数日後…
律「いらっしゃいいらっしゃい!」
律「さぁ飲んでって! 今日もしぼりたて鮮度抜群だよ!」
客「いらないって……しつこいなぁ……」
律「そーんなこといわずに! 気怠い朝にシャキっと一本!」
客「しってるよ。その牛、肉牛なんだろ?」
律「……え、なんで」
客「タイナカさんとこの牛は肉牛だから、売ってる牛乳はまずいってとっくに噂になってるよ」
律「……は?」
客「悪いけどこれで……」
律「お、おい! 噂の出所しらないか!?」
客「しらねーよ……肉にするなら今晩の飯にするから買ってやるけど」
律「……ッ、それは無理」
客「はぁ……残念だなぁ」
律「……こんなにうめぇのに……もはや味をしってもらうこともできないなんて」
澪「……」
律「私のミスだ……噂が広がる前に無理してでも安く大量に売るべきだったんだ」
澪「律……」
律「うわぁぁぁぁあん澪おおお! どうしよどうしよ!」もみゅもみゅ
澪「ひゃぅん! なんだよぉ泣くのか絞るのかどっちかにしろぉ」
律「だってぇ……いきなり万事休すなんだもん、澪のおっぱい絞る時間なんだもん」
澪「私牛だから。わからないから自分で考えろ……ひゃっ、あああん」
律「ちくしょー、完全に後手にまわったぜ」
律「売れない牛乳屋ってレッテルを貼られたら完全に終わりだ……」
澪「そうなの?」
律「あったりめーだろ。このままじゃ飢え死コースだ」
律「商売にとって、失敗=死……ちくしょー死んでたまるかよっ!」
澪「私も死にたくない……」
律「澪おおおおお!!」もみゅもみゅもみゅもみゅ
夜
澪「元気出せ……」ポンッ
律「……」
澪「たくさん手はあるんだろ?そう言ったじゃないか」
律「……いや、ない」
澪「えっ」
律「なにかしようにも、金がないんだ……貸してくれる物好きもいねぇ」
澪「そんな……」
律「売れるとおもった。簡単だと。最悪さ、肉にして売れば元はとれるって甘い認識だった」
澪「ひっ、肉はヤダ」
律「でも甘かった……私、生ものを扱ったことなかったんだ……言い訳じゃないけど、馬鹿だ私!」
澪「律……」
律「考えても打開策なんてみえてこない。こんなにうまい牛乳なのに、売れ残ったら捨てるしかないなんて」
律「いや限界まで飲むけど……」ゴクゴク
律「悲しいよ……澪のおっぱいは世界一なのに」
澪「……嬉しいな、そんなにおいしいって言ってくれるなんて」
律「本当さ。いままで飲んだどの牛乳よりも、いやどんな飲み物よりもうまい」
澪「私自分のおっぱいなんてどれくらいおいしいかわからないし、牛だから人間がどんなの飲むのかしらないけど」
澪「律に認めてもらえただけで、生まれてきて良かったよ」
律「澪……」
澪「ただのんびり毎日牧場で歌をうたうだけの日々も楽しかったけど」
澪「人の住む街にきていろんなものを見て知ることができたのも良かった……かも」
律「かもかよ」
澪「牛だから役にたたないけどね」
澪「それに律は毎日やさしく乳搾りしてくれるし」
律「売り物だからな」
澪「おいしいご飯くれるし」
律「売り物だからな」
澪「寝る時もぎゅってしてくれるし……」
律「売り物……だからな……澪が風邪ひいたらこまる……それだけだってば」
澪「……嘘つき」
律「……」
澪「知ってるんだからな。律が一生懸命なこと」
律「それが商人魂ってやつさ。商材は命の次に大事なんだ、いや、場合によっては命よりも」
澪「決めたよ…………私、お肉になる」
律「あ?」
澪「お肉になって、律の命をつなぐよ。それが牛の運命なんだ」
澪「そしたら律はまだまだ商売ができる。餓死なんて悲しいことにならなくてすむ」
律「いやいやなに言ってるんだ」
澪「唯も言ってた。『いつか澪ちゃんも誰かのために頑張る時がくるんだよ』って」
律「でもなぁ」
澪「きっと今がそうなんだ。痛いのは嫌だし怖いし泣きそうだけど、私は律の牛」
律「……」
澪「……うぅっ、うっ」
律「澪……ありがとう。その決心だけで嬉しいよ」
澪「うぇえええん律ぅううう!! 嫌だ!死にたくない!死にたくないよおお!」
律「殺さないよ……殺させたくないから、お前を買ったんだ」
澪「りつぅう……どうして……私なんかを」
律「言ったじゃん。ピンときたからって」
澪「それだけ……?」
律「一目惚れ? なんか他のやつには渡したくないなーって思っただけ」
律「それに、やっぱり売れるような気もしたから。私の商人としての勘がそう告げてた」
澪「ごめんな……ダメな牛でごめんなさい……」ポロポロ
律「澪のせいじゃないよ。全部私が悪いから」
律「だから泣くな。乳がまずくなる」
澪「ごめん……ごめん……」
律「そうだ! 明日さぁ、店をやすんで牧場へ行こう」
澪「えっ」
律「お前の生まれ育った牧場だ」
澪「律……」
律「唯って人に会ってみて、いろいろアドバイスしてもらおうかなって」
澪「……牧場のみんなに、会えるの?」
律「おう。ちょっと遠出になるからお弁当つくっていこうな」
澪「お金は……? 遠いよ?」
律「路銀はなんとかあるから。気にするな」
律「旅の途中でなにか見えてくるものもあるかもしれないしな」
澪「うん!」
律「うれしそうだな」
澪「牧場にもどれる! 嬉しい!」
律「……まぁまた戻ることになるけどな。あくまで商売はこっちだし」
澪「そっか……」シュン
……
ゴトゴト ゴトゴト
律「……ふぁー、呆れるくらい良い陽気だ」
澪「眠くなるよな!」
律「このペースで牧場まで一日ってとこかな」
澪「それくらいかかった気がする」
律「牧場ってなんかうまいもんある?」
澪「いっぱいあるぞ! 憂ちゃんのつくる料理とか!」
律「ってそれ私が食うやつなのか?」
澪「わからない! 私牛だから!」
律「ほんとうれしそうにしちゃってまぁ。街戻るとき泣くなよな」
澪「はー、みんな元気かなぁ」
律「ほんと、いいところだったんだな……」
ゴトゴト ゴトゴト
澪「律ぅーおっぱいしぼってぇ」
律「お、そんな時間か。あらほんと気づけばすごく日が高い」
澪「うん!」
ぽよよん!
律「またえらく張っちゃって。どれ、楽にしてやるからなー」
澪「ビン持ってきてるんだな」
律「そりゃあね。商人ですから、売れる希望が残ってる限り、一滴たりとも無駄にはできないよ」
澪「その割には昨日の夜はお風呂で撒き散らして」
律「あ、あれはだなー、そう、ミルク風呂ってやつだ。健康とかお肌にいいんだっ!」アセアセ
澪「……へんたい?」
律「ちゃうわい! ちょっと襲いたくなっただけじゃい!」
もみゅっ!!
澪「ひゃうぅううっ!」
律「青空のしたでやらしい声だしちゃって」
澪「んんっ、あぁああんっ」
律「ほれほれー、飼い主様におっぱい絞られてどんな気分だー」
澪「うううっ、もぉおおお! 真面目にやってくれ!」
律「へへっ、もうビン2本分でちまったぜ」
澪「うう……」
律「さて、絞り終わったし、ここらで弁当くってまたのんびり行きますか」
澪「わぁ!お弁当だ!」
律「澪の大好きなやつも入れてるからなーたっぷりたべて旅に備えよ!」
澪「うん!」
ゴトゴトゴトゴト
律「おう?」
紬「あらあら、楽しそうね、うふふ」
律「ん? どちらさま?」
紬「とおりすがりの旅の者よ。一緒におひるにしない?」
律「あぁ、いいよ」
澪「わぁ、綺麗な人だな」
律(あらま、旅が似つかわしくない人だこと……どっかの貴族かなんか?)
紬「よっこらしょっ……と、うふふ。ずっと馬車に揺られておしりが痛いわ」
菫「お嬢様、よろしいのですか? あまりお時間がございませんが」
紬「いいのよ。こんなにいい天気なんだもん。せっかくだから馬車の外で食べたいわ」
菫「わかりました。でも少しだけですよ。どうぞお弁当です」
律「……なんだそのデカいの」
澪「……ごうかだ」
紬「あ、ごめんなさい。いただきましょう? たくさんあるから食べるの手伝ってくれる?」
律「お、おう! まかせろ!」
澪「私もたべる! おいしそう!」
紬「あら、元気な動物さん。あなたの?」
律「んーモグモグ、そうだよ。飼い牛」
紬「へぇー……すごぉい、これが牛……!」
律「はじめてみるの?」
紬「うん! そうなの!」
律「へぇ。触ってもいいよ」
澪「えっ」
律「いいだろ少しくらい」
紬「いいの?」
律「どうぞ。大丈夫、噛んだり暴れたりしないから」
紬「じゃあ……失礼して」
チョンチョン
澪「ひっ」
菫「……」じぃー
律「そっちの君もどうぞ」
菫「いいんですか!? わぁ」
チョンチョンチョンチョン
澪「うひっ」
菫「すごいですねお嬢様!」
紬「うん! こんな牛にこの後たくさん会えるなんて!」
律「ん? ってことはそちらも牧場へ?」
菫「あなたたちも平沢牧場へお行きなのですか」
律「おう、この牛、澪っていうんだけどちょっとした里帰りでな」
紬「牛って里帰りするの!?」
律「たまには」
菫「しりませんでしたねお嬢様! やっぱり外は勉強になりますね!」
紬「そうね!これはさっそく書き記さないと!」
菫「そうですね!!羊皮紙をとってきましょう!!」
律「あ、あの……?」
澪「変な人たちだな。牛より頭が悪いかもしれない」
律「お前は黙ってろ」
澪「はい」
紬「ほかにも色々教えて!?」
律「あーいいよ。ていうか一緒にいく?」
菫「行きます!」
紬「こらっ、あなたが決めちゃだめよ私の旅だもの! 行きます!」
律「お、おう……じゃあとりあえず自己紹介といくか」
律「私タイナカ乳業を営んでる律っていうんだ」
紬「私は琴ぶk」
菫「お嬢様!!」
紬「あ! え、えっと……つ、ツムーギーっていうの」
菫「私はお嬢様の付き人をしている菫です」
澪「牛の澪」
律「ってことで短い間かもしれないけどよろしくな」
紬「よろしくね!」
菫「よろしくお願いします」ペコリ
律「……弁当くっちまうか」
紬「りっちゃんは牛乳を売ってくらしてるの?」
菫「お嬢様なれなれしすぎです」
律「ん? いやいいよ。まぁ暮らすってほど儲かってないけどな」
紬「お仕事は大変?」
律「んー、そうだな。ちょっと行き詰まってさ。それで気分転換にこいつの里帰りってわけ」
澪「そういうことだ。わかったか人間?」
律「こらっ。なんてことを言うんだ。街から出た途端いきがりやがって」
澪「ごめん……ちょっと舞い上がってて」
紬「うふふ。仲いいのね」
律「そうだ。弁当に合うかわわからないけど。飲まない?」
紬「え?」
律「とれたての牛乳! うめーぞ!」
紬「いいの~!?」
律「おう」
澪「飲むといい」
紬「私とれたてって初めて……」
菫「よかったですねお嬢様!」
紬「……わぁ、みて、輝いてるみたい」
菫「よかったですねお嬢様!」
紬「いい匂い……すんすん。なんだか不思議な懐かしさ……」
菫「よかったですねお嬢様!」
律「菫ちゃんもよければ」
菫「わぁ……ありがとうございます!」
紬「一緒に飲みましょ?」
菫「はい!」
ごくごく
紬「……おいしいい!! すっっごく甘くて濃厚な味!!」
菫「おいしいです!! いままで飲んだどんな牛乳よりも!!」
律「おう! だろ!?」
澪「えへへ……阿呆な人間にも味はわかるんだなぁ」
律「こらっ」ゴチン
澪「いだいっ!」
律「そんなに口が悪い牛に育てたおぼえはないぞ」
澪「私を育てたのは唯だ!」
律「あぁそっか出会ったらぶん殴ろう」
紬「ねぇ、もう一本売ってくれない?」
律「え?」
紬「馬車の中でのみたいの!」
律「んー……なら言ってくれればその時しぼりたてを用意するけど。どうせ同行するんだし」
紬「わぁ、ありがとうりっちゃん!」
律「いーえいえ。しっかり金はとるけどなー」ニカリ
紬「ちなみにおいくらかしら?」
律「一本……1,000ムギ$」
紬「えぇ~~!? やすぅ~~い!」
最終更新:2011年09月19日 20:26