昼休み
――2年1組

純「うーいっ、購買行かない?」

憂「うん、行こっか純ちゃん」

純「梓も行く?」

梓「私は買うものないし、残った課題やりながら教室で待ってる」

純「そう? そんじゃ行こ、憂」

憂「今日はゴールデンチョコパンあるといいね」

・・・・・

純「そういえば憂、今日はなんの楽器やるの? オルガン?」

憂「うん、今回はオルガンやろうと思ってる」

純「ほぉー、それにしても憂は器用だね。オルガン弾いたりギター弾いたり」

純「その才能が羨ましい」

憂「そ、そんなことないよ」

純「でも実際なんでもできるじゃん。憂が軽音部に入部したら、安泰だね」

憂「私だけじゃダメだよ。そもそも人数もそろってないし」

純「あーそっか、四人必要なんだっけ」

憂「うん、そうだよ」

純「去年は来なかったし、今年も軽音部に新入部員来るのかな。また来なかったりして」

憂「それは言わないであげて…」

純「でもさ、春からは梓が軽音部引っ張っていくんでしょ? いきなり後輩が入って来たら来たで大丈夫かな」

憂「純ちゃんは梓ちゃんのこと本当に心配してるんだね」

憂「ちょっと妬いちゃうなぁ」

純「えっ」

憂「だって私…純ちゃんとは中学からの付き合いなのに、純ちゃんは梓ちゃんばっかり構って……ずるい」

純「憂? きゅ、急になに!?」

憂「純ちゃん…私のことも、もっと構って?」

純「う、憂!?」

憂「なーんちゃって、驚いた?」

純「あ…そ、そのドッキリ分かりにくいって!!」

憂「ごめんごめん」

純「まったく」

純「…憂のことだって、ちゃんと大切な友達だと思ってるんだからね?」

憂「えへへ、ありがとう純ちゃん。私も二人のこと大好き」

憂「だから、今日みたいに三人一緒に何かできるのってすっごく嬉しい」

純「うん、そっかそっか」

憂「純ちゃんも嬉しい?」

純「うーん……どうだろ」

憂「えー、純ちゃーん」

純「じょうだんじょうだん」

憂「もう純ちゃんってば」

純「へへ、さっきのお返しだよ」

純「私も三人一緒で楽しいと思うよ。……あっそうだ、今良いこと思い付いた」

純「なんなら私もこのまま軽音部に入っちゃおうか?」

憂「え……? じゅ、純ちゃん?」

純「なに?」

憂「それも…冗談?」

純「? 違うけど」

憂「で、でも純ちゃんジャズ研に入ってるし!」

純「そうだけど、兼部って形ならいいんじゃない?それに 私の籍があれば、頭数も増えるし」

純「たぶん練習はジャズ研の方が中心になるかもしれないけど…時間がある時は軽音部もやるって感じなら、いけるんじゃない?」

憂「もし本当に入部してくれるなら嬉しいけど……そんなにあっさり決めちゃって大丈夫なの?」

純「確かに思いつきで言ってみたけど……どうなんだろ」

純「でも私の方はそれでもいいし、ジャズ研の子達だって話せば分かってくれると思うから」

憂「だけど兼部って大変そう…」

純「平気へーき、軽音部は基本的にはお茶飲むだけでしょ」

憂「それは…」

憂(……違うとは言い切れない)

憂「一応ちゃんと練習もやると思うよ?」

純「ベース弾くの好きだし、部活を両方やってる分たくさん弾けると思えばいいじゃん」

憂「純ちゃん…」

純「それに憂と梓だけ一緒に部活やるなんてずるいよ。私がいなきゃ、バランスも悪いでしょ!」

憂「…ありがとう、純ちゃん。梓ちゃんもきっと喜ぶと思うよ」

憂「でもジャズ研の人たちは何て言うかなぁ」

純「うーん、そこなんだけど…さっきも言ったけど、たぶん大丈夫だって」

純「とりあえず、今度の部活で事情を説明してみる」

・・・・・

後輩a「ねぇ、マフラー返しに行かないの?」

後輩c「え? あ…うん。今行くよ」

後輩b「一人で上級生の教室行くのは不安でしょ。私たちも一緒についてってあげる」

後輩c「ありがとう…」

後輩c「……」

後輩b「どうしたの?」

後輩c「ご、ごめんね。やっぱり私、一人で行ってくる」

後輩b「え? でも…」

後輩c「二人に悪いし…すぐ戻ってくるから」タタッ

後輩b「あっ、ちょっと!」

後輩a「まぁまぁ行かせてあげなって。これから憧れの梓先輩に会いに行くんだし、二人っきりになりたいんだよ」

後輩b「それは違うと思うけど…まぁいっか」



――2年1組

後輩c「……」

後輩c(教室の前まで来ちゃったけど……やっぱり二人にもついてもらった方がよかったかなぁ)

後輩c(でも二人の前では純先輩に色々聞けないし…)

後輩c「……」

後輩c(考えすぎかな…純先輩が軽音部に入るわけないよね)

後輩c(ただ…友達の人を助けるだけだもんね)

後輩c「……」

後輩c(でも、もし純先輩が軽音部に入ったら……会える時間が少なくなっちゃうかも)

後輩c(それに…軽音部の人に純先輩を取られたくない……)

ガラッ

後輩c「!!」ビクッ

梓「あ…」

後輩c「え……あっ、えっと、えっと」

梓「ごめん…ちょっとそこいい? 通りたいんだけど」

後輩c「あ、すすすいません!」ササッ

梓「…うちのクラスに何か用?」

後輩c「あっ…いえ、その……」

後輩c「じゅ…純先輩は……いますか?」

梓「純? 今購買に行ってるけど…すぐ戻ってくると思うよ」

梓「えっと…ジャズ研の人?」

後輩c「は、はひっ」

梓「そっか。待ってればすぐ来るから」

後輩c「は、はい……」

梓「……」

後輩c(あれ…この人ってひょっとして……)

後輩c(中野先輩じゃ……)

梓「さてと、教科書は……」

後輩c「……」ジーッ

後輩c(この人が…中野先輩)

後輩c(純先輩と一番仲が良い人……)

梓「……」

後輩c「……」ジーッ

梓(なんか私、さっきからずっと見られてるような…)

後輩c「……」ジーッ

梓「あの……なにか?」

後輩c「あっ…いえ、すすすいません」

梓(あれ…ひょっとして何か変なことしちゃった、私?)

梓「……」キョロキョロ

梓(別に大丈夫だよね…)

後輩c「……」ジーッ

梓(あれ、やっぱり見られてる!?)

後輩c(どうしよう…純先輩のこと、思いきって聞いてみようかな……)

後輩c(でも緊張する……)

梓「…あの」

後輩c「!!」ビクッ

梓「私の顔に…何かついてるの?」

後輩c「え? え??? あ…えっと……あの……」

後輩c「は、鼻がついてます」

梓「…………あ、そう」

後輩c「……」

梓「……」

梓(い、今のどうリアクションすればいいの!?)

後輩c(あれ…変なこと言っちゃったかな……)

梓「えぇっと…純に用があるんだよね?」

後輩c「そ、そうです」

梓「それで…どうしてさっきから私のこと……」

後輩c「へ? あっ……す、すいません!」

後輩c「あの…えっと……実は……」

梓「?」

後輩c(せ、せっかくここまで来たんだから…勇気を出して聞かなきゃ)

後輩c(純先輩が軽音部に入るのかどうか…)

後輩c「じゅ…」

梓「じゅ?」

後輩c「純先輩を私から奪わないでください!!」

梓「……え?」

後輩c「……はっ」

後輩c(わ、わわ私なにを言って……!?)

梓「え、あの」

後輩c「し、失礼しました!!」ダダダッ

梓「え? えぇ???」

梓(……ど、どういうこと?)

梓「……」ポカーン

純「梓、なにそんな所で立ってるの?」

梓「あ…純、憂。おかえり」

憂「どうかしたの?」

梓「……ううん、なんでもない」

純「早く教室入ろうよ。おなかすいちゃった」

梓「そ、そうだね」

梓(今の子の事、純に言った方がいいかな)

梓(でも説明しづらいし……)

純「いっただきまーす」

梓(……とりあえずよく分かんないし、そっとしておこ)

・・・・・

後輩c(なんであんなこと言っちゃったんだろう……)ズーン

後輩c(はぁ…色々失礼なことしちゃったかも)

後輩c(結局聞きたいことも聞けなかったし)

後輩c「……」

後輩c(でも…本当に純先輩が軽音部に行っちゃったら……)

後輩c(そうしたらジャズ研は……)

後輩c「……」

後輩c(せっかく私にも居場所ができたのに…)

後輩c(純先輩とみんなと楽しく部活できたのに…)

後輩c(そんな毎日が変わっちゃうのは……嫌)

後輩c「……」

後輩c(やっぱり考えすぎなのかな…私)

後輩c(あぁもう……私ってどうしてこんな…)

ガラッ

後輩b「あっ、おかえり」

後輩c「ただいま…」

後輩a「梓先輩には会えた?」

後輩c「え? …会ったけど」

後輩a「二人っきりで?」

後輩c「えっと……う、うん」

後輩a「ほら言った通りでしょ!」

後輩b「まさか…本当にそうだったなんて」

後輩c「???」

後輩b「まぁいいけど…ところでマフラーは返したの?」

後輩c「マフラー……あっ!」

後輩b「…返し忘れたの?」

後輩a「梓先輩に見とれすぎて?」

後輩c「……え?」

後輩b「しかしまぁ、あの梓先輩を狙っていたとは…」

後輩c「あのぅ……」

後輩a「心配しないで、私は応援するから!」

後輩b「本当に梓先輩がいいの?」

後輩a「いやぁー隅におけないね。このこのっ」

後輩c(……どうしてそういうことになってるんだろう)


――2年1組

梓「はっくしょん!」

憂「大丈夫? 梓ちゃん」

梓「うん…」ズズッ

純「誰かが梓の噂でもしてるんじゃない?」

梓「そんなわけないと思うけど…」

梓「……」

梓「ねえ、純」

純「うん?」

梓「私の顔に…なにかついたりしてる?」

純「梓の顔? どれどれ…」ジー

梓(やっぱりなにか変だったのかな……気になる)

純「……あっ!!」

梓「な、なに? なにかあった?」

純「目と鼻と、口がついてる!」

梓「……」

純「あっ、あと眉毛も」

梓「……考えすぎか」ボソッ

純「え?なに?」

梓(はぁ…なんかもう、どうでもいいや)


##20 おわり



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最終更新:2011年10月12日 20:04