紬「澪ちゃん、何読んでるの?」

澪「ん、あぁ、ほら」スッ

紬「生贄のジレンマ?」

澪「うん。ライトノベルだ」

紬「どんな話なの?」

澪「簡単に言うとクローズドサークルでのデスゲームってとこかな」

紬「何それ、復活の呪文?」

澪「例えば私たち軽音部の5人がいるとする」

紬「いるわね」

澪「私たちは理不尽にもある一定の枠内に閉じ込められ、3時間後に死の宣告を受ける」

紬「ふむふむ……」

澪「助かる方法はただひとつ、誰かを生贄に捧げること。そうすれば自分の生存を延ばすことができるってわけさ」

紬「その生贄に選ばれた人はどうなるの?」

澪「もちろん、そいつに待つものは……死さ」

紬「それっておもしろいの?」

澪「うん。結構おもしろいよ」

紬「じゃあ、今度貸してもらえる?」

澪「構わないよ。読み終わってからでいいか?」

紬「えぇ、お願いね」

澪「任せとけ」

紬「今の例え話だけど……」

澪「うん?」

紬「もしも、もしもよ?私たち5人がそんな状況に追い遣られたら、どうする?」

澪「この本の主人公たちもそれで悩んでるよ」

紬「そうなの?」

澪「むしろそこが売りなんだろうな」

紬「澪ちゃんなら?」

澪「私……?」

紬「まだ読破してないと思うけど、澪ちゃんならどうする?」

澪「私なら……か」

紬「うん」

澪「生贄を捧げる」

紬「そう……」

澪「ムギは?」

紬「私も、そうするかも……」

澪「誰を?」

紬「言わなきゃダメ?」

澪「じゃあ一緒に言おうか」

紬「うん、せーのっ」





澪「梓」
紬「梓ちゃん」



<2年の教室>

梓「にゃぁ!?」ブルッ

憂「どうしたの梓ちゃん?」

梓「いや、なんか悪寒が……」

純「にゃぁだって」ケラケラ

憂「ふふっ」クスクス

梓「わ、笑うなー!」


――――

澪「冗談はさておき、ムギは普段どんなことしてるんだ?」

紬「漠然としすぎていてどう答えればいいのかわからないわ」

澪「あー、えっと……暇なときってあるだろ?そんな時ムギならどう過ごしてんのかなって思ってさ」

紬「そうねぇ……」

澪「まぁ、3年だから勉強してるんだろうけど」

紬「勉強以外でってことね?」

澪「そういうこと」

紬「うーん……」

紬「本を読んだり、お散歩したり、ピアノを弾いたりとかかしら」

澪「ムギが言うと何でもないことが優雅に聞こえるな」

紬「でも私だってマンガを読んだり、ゴロゴロすることだってあるわよ」

澪「へぇ、意外だな」

紬「そう?」

澪「ムギはお嬢様だからそんなことしないと思ってたけど、案外普通の女の子なんだな」

紬「お嬢様って言っても中身はただの女子高生だもの」フフッ

澪「確かに」クスッ

紬「澪ちゃんは、やっぱり歌詞書いたり曲つくったりとか?」

澪「そうだな。でもそういうのって"やろう!"って思ってできるもんじゃないんだ」

紬「インスピレーション」

澪「そういうこと。ムギだって曲作るときそうだろ?」

紬「うん。こうやって何気なく過ごしてる時に自然とメロディーがあふれてきたり」

澪「寝る前とかもそうだよな」

紬「そうそう。でも朝起きたら忘れちゃってるのよね」クスッ

澪「わかるわかる」フフッ

紬「お茶飲む?」

澪「うん、ありがと。たまには手伝うよ」

紬「じゃあティーカップ出してくれる?」

澪「任せとけ」

紬「ありがとう」

澪「それはこっちのセリフだよ。いつもありがとな、ムギ」

紬「澪ちゃん……」ジーン

澪「うん、おいしい」ズズッ

紬「よかった。そういえば、誰も来ないわね」

澪「律は追試だって言ってたけど」

紬「じゃあ唯ちゃんも?」

澪「その可能性は高いな」

紬「梓ちゃんは?」

澪「梓は……わかんない」

紬「いい天気ね」

澪「うん、天気がいいと部屋にこもってるのがもったいなく思うよ」

紬「じゃあ外に出てみる?」

澪「今からか?」

紬「ちょっとそこまで」

澪「ん……いいかもしれないな」

紬「よし、レッツゴー!」

澪「おー!」


ガチャ バタン

紬「放課後の学校って、なんか普段と違う感じがしない?」

澪「確かに。なんて言うか、雰囲気が違うよな」

紬「そうそう。ってことは、夜はもっと違うのかしら?」

澪「い、行こうとか言わない、よ、な?」

紬「澪ちゃんほんと怖がりね」クスッ

澪「し、仕方ないだろっ!怖いものは怖いんだ!」


――――

ガチャ


梓「すいませーん、遅れま……し、た?」

梓「誰も来てない……」ズーン

梓「あれっ、鞄?」

梓「澪先輩のとムギ先輩のだ。よかった、来てたんだ」

梓「でもいない」キョロキョロ

梓「どこか行っちゃったのかな?」



――――

紬「うーん、気持ちいい!」ノビー

澪「ほんとにいい天気だ」

紬「どこ、行こっか?」

澪「今日のムギは行動的だな。とりあえず門出よっか」

紬「なんかワクワクしてきたっ」

澪「楽しそうだな」クスッ

紬「こういうのに憧れてたの」

澪「そっか。じゃ、適当にブラブラするか」


スタスタ


澪「こうやってムギと2人で出かけるのって、何気に初めてじゃないか?」

紬「そうかも。そういえば、いつも5人でいるような気がするわね」

澪「ほんと仲良いよな、私たちって」

紬「うん、でも素敵なことよね」

澪「こんな時間がいつまでも続けばいいのにな」

紬「本当にね」

澪「ま、そんなことも言ってられないけど」

紬「そうよ。それに、限りがあるからいいのよ?」

澪「どういうこと?」

紬「限りある、いつか終わるってわかってるからこそ、大切にしなきゃって思う。
  大切にしなきゃって思うからこそ、私たちはその一瞬一瞬を目一杯楽しむことができる。
  そして最後は、それが本当に大切な思い出になるのよ」

澪「なんか、詩みたいだな。すごく綺麗だ」

紬「ありがとう」

澪「私、今とっても幸せな気分だ。ムギのおかげだ」

紬「そう、よかった」フフッ

澪「雲が少ないな」

紬「ほんとね。直射日光が眩しい」

澪「焼けそうだな」

紬「日焼け止めのクリーム、塗り忘れちゃったね」

澪「ムギの綺麗な白い肌が焼けちゃうよ」

紬「ちょっとぐらい日焼けしたほうが健康的なのよ」

澪「河原に出た」

紬「結構歩いたわね」

澪「そうだな、ちょっと休憩しよっか」

紬「うん」

澪「ふー、のど渇いたな。なんか買ってくるよ、ムギは何がいい?」

紬「一緒に行くわよ」

澪「いや、すぐそこの自販機だぞ?」

紬「いーの。ほら、行こう?」



<部室>

チャララーン
ジャカジャカ


梓「……」

梓「あ、なるほど、こっちの指を……」

梓「……」ジャカジャカ

梓「……って」

梓「何で誰も来ないんですかーっ!!」



<河原>

澪「何にしよっかな」チャリン

紬「自動販売機って、なんかいいわね」

澪「そうか?あ、これにしよ」ピッ ガコン

紬「私ね、高校生になって初めて使ったの」

澪「おいおい、ほんとかよ」

紬「あんまり使う機会がなかったの」チャリン

澪「ふーん……」プシッ

紬「あら、これおいしそう。ぽちっとな」キャッキャ

澪(本当にお嬢様なんだな……)

澪「よっこらせ」ストン

紬「澪ちゃん、おばさんみたいよ」

澪「ははっ、ごめんごめん」

紬「もう……」スッ

澪(座るときまで優雅だ……)

紬「なぁに?」

澪「ん、なんでもない」

澪「ふー、生き返る」ゴクゴク

紬「冷たーい。でも気持ちいい」

澪「ははっ、確かに今日はちょっと暑

紬「えいっ」ピトッ

澪「ひゃん!」ビクッ

紬「澪ちゃんは首筋が弱いのかしら」

澪「いいいいきなりそんなことされたら誰でも驚くよ!」

紬「でも、冷たくて気持ちよかったでしょ?」

澪「それとこれとはまた話が……」

紬「こうやって放課後に制服で学校抜け出してお散歩、一度やってみたかったの」ウットリ

澪「まぁ、確かに軽音部だからこそできることかもな」

紬「合唱部なら怒られてるわ」

澪「文芸部でも、きっとそうだよ」

紬「よかった……軽音部に入って」

澪「うん、私もだ」

澪「なぁ、ムギ」

紬「なぁに?」

澪「こういうときは、こうやって後ろに倒れこむんだ」ゴローン

紬「まぁ!」

澪「ムギもやってみろよ。気持ちいいぞ」

紬「てーい」ゴローン

澪「ふふっ、そうそう」

紬「芝生が暖かい……」

澪「こうやって寝転がって空見上げてさ、なんか……青春っぽいだろ?」

紬「うん、青春ね」

澪「私な、こうやって空を見上げるのが好きなんだ」

紬「空を?」

澪「うん。こうしてるとそのまま大空に溶けてって、空を飛んでるようなふわふわした気分になれるんだ」

紬「詩的な表現ね。詩的で素敵だわ」

澪「それはかけてるのか?」

紬「もちろんっ!」

澪「ふふっ」

紬「でも、澪ちゃんの言ってることわかる気がする。こうしてると、本当に空に溶けていってるみたい」

澪「だろ?今日みたいに天気のいい日は特にな」

紬「なんかこのまま寝ちゃいそう……」トロン

澪「私もだ……」ファー

紬「ちょっとぐらい寝ちゃっても、いいかな?」

澪「ちょっとぐらいなら、いいだろ」ニコッ


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最終更新:2011年09月28日 21:40