お風呂からあがってきた憂の体を後ろから抱きしめると、ふかふかとあったかい匂いに包まれた。

 憂は驚きもせずに、後ろ手で私の背中を撫でてくすっと笑う。

唯「うい、今日も一緒に寝よう?」

憂「お姉ちゃんまた?」

 ここのところは毎日。

 もう一週間くらい一緒に寝ているから、憂にもまたなんて言われてしまった。

 でもその声にイヤそうな含みなんてまったくないから、

 私は照れくささをごまかすために憂をもっとぎゅっと抱きしめた。

唯「だって憂とだとよく寝れるんだもん」

憂「お姉ちゃんのあまえんぼさん。いいよ、一緒に寝よ」

唯「てへへ……ありがとう、ういー」

 憂は知らない。

 本当は憂のほうが、よっぽどあまえんぼさんなのに。

 腕の中でくるりと振り返った憂と抱き合うと、憂の部屋に向かう。

 一緒に寝るときは大抵憂の部屋だ。

 憂が私の部屋で寝たいと言ったときだけ、私の部屋に行く。

 そういう晩は、私もおとなしく憂を抱っこするだけで眠りにつく。

 でも今日は違う。

 今日は憂の部屋だ。

 胸おどらせつつ、途中の電気を消していきつつ、わたしたちは3階にあがった。

 憂の部屋には憂の匂いがただよっていて、私は部屋中の匂いごと憂を抱きしめたくなった。

 憂にカーテンをしめてもらったり、アラームをかけてもらっているうちに、

 まずは私が布団にもぐり、枕に頭を乗せる。

 部屋がまっくらになったら、憂がベッドに入る。

 そして私のお腹のあたりに腕をまわして、ぎゅうっときつく抱きつく。

 これが、私が憂と一緒に寝るときの格好。

 憂が、私の胸に顔をうずめるような体勢だ。

唯「……」

憂「お姉ちゃんの心臓の音が聞こえるね」

 胸が高鳴るのは仕方ない。

 憂だってこの体勢が一番安心できると言ってくれる。

 これだけ速くてうるさい心臓の音でも、憂はうれしそうに耳を当てて聞いていた。

唯「……憂、お姉ちゃんの心臓の音すき?」

憂「うん、好き。安心するもん」

唯「よかった」

 頭を撫でてあげながら、私は目を閉じた。

 憂が私の胸の前にいる。

 それだけでドキドキしてしまう。

 少し前まで、こんな私ではなかったのに。

 その憂のクセに気付いたの自体は、かなり昔のことだ。

 熟睡している憂のほっぺやくちびるをつつくと、憂は指に反応して口にくわえようとする。

 たぶん赤ん坊のときに、お母さんのおっぱいを飲んでいた記憶が反射として残っているんだと思う。

 とにかく私はそれが面白くて、憂が寝ていると見るやくちびるをつついて追いかけっこをし、

 つかまったときには大人しくしゃぶられ、逃げ切って憂が起きてしまったときは呆れられ、怒られていた。

 そんな遊びを何年も続けていたけれど、憂におっぱいを吸わせようなんて発想は私から生まれることはなかった。

 それを思いつくに至ったきっかけは、1ヶ月ほど前のこと。

 いつものように憂を胸に抱いて、私は眠っていた。

 その夜はたまたまブラをしてなくて、そのことに気付いた憂はちょっと照れ臭そうな顔をしたけれど、

 結局そのまま抱き合って眠ってしまった。

 深夜になって、ふと目が覚めた。

 寝間着のシャツがじっとり濡れている感覚で、胸の端のあたりがじんじんと痛い気がした。

 目を開けても暗くてなにも分からず、私は憂の頭でも撫でながら感覚の正体をさぐった。

 体中をぴりぴりと刺激する、未知のものに身をよじりたいのを、ぐっとこらえながら。

 ちゅうちゅうと、唇を吸う音がしていた。

 胸の先端を引っ張られるような感覚もあった。

 乳房の先をあったかい感触が包み、憂の頭の重みがくっついていた。

 ゆっくりと知覚する。

 私は、憂におっぱいを吸われているんだ。

 体中を走っていた刺激が、やわらかくなった。

唯「んっ……」

 もっと。

 求めるように、憂の頭を両手で撫でる。

 ためらいもなくシャツを裾からまくりあげ、胸を露わにする。

 憂がしゃぶっているほうをそっとまくると、固く唾液に濡れた乳首が、憂の舌に触れた。

唯「あぁ……う、ぁっ」

憂「んんぅ……」

 私のあげた声のせいか、憂がうるさそうに呻いた。

唯「っ、……ぁ」

 時折ふれる歯や舌の感触が意識を狂わす。

 憂がとつぜんやり始めたこと。

 けれど、この状況で憂が起きたとすれば悪者になるのは私だった。

 必死に声を抑えながらも、憂を引き離して着替えなければと思う。

唯「んっ、は、はっ、はぁっ」

 なのにどうしても、憂を押し返せない。

 それどころか強く抱きしめて、もっと頭を引き寄せていた。

 憂、と心の中で唱える。

 唱えた名前は、胸のうちで湯気のように広がって、全身を熱くさせた。

唯「……あぁっ」

 ひときわ大きな声が出て、私はびくりと震えた。

憂「んうっ」

 憂が目を覚ましたと思い、私は気遣う余裕もなく憂を突き飛ばして起き上がった。

 ストンと服がもとのところに下りた瞬間、憂が体を起こした。

憂「お姉ちゃん、どうかしたの?」

唯「あ、えーっと……」

 憂は気付いていないのか、眠たそうな声でそう尋ねた。

唯「その、トイレ行こうと思って。ごめん」

憂「? うん、いってきていいよ」

唯「ごめんね……」

 私は全身びしょ濡れな不快感を連れて階段を降り、トイレに入ると鍵をかけてしゃがみこんだ。

 憂で、気持ちよくなろうとした。

 憂を使って、気持ちよくなっていた。

 罪深い事実が冷静な頭にのしかかる。

唯「……」

 便座に腰掛けて、私はぐしょぐしょになった寝間着の下とパンツをずり下ろした。

 ねちょりと糸の切れる音が耳に残る。

唯「うわ、こんなに……」

 憂にちょこっと吸われただけなのに。

 妹なのに。

 なんで私はこんなに喜んでるの。

 胸の先も、まだ固く主張していた。

 秘部もほてりが抜けるどころか、さらに熱くなっていくようでさえある。

唯「……」

唯「ん、あっ……」

 その夜、私は初めて自慰をした。

 行為自体は知っていてもやることのなかったものが、

 なぜかその夜から、我慢できなくなった。

 憂が欲しいという気持ちをおさえられない。

 こうしなければ憂の前でお姉ちゃんの顔を続けることができないと思った。

 私は狭いトイレに声を響かせ、便器にあまくさい汁を垂らし、絶頂まで知った後、

 シャワーで汚れを洗い落として新たな寝間着で、憂の部屋に戻った。

 憂は体を起こしたままで、私をふりかえっていた。

憂「遅かったね」

 気付かれていたのかな。

 そう思いながらも、部屋に入って扉を閉めた。


唯「……ちょっと、汗かいちゃったから」

 うその言い訳をしながらベッドに入る。

 もしかしたら今更いらないかもしれないけど、今度はちゃんとブラもつけた。

憂「お姉ちゃん、だっこ」

 憂は腕を伸ばして私に触れながら言った。

唯「……うん」

 かわいいかわいい妹を腕の中に抱き留める。

 姉としての行為なのか、欲望ゆえの行為なのかはわからない。

憂「ん……ほんとだ、ちょっと変なにおいする」

 胸のにおいを嗅いで、憂は言った。

唯「ごめん、離れる?」

憂「やだ。遅いから、もう寝よう?」

唯「……うん」


――――

 結局、憂は私のしたことに全く気づいてないみたいだった。

 今も私を愛しく見つめる純粋な視線が私には痛い。

 あれからほとんど毎日、私は憂と一緒に寝ている。

 そうして憂が寝静まったあと、

 憂が憂でなく、私たちが姉妹でないうちに、やることはひとつだ。

唯「おやすみ、ういー……」

 眠たげな声を使って、憂の後ろ頭をぺたぺた撫でながら眠りに誘う。

憂「んん……」

 憂はまだ起きていたいのか、苦しそうに呻いた。

 私だって憂とお話する時間があったらいいとは思う。

 けどこの体勢では、何を話しても私は憂への告白に繋げてしまいそうだった。

 姉妹で愛し合うことがそんなにダメなことかはわからないけれど、憂はそんな関係を望んでいないと思う。

憂「……ん」

憂「す……すうぅ……」

 やがて憂は諦めたように寝息を立て始めた。

 髪を撫で続けながら、私はワクワクが重なっていくのを感じる。

 そのまま長い時間を興奮とともに耐える。

 何十分もしてから、私はそっと憂のほっぺに中指で触れた。

憂「あむ」

唯「んっ……」

 指が憂のくちびるに包まれる。

 それだけで十分な気がしてくるくらいに嬉しかった。

 あたたかな、柔らかな感触が挟んで吸う。

 昔は遊びでやっていたことが、今は快楽でしかない。

 ともあれ、私の指にしゃぶりつくということは、憂が熟睡した証拠だ。

 指を引き抜き、唾液を舐めとると、憂の抱きしめる手が外れないよう慎重にシャツをたくしあげた。

 このためだけに数セット購入したフロントホックのブラが活躍するとき。

 小さな動きで片方のカップだけめくって体の下に敷くと、

 乳房を持って憂の口元に近付ける。

唯「ほら憂ー……お姉ちゃんのおっぱいだよ」

 憂のくちびるを塞ぐように胸を押し付ける。

 憂が口を開くその一瞬までの僅かな焦れさえ快感をあおる。

 今から憂にしゃぶってもらえる。

 もう20回は繰り返したこの行為は、私にそんな未来を予見させ、

 そして、それ以外の全ての可能性を否定させていた。

 憂の手が、鉄棒の逆上がりみたいに、前から羽交い締めにするみたいに、私の肩をぎゅっと掴む。

 そしてまだ準備中の乳首を切るように噛まれ、私は驚きと痛みで悲鳴をあげた。

唯「う、ういっ……!?」

 痛みで腫れてしまったのか、乳首がぷっくりと膨らんだのがわかった。

 視線を下ろすと、歯を立てたまま憂が私を見上げていた。

 ぬるりと股が濡れるのがわかる。

憂「なあに、お姉ちゃん」

唯「い、いつから……」

 ぐっ、と固くなった乳首に歯が立てられる。

憂「1ヶ月くらい前から、だよ」

 強く噛まれた痛みが残る乳首を、憂はやさしく甘噛みする。

唯「はっ、あっ……んんうっ」

 歯で挟んで、奥歯のほうに転がすように。

 凹凸に乳首がひっかかって、おさえようもない声が漏れる。

唯「はっ、あひっ」

 もうだめ。

 いつもは憂に吸われてるだけなのに、それだけでいっちゃうのに、

 こんなふうにされたらもう1秒だって我慢できない。

唯「う、ういっ……いく、いくぅっ」

憂「速すぎだよ。もうちょっと我慢しないと怒るよ?」

 怒られるのはいやだけど。

 我慢する方法なんてあるわけない。

 相手は妹で、起きていて、私をちろちろ、はじくように舐めていて。

唯「む、むりっ……あぁ、あああはあっ!」

 体が腰からびくんと跳ねた。

 アソコが痛いほど絞るようにされ、熱い感覚がほとばしった。

 憂ときつく抱き合いながら、ベッドをきしませるほどに揺れる。

憂「……ほんとにもういったの?」

 驚きまじりの声で憂が言う。

唯「だ、だって……憂が」

憂「まあ確かに、いつもは10分くらいかかってるもんね」

唯「うぅ……」

 そういえばさっき、1ヶ月前から気付いてたって言ってたっけ。

 あれはほんとだったんだ。

 1ヶ月前から……って、最初から?

唯「う、憂……私、ごめん……」

憂「……私のクセはわかってたし、お姉ちゃんにからかわれるなら別によかったけど」

憂「こんな使い方されるなんて、思ってもみなかったな」

唯「……ごめんなさい」

憂「いいよ。最初から謝ってくれてたし」

 憂はするすると私の顔の高さまで上がってくると、にこりと笑った。

憂「お姉ちゃんだから許す。それに、可愛かったし」

唯「可愛かったって、なにが?」

憂「きまってるじゃん」

 憂は小さく咳払いをして、心底嬉しそうな顔で私を見つめる。

憂「ほら憂ー……お姉ちゃんのおっぱいだよ」

唯「!! やっ、だめっ! それは忘れて!」

憂「やーだ。えへへー、お姉ちゃんの弱味握っちゃった」

 顔から火が出そう。

 ほんとうに泣きたい。

 なんであんなこと言っちゃったんだろう。

唯「……なんとか忘れていただけませんか」

憂「無理だよ、可愛すぎるもん」

 真顔で憂は言う。

 憂がそう言うなら、忘れてくれないのも嬉しいけど……

唯「ほんとに可愛いって思ってる?」

憂「うん。証拠ほしい?」

唯「証拠?」

 可愛いって思ってる証拠って、どういうことだろう。

 考えて、わからなくて、憂に訊こうと口を開いた。

 開こうとした。

憂「ん……ちゅ」

唯「……ん」

 くすっ、と憂が笑う。

憂「今のも、お姉ちゃんへの仕返しね」

 憂は私のブラを直してくれながら言った。

唯「え、え?」

 ホックをぱちっと留めて、シャツの裾を元に戻す。

憂「ちょっとね。私も今から、お姉ちゃんみたいに好き勝手しちゃうかも」

唯「憂?」

 今、ちゅーされたよね。

 憂が私に、ちゅーしてくれたよね。

 体がかあっと熱くなる。

 憂がちゅーしてくれた。

 憂から私を、愛してくれた。

唯「ういっ!!」

 私はがむしゃらに憂を抱きしめると、そのくちびるを狙った。

憂「こら、だめっ」

 拒絶の声も聞こえなかった。

 押し倒して覆い被さり、下唇にしゃぶりつく。


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最終更新:2011年08月29日 01:28