…卵の黄身を流したような夕暮れの空。壊れたテープのような蝉の合唱。
その合唱に混ざる不協和音のように、音楽室から軽音楽部の演奏が聞こえてくる。
唯達は今日も夏休みの校舎で、特訓に明け暮れていた。来るべき文化祭のライブのために。
「…ふうー」
律が大きくため息をつく。激しい演奏の後で、額には汗が浮かび、腕はだらんと力なく垂れ下がっていたが、それでも達成感は十分だった。
まるで夏のじっとりした空気とは正反対の、爽やかな涼しい気分。霧の出た、朝の高原を散歩している気分だった。
「今日はなかなかだったな。唯はまだムラがあるけど、ちゃんとついてこれてたし」
「へへー」
唯がしまらない笑みを浮かべる。腕だけでなく、顎まで力が抜けてしまった。そんな笑顔だった。
肩で息をしていた梓が、ふいに唯に声をかける。
「唯先輩のギター、ちょっと貸していただけますか?」
紬のお茶菓子をパクついていた唯が、不思議そうな顔で梓を見る。
「ふえ、何で?…さてはついにギー太の可愛らしさを理解してくれたんだね!でもあげないよ!」
「…ちょっと他人のギターのさわり心地ってのを確かめてみたいだけです」
梓は唯のギターを抱えてみる。…ただでさえ小柄なのに、激しい演奏を人一倍真剣に取り組んでいた梓の腕にはけっこうな負担だ。
「っとと、見かけ通りに重い…」
「むー、ギー太はおデブじゃないよ!」
唯がふくれっ面をするが、梓はそれどころではなかった。体のバランスを崩したときの、なんとも嫌な焦りが全身を駆け巡る
「っとと…、うわあっ!」
そのまま、後ろにひっくり返ってしまった。腰に鈍い痛みが走る。
「おい梓、大丈夫か?」
「ギー太!私のギー太!」
「…お前、薄情なやっちゃなー」
律は、梓の腕からギー太をひったくり我が子のように抱きしめる唯を呆れた目で見る。
「うぅ、痛い…あ」
「あ」
梓はひっくり返った際に、足を大股に開いていた。いわゆるM字開脚というやつだ。…白い下着が、全員の目にとまってしまう。
「きゃっ!」
梓は慌てて足を閉じるが、時すでに遅し。
「いやー、いいもん拝めたわー、梓の大サービスカット」
「や、止めてくださいっ!恥ずかしいです!」
「梓ちゃん、漫画みたいだったわよ?」
「ムギ、やっぱりその手の読んでるのか」
「み、澪先輩、二人を止めてくださいっ!」
「…パ、パンツ…パンツ…」
「澪がトラウマモードに入ってら…」
「…」
唯だけが沈黙していた。彼女の中で、何かの歯車が動き出していた。
顔をホットプレートのように熱くした後輩と、それをからかう二人の先輩。
忌まわしい記憶にとらわれ抜け殻になった澪と、相変わらず沈黙している唯。
明かりの消えた音楽室が、静かに彼女たちを見守っている。
「あの、私、ちょっとトイレ行ってきますっ」
先輩のからかいに耐えられなくなった梓が叫んだ。
「ありゃ、そう?んじゃあたしらここで待ってるよ」
「いえ、待たなくて結構です。長引きそうなので」
「…きひひひひ、長引くってことは、梓もしかしてビッグの方?」
「あーーーーーっ!!!」
拗ねた足取りでトイレに向かう梓を見つめていた唯が、ふっと独り言のように言った。
「私も…トイレ」
「ありゃ、唯も?…あたしら、ここで待ってようか?」
「ううん、気にしないで。先帰ってて」
「…あ、そう」
「辞任」
パタパタと走る唯を見つめながら、律はどこか違和感を感じていた。それは紬も同じだったらしい。
「…なあムギ、唯のやつ、なんか変だったよな?やけにおしとやかっていうか」
「大人しい、ってことかしら?」
「そうそう。…澪はどう思う?」
「パンツ」
「だめだこりゃ」
ぬるい水道水がステンレスに叩きつけられる音がうるさい。梓は深くため息をついた。
…律先輩ったら、いつもああなんだから。演奏の時は、最高にかっこいいのにな。
外の景色は、すでに深い藍色に飲みこまれようとしていた。蛍光灯の白い明かりがやけに寂しい。梓が蛇口をひねった時…。
ふっ、と明かりが消えた。藍色が洗面所に侵入する。ポタポタ垂れる水滴の音が、闇に響く。
梓はすんでのところで悲鳴をあげそうになった。トイレの入り口に、誰か立っている!
人影がゆっくりと近づいてくる。梓の中でパニックが爆発した。逃げようにも足がすくんで動けない。
人影は梓の前で立ち止まると、ゆっくりと手を伸ばし、梓を抱き寄せた。片方の手が、梓の髪を撫でる。 この感触、この温かさ…。
「…唯先輩?」
…唯は何も言わない。梓の髪を優しく撫で続けている。
梓の胸に安心が広がっていく。と同時に怒りが湧き上がってきた。
「もう、冗談にもほどがありますよ!離してくださいっ!離してくださいったら!」
梓は自分を縛る唯の手の中でもがく。だが唯は梓をすんなりと解放した。…勢いよく突き飛ばした。
「いっ!…たい…」
梓は再び尻餅をつき、腰の鈍痛に苦しんだ。
そんな梓を、唯が見下ろしている。暗くてその表情まではよくわからなかったが、梓は突然の暴力に怯えていた。
「パンツ、見えてるよ」
唯が初めて口を開く。梓は言われて気づき、また慌てて足を閉じる。
「…学祭のライブの時、澪ちゃんのパンツ見たときは何も感じなかったんだ」
唯が語りかける。…その言葉は普段の脳天気な唯のそれではなかった。もっと大人びた、別の女性のそれだった。
「でもさっき、あずにゃんのパンツ見たときは違った。胸が圧迫されたみたいに苦しかった。パアッて、お花畑が広がったの」
唯がの上に梓に屈み込む。梓は身震いして、後ずさろうとする。床のタイルのへりの感触が、手に痛かった。
「ね、あずにゃん。これって何なのかな。私、どっかおかしいのかな?」
「…それって」
梓が唯を押しのける。
「それって、自分よりも小さな女の子に反応してるってことじゃないですか!変態ですよ!唯先輩のヘンタイッ!!」
梓は怒りをこめた目つきで睨みつける。こんな先輩、規制されちまえばいいんだっ!
「野田死ね」
「へ?」
「ん?何も言ってないよ?」
唯はすっとぼけてみせる。その顔は梓からわずか数十センチしか離れてない。
「あずにゃん相手なら、私、ヘンタイでもいいや。この艶やかな髪も、抱き心地最高なちっちゃな体も、みんな私のものになるのなら」
唯はトイレの床にぺたりと座り込むと、梓を再び抱きしめた。互いの暖かみや柔らかさが、制服ごしに伝わってくる。
梓の心臓は恐ろしく活発になっていた。ドキドキ波打つ胸が痛いくらいに。目の前の先輩への怒りはどこかに消え去っていた。
「ね、あずにゃん。あずにゃんは私のこと、好き?嫌い?」
唯の制服の感触が、梓の胸をさらに圧迫させる。まだじかに体を触れあわせてすらいないのに。
…直に?とたんに梓は一人身悶える。
「え…えぇ!?べべ、別に、嫌いではないですよ?そりゃちゃんと練習してくれないから困ることもあるけど、でもそれは、先輩としての…」
唯が微笑みを浮かべ、梓の髪を優しく撫でる。彼女をいつも安心させてくれる撫で方。梓はなぜか、涙が出そうになるほど胸が熱くなった。
「優柔不断だなぁ。あずにゃんは」
そして唯は、唇を近づけてくる。梓はビクッと身を震わせた。あと数センチ、数ミリ…。梓は目を閉じる。
唇が急速に離れる。梓はいぶかしげに唯を見る。唯はばつが悪そうに頭をグシグシとかいていた。
「あー、ダメだぁ。私も優柔不断だー」
「…もう」
梓は頬を膨らませる。薄暗い闇の中でも、彼女が目元をピンクに染めているのがわかるような気がした。
「えへへー。…でもあずにゃん、いいの?私みたいなヘンタイに唇奪われちゃって」
唯の目がかすかに潤んでいる。たまに澪が見せるような、不安とわずかな悲しみをたたえた目。
「唯先輩は、唯先輩なら…。…いいですよ。好きにしてください。私、私、唯先輩、…好き、です」
唯の顔に笑みが広がる。安心と、胸が痛むくらいの喜び。
「私はずーっと、あずにゃんのこと大好きだったよ」
そして意を決した唯は、梓の唇に優しく自分のそれを押しつけた。
梓の唇がやんわりと押しつぶされた。…と思ったら、すんなりと離される。と思ったら、また押しつぶされる。
唯は何度となく、梓とキスを交わす。チュッ、チュッと湿った音が、やけに大きく洗面所に伝わる。
「…舌は入れないんですか?」
梓があさっての方向を睨みながら唯にせがむ。拗ねたように口を尖らせているのが愛らしい。
「…あずにゃんもヘンタイさんだねぇ」
唯が朗らかな、けれど大人びた声で言う。
そしてまた、唇を重ねる。今度はすぐには離さない。舌を梓の可愛らしい口に忍ばせ、梓のそれと絡み合わせる。唾液を二人で共有する。
梓の舌の感触を、唯はたっぷりと味わった。少しざらついている小さな後輩の舌を堪能する、ロリコン趣味の先輩。
やがて二人は、どちらからともなく唇を離す。涎の橋が崩れ、梓の生足に落ちる。梓は大きく身震いした。
「あずにゃんの舌、猫さんみたいだったよ」
「唯先輩の舌、優しくて癖になりそうでした」
二人はトロンと霞んだ目で、互いの感想を口にする。
唯は先輩としての面子を保とうとしていたが、体の方が許してくれなかった。芯がすでに火照ってしまっている。
「あのさ、あずにゃん…。続き、ここでしちゃう?」
唯の申し出に、梓はこくりとうなずく。
二人はためらうことなく制服のサマーセーターとシャツを脱ぎ去り、上半身から余計なものを取り除く。梓が残されたブラに手をかけたとき、唯の視線が胸に集中しているのに気づく。
「もう、唯先輩も早く脱いでください」
後輩は体をくねらせて恥ずかしがる。梓の胸はお世辞にも大きいとは言えない。だから見つめられると晒すのが怖くなる。
「ん、ごめんごめん」
二人は同時に最後の余計な衣類を胸から取り除いた。唯の目は梓の胸に釘付けになる。
小さいが愛らしいなだらかな丘に、幼い女の子とさして変わらない小粒の先端に。
「ふわぁ…」
「いやあっ…」
あまりにジロジロと見つめたせいで、梓は両手で隠してしまう。あたりが暗くてよかった、と思う。彼女の先端部は、くすんだ褐色をしているのだ。
「ああん、何で隠しちゃうのさー」
「ジロジロ見られたら恥ずかしいからですよっ!唯先輩こそ、何でそんなに平気なんですか!」
唯は胸を見られても平然としていた。梓とさして変わらない標高の丘を、薄い桃色の先端部を惜しげもなく晒している。
「憂とよく一緒にお風呂入るからかなぁ。憂もよく見てるけど、いちいち気にしてちゃかなわないよ」
憂と一緒の入浴。そう聞いただけで、梓の心の隙間に肌寒い風が入ってくる。寂しさと憎らしさを感じる。
…なぜ私はこんなに嫉妬しているのだろう。ただの妹じゃないか。
「さ、いいから見せて見せて」
「あっ…」
唯は梓の胸を覆う手を優しくどける。梓は抵抗しようとして、できなかった。唯の手は優しいが、同時に有無を言わさぬ力があった。
梓は羞恥で小さく震えていた。恥ずかしさで、胸に熱くて緩い吐き気を感じる。
唯がやんわりと梓を押し倒す。ツインテールの髪がトイレの床に触れる。今が夏休みでよかった。
「あずにゃん、まだ恥ずかしい?」
「…はい」
「じゃ、恥ずかしいの和らげてあげる」
唯の手が、梓の胸に触れる。途端に梓の体にピリッとした電気ショックが走った。
「んっ…」
目をぎゅっと閉じ、口を固く結んだ後輩がたまらなく可愛らしい。唯は胸に触れる手に力を込め、先端を優しくつまんだ。
「やッ!」
途端に梓が大きく反応を示す。全身を跳ねさせて抗議する。
「ごめんね、痛い?」
「…あまり力入れると、ビリッてなっちゃうんです。…そっと撫でてくれますか?」
唯は承知した。普段梓の髪に触れるときの手つきで、敏感な胸を優しくなぞる。手が先端を通るたびに、梓の体に震えが走る。
「…おっぱいも、いー子いー子」
唯は手のひらを使って梓の胸に優しい刺激を与え続ける。
「…唯先輩」
「んー?」
「…私も唯先輩の胸、いじりたいですぅ…」
声の最後の方が尻つぼみになってしまう。普段ハキハキと話す梓と同じとはとても思えない。唯の顔に柔和な笑みが浮かぶ。
「いーよっ。おねーさんのおっぱい、たんと楽しみなさい」
お姉さんの、などと到底威張れないサイズの胸に梓が手を伸ばす。柔らかな胸に手を押し当てると、わずかにだが確実にへこむ。
梓はものも言わずに、いや言えずに先輩の胸をいじる。女子の柔肌の感触が最高に心地よい。先端部に指を這わせると、梓以上に露骨な反応を示す。
「唯先輩も、痛いんですか?」
「ん、私、胸が感じやすいだけだから。構わずに触っていいよ」
先輩と後輩の二人が、トイレで上半身裸で胸を触りあい、揉み合う。それは淫らな、けれども神秘的な光景だった。
最終更新:2010年01月23日 01:15