ザーー ザーー

梓「雨が強くなってきたね」

黒猫「ニャー」

梓「でも、もう少しで律先輩の家」

梓「えへへ、律先輩どんな反応するかな」

梓「いっぱい喜んでくれるかなぁ」

梓「頑張って作ったケーキ……見てくれは悪いけど、気に入ってくれたらいいな」

黒猫「……」ピュー

梓「あ、ちょっと走っちゃだめだよ!」

黒猫「」ピュー

梓「猫ちゃんってば!」

梓「はぁ、はぁ……これじゃ私が猫に従ってるみたい」


梓「お~~い、待ってよ~~」

黒猫「ニャー!」

梓「も~~、勝手な猫」


黒猫「……」トテトテ

梓「……あっ」

梓「だ、ダメだよ! 赤信号だよ!」

黒猫「ニャッ?」


プーーーーーーーーッッッ!!


黒猫「?」

梓「あぶないっ!!!」


キィーーーーーーーーッッッ!!!




ドサッ


ザー シトシト… ザー


梓「……」

「お、おい大丈夫か! おい!」

梓「猫ちゃん、大丈夫……?」

黒猫「ニャッ、ニャー?」

梓「そ。よかった」

黒猫「」スリスリ

梓「もー……急に飛び出しちゃ、ダメじゃん」

黒猫「ニャー…」

梓「律先輩にも、注意されたでしょ」

黒猫「……」

梓「ホントにもう、この……」


……ばか猫。



――
――――
――――――――

――――――――
――――
――



カッチコッチ カッチコッチ

律「……」チラッ

律「……」

律「……」ウロウロ

律「……」チラッ

聡「何やってんだよ、うっとうしい」

律「うるさい殴んぞ」

聡「誕生日なのにカリカリしてるなぁ」

律「……」


カッチコッチ カッチコッチ

律「……遅い!!」

聡「」ビクッ

律「いくら何でも遅すぎ! 何やってんだあのバカ!」

聡「ちょ、落ち着けって」

律「あ~~~もう、連絡ぐらい寄こせってのっ!」

聡「こっちからすりゃいいじゃん」

律「……」

聡「知ってんだろ? 連絡先」

律「……」ポンッ


プルルルル… プルルルル…

律「……」

プルルルル… プルルルル…

律「」グリグリ

聡「イテテッ、苛つくのは分かるけど俺に当たるなよ」

律「黙れ」

聡「」


プルルルル… ガチャッ

律「!? おい梓お前今どこいんだよふざけんな!」

「もしもし、梓の母です」

律「」

「あ、りっちゃん? ごめんね、あの子携帯忘れたみたいで」

律「す、すいません。失礼しました」

「梓はもう着いたかしら」

律「いえ、それがその」

「まだなの?」

律「……はい」

「おかしいわね、もう一時間以上前に出てるんだけど」

律「本当ですか!?」

「え、ええ」

律「何してんだよあいつ……」ギリ

「もしかして、何か……」

律「!」

律「すいません、私ちょっと探してきます!」

「えっ? りっちゃん?」

律「失礼します!」

ピッ

律「聡、というわけだ」

聡「ん。俺も探そうか?」

律「お前は留守番。何かあったら電話しろ」

聡「りょーかい。ねーちゃんも、こっちの電話ちゃんと出てくれよ」

律「分かってる」

聡「マナーモードちゃんと切っとけよ! ……って、行っちゃった」



―玄関先―

唯「じゃ、じゃあ私が押すよ」

紬「うぅん、ここは私が」

澪「お~い、二人とも」

唯「あ、澪ちゃんだ」

紬「こんにちは」

澪「ここにいるってことは、律に?」

唯「うん! 憂と一緒にクッキー作ったんだ」

紬「私はマドレーヌ。澪ちゃんも?」

澪「私は手作りとかじゃないけどな」

唯紬「何?」

澪「参考書。ちゃんと勉強するようにってさ」

唯「おお、流石澪ちゃん。目の付け所が違いますなぁ」

唯「りっちゃん、誕生日だって教えてくれないんだもん。憂が言ってくれなきゃ忘れるところだったよ」

紬「私はちゃんと覚えてたわ。先月のお返しをしないといけないもんね」

澪「……何というか、あいつは幸せ者だなぁ」

澪「で、どうして玄関先に?」

唯「だって、ほら……」

紬「ねぇ……」

澪「?」

唯「多分、あずにゃんは真っ先にりっちゃん家に着いてるよね」

澪「まあ、そうだろうな」

唯「玄関を開けて、りっちゃんとあずにゃんがお取り込み中だったら困るじゃん」

紬「そうそう」

澪「いやないから」

澪「ほら、雨も降ってるんだし早く入ろう」スッ

律「」ガチャッ

澪「!?」

唯「あ、りっちゃん!」

紬「お誕生日おめでとう!」

唯「おめでと~」

律「み、みんなっ?」

澪「私たちがいるって分かったのか? 超能力者か」

律「あ、いやその……」

唯「はい、これ私と憂から」

紬「私からもこれ」

律「あ、あの」

澪「どうした、律」

律「ご、ごめん! ちょっと出かけなきゃいけないから!」

唯「ほぇっ?」

律「すぐ戻るから、家上がってて!」

紬「それはいいけど……」

澪「何かあったのか?」

律「本当にわりぃ!」

澪「お、おい律」

タッタッタッタッタッ

澪「雨降ってるぞ……って、行っちゃった」

唯「りっちゃん、どうしたのかなぁ」

紬「すごく慌ててたみたいだけど」

澪「……さぁ」


タッタッタッタッタッ

律「ぜぇ……ぜぇ……」

タッタッタッタッタ

律「はぁ……はぁ……」

律「何でこんな日に限って雨降ってるんだよ」グショ

律「誕生日ぐらい、晴れにしてくれよ」

「ねぇ、ママ。何であの人傘さしてないの?」

「こら、人に指さしちゃダメでしょ!」

律「……」

律「あ、あの!」

「な、何ですか?」

律「女の子見ませんでしたか?」

「女の子?」

律「高校生なんですけど、身長は私よりちょっと低いぐらいで」

「え、ええっと」

律「あ、黒髪でツインテールにしてます!」

「ごめんなさい、ちょっと分からないわ」

律「そうですか……すいません」

「あの、私たちはこれで」

律「……はい、ありがとうございます」


律「……」

律「あ、すいません! ちょっといいですか?」


律「……」

律「何てことしてる間に梓の家に着いちゃったよ」

律「……」

ピンポーン

「はーい」ガチャッ

律「あ、こんにちは」

梓母「あら、りっちゃん。今日誕生日だったわよね、おめでとう」

律「あ、ども……」

梓母「びしょ濡れじゃないっ、大丈夫!?」

律「はい、大丈夫です……それで」

梓母「梓からは……連絡来てないわ」

律「そう、ですか」

梓母「まさか本当に、何かあったのかしら」

律「……」

梓母「ねぇ、これって警察に連絡……」

律「私もう一度だけ探してきます!」

梓母「えっ?」

律「梓の行きそうな所、いくつか心当たりありますんで。警察にはそれからでも……」

梓母「……うん、わかった」


律「……」

律「何してんだよ、こんなに心配かけてさ」

律「……あのバカ」グスッ


ザァー… ザァー…

律「……」

バシャッ バシャッ

律「はぁ……はぁ……」

律「……」

ピーポー ピーポー

律「今日は救急車が多いなぁ」

ピーポー… ピー…ポー…

律「……」

律「そんなの止めてくれよ、梓」



―駅前交番―


プップー

律「……」

律「あの、すいません」

警官「うん? 君、傘ささなくて大丈夫なのか?」

律「ちょっとお聞きしたいことが」

警官「聞きたいこと?」

律「はい……」



律「そう……ですか」

警官「探している人でも?」

律「はい、まぁ」

警官「協力要請出そうか」

律「あ、大丈夫です。ちょっと待ち合わせしてただけなんで……」

警官「? ならいいんだけど」

律「はい……ありがとう、ございました」


パシャ… パシャ…

律「……」

パシャ…


フラッ

律「……あっ」


ストン!


律「……」ボー


シトシト… シトシト…

律「……」

律「…………」

律「梓の、ばか」


――――――



『今日の交通事故?』

律『はい、特にその……人身事故があったか教えてください!』

『分かった。ちょっと待ってね』

律『……』

『お待たせ』

律『! あの、どうでしたっ?』

『今日はまだ一件も起きてないよ』

律『……!』

『雨の日は事故が多いんだけどね』

律『……』

『いつもこれだけ平和ならなぁ』

律『……』



――――――



律「……」ハァ

律「事故じゃないみたいでよかった」

律「こんな真っ昼間に誘拐ってのも考えられなくはないけど、可能性としては低い」

律「なら、あいつは一体どこ行ったんだ……!?」

律「家でもない、学校でもない、商店街にもいない」

律「じゃあ、後は……」

律「……公園?」

律「こんな雨の日に?」

律「……」

律「考えていてもしゃあねえ、行ってみよう」

律「そこにいなかったら……」


シトシト… シトシト…

律「……」


4
最終更新:2011年08月21日 23:03