・・・・・
同級生「桜ヶ丘の出番って何時だっけ」
純「確か…二時ごろだったかな」ポチポチ
同級生「なにやってんの?」
純「メール。友達にね、会場着いたよーって」
同級生「ふーん……ねぇ純」
純「うん?」
同級生「なんか私に対して冷たくない?」
純「どうしたの急に」
同級生「だって今はこっち見て話してくれないし、朝のバスでは同じ席に同じ席になってくれなかったし…」
純「なに言ってんの、別に冷たくしてないって」
同級生「ほんと?」
純「心配しなくても、友達でしょ?」
同級生「むぅー……」
純「もー、変なこと言わないでよ」
同級生「だってさ、部活のときは一緒だけどそれ以外はそうでもないじゃん、わたし達」
純「そう?」
同級生「そうだよ!」
純「別にそんな風に感じたことないけど……気のせいじゃない?」
同級生「そんなことないよ、私より中野さんたちの方が仲いいじゃん」
純「まぁ同じクラスだし……そりゃねぇ」
純「でもだからってあんたのことおざなりにしてるわけじゃないって」
同級生「……ほんと?」
純「だから本当だって」
同級生「それならいいけど…」
純「はいはい、はやく控え室行こ」
同級生「……あいあいさー」
――控え室
純「センパイ、飲み物買ってきましたよ」
先輩C「あぁ、悪いな」
純「はい、コーヒー牛乳です。これならセンパイも飲めますよね?」
先輩C「……なんの話だ?」
純「えっ、だって先輩苦いの飲めないじゃないですか」
先輩C「別に飲めないことはない。普段は飲まないだけだ」
純「そんな最後の最後まで強がんなくても……もう知ってますから、センパイの好み」
先輩C「い、言っておくが私は……」
「センパイ、よ、よかったらクッキー焼いたんで食べてください」
先輩C「え?」
「私も、よかったらこれどうぞ」
先輩C「あ…あぁ、ありがとう」
先輩B「慕われてるね~」
先輩A「なんだかんだで面倒見いいしね」
先輩C「ちゃ、茶化すんじゃない!」
先輩A「別に茶化してないけど」
先輩B「じゃあ私からもプレゼントを~」
先輩C「は?」
先輩B「あい、キャラメル」
先輩C「なんだ…珍しいこともあるんだな、お前からこんなものをもらえるなんて」
純(あっ、それさっきの…)
先輩C「ま、一応もらておく」
純(そ、それはジンギスカン……!!)
先輩C「……だが食べない。怪しいからな」
純(さすがセンパイ! 鍛えられた危機察知能力!)
先輩B「いい判断だ。今日は冴えてるね~」
先輩C「やっぱり怪しいものか…」
ガチャッ
顧問「みんないるー?」
純「あっ、先生」
顧問「本番まであと…一時間か。みんな調子はどう?」
先輩B「ばっちりで~す」
先輩C「万全です」
「「「「「「…………」」」」」」」」
先輩B「ありゃ」
顧問「他のみんなはそうでもないか」
純「なんか私までだんだん緊張してきた……」
同級生「純、出番ないじゃん」
純「空気! 空気にのまれてるの!」
先輩A「まぁ確かに、他校の生徒でもピリピリしてる子けっこういたもんね」
先輩C「しっかりしろ。緊張のし過ぎで身動きが取れなくなったら元も子もないぞ」
「わかってるんだけどね……」
「うん……」
「わたし達、いつもどおりにできるかな……」
先輩C「できるかどうかじゃない、ここまで来たら…あとはやるだけだ」
純「……」
先輩C「いいか、今までやってきた事を思い出せ。真面目に、ちゃんと練習してきただろ?」
先輩C「100点を取るには100点の努力じゃなく、120点の努力が必要になる…」
先輩C「その120点の努力を、わたし達はしてきたはずだ。それを信じろ」
「「「「「「…………」」」」」」」
先輩B「純、コーヒー牛乳ちょうだい」
純「あっ、はい」
先輩C「おい…真面目に話してるんだぞ」
先輩B「私は大丈夫だから。いつでも準備オッケーな状態だし」
先輩C「あのな…だいたいお前が部長なんだから少しはみんなをまとめたらどうなんだ!」
先輩B「え? う~ん……」
先輩B「まぁ今までやってきた事を思い出せばいいじゃん。真面目に練習したでしょ?」
先輩B「120点の努力してきたんだし、あとはそれを信じよ~」
先輩C「それじゃあ私のパクリだろ!?」
先輩B「パクッてないよ。私のオリジナルだし」
先輩C「まんまパクリだ!」
先輩C「今までのことを思い出せとか、120点のくだりとか!!」
先輩B「パクってないよ~」
先輩C「こいつ……! 純、お前だってパクリだと思うだろ?」
純「えっ……」
先輩C「そう思うよな?」
純(なんで私に話を振るんですか……ていうか緊張しすぎて話半分聞いてなかったし……)
先輩C「どうなんだ」
純「えーっと……まぁ人によってはそう感じるかもしれませんよね」
先輩C「なんでそうなる!?」
純「つ、つまり……えー……」
純(誰かヘルプ)
同級生(知らないふり知らないふり……)
純(ちょっ!?)
先輩A「まぁまぁ落ち着いて。私は二人ともいいこと言ったと思ってるから」
先輩C「なっ!? だって、どう考えても…………はぁ、もういい」
先輩C「お前から言うことはないのか?」
先輩A「え? 私?」
先輩B「いいね~。せっかくなんだから三年生一人一人が思いを口にしていこうか~」
先輩C「ほら、早くしろ」
先輩A「わ…私もなにか言うの!?」
先輩B「本番前の決意表明みたいなもんだよ」
先輩A「そんな……急に言われても……」
先輩B「早く早く~」
先輩A「えっと…だからみんな……その……」
先輩A「や、やっぱり無理よ~、こういうの慣れてないし」
「私は……。私は、みんなとここまで来れて嬉しいと思ってる。最後までがんばろうね」
「私も。辛いことはいっぱいあったけど、みんなと乗り越えられたことは誇りに思う」
「ここまで来たらお腹をくくるしかないよね。女は度胸」
「最後の舞台、派手にいこう」
「大丈夫だよね、わたし達ならたぶん……ううん、きっとできる」
「部長と副部長が言ってたように、120点の努力してきたもんね。できるよ絶対」
「いっちょみせつけよっか。桜ヶ丘高校ジャズ研究部の実力!」
「うん、全力全開がんばろっ」
「今まで楽しかったよ…って、まだ終わってないけど。今日は笑顔で終わらせようね」
先輩B「ほら、最後になったよ。早く」
先輩A「えぇっと……」
先輩A「うーん……」
先輩A(どうしよう…それっぽいこと一通り言われちゃったし……)
先輩C「どうした?」
先輩A「待って、えっと…みんな……きょ、今日は最後の舞台だし――…」
先輩A「だから…その……レ……」
純「レ?」
先輩A「レ、レッツ……レッツ! ポジティブシンキング!!」
「「「「「「……」」」」」」」
先輩A「……あ、あれ?」
顧問「あっ、そろそろ時間だ。みんな準備して」
「「「「「「はい!」」」」」」
先輩B「よし、じゃあ~レッツポジティブシンキングでいきましょうか~」
先輩A「お願い! 今のはナシでもう一回!!」
先輩C「もう遅い」
先輩A「うぅ~……」
純(最後の最後でセンパイのレアな姿を見れたかもしれない…)
先輩B「みんな行くよ~、忘れ物しないように~」
純「部長、がんばってください!」
先輩B「はいよ」
純「副部長も!」
先輩C「あぁ、期待してろ」
先輩A「はぁ~……」
純「げ、元気出してください。そんな気にすることじゃないですって」
先輩A「そうね…切り替えないと。よし、がんばろっ」
純「でもセンパイ達はすごいな~、特に部長と副部長。なんか堂々としてて」
先輩A「……ここだけの話ね」
純「え?」
先輩B「……」
先輩C「……」
先輩A「二人も緊張してるわよ、たぶんわたし達より」
先輩A「でも素直じゃないっていうか、意地を張ってるっていうか……」
先輩A「みんなにかっこ悪いところ見せたくないんじゃない? きっと。だから緊張を表に出さないだけ」
純「……」
先輩A「まぁそれを表に出さないだけで十分偉いと思うけどね……」
先輩A「じゃ、行ってくるから」
純「あっ、はい…がんばってください!」
先輩A「うん、また後でね」
純「……」
純(そっか……そりゃそうだよね)
同級生「純、わたし達は観客席の方に行こ」
純「あっ、うん」
純(やっぱみんな…緊張するよね)
先輩B「……」
先輩C「いよいよか…」
先輩B「引き返すのなら、今のうちだぜ?」
先輩C「なんだそのキャラ。ここまで来て帰るわけないだろ」
先輩B「だよね~」
先輩C「……」
先輩B「……」
先輩A「二人とも、飴なめる?」
先輩C「……ああ」
先輩A「楽しくできるといいわね、演奏」
先輩B「そうだね~」
先輩C「全力でやるだけだ。演奏のときは演奏に集中しろよ? それ以外は考えるな」
先輩B「分かってるって」
先輩A「三年間そう言われ続けてるんだから、みんな分かってるわよ」
先輩C「…そうか」
先輩B「あとはレッツポジティブシンキングは突っ走るだけでしょ」
先輩A「ちょっと、それはもうやめてって」
先輩C「……いくぞ。最後まで一緒に、な」
先輩B「はいよ」
先輩A「うん!」
・・・・・
ガヤガヤ
ガヤガヤ
後輩c「センパイ、こっちです」
同級生「あっ、いたいた」
純「はぁ~…もうそろそろだね」
同級生「なんていうかさ、今さらだけど……人多いね」
純「そりゃそうでしょ、あちこちから来てるんだから」
後輩a「こんな大勢いる中で桜ヶ丘優勝できるかなぁ……」
後輩b「さっきの学校の演奏とか、凄かったしね」
純「なんでわたし達が弱気になってるのよ。ほら、しゃきっとしゃきっと」
同級生「さっきまで空気にのまれたとか言ってたくせに」
純「さっきはさっき、今は今!」
純「とにかく! 今はセンパイ達のことを信じよ、ねっ!」
純「センパイ達が頑張ってきたことは、わたし達が一番分かってるでしょ?」
同級生「……そだよね。えへへ、良いこと言うじゃん」
純「まぁね!」
後輩b「あっ、そろそろ始まるみたいですよ」
後輩a「うぅ~…やっぱりドキドキするぅ」
後輩c「……」ドキドキ
アナウンス『――まもなく、桜ヶ丘高校ジャズ研究会の演奏発表が始まります』
純「きた……!」
・・・・・
ピッピッ
憂「あっ、純ちゃんからメール来てた。もう会場に着いたんだって」
梓「会場って…コンテストの?」
憂「うん、もう本番が始まってる頃かなぁ」
梓「ふーん……」
憂「ジャズ研かぁ…そういえば、梓ちゃんも最初はジャズ研に入るはずだったんだっけ?」
梓「え?」
憂「あれ、そう言ってなかった?」
梓「見学には行ったけど入ろうとは……」
梓「そもそも私はビックバンドジャズがやりたかったわけじゃないし」
憂「そうなんだ」
梓「でも……」
憂「?」
梓「後輩とかがいっぱいいるのは……少し羨ましい、かな」
憂「前に一緒に練習したよね。三年生が修学旅行のとき」
梓「うん、年下にギター教えるのって初めてだったかも。いつもは唯先輩ばかりに教えてたから」
梓「まぁさすがに今は唯先輩にも教えることはない…と思うけどね」
憂「えへへ」
梓「ジャズ研はコンテストかぁ……軽音部もそういうのに出れたら良かったのに」
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―――
――会場前
顧問「……みんなそろってる?」
先輩A「グスッ……ヒッグ…ウゥ……」
純「……」
先輩C「……」
先輩A「ウグッ……グズッ……」
純「センパイ……」
先輩B「あのさ~……泣きすぎ」
先輩A「だってぇ、なんか感極まっちゃっでぇ~」グスッ
純「三位ですよ三位! 凄いじゃないですか!!」
先輩A「よがっだねぇ、ほんどうによがっだあ」
先輩B「ほら、鼻かみなって~」
先輩A「うぅ……」チーン
顧問「いやー、すごいよアンタ達。ほんとよくやったよ」
先輩C「私は優勝を狙ってたんだけどな……」
純「なに言ってるんですか、十分すぎますって!」
同級生「そうですよ、こんな大勢の学校が参加してる中で三位ですよ!?」
先輩C「……」
先輩B「ま、運も絡んでくることだししょうがないって」
先輩B「最後の演奏は楽しかったしさ、一緒にできてよかったよ」
先輩B「ほんと、ありがと。お疲れ様」
先輩C「……ふんっ」
「終わっちゃったね……」
「うん…グスッ」
「……楽しかったぁ」
先輩B「……」
最終更新:2011年09月29日 00:01