空が暗くなりかけた頃
田井中家の前に、浴衣姿の澪が立っていた。
澪(えいっ)
ピーンポーン
『はい?』
澪「えっと……りっちゃんをお迎えに来ました」
『あっ、はーい。今開けるから、待っててね』
澪「は、はい」
ガチャ
律母「いらっしゃーい」
澪「こ、こんばんは」
律母「はい。こんばんは」
澪「あの、りっちゃんは……」
律母「あっ、ちょっと待ってね」
律母「りつー。澪ちゃんが来たわよー」
「もうすぐ行くー」
律母「早くしなさいよー」
「はーい」
律母「ごめんなさいね」
澪「い、いえ」
律母「それにしても。澪ちゃんの浴衣姿、似合ってるわね」
澪「えっ」
律母「羨ましいわー。うんうん」
澪「あ、あの……」
律母「律にも着させてあげるべきだったかしらねぇ」
澪「えっ、りっちゃんは浴衣を着てないんですか?」
律母「ええ。あの娘ったら、私に浴衣は似合わないって言うから」
律母「だから、今日の服装も半袖半ズボンのスタイルなのよ」
澪「そうなんですか……」
ちなみに澪が着ている浴衣は、青い生地にアサガオの柄が入ったものだ。
澪「りっちゃんは、どんな浴衣を持ってるんですか?」
律母「ん? えぇ、律のはね……」
その先を言おうとした時、二階から律が駆け降りて来る。
律「みーおちゃん、おまたせー!」
澪「あっ、りっちゃん」
律母「こら律。危ないでしょ」
律「だいじょーぶだよ」
律母「もう、本当にこの娘は……」
律「あー、澪ちゃん!」
澪「は、はい!」
律「その浴衣!」
澪「こ、これ?」
律「すっごく、似合ってるよ!」
澪「ほんとに?」
律「うん!」
澪「あ、ありがとう」
澪は思わず照れた。
律「いいなー」
澪「あ、あんまり見ないでよー」
律「えへへ、ごめんごめん」
律「それじゃあ、おかーさん。いって来ます」
澪「いって来ます」
律母「車には気をつけるのよ」
律「はーい」
律母「迷子にならないように、一緒に行動するのよ」
律「わかってるよー」
バタン!
律母(二人で行かせるの心配だけど)
律母(あの二人なら、大丈夫よね?)
律母「……」
律母(二人とも、楽しんでらっしゃいね)
……
花火大会の会場に到着するなり、二人はかき氷を購入し、近くのベンチに座っていた食べていた。
律はレモン、澪はブルーハワイのかき氷だ。
律「おいひぃーね」
澪「うん」
律「澪ちゃんの、一口ちょーだい」
ひょい、ぱくっ
澪「あ」
律「おいしー! はい、澪ちゃんも」
澪「え?」
律「わたしの、一口あげる」
澪「あ、ありがとう」
ぱくっ
律「どう?」
澪「うん。おいしいよ」
律「よかった」
……
かき氷を食べ終えた二人は、会話を弾ませながら夜店巡りをしていた。
律「えっ、澪ちゃんもう夏休みの宿題終わったの?」
澪「ドリルはね。でも、感想文と自由研究はまだだよ」
律「へー。わたしなんてさ、まだなんにも終わってないよ」
澪「だいじょーぶなの?」
律「だいじょーぶ、だいじょーぶ。まだ夏休みは半分あるから」
澪「そりゃ、そうだけど……」
律「夏休みの小学生は、毎日元気よく遊ばなきゃダメなんだよ。うんうん」
澪(それも、どうかと思うよ。りっちゃん)
律「それで、宿題はラスト一週間で終わらせるんだよ」
澪「いつもそうなの?」
律「うん」
澪(だ、だいじょーぶかなぁ)
律「ねぇ、澪ちゃん」
澪「何?」
律「金魚すくいやろ」
澪「あっ、うん」
律「おじさん。金魚すくいやります」
「おっ、いらっしゃい。そっちのお嬢ちゃんと一緒にやるのかい?」
律「んー、どうする?」
澪「わたしはあとでいいよ。りっちゃん先にやって」
律「じゃあ、そうする」
「はいよ。じゃあ、網と容器ね」
律「ありがと」
「頑張りなよ」
律「はーい」
澪「りっちゃん、がんばって」
律「まかせてー」
しかし、始めてみたはいいものの、思うように金魚が掬えなかった。
ようやく、一匹掬った時には、網は半分が破れた状態になっていた。
澪「もうちょっと」
律「あと少しで……やった!」
ビリッ
澪「あっ」
二匹目を掬って容器に入れる寸前、無情にも網は破けてしまった。
ポチャン
澪(あー)
律「あー、終わっちゃった」
「残念だったね」
澪「りっちゃん……」
律「んー、ちまちましたのは苦手だなぁ」
「あはは。それじゃあ、金魚掬いは上手くならねぇぞ」
律「いいもん! 澪ちゃんががんばるから」
澪「ええー!」
「おっ、そうかい。じゃあ、そっちの黒髪のお嬢ちゃんが、仇をとるってワケだな」
律「そのとおり!」
澪「へ、へんにプレッシャーあたえないでよ」
律「澪ちゃんなら、だいじょーぶ」
澪「うぅー」
「はい。じゃあ、頑張ってね」
律「がんばれ、澪ちゃん!」
澪(も、もう……どうなっても知らないよ)
しかし始めてみれば思いの他、金魚は掬えた。
律「おぉー」
網が破けるまで、五匹の金魚を掬うのに成功した。
澪「お、終わりました」
「すげぇーな。たいしたもんだ」
律「澪ちゃん、すごーい」
澪「ありがと」
「お嬢ちゃん達、掬った金魚はいるかい?」
澪「どうする?」
律「うーん。これから花火みるからなぁ……わたしは、いらないや」
律「おじさん。すくった金魚、水槽に戻しといてよ」
「そうかい?」
律「澪ちゃんはどうする?」
澪「うんと、わたしもいいです」
「うん、分かった」
掬われた金魚を水槽に戻す。
律「じゃあ、おじさん。わたしたち、もう行くね」
「おう。花火、楽しんで来なよ」
澪「はい」
律「次来たら、いっぱいすくってやる」
「あはは。また、来年な」
二人「はーい」
金魚屋を後にする。
その後、二人は綿菓子や射的、型抜きをしたりして楽しんだ。
そして、そろそろ花火の打ち上げ時刻となった。
最終更新:2011年09月05日 01:27