梓「…何これ……手紙?」



いつもと同じように登校して靴箱を開けると、そこには一通の手紙が入れられていた。



憂「あ、ほんとだ」

梓「誰からだろう……」


表に差出人の名前はない。ただ、『中野梓さんへ』と書かれているだけだ。


純「…もしかして、ラブレターじゃない?」

梓「なっ!?」

憂「梓ちゃんモテモテだね!」

梓「な、なに言ってるのよ純! 女子高だよ?」


また純が変なことを言い出した。


純「澪先輩のファンクラブだってあるんだし、あり得なくもないでしょ?」

梓「……ど、どうせクラスの友達とかだよ。きっとそう!」ガサガサ

そう自分に言い聞かせ、手紙の封を開けて中身を確認する。

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中野梓さんへ
 急にお手紙なんて出してごめんなさい。

あなたのことがずっと前から好きでした。
真剣にギターをひいたり、
友だちや先輩と楽しそうにしているあなたが、
可愛くてかっこよくて、見ているといつも胸がドキドキします。

わたしも女の子だけど、あなたのことが本気で好きです。
わたしの恋人になってくれませんか?

今日の放課後18時に校舎裏で待ってます。そのときにお返事を聞かせてください。
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梓「あ…あ…////」カァ

憂「きゃ~////」ドキドキ

純「ほらほらほら! 私の言った通りでしょ?」

心臓がドクドク音を立てるのが嫌と言うほど分かる。



その後予鈴が鳴り、ホームルームに遅れないように私たちは教室に移動した。
そして休み時間になり、手紙の話を再開する。


純「で、どうするの梓?」

梓「どうするって……どんな人かも分からないし……」

憂「匿名だったもんね」


好意を向けられてうれしい反面、相手の顔も名前も分からなくて、困った気持ちでいる。

それに私は……


純「まぁ、どうせ断るんでしょ? 梓にはもう好きな人がいるみたいだし」

梓「そ…そんなのいないよ!////」


純「バレバレなんですけど~」ニヤニヤ

憂「そうだよ?梓ちゃん」ニコニコ


憂にもバレてる? 普段態度に出ちゃってるのかな……


純「私も憂も応援してるからね。がんばれ~」

梓「うぅ……////」


梓「それじゃ、お先に失礼します」ペコリ


澪「うん。また明日」

紬「りっちゃんと唯ちゃんも早退しちゃったし、寂しいわぁ」

澪「仕方ないさ」

バタン

放課後18時前に、前もって早退することを伝えていた私は、
澪先輩とムギ先輩を残して部室を出た。
唯先輩と律先輩も、私より少し前に用事があるとかで早退していた。
私は手紙のことで頭がいっぱいで、そのことはあまり気に留めなかった。


梓「向こうはもう来てるかな……」スタスタ


相手には悪いけど断ろう……だって私はあの人のことが……


梓「あ……あそこにいる人かな…」


校舎裏に着くと、一人の女子生徒の後姿が目に入った。
やっぱり既に来ていたらしい。私は彼女に近付いて声をかける。


?「……」

梓「あの……」


あれ……? あの後姿……


?「……」クルッ

梓「っ!!」


振り返ったその人が誰か分かった瞬間、
心臓のドキドキがそれまでとは比べ物にならない程大きくなった。

だってその人はまさに、私が密かに思いを寄せている人だったから。


梓「………唯先輩……?」


唯「あずにゃん……」ニコッ

梓「あ、あ…あの手紙は……唯先輩…が…?」

唯「うん…そうだよ。えへへ……」

梓(え……ええええええ!!//////)カァァ


唯先輩が私のことを……?いつから?
いつも抱きついたりしてきたのってそういう事!?

ということは……私と唯先輩は………両想い?


唯「……」ニコニコ

どうしようどうしよう……そうだ、返事を伝えなきゃ……
しかし余りの緊張で震えて、上手く声が出せない。

梓「あの…手紙の……返事ですけど…その………私でよければ…その…///」ボソッ

唯「……?」

あれ、……聞こえなかったのかな?
そう思って、もう一度伝えようとすると、先に唯先輩に言葉をかけられた。

唯「えへへ……ごめんね?」ニコッ

梓「……え?」


ごめんね? どういう意味……?

そう思っていると、校舎の陰から一人の生徒が出てきた。
その人も、私がよく知っている人だった。


梓「…律先輩……」

律「あ~ずさ。引っ掛かった?」ニコニコ


そう言って笑っている。その表情は、いつも部でみんなにイタズラをする時と同じだった。

今の律先輩の言葉と、唯先輩の謝罪……そこから分かることは一つ……


梓「ドッキリ……」


律「いや~ごめんな? 唯がどうしてもって言うからさ!」

唯「あずにゃん、騙してごめんね?」ニコッ

梓「……」


……なーんだ……あのラブレターも全部嘘だったのか……

そりゃそうだよね……唯先輩が私のことを……だなんてさ……


梓「…ヒック……」ポロポロ

唯「!!」

律「梓…!?」


梓「……」ダッ

律「お、おい!」

唯「あずにゃん!まって!」



私はその場から走って逃げだした。
そのまま校門に向かうと、下校中の澪先輩とムギ先輩と鉢合わせた。
私は出来るだけ顔を背けて、2人の横を走り去る。


梓「…ウグッ…ヒック…」ダッ

澪「え…梓!?」

紬「梓ちゃん!」


唯「あずにゃん…!」ダッ

律「…ハァ…ハァ…」

紬「唯ちゃん、りっちゃん…早退したんじゃ…」

律「あぁ……うん…」

澪「一体どういうことなんだ? 今、梓泣いてたぞ?」

律「…その……実は…」


その後、家にまっすぐ帰った私は、枕に顔を埋めて泣きじゃくっていた。

梓「…ヒック…グスッ…」ポロポロ

冗談の告白に、本気でドキドキしちゃって……両想いだなんて喜んで……そんな訳ないのに…

恥ずかしい……悲しい……


ピンポーン

梓「……」

……今は家に私しかいない。
私は涙を拭いて、玄関に向かった。

ガチャ

梓「はい……」

唯「あ、あずにゃん……」


予想通り、唯先輩だった。
いきなり泣き出した私を気遣って、追いかけてきたんだろう。


梓「……唯先輩」

唯「あの、ごめんね……さっきの……」

梓「……」

唯「わ、わたし、そんなにあずにゃんが傷つくなんて思ってなくて……本当にごめんなさい」

梓「……」

唯「それとね、これは私が言い出したの。りっちゃんは私に頼まれただけで…!」

梓「……いいですよ、気にしてませんから」

唯「で…でも、わたしあんなイタズラであずにゃんの気持ちを……」


梓「……何勘違いしてるんですか?」


唯「えっ……」

梓「唯先輩たちに完全に騙されちゃったのが悔しかっただけで、初めから傷付いてなんていませんし……」

唯「……」


梓「別に先輩に嘘の告白されたからってなんとも思いません。
  ……元々、軽音部の先輩ってだけで……唯先輩のことなんて……好きでも何でもないんですから」

唯「……っ!」ズキン

梓「用件はそれだけですか? これから宿題しなきゃいけないので」

唯「……うん……」

梓「それじゃ……」

バタン

唯「……あずにゃん……」


その後、律先輩も謝りに来たが、気にしてないと言って、すぐに帰ってもらった。


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最終更新:2011年09月10日 21:52