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――購買

純「あ~ぁ、ゴールデンチョコパンないや」

憂「本当だ。人気なんだね」

純「三年生がいないから買えると思ったのに……」

純「しょうがない、適当なもの買っとこ」

憂「私も何か買おうかな~」

部長「あっ、鈴木さん! ようやく見つけた」

純「え?」

部長「ここにいたんだ。探したのよ」

純「あれ、どうしたの?」

部長「ちょっと話があるんだけど…いい?」

純「なに急に」

憂「純ちゃん、この人は…?」

純「あぁ、えっとジャズ研の部長」

部長「こんにちは、確か平沢さんだったかしら。よろしくね」

憂「こ、こんにちは」

部長「そういえば…中野さんはいないの?いつも一緒じゃなかったっけ?」

純「別にいつも一緒ってわけじゃ…。梓はやることがあって教室にいるよ」

部長「ふーん…」

純「それで話って?」

部長「たいした話じゃないの。すぐに終わることだから」

純「じゃあちょっと待ってて。先にパンと飲み物買うから」

部長「そう、わかった。待ってるね」

憂「私は先に教室に戻ってるね」

純「うん、了解」

・・・・・

純「それで、どうしたの?」

部長「今日から部活のメニューを変えてみようかと思うの。それで昨日、練習メニューを組み立て直してみたんだけど…」スッ…

部長「鈴木さん、ちょっとチェックしてもらえる?」

純「えっ、私が?」

部長「今日は副部長が風邪で休んでるの。だから代わりに鈴木さんに見てもらいたくて。メニューのことで何か意見があったら遠慮なく言ってね」

純「副部長の代わりにねぇ…」

部長「個人的に鈴木さんには期待してるんだけどなぁ」

部長「仲間思いだし、頼りになるし…そんな鈴木さんだから、私もついあてにしちゃって。迷惑だった…?」

純「そ、そんなことないって」

純「しょうがないなぁ、そこまで言われたらチェックしてあげよう!」

部長「よろしくね」

純「ふむふむ…」

部長「……」

純「いいんじゃない? この練習メニューで問題ないと思うけど」

部長「そう、よかった。なら次の練習からはこのメニューね」

純「それにしても、私がそこまで期待されちゃってるなんてなぁ」

部長「鈴木さんって見かけによらずしっかり者だから。それに、新学期からはレギュラーにも入ってるしね」

純「えっ、うそ…」

部長「本当よ。ここだけの話、ジャズ研のレギュラーベーシストは鈴木さんにしようと思ってるの」

純「まじ!? やったぁ!!」

部長「これからも頑張ってね、鈴木さん」

純「もちろん!」

純「はぁ、これでようやく私も舞台へ上がれる!」

部長「ふふっ。あっ……そうそう、話は変わるんだけど」

部長「鈴木さんって、中野さんと仲は良いのよね?」

純「梓? 仲良いけど…それがどうしたの?」

部長「ううん、仲が良いならそれでいいの」

部長「あの子が今は軽音部の部長なんでしょ?」

純「うーん…どうなんだろう。まだ三年は引退しないでちょくちょく部室に来てるって言うし」

部長「そうなの? まぁそれならそれでもいいんだけど…」

部長「よかったら今度私にも中野さんを紹介してね。同じ部長同士、私も仲良くなりたいから」

純「うん、いいよ」

部長「それじゃ、私はそろそろ戻るから。引き留めてごめんね」

純「はいはーい。じゃあまた」



――2年1組

純「たっだいまー」

憂「おかえり、純ちゃん」

梓「長かったね」

純「うん? まぁちょっと色々ね」

憂「梓ちゃん、あの話しなくていいの?」

梓「あ…うん。ねぇ純」

純「んー?」モグモグ

梓「頼みたいことがあるんだけど…」

純「?」

梓「純に新歓ライブの手伝いをお願いしたいの」

純「新歓ライブって、4月にやるやつの?」

梓「うん、そろそろ練習を始めなきゃと思って」

憂「私も手伝うんだよ」

梓「…で、もし都合が良かったら純にも協力して欲しいんだけど」

純「……ふーむ」

梓「あっ、ジャズ研の方が忙しかったら断ってくれても全然かまわないから」

梓「無理させるのも悪いし」

純「……いいよ!」

梓「えっ…」

純「練習、手伝ってあげる」

梓「ほんとう!?」

純「もちろん、私は嘘をつかない女!」

純「あっ…て言ってもジャズ研の練習がある日はそっち優先させちゃうかもしれないけど、いい?」

梓「うん、それでも全然助かるよ純」

純「ま、困ってる梓に救いの手を差し出してあげようじゃない」

憂「純ちゃんは、梓ちゃんが困ってるとほっとけないもんね」

梓「純…!」

純「私としては梓の困った顔をもっと見てみたいけど」

梓「今ちょっとだけ感激した私の気持ちを返して」

純「まぁまぁ、ちゃんと手伝ってあげるんだからいいじゃない」

純「ところで…お菓子の用意とかってしてあるのかな?」

梓「お菓子? 練習はムギ先輩達がいない間にやるからお菓子はないけど」

純「えぇっ、そんなぁ!?」

梓「……まさかお菓子目当てだった?」

純「別にそういうわけじゃないけど…あったら良かったのになぁって」

憂「お姉ちゃん達がいない間に練習するの?」

梓「うん。新学期のことに関しては余計な心配かけたくないし、内緒にしようと思ってる」

純「ふーん」

憂「そっか…じゃあ私もこのことはお姉ちゃんに黙ってた方がいい?」

梓「できたらお願い」

純「それで、いつから練習?」

梓「明日から。明日なら先輩達もいないし」

純「明日か…うん、ジャズ研の練習はないから私の方は大丈夫」

純「よーし、ジャズ研で鍛え上げたベーステクニックを今こそ役立てる時!」

梓「クリスマスの時にも聞いたけど、純もすっかり上達してるよね」

純「ふっふっふ…ここだけの話、実はレギュラー取れそうなの」

梓「へぇー」

憂「ジャズ研って競争厳しいんでしょ? それでレギュラーになれるなんて純ちゃんすごいね」

純「ふふーん、こう見えても努力家ですから」

純「去年は特に頑張ったっけ……頑張りすぎて、指が血だらけになるくらいに」

梓「そこまでには見えなかったけど…」

純「それぐらい頑張ったってこと」

純「とにかく、私が練習に参加するにあたっては大船に乗った気でいなさい!」

梓「はいはい、じゃあよろしくね」

純「おっけー、まかせて」

憂「頑張ろうね!」



翌日
――通学路

純「ふぁ~……」

純「……ねむ」

純(この時期はまだ寒いし…イヤになっちゃう)

純「…今日は梓の手伝いかぁ」

純「んーと、ベースはちゃんと持ってきたし…よし、大丈夫」

純(寝ぼけて忘れるかもしれないしちゃんと確認しないとね)

純(あっ…部長には手伝うことちゃんと言っておいた方がいいかな)

純「うーん……」

純(あとでメールしておこ)

後輩c「純先輩、おはようございます」

純「あっ、おはよー…ってあれ? マフラーどうしたの?」

純「いつもしてなかったっけ」

後輩c「実は…昨日なくしちゃって」

後輩c「探したんですけど全然見つからなくて…」

純「そうなんだ、それじゃ首もと寒いでしょ。あっそうだ…私のマフラー貸してあげよっか?」

後輩c「えっ…で、でも」

純「私は大丈夫。それよりかわいい後輩が風邪ひかないか心配なの」

純「はい、これ使って」

後輩c「純先輩…!」

純(ふふふ…今わたし、めちゃくちゃかっこいい先輩やってるかも)

後輩c「あの、純先輩…もしよかったら今日……あ、あれ」

純「どうしたの」

後輩c「今日……部活、ありましたっけ…?」

純「へ?」

後輩c「わ、私…ベース忘れちゃって……」

後輩c「い、急いで取りに戻ります!」

純「ちょっとストップ! 今日は部活ないってば!」

後輩c「で…でも、純先輩はベース持ってきて…」

純「違う違う、これは違うの。今日軽音部の練習の手伝い頼まれたから、そのために持ってきたの」

後輩c「えっ……?」

純「そういうわけで、今日は練習ないから安心して」

後輩c「軽音部の…手伝いですか……?」

純「うん、新歓ライブの手伝いでね。軽音部に友達いるの知ってるでしょ? その子がどうしてもって言うから」

後輩c「…クリスマスの時も、そういうのありませんでしたっけ」

純「あぁ、あの時もそうだっけ。いやー、私ってやっぱり頼りがいのある人間なのかなぁ」

純「困っちゃうなぁ、人気者は」

後輩c「……」

純「……あれ、滑っちゃった?」

後輩c「あっ…いえ。すいません、ちょっと考え事して…」

純「もー、調子乗りすぎて引かれちゃったと思った」

後輩c「で、でも純先輩は確かに頼もしいです」

純「あっ、そう? やっぱり? 嬉しいこと言ってくれるじゃん」

後輩c「あはは…」


――1年1組

後輩c「……」

後輩b「おはよ」

後輩a「おーはよっ」

後輩c「あっ、お、おはよう」

後輩b「マフラー変わったんだね」

後輩c「え?」

後輩b「ほら、いつもと違う」

後輩c「……あっ!! 純先輩に返し忘れた!!」

後輩b「うわ、びっくりした。そんな大きな声初めて聞いた」

後輩a「それ純先輩のなの?」

後輩c「うん…借りたの。私のやつはなくしちゃったから」

後輩b「ふーん、なるほど」

後輩a「あとで返しにいけばいいんじゃない?」

後輩c「う、うん…そうだね」

後輩b「お昼休みの時にでも一緒に行こっか。確か2年1組だっけ」

後輩c「うん……あっ」

後輩b「なに?」

後輩c「純先輩のクラスに、軽音部の人っていたよね?」

後輩b「軽音部?」

後輩a「ひょっとして…梓先輩のこと? 中野梓先輩」

後輩c「あのね……その人って…どういう人なの?」

後輩b「どういう人って言われても…」

後輩a「優しい先輩だよ。前にギター教えてもらったし、教え方も上手かったし」

後輩c「純先輩とも…仲良いの?」

後輩b「良いんじゃない? 純先輩からもたまに梓先輩の話聞くし」

後輩a「梓先輩がどうしたの?」

後輩c「ちょっと…気になって」

後輩b「?」

後輩c「別に大したことじゃないよ。本当にちょっと気になっただけだから」

後輩a「あっ、ははーん分かった」

後輩a「ひょっとして…梓先輩のファンになった?」

後輩c「へ?」

後輩a「なるほど、そっちにいきましたか。まぁ気持ちは分からなくもないけどね、梓先輩もかわいいし」

後輩c「あ、あの…それは違う……」

後輩a「あっ、ファンクラブ作っちゃえば? 今ならファンクラブ会員ナンバー1番になれるよ!」

後輩c「だ、だからね、そうじゃなくて…」

後輩b(たぶん何か誤解が生まれてるんだろうけど……まぁいっか)


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最終更新:2011年09月29日 00:12