないしなぁ」
梓「!」ピーン
梓「ここは電子レンジの出番だ」
梓「レンジなら時間もエネルギーも節約できるし。うん、何て地球に優しいエコだろ」ピッ
ウィーーン
チュドーーーン!!!
梓「……」
モクモクモク
梓「……」
「正午をお伝えします」
ピッピッピッ ピーーー
梓「……ケホ」
プルルルル… ガチャッ
「はい、平沢です」
梓「あ、憂?」
「梓ちゃん? どうかしたの?」
梓「あのさ、ケーキってどうやって作るの?」
「あ、もしかして律さんに?」
梓「ち、違うもん! ちょっと自分で作って食べたくなっただけで……」
「ふふっ、羨ましいなぁ」
梓「違うって言ってるのに!」
「う~い~、お昼ご飯まだ~?」
「もう少しだけ待ってね、お姉ちゃん」
梓「ごめんね、お昼作ってる途中だった?」
「ううん、全然気にしなくていいよ」
梓「また、かけ直そうか?」
「どうせお盆で私もお姉ちゃんも暇だし、大丈夫」
梓「そっか。それじゃ教えてもらおうかな」
「は~い」
「それで、どんなケーキを作ってあげるの?」
梓「へっ?」
「チーズケーキとかタルトとか。スポンジケーキでも、ココアとかモンブランとかショートケーキとか色々あるよ」
梓「……考えてなかった」
「う~ん、初めて作るならパウンドケーキがおすすめかな」
梓「パウンドケーキ?」
「ほとんど焼きっぱなしで大丈夫だから、比較的簡単なケーキなんだよ」
梓「うん、それにしてみる!」
「それじゃメモのご用意を」
梓「了解!」
「まずは薄力粉、グラニュー糖、卵を用意しまして……」
梓「薄力粉ってうどん粉じゃだめ?」
「だめ」
梓「グラニュー糖って何?」
「お菓子用の砂糖なんだけど、なければ普通の砂糖でいいよ」
梓「ふむふむ、メモメモ」
カキカキカキ
「……って、こんな感じかな」
梓「ふんふんなるほど」
「ごめんね、電話じゃ伝えきれないかも」
梓「ううん、すごく参考になった」
「後は律さんの好みに合わせてだけど、好き嫌いはあるの?」
梓「何でも食べるよ。雑食だし」
「そんな動物みたいに……」
梓「ムギ先輩のケーキはいつも美味しそうに食べてるよ」
「それじゃ大丈夫だね。まぁ、梓ちゃんが作ってあげたものなら何でも喜んでくれると思うけど」
梓「……」カァッ
「梓ちゃん?」
梓「な、何でもない!」
「こんな所かな」
梓「ありがと、色々教えてもらって」
「ううん、頑張ってね梓ちゃん」
「うい~~おなかとせなかがくっつくよ~~~」
梓「何か悲痛な叫びが聞こえるけど大丈夫?」
「お姉ちゃん、今行くから待って!」
「ごめんね、また何かあったら電話して」
梓「うん、ありがと」
ガチャッ
梓「……」
梓「よし、頑張るぞー!!」
梓「とりあえず、試しに作ってみよう」
梓「えっと、砂糖はこれぐらいかな」バッサァ
梓「ラム酒はこんなぐらい?」ドバァ
梓「……」
梓「何かすごいにおいするけど……ま、いっか」
ベチャア
梓「……全然こねられない」
梓「とにかく焼いたら何とかなるよね」
梓「どうにか焼き上げたけど」
グチャァ
梓「……」パクッ
梓「うっ……ぱっさぱさで甘ったるくて、正直まずい」
梓「……」
梓「うん、誕生日までには何とかなるよね」
梓(多分)
―公園―
ミーンミンミンミーン
シャワシャワシャワシャワシャワ
律「あぢ~~」
梓「日陰じゃないですか」
律「日陰だろうがベンチの上だろうが、暑いものは暑いだろ」
梓「だからこそかき氷が美味しいんです」シャクシャク
律「それは同感」シャクシャク
梓「ふんふ~ん♪」
律「何かご機嫌だな」
梓「久しぶりの部活でしたから。家練よりみんなと合わせる方がやっぱり楽しいです」
律「だよな、家じゃ弟がうるさいって騒いでさ」
梓「それに、律先輩と二人きりになるのも久しぶりですし」
律「っ……」
律「ひ、久しぶりっても一週間ぶりぐらいだろ」
梓「一週間なら十分久しぶりです。だから、嬉しくて」
律「うっ……」
梓「……」シャクシャク
律「わ、私も梓と二人きりになるのが……」
梓「あぅ、きたきた」キーン
律「……」
梓「かき氷の醍醐味はこれですよね。あれ、何か言いました?」
律「何でも」プイッ
梓「?」
梓「やっぱりかき氷は氷あずきに限ります」
律「たい焼きといい、お前はあずきが好きだなぁ」
梓「だってあずきとあずさって似てるじゃないですか」
律「関係あんの?」
梓「ぜーんぜん」
律「何だよそれ」
梓「それにしても、律先輩がブルーハワイなんて似合わないです」
律「な、何だとー!」
梓「スイ、とか言って砂糖水かけてそうなのに」
律「お前の中で私はどんなイメージなんだ」
ジジ・・ ジジ・・ ミーンミーン
梓「ふ~、かき氷食べて頭すっきり、体ひんやりです」
律「大分涼しくなってきたな」
黒猫「ニャーン」
梓「あ、猫だ! おいで~」
黒猫「ニャーオ」
チリンチリン
律「あっぶね、自転車にひかれそうになったぞ」
梓「ずいぶん間が抜けた猫ですね」
黒猫「……」テクテク
律「暑そうな色してるな」
梓「この子のせいじゃないですよ。ほら、ちっち」
黒猫「……」プイッ
梓「あれ?」
黒猫「ニャーン!」ピョン
律「ととっ、危ないだろお前」
黒猫「♪」ゴロゴロ
梓「むー……」
律「嫌われたらしいな」
梓「ふんだ」
律「こら、お前」
黒猫「?」
律「もっと周りに注意を払え。いつか轢かれちまうぞ」
梓「まあまあ、猫は気ままな方がいいんですよ」
律「梓みたいに?」
梓「私は猫じゃありませんっ」
律「猫みたいに甘えん坊のくせに」
梓「むっ」
律「今日はいつもみたいに甘えてこないんだな」
梓「む~~……」
律「膝は占領されちゃったけど、私の肩は空いてるぞ」
梓「別にいいもん」
律「ふぅん、いいんだ」
梓「……」
律「……」
梓「……」ピチッ
律「素直でよろしい」
梓「うるさいです」
黒猫「……」ニヤニヤ
梓「……」ジー
黒猫「……」ジー
梓(もしかして、この子も律先輩のことが好きだったりして)
黒猫「」フニャァ
梓(律先輩は私の恋人なんだからね)
梓(絶対にあげないよーだ)
黒猫「?」
梓(でも、今だけ律先輩の膝の上は貸してあげる。いつもは私の特等席だけど)
黒猫「ファーア…」
梓(ね、何だかほっとするでしょ? 私も大好きなんだ、その場所)
黒猫「」ゴロゴロ
梓(何だか君には親近感が湧いてくるよ)
梓(同じ人が好きな者同士、惹かれ合っちゃうのかな)
律「何ぼ~っとしてんだ」
梓「何でもないですよ」
律「こいつと会話できるのか?」
梓「まさか」
黒猫「ニャッ」
シャワシャワシャワシャワシャワ
梓「もうすぐ私はじゅうななさい♪」
律「あれ、誕生日いつだっけ」
梓「十一月です」
律「まだ三ヶ月も先じゃん」
梓「三ヶ月なんてあっという間ですよ」
律「その頃には涼しくなってるだろうな」
梓「涼しいどころか、もう秋になって寒くなってますよ」
黒猫「zzz」
律「……そうだな」ナデナデ
最終更新:2011年08月21日 23:01