唯「何これ」

唯「……歌フェラ?」

唯はお風呂から上がり眠りにつくまでの間、パソコンでインターネットをしていた。
梓から腹式呼吸という言葉を教わり詳しい方法を調べていたのだ。
ついでに歌い方のコツ等も調べていた唯は不思議な単語を見つけて何となく説明を読み進めていた。

唯「あ、やり方が書いてある。どれどれ」

唯「ふむ」

唯「……え?」

歌のコツみたいなものだろうと思って読んでいたが途中でペニスという予想だにしない単語が飛び出して思考が停止する。
少しして歌フェラというものが探していたものと違う事に気付いたが唯はさらに読み進めた。
色事に関して疎い唯だったが興味は人並みに持ち合わせている。
やや興奮しながら好奇心の赴くままに歌フェラについて調べていった。

その後暗い部屋でどうしても先程調べた歌フェラについて考えてしまい中々寝付けなかった。

唯が概ね理解した歌フェラの概要はこうだ。

歌フェラとは男性器をマイクに見立てて歌う事である。
通常のフェラの様に口内に男性器を含むのではなく、亀頭に唇をあてがって歌う事が基本とされる。
歌唱中に手や唇や舌で愛撫する他、歌う事によって生じる空気の振動や歌に込められた物語、そして歌い手の感情を読み取る事で刺激を得られる。
近頃は歌フェラに重きを置いた店もあるという。

ちなみに唯にとってはフェラの存在自体が初耳でそれを調べた時にも衝撃と興奮を覚えた。


翌日の夜、唯はいつものように自室でギターの練習をこなす。
しかしギターに合わせて歌う度に歌フェラの事が頭をよぎる。
昨日から好奇心は膨らむばかりだった。

唯は目を瞑り歌フェラ用のマイクを想像する。
現物など殆ど見た事がなく、昨日ネットで見た写真の男性器を投影してその先端に軽く唇をつけた。
とりあえず慣れ親しんだふわふわ時間を歌い始める。
覚えたての知識を駆使して所々で舌を出したり、亀頭の周りを唇でなぞったりする動きをしてみたが現物が無いため今一つ雰囲気が出ない。

唯は魚肉ソーセージの購入を検討した。



唯「あずにゃん、ちょっと寄り道してもいい? 買い物したいんだ」

梓「いいですよ」

部活の帰り道、唯は魚肉ソーセージを買うためにいつもと違う帰り道を歩く。
魚肉ソーセージはどこにでも売っているが唯には見たいものがあったのだ。

唯「こっちの道から行ってみよー」

梓「え、こっちですか……」

唯の進行方向には女子高生が関わりたくなさそうな店がちらほらと。
夜の方が賑わいそうな路地だ。
気おくれする梓をよそに唯はキョロキョロと辺りを見回し、とある建物の前で歩を止めた。

唯「これかぁ……」

梓「え?」

唯は目的の店舗を見つけた。
看板等もなく一見ただの建物にしか見えない。
が、ここは唯がネットで見つけた歌フェラ専門店だ。

梓「あの、このお店がどうかしたんですか?」

殺風景な建物に不穏なものを感じ取った梓がおずおずと尋ねる。

唯「ううんなんでもないよ。行こっか」

梓「あ、はい」

この場に長居したくなかった梓は安堵しつつ唯の後に続く。

唯「ところであずにゃん、歌フェラって知ってる?」

梓「歌フェ……? 知らないです」

梓はそれぞれの単語自体は知っていたがそれらを組み合わせたこの新語は初耳だった。
その単語について考えてみようとも思ったが不穏な単語も含まれていた為無難に答えておく。

唯「そっかー」

その後、梓が待っても唯から単語の説明は無かった。
聞き返す事に多少の不安があったため梓も追及しない。

やがて唯と梓は別れてそれぞれの帰路に就く。
梓は唯の放った歌フェラという不思議な語感の言葉が気になり、家に帰るまで頭の中で想像を膨らませた。


梓は帰宅してすぐに携帯で歌フェラという言葉を調べたが中々見つからず、結局パソコンを起動し腰を据えて調べ始める。
唯の思わせぶりな態度や怪しげな雰囲気を放つ単語が気になっていた。
今日見た建物や語感から卑猥な印象もあったが、梓にもそういった事の興味はある。

そうして梓も歌フェラについて知る事となった。
元々フェラという単語は理解していたため歌フェラの記事を探し当てるのにさほど時間はかからなかった。

梓「こういうのもあるんだ……ていうかこれ気持ちいいのかな」

興味や疑問や期待が胸中を渦巻いたが制服のプリーツスカートを押し上げる程ではなかった。
知識の一つとして頭にしまい、ついでにネットサーフィンを始める。
直前までの調べ物により性的興奮が残っていた為そういった動画を探し始める梓。
少ないながらもフェラ物の項目に混じっていた歌フェラ動画を見つけた梓はせっかくだからと再生した。


女優が歌フェラをしながら時折陰茎に触れたりしているだけだったが、男優は次第にびくつき始めて最終的には唇の僅かな接触だけで果ててしまった。
男優のオーバーリアクションに見える感じ方、女優の歌声の美しさや歌フェラの仕草に梓はたぎった。
男優がびくつく度にどれ程の快感なのかを想像し、女優の和やかでおっとりとした仕草に部活の先輩を重ねる内に梓のショーツは歪に盛り上がる。

その動画と歌フェラに魅入られた梓は夕食までにタクティクスをこなし一息ついた。
日も落ちない内に始めてしまった事を反省しつつも新しい出会いをブックマークの奥底に刻んだ。

梓「歌フェラか……いいなぁ」


帰宅した唯はいつものようにゴロゴロし、夕食を食べ、風呂に入り、寝るまでの時間は歌の練習をして過ごしていた。
憂は二階でテレビを見ているし、自室に戻った所で歌の練習をしているとしか思わないだろう。
唯はそう踏んで通学カバンから常温で保存していた魚肉ソーセージを取り出す。
冷蔵庫に入れようかとも考えたが憂に気取られる事を避けたかったのだ。
パジャマ姿でベッドにぺたんと座り魚肉ソーセージを覆うフィルムをバナナの皮の様に剥く。
あらわになったピンク色の中身を無意識に食べようとして慌てて思いとどまり、魚肉ソーセージの先端を見つめる。
それを唇に触れる位置まで持っていき口を開いた。

唯「……キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI」

魚肉ソーセージをマイクに見立て愛撫するように歌う。
文字や動画で覚えた仕草をまねる。
唇や舌が卑猥な動きをしている事を認識して羞恥が生まれた。
一曲終わる頃には頬はうっすらと赤く染まり、ライブとは違った高揚が体を包む。
ぼーっとしながらも魚肉ソーセージを舐め上げたり口に頬張ったりといった事を自然にこなしていた。
唯は冷めやらぬ興奮の中で二曲目を歌い始めた。

唯「なんでなんだろ 気になる夜……」



二人が歌フェラを知ってから一週間程経った。
唯は再び魚肉ソーセージを購入するため例の道を歩く。
これで三回目だった。

梓「好きですね、魚肉ソーセージ」

唯「え、魚肉ソーセージ買うって言ったっけ?」

そんな会話をしているとsong Ferra-riの前に差し掛かった。
二人はそれを横目に通り過ぎる。

梓「そ、そういえば唯先輩前に歌フェラがどうとか言ってましたよね」

唯「あーうん、言ったような言ってないような」

梓「私あれから調べたんですよ。歌フェラ」

唯「……へぇー。調べちゃったかー」

わざとらしく答える唯。
梓は歌フェラの知識を小出しにして唯の様子を窺った。

唯「あずにゃんてばむっつりだね」

梓「さ、先に言い出したのは唯先輩じゃないですか。それにあのお店もそういうお店だって知ってたんでしょう?」

唯「えへ……実は」

梓「あと、もしかしてですけど魚肉ソーセージを買ってるのって……」

唯「あずにゃんてばむっつりを超えてますなあ。もしかしてかなり興味持った?」

梓「それは……」

唯「実は私興味持ったんだよね……えへへ」

梓「あ……実は私も」


その後も歌フェラトークを続けたかったが往来でこの話題をするのは気が引けた為、梓宅に向かう事にした。
梓宅にしたのは今日家に誰もいないのでそういった話もしやすいと考えたからである。

梓宅で最初は恥ずかしがりつつも次第に歌フェラトークに花を咲かせる二人。
テクニックやお気に入りの動画について一通り話し終わると、唯がカバンを漁り先程購入した魚肉ソーセージを取り出した。
小腹が空いたためとりあえず一本食べるようだ。
丁寧に袋から取り出してフィルムを向く。
いただきまーすと言って軽くしなったそれを口に頬張る。
梓はその動作に見とれていた。

家で夜な夜な歌フェラの練習をしている唯。
そんな彼女が陰茎の変わりに使用しているという魚肉ソーセージ。
張りと艶があり、ややとがらせた唇。
唯の食する姿を見て梓に激しい興奮が押し寄せる。

唯「あずにゃん見過ぎだよ」

梓「ふぇ!? あっ! あのすいませ――」

唯「おわ。あずにゃんは想像力豊かだねぇ」

取り繕うのに必死だった梓だが、唯の含みのある言い方が気になった。
彼女の怪しげな視線を辿るとそこには自身の盛り上がったスカート。
梓はしどろもどろになりながら唯に背を向けた。

それからベッドの布団に包まろうとする梓をなだめつつ、唯は一つの提案してみる。
梓の振る舞いが唯の好奇心に火をつけていた。

唯「歌フェラ、試してみない?」

梓「そ、それは……」

唯「どうかな……?」

その誘惑を断れるはずもなく小さく返事を返す。
唯の口角がわずかに上がった。


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最終更新:2011年09月10日 20:52