純「演奏してるときのセンパイ達、かっこよかったですよ」

先輩B「そっか、そりゃよかった」

純「今日…なんかあっという間でしたね」

先輩B「こんなもんでしょ、去年もそうだったし」

純「……あーん、あっさりしすぎてつまんなーい」

純「もっとこう…かなりドラマチックな出来事とか起こったりしてもいいのに」

先輩B「そうだね~。みんなもうちょいワーキャー騒ぐと思ったんだけど」

先輩B「けっこう…終息モードに入っちゃってるね」

純「……センパイは寂しくないんですか? もう終わっちゃうのに」

先輩B「さぁ、まだ実感がわかない感じ」

純「でも……朝から寂しそうな顔してましたよ、センパイ」

先輩B「……」

純「私思うんですけどね、サザエさんってあるじゃないですか?」

純「あの世界って何年たっても年をとらないからうらやましいなーって」

純「わたし達の世界もサザエさんだったら、またみんなで部活できるのに……」

先輩B「そうなったら、純は永遠にレギュラー取れないかもしれないよ?」

純「はっ…そうかも!?」

先輩B「しかも毎年マラソン大会あるなんてヤだな~…わたし死ぬかも~」

純「うわぁ~私も走りたくない……」

純「……あっ、でも永遠に10代のままでいられるじゃないですか。それよくないですか?」

先輩B「……確かにそれはいいな」

先輩B「そう考えるとなんか私もサザエさんの世界に行きたくなってきた」

純「遊びまくれますね」

先輩B「……でも考えれば考えるほど空しくなっていくからやめとこ」

純「あはは…ですね」


先輩B「……」

純「……」

純「私……」

先輩B「……」

純「センパイ達が引退することはしょうがないと思ってますし、もうどうにもならないことは分かってるんですけど…」

純「このまま終わっちゃうのも…なんか悲しくて」

先輩B「純が引退するわけじゃないだろ~?」

純「そうですけど……」

先輩B「来年はいよいよジャズ研も純たちの世代になるんだから、がんばるんだよ?」

純「それも分かってますけど……」

先輩B「そっか……そだね。純はちゃんと分かってるよね」

純「……」

先輩B「……」

純「……すいません、変なこと言っちゃって」

純「あっ、そうだ! なんか飲み物買ってきますか? コーラとか」

先輩B「う~ん……炭酸苦手だからいいや」

純「ええっ、炭酸飲めないんですか!?」

先輩B「あのパチパチするのが苦手なんだよな~。口痛くなるし」

純「あのシュワシュワ感がいいんじゃないですか。じゃあお茶にします?」

先輩B「ん~…いいや、別に」

純「そうですか……あの、なんか他にあれば遠慮なく言ってください!」

純「今日はセンパイのためならババーッとなんでもやっちゃいますよ!」

先輩B「…今日はもう十分だよ」

純「え…?」

先輩B「朝、バスん中で隣に座って喋ってくれただけでも十分嬉しかった」

純「センパイ……」

先輩B「もう私のことは気にしなくても大丈夫だよ。全部ちゃんと受け止めてるから」

先輩B「それに前も言ったでしょ、私は世界一頼りがいがあって優しくて強い部長だって」

純「……って、そういうこと自分で言うのはどうなんですか」

先輩B「え~、だって事実じゃん~」

純「うーん……50%ぐらいですかね、それ」

先輩B「おっ、言うね~」

純「……ぷっ」

先輩B「あははっ」

純「あははは! あはは…」

純「……」

純「……私、ちょっとお手洗い行ってきますね」

先輩B「うん、行っておいで」

・・・・・

先輩B「……」

先輩C「……おい」

先輩B「うん?」

先輩C「さっき鈴木となに話してたんだ?」

先輩B「別に…いつもどおりなんてことない会話」

先輩C「そうか……」

先輩B「……どうした~?」

先輩C「……正直、お前が部長をやるって聞いたときは認めたくなかった。お前には無理だと思ってたからな」

先輩B「うわ、きつ~。いきなりなに?」

先輩C「ちなみに今でもそう思ってる」

先輩B「えぇ~…」

先輩C「……けど、案外お前が部長っていうのも悪くはなかった。なんだかんだでな」

先輩B「なんだそりゃ、めちゃくちゃ上から目線だナ~」

先輩B「ま、私もぶっちゃけ自分で無理だと思ってたけど…ね」

先輩C「……」

先輩B「副部長のあんたがいなかったら、私はダメだったよ。ありがとね」

先輩C「っ……!?」

先輩B「どしたの?」

先輩C「そ、そういう…普通のことを言うな! お前はいつもみたいにお、おちゃらけてればいいんだ……」

先輩B「なんだよ~、素直にお礼言ったのに~」

先輩C「……」

先輩B「……」

先輩C「……優勝したかったよ」

先輩B「…しょうがないって」

先輩C「けど…演奏が終わった後、そんな気持ちはどこかにいってて……」

先輩C「優勝しようがしまいが…どうでもよくなって……グズッ」

先輩C「三年間…頑張ったことが終わると思うと…ヒッグ……嫌で……」

先輩B「……」

先輩C「楽しかったのに……最後の演奏……まだっ…グスッ……やりたかったのにぃ……」

先輩B「……」

先輩C「うぅ…っ……ひっぐ……うぇっ……」

先輩B「泣きたかったら泣けばいいじゃん」

先輩C「別に…泣いて……ヒッグ…ないだろぉ……」

先輩B「泣いてるって」

先輩C「うるさい…私は生まれたときから泣いたことなんてないんだ……グスッ」

先輩B「それ死んでるから」

先輩C「うるさい…うっ……えぐっ…」

先輩C「う…うぁぁぁぁああん!!」

先輩B「……」ギュッ

・・・・・

純「……」

同級生「あっ、いたいた。純」

後輩c「あぁ、どうしたの?」

同級生「どうしたのって、もう帰る時間だよ? バス乗らないと」

純「分かってる」

同級生「ねぇ、純」

純「なに?」

同級生「私は決めたよ……来年こそは、わたし達の代で必ず優勝を勝ち取るって!!」

純「おーおー、燃えてますなー」

同級生「来年は絶対優勝だからね! 私はかーなーりマジ!!」

純「甘い!」

同級生「え?」

純「どうせ狙うなら…世界一でしょ!」

同級生「世界一!? どうやって獲るの!?」

純「……わかんない」

同級生「えー、なにそれ」

純「それぐらい勢いのある部活にしよってこと」

純「ま、確かに優勝はしたいよね」

同級生「当然!」

純「目指せ優勝! おー!」

同級生「おー!!」

後輩c「お、おー」

純「っとと、バス戻るんだっけ」

同級生「そうそう、早く早く」

純「はいはい、分かってるって」

後輩c「純先輩…」

純「うん?」

後輩c「ま、また明日からがんばりましょうね」

純「うん、がんばろうね!」

・・・・・

先輩A「あっ、純ちゃんたち来た」

純「すいません、遅れちゃって」

先輩A「忘れ物とかない?」

純「はい、大丈夫です……ってあれ、部長と副部長は?」

先輩B「おまたせ~」

先輩C「……」

顧問「全員そろった? じゃ、出発するよ」

先輩A「二人とも、こっちこっち」

同級生「純、わたし達はあっちの席いこ」

純「うん、いいよ」

先輩C「……」

先輩A「大丈夫?」

先輩C「……なにがだ」

先輩A「目が赤いけど」

先輩C「泣いてない」

先輩A「ふーん……ちゃんと酔い止め薬飲んだ?」

先輩C「あぁ……」

先輩A「よろしい」

先輩C「……お前にも、礼を言っておかないとな」ボソッ

先輩A「なにか言った?」

先輩C「な、なんでもない。また後で話す……」

先輩B「はぁ~…疲れた」

先輩A「……本当にもう終わっちゃうんだね」

先輩B「これから受験だしね~」

先輩A「はぁ……憂鬱になってきた」

先輩B「あはは」

先輩A「……泣いてないんだ、偉いのね」

先輩B「私が泣くわけにはいかないでしょ、部長だし」

先輩A「いいじゃない、部長でも泣いたって」

先輩B「…去年の先輩はさ、ヘタレのくせしてみんなの前では泣かなかったじゃん」

先輩B「だから、私が泣いたら先輩に負けた気がするから、私も絶対泣かないって去年から決めてた」

先輩A「…なにそれ、へんなの」

先輩B「……そうだ、ちゃんと先輩たちにも報告しておかないとね~、今年も楽しい演奏ができたって」

先輩A「……うん、そうね」

先輩B「……」

先輩C「……」

先輩A「…今まで楽しかったことや辛いこと、たくさんあったけど……あっという間だったね」

先輩A「二人もすっかり仲良くなったし」

先輩B「え~?」

先輩C「なんのことだ」

先輩A「一年のとき思い出してよ。二人ともあんまり仲良くなかったじゃない」

先輩B「まぁ今も言うほど仲良くないけどね~」

先輩C「そうだな」

先輩A「もう、じゃあそういうことにしておくわよ」

先輩A「……でもね私は二人のこと、大好きよ」

先輩C「むっ……」

先輩B「告白された!」

先輩A「そういうのじゃなくて……ふふっ、もう」

顧問「みんなお疲れ様! 今日はほんと良かったよ!」

顧問「さて、帰りにみんなが暇にならないよう実は用意したものが……」ガサゴソ

顧問「じゃーん、ビンゴ大会ー!」

顧問「今日はみんなパーッと盛り上がって……」

「スヤスヤ……」
「グー……」
純「うぅ~ん……ムニムニャ」
同級生「……ふにゃ」
後輩c「すぅ……すぅ……」

顧問「…って、本当にお疲れか」

先輩B「ほとんど寝ちゃってますね~」

顧問「ま、しょうがないか。でもせっかく用意したんだけどなぁ、ビンゴ」

先輩A「また今度やればいいじゃないですか」

顧問「そうだねぇ……また今度に、ね」

純「ZZz…握手は押さないで…ちゃんと並んで……ぐぅ」

先輩C「どんな寝言だ」

顧問「ぷっ…あはははっ」

先輩B「ナイスツッコミ」

先輩C「うるさい」

先輩A「あははっ……グスッ……」

先輩B「ん?」

先輩A「あら…? やだ…さっきいっぱい泣いたのに……」

先輩A「ひっぐ……また涙が……グズッ……」

先輩B「…私も、二人のこと大好きだよ」

先輩A「ちょ、ちょっと~…いきなりそんなこと言わないでよぉ」

先輩A「泣くの…止まんなくなっちゃうじゃない……ひっぐ……」

先輩C「お前…わざと泣かそうとしてるのか」

先輩B「さぁ、どうでしょう」

顧問「ねぇ、私のことは?」

先輩B「先生も好きですよ」

顧問「よしよしいい子だ、100点あげよう」

先輩B「…で、あんたはどうなの?」

先輩C「……」

先輩B「ほらほら~、言っちゃいなよ~」

先輩C「……みんなと同じだ。言わなくても分かるだろ」

先輩C「……それぐらい分かれ」

先輩B「よしよし、いい子いい子~」ナデナデ

先輩C「や、やめろ!」

先輩A「えっぐ……ぐすっ……ふぅあ~…」

先輩C「お、おい! そんなおお泣きするな!」

先輩B「はい、チーズ」パシャッ

先輩C「どさくさに写真を撮るな!!」

先輩A「私も、みんな大好きぃ~!!」


―――――――――
――――――
―――

月曜日




同級生「純ー、部活ー」





純「今行くー」

純「じゃあ憂、私も部活行ってくるから」

憂「うん、いってらっしゃーい」

同級生「はぁ~あ、寒くなってきた」

純「寒いの苦手なんだよね。暑いのもだけど」

同級生「今年って部室に暖房つく?」

純「さぁ…どうなんだろ」

同級生「つかないと困るんだけどなぁ」

純「あー…なんか肉まん食べたくなってきた」

同級生「私ピザまん」


――ジャズ研 部室

同級生「そういえば今日から練習メニューわたし達で考えるんだって」

純「あ、そっか。どうしようかな……」

ガチャッ

後輩c「こんにちわ」

後輩a「こんにちわ-!」

純「おいっす」

後輩b「センパイ、言われたとおり譜面台運んできました」

「あっ、ありがとう。そこにおいて置いて」

後輩b「はい」

後輩c「純先輩、あの…昨日練習してできなかったフレーズがあって」

純「どれ? 今少し空いてるから練習しよっか」

後輩c「は、はい!」

休み明けの部活動。

純「そこはこうやって…」

後輩c「えっと……こうですか?」

純「そうそう!」

部室の空気は新しく入れ替わったようだった。

純「うん、おっけー!」



##18 おわり



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最終更新:2011年09月29日 00:02