―――

AYU「結論から言うとね。近い将来、人類は滅びちゃうんだ」

梓「……はい?」

AYUは突然、訳の分からないことを言い出しました。

梓「突然何を言い出すんですか」

澪「いや、梓。だとしたら、この光景が説明できる」

梓「どういう意味ですか?」

澪「分からないか?これは未来の地球の光景だよ」

梓「未来の地球?」

AYU「くすくす、正解だよ、澪ちゃん。梓ちゃんは察しが悪いな~」

梓「……話を続けて下さい」

AYU「ほいほいっと。そうだね、聞きたいんだけど、ポケモンって便利なものだと思わない?例えば、空を自由に飛べたり、水中を自由に行けたり」

梓「たしかに。でも、人間にも飛行機とか、船とかもありますからね」

AYU「そうだね。でも、それってお金かかるでしょ?」

梓「それはまあ……」

AYU「でも、ポケモンなら、お金はかからないでしょ?だとしたら、どっちがより多く利用されるかな?」

澪「しかし、微妙なところだな。お金がかかるといっても、安全に行けるわけだし」

AYU「そうだね。難しいところだね。まあ、それ以外でも、建設現場や災害救助、他にもいろいろな面で助け合ってきたんだよ」

梓「いいことですね」

AYU「……そうだね。それだけなら、よかったんだよ」

澪「何か、含みのある言い方だな」

AYU「助け合ってきたと言っても、ポケモンを人間が一方的に使ってるようにも見えるよね?」

梓「嫌な言い方をすればそうかもしれませんね」

AYU「でも、それでもよかったんだよ。平和だったし。でも、人間はやってはいけないことをしてしまったんだ」

梓「それはなんですか?」

AYUはあまり、言いたくないのか、顔を歪めながら言いました。

AYU「ポケモンの……軍事利用」

梓「ポケモンの軍事利用?」

澪「つまり、ポケモンを武器として使うってことだな」

梓「そんな……」

AYU「この時代ではそこまでの研究は行ってないけどね。いずれはね……」

梓「軍事利用って……具体的には?」

AYU「そうだね、例えば……マタドガスの出す、毒ガスをね。……細菌ウイルスを出せるようにするとかカメックスのロケット砲から、ロケット弾やマシンガンのような物を発射できるようにするとか」

梓「……反対運動とかは?」

AYU「もちろんあったみたいだよ。見たわけじゃないけどね。でも、反対は無駄だったよ」

梓「無駄?」

AYU「反対派もデモとかもしたみたいだけどね。国とかは無視したみたいだし。あまりにうるさい奴は摘発とかされたみたいだし」

梓「そんな……」

AYU「まあ、かの国の侵略とかもあったみたいだけど、そこらへんはいろいろあって、よく分からないけどね」

澪「それで、続きは?」

AYU「……ポケモンだってね、戦うのは好きだけどさ。それは戦うことを通じて、心を通わせるためだよ。決して、傷つけることが楽しいわけじゃないんだ」

梓「……」

澪「……」

AYU「まあ、それでも、人間のためにポケモンは働いたよ。……最初はね」

梓「最初は?」

AYU「そう、最初は」

澪「何があったんだ」

AYU「……暴走したんだよ」

梓「暴走?」

AYU「そう。暴走。ある日ね、研究所からポケモンが脱走したの」

梓「脱走……」

AYU「そのポケモン達はね、マシンガンとかいろいろな兵器を搭載してたんだ」

梓「……」

AYU「そのポケモン達なら、何とかなったかもしれないけどそのポケモン達はね、危険なポケモン達も解放してしまったの」

梓「危険なポケモン?」

AYU「そう……。例えば、毒ガスとかを使うポケモンね」

AYUは言葉を躊躇いながら、続けます。

AYU「その結果、その研究所の近くにいた人間が死んだんだ。もっと、対策をしろよって思うかもしれないけど、今までポケモンが人間に逆らうって事がなかったからね」

梓「それでどうなったんですか」

AYU「ポケモンと……人間の戦争が始まったんだよ」

梓「戦争……」

AYU「人間は兵器を搭載したポケモンを駆除しにかかった。でも、ポケモンは異常に生命力もあるしね。それに、自分達で作り上げた、ミュウツーとかも敵にまわっちゃってね」

澪「ということは・・・…タマムシシティで戦ったミュウツーはお前がロケット団に教えたのか」

AYU「そうだよ。正解だよ、澪ちゃん」

パチパチと拍手するAYU。

澪「おかしいと思ったんだ。ただのマフィアのロケット団があんな研究をしてたなんて……」

AYUは一呼吸を置く。

AYU「一方のポケモンも人間の暴走を止めることができなかった。その結果、戦いは長期戦になった。泥沼のね。例えば、人間はポケモンを止めるために、そこに逃げ遅れた人達がいるにもかかわらずに、毒ガスや爆弾を使ったりね。一方のポケモンも、同じように、まだ仲間が戦っているのに一つの町をその仲間ごと消しちゃったとかね」

梓「……悲惨ですね」

AYU「そうだね」

澪「つまり、ここはその戦いのなれのはてか」

AYU「そういうこと。そんな泥沼の戦いでね、たくさんのポケモンや人間も死んじゃったんだ。それだけなら、まだ復興とかもできるかもだけど、ポケモンを制圧するのに、各地で核爆弾とかを使ったりとかね。……人間もポケモンも犠牲になったよ」

AYUは周りの光景を何かを思い出すかのように見ます。

AYU「そのせいで、人間の人口もだいぶ減っていった。同様にポケモンの数も減少していった。そんな時にある科学者達が集まって、隠れて、ある研究をしていたの」

澪「そんな時まで、研究をしていたのか」

AYU「その研究は別に破壊のためじゃないよ。どうやったら、この世界を救えるかという研究だよ」

梓「世界を救う……」

澪「こう言うのは失礼だと思うが、かなり厳しいと思うんだけど……」

AYU「そうだね、まったくその通りだよ。でもね。皆には希望が欲しかったんだよ」

梓「希望ですか」

AYU「そう。その希望の象徴として……マサラタウンのゆいが選ばれた」

梓「ゆい先輩が?」

AYU「私達の未来でも、梓ちゃんとゆいの伝説が語りつがれていたんだよ」 

澪「伝説?」

AYU「ただの17歳の少女がカントー地方で勢力を強めていたロケット団を壊滅に追い詰めて、ポケモンリーグで純ちゃんとういちゃんのコンビとの死闘の末の優勝、その後、マサラタウンに戻り、『放課後ティータイム』とかなんとかで、デビューして、ポケモンと人間との共存の
ために活動したんだよ。後の世では『カントーの英雄』といわれてたね」

梓「ちょっと、待ってください。ロケット団のことはまだしも、ポケモンリーグは……」

AYU「別に間違ってないよ」

澪「意味が分からないぞ」

AYU「それは後で、説明するから、まずは話を聞きなよ」

澪「分かった。続けてくれ」

AYU「ゆいはポケモンがメインボーカルとして、人気もあったしね。そのおかげかどうか知らないけど、カントーではポケモンの軍事利用の反対が多かったみたいだね。だから、国は『放課後ティータイム』を売国奴みたいな扱いとして、けなしまくってたね。まあ、ここらへんは蛇足だけど」

梓「それで、ゆい先輩が選ばれた理由は?」

AYU「その研究者達はね、その希望の象徴として、ミュウツーのようにゆいの遺伝子を使って、クローンのようなポケモンを造ろうとしたんだよ。その過程でたくさんのポケモンとゆいの遺伝子を掛け合わせた。たくさんの失敗の中で、1匹だけまともなものが生まれた」

梓「そのポケモンって……まさか」

AYU「そう。それが私だよ。AYUって名前はかつての英雄、ゆいとそのトレーナーの梓ちゃんの頭文字を取ったんだよ」

私達の間にしばしの沈黙が流れました。

AYU「……それでね」

AYUは再び、話し始めます。

AYU「私は頑張って、ギターの練習をしてきたんだよ。たくさんの人に幸せになってもらうために」

AYUは昔を懐かしむような眼をして語り始めます。


回想

AYU「これから、歌を歌うよ。題名は『ふわふわ……』」

未来人A「うるせー、ひっこめ、ひっこめ!」

未来人B「ふわふわって、たしか、糞ポケモンが歌ってた奴だよな。とすると、こいつはポケモン側のスパイかもしんねーぞ」

AYU「た、たしかに私はポケモンだけど……」

未来人C「やっぱりスパイだな。人間みたいな体しやがってよ」

皆が私達に向かって、石を投げてくる。

AYU「そんなつもりはない……痛い、痛いよ」

こんな感じでひどかったね。それでも、私は頑張った。その甲斐があったのか、少しずつ、私の歌を聴いてくれる人が増えてきた。気づけば、
この平和の時代でいえば、小さいファンクラブが出るくらいの人気になっていった。そんなある日……。

軍人A「ここで集会をやっているのはお前達だな」

たくさんの銃を持った、軍隊の人達がたくさんやって来た。その日はご主人様とかはいなかったから、私だけだった。ああ、いつもは手伝ってくれたからね。初めての1人でのライブ。ちょっと、緊張してたんだよね。そんな時にやってきたわけだよ。

軍人A「お前達は何の目的でここに集まっている」

AYU「私は歌を歌って、皆さんはそれを聞き……」

その直後、ズガガガガガガンという音ともにマシンガンの音が聞こえた。

AYU「や、やめてよ。何をするの!!」

軍人B「私達が得た情報によれば、お前はポケモンだな」

AYU「そ、そうだけど……」

軍人B「つまり、お前はここで集会をして、人間をスパイとして洗脳し、送り込もうとしていたわけだな」

AYU「ち、違うよ!私は皆に歌を聞いてほしくて……」

軍人A「うるさいっ!!お前ら、ここにいる人間どもを皆殺しにするぞ」

軍人の人達はマシンガンを観客達に向けられる。

AYU「や、やめ……」

軍人A「うてー!」

軍人の掛け声で、マシンガンが乱射された。

AYU「う……うわあああああああああああああああああああああああああああああ」


博士「ど、どうしたの、これは……」

博士の声で気がつくと、私は軍人達と観客達の死体の中で座っていた。

AYU「ご、ご主人様……」

博士「……だいたい、事情が分かったよ。さあ、AYU。研究所に戻ろう」

AYU「……はい」

博士「もう、分かったよ。きっと、この世界は救えない」

AYU「ご主人様……」

博士「だから、AYUには任務を与えるよ」

AYU「任務?」

博士「そう。人間がいるから、この世界は腐っていくんだよ。だから、過去に戻って、人間を滅ぼすんだよ。そのための研究はまだ不完全だけどね」

AYU「……」

博士「この任務が成功したら、もしかしたら、あなたは消えちゃうかもしれないけど、地球は救える。そうしたら、あなたはかつてカントー地方を救った伝説のポケモン『ゆい』になれる」

AYU「ゆいに……」

博士「あなたには伝説のゆいの遺伝子がある。これを達成することであなたはゆいを超えることもできるのよ」


回想終了

AYU「それから、私はあなた達が旅立つ5年前くらいにタイムマシンで来てね。いろいろと準備をしてきたわけだよ。例えば……曽我部さんとかね」

梓「……」

AYU「本来の歴史では彼女は何も関わらずに終わるはずだったんだよ。ロケット団もヤマブキシティを占拠するんじゃなくて、シルフカンパニーを占拠するだけでおしまい。当然、伝説のポケモンも使ってこなかった」

澪「おかしいな」

AYU「何が?」

澪「どうして、サッサと人類を滅亡させないんだ?」

たしかに、そうですね。

AYU「それは……私の我侭だよ。私は戦いたかった。ポケモンリーグで優勝した、梓ちゃんとゆいと。それともう一つ、事情があってね。私が力を使うには体内のあるエネルギーが必要でね。普段は自分で賄えるんだけど、人類を滅ぼすほどのエネルギーとなるとね」

梓「……私が必要ということですか」

AYU「そうだよ~、『あずにゃん』」

梓「そのあだ名で言わないで下さい。あなたには言われたくありません」

AYU「くすくす。ところで、私が曽我部さんを使ったのはね、彼女の取り組みも面白かったからだよ」

澪「どういうことだ」

AYU「私の目的は人類を滅亡させて世界を救うこと。でも、人類を滅亡させる以外の方法があれば、そっちをとるよ。……あればね。その中で、人類の人口を減らすのもいいと思ってね。……さて、この世界ももういいかな」

私達はもう一度、目をつぶり、元の部屋に戻りました。

AYU「私はこの任務を成功させて、伝説の英雄、ゆいになる」

梓「……あなたでは無理ですよ」

AYU「言うね。……まあ、いいや。ここで、提案したいことがあるんだ」

AYUは椅子に腰掛けます。

AYU「あなたのお友達の純ちゃんを助けてあげてもいいよ」

梓「えっ……」

AYU「ただし、あなたが決勝戦を辞退したらね。そうしたら、あなたの仲間達も人類滅亡からは救ってあげる」

澪「ちょっと待て。お前は戦いたかったんだろ?梓とゆいと」

AYU「そうだよ~。でも、梓ちゃんを手にかけたくないからね。エネルギーがなくなれば、用なしだし。あなたと梓ちゃん。それに女の子2人と純ちゃんにういにゆい。これだけの人間くらいなら、生き残っても、子種を残せないだろうしね」

梓「……」

AYU「さて、私の話は終わりだよ。で、どうする、梓ちゃん」

梓「私は……」

AYU「まあ、ここで出す結論でもないからね。じっくり考えてよ、『あずにゃん』」

梓「2度とそのあだ名を口にしないで下さい。次は容赦しませんよ」

AYU「いい答えが出ることを期待してるよ、あずにゃん」

梓「……失礼します」

私はサッサと、AYUの部屋を出ました。


澪「……」

私も梓に続いて、部屋を出ようとして、振り返る。

澪「……梓はお前には負けないよ」

AYU「ふふふ、それは楽しみだね」

澪「それにお前は決して、ゆいにはなれないよ」

澪「さあね。自分で考えなよ」

私はそれだけを言い残して、部屋を出た。


梓「どうしたんですか、澪先輩」

澪「別に何もないよ。さあ、戻ろう」

梓「そのわりには……足が震えてますよ」


その頃のゆい達

ゆい「ひゃああああああ」

私は地面に叩きつけられる。

紬「大丈夫、ゆいちゃん!!」

律「おいおい、ういちゃん。もう少し、手を抜いても……」

ゆい「大丈夫だよ、りっちゃん。それにこれは大事な儀式だからね」

律「儀式?」

ゆい「そう。次で、48個目。これで……」

うい「お姉ちゃんはひらさわ家48の殺ポケ技をマスターできるんです。そうすれば、お姉ちゃんは……『パーフェクト・お姉ちゃん』になれます!」

ゆい「パーフェクト・わたし!そうなれば、きっと……」

妄想

梓「すごいですね、ゆい先輩!!」

ゆい「当然だよ!フンス」

梓「お礼にギュッてしてあげます!」

ゆい「仕方がないな~」

梓「今日は抱っこして寝てあげますね」

ゆい「今夜は寝かさないぜ、子猫ちゃん」

妄想終了


ゆい「えへへ~」

律「本当に梓かよって、妄想してるな」

紬「だから、妄想ってそういうものよ」

うい「隙ありだよ、お姉ちゃん」

私が妄想をしていると、ういが私を掴んで上にジャンプします。

うい「これが最後だよ。ひらさわ家48の殺ポケ技の1つ『ひらわわバスター』」

ういは私の足を持って、私の首をういの肩口で支える体勢になります。そして、地面に落下します。
ドカンッ!!!

地面に着地した衝撃が辺りに響き渡ります。

ゆい「……強くなったね、うい」

うい「……お姉ちゃん」

ゆい「私は明日勝つよ。ここまでしてくれた、ういや皆のため。そして、あずにゃんのために」

うい「……頑張ってね」

ゆい「うん……グハッ」

ういは手を離し、私は地面に落下し、気絶してまいました。

紬「ゆいちゃん!」

律「気絶してるだけみたいだな」

うい「ハア……ハア……」

律「ういちゃんもお疲れ様」

うい「いえ……。お姉ちゃん達は勝てるでしょうか?」

律「さあな。こればかりは時の運だよ。ただ、やるべきことはやったんだ」

紬「とりあえず、梓ちゃんのポケモンとゆいちゃん。それから、ういちゃんもポケモンセンターに行きましょう」

律「そうだな」


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最終更新:2011年09月21日 19:50