##21

顧問「兼部?」

純「はい」

顧問「ジャズ研と軽音部を?」

純「一応そのつもりなんですけど…」

顧問「ふぅ~ん……兼部ねぇ」

純「……」

顧問「受験はどうすんの?」

純「え?」

顧問「部活二つやるのはいいけどさ、春からは三年生なんだよ。勉強と両立できるの?」

純「勉強は……その……」

顧問「……」

純「なんとかなります!」

顧問「ダメ。ちゃんと考えてこい」

純「えぇ~……」

顧問「お前は知らないかもしれないけど、三年生ってのは色々大変なんだよ」

顧問「講習とか講習とか……あと講習とか」

純「口臭は良い匂いしますよ? 私」

顧問「ニンニクくさいよ」

純「えぇっ!?」

顧問「とにかく、どうするかはもう一度ちゃんと考えてくること。分かった?」

純「はぁ~い……」

純「なんか先生に初めて先生っぽいこと言われた気がします」

顧問「今まであたしのこと何だと思ってたんだい」


――2年1組

憂「あれ、純ちゃんは?」

梓「職員室に行くって。なんか部活の先生に話があるとかで」

憂「そうなんだ」

梓「私もちょっと行ってくるね」

憂「梓ちゃんも職員室?」

梓「ううん、軽音部。先輩達に呼ばれて」

憂「そういえばお姉ちゃん達来てるんだっけ」

梓「三年生は今日授業ないのにね」

憂「よっぽど部活が好きなんだ」

梓「たぶんお茶飲んでるだけだと思うけど……」

梓「そうだ、憂も一緒に行く?」

憂「いいの? じゃあ、行こっかな」


――軽音部 部室

律「おっ、来た来た」

梓「どうしたんですか、急に呼び出して」

憂「こんにちは~」

唯「あっ、憂も来てくれたんだ!」

律「まぁとりあえず座りなって」

紬「二人とも、お茶飲む?」

梓「さすがに時間がありませんよ」

澪「梓を呼ぼうって言い出したのは律だろ?」

律「そうそう、大事な話があってさ」

梓「大事な話? なんですか?」

律「えーと、忘れた」

梓「もう少し思い出す努力をしてくださいよ…」

律「なんだっけ。結構重要な話なんだけどなぁ……」

唯「まぁまぁりっちゃんりっちゃん、いいじゃないですかそんなことは。とりあえずゆっくりしましょうよ」

律「そうですわね」

梓「もう教室戻りますよ私」

唯「えーまだいようよ~!」

梓「授業に遅れちゃいます」

梓「放課後になったらまた来ますから、お茶はその時でいいじゃないですか」

唯「あっ、放課後は私たち部室にいないよ」

梓「え?」

唯「実は今新曲の練……」

紬「わ、わー!!」

律「あっ、あんなところに空飛ぶカップ焼きそば!!」

唯「えっ、どこどこ!?」

澪「なんでカップ焼きそばなんだ…」

律「いや、UFOつながりで」

梓「みなさん……どうしたんですか?」

澪「いや! な、なんでもないんだあはは!」

梓「?」

律「と、とにかく放課後は私はいないってことで、よろしく!」

梓「は、はぁ…」

憂「梓ちゃん、そろそろ」

梓「あっ、うん。じゃあ私たちは戻ります。律先輩、大事な話を思い出したらちゃんと連絡くださいね」

律「はーい」

梓「それじゃあ」

憂「失礼します」

ガチャッ、バタン

律「……ふぅ」

澪「唯、気をつけてくれ。梓には内緒なんだから」

唯「反省します!」

・・・・・

梓「はぁ…まったく、何だったんだろう」

憂「お姉ちゃんたち、楽しそうだったね」

梓「楽しそうというか、いつもと変わらないというか……」

憂「そんな軽音部だから、良いんじゃないかな」

梓「…結局、私が一年の時から何にも変わってない気がするなぁ」

憂「そういえば、大事な話ってどんな話だったんだろうね」

梓「律先輩のことだから、どうせ大した話じゃないと思うよ」

梓「それより今日は先輩たちいないから部室で練習しよっか」

憂「うん、分かった」

梓「純にも言っておかないと」


放課後
――生徒会室

生徒会長「それでは、部長会を始めたいと思うんですが……軽音部の部長は?」

「たぶん連絡が行き届いてないんだと思います」

生徒会長「…仕方ないので、軽音部抜きで始めたいと思います」

生徒会長「去年から音楽系の部活の人たちから要望があった、講堂での練習の許可についてですが」

生徒会長「学校側から許可をもらえたので、今年度の春から使用してもいいそうです」

生徒会長「なお使用にあたっては部の実働実績などを考慮して、各部活ごとに優先順位をつけたいと思います」

生徒会長「具体的には吹奏楽部、合唱部、ジャズ研という形で…」


部長「……」


――2年1組

純「はぁ~」

純(そんなにニンニクくさいかなぁ…確かにお昼はガーリックトースト食べたけど)

梓「純」

純「ぎゃっ!?」

梓「……どうしたの口おさえて」

純「別に…そういえば、なんか変なにおいしない?」

梓「え? しないけど」

純「そう、私も全然そんなにおいしないけど」

梓「?」

純「ところで、どうしたの?」

梓「今日の放課後は部室が空いたから練習を…」




後輩C「……」ジーッ


梓「……」

純「梓?」

梓「純……あの子、ジャズ研の子だよね?」

純「え?」






後輩C「……」ジーッ


純「ほんとだ、あんなところで何やってるんだろ」

純「おーい」



後輩c「!!」

後輩c「……」アタフタ

後輩c「……」ササッ



純「あれ…行っちゃった」

梓(隠れるのおそ……)

梓「なんか…最近あの子のことよく見かけるんだよね」

梓「気づいたら後ろにいるっていうか…」

純「ふーん……なんでだろ?」

梓「……」

梓(そういえば…)

後輩c『純先輩を私から奪わないでください!!』

梓「……」

梓(結局あれは一体どういう意味だったんだろう)

梓「う~ん…」

梓(私から純先輩を…私から…純先輩を私から……)

梓(私から…私の…私の純先輩……私の?)

梓(私の純先輩!?)

梓(えっ、いやいやいやまさかまさかまさか)

梓(そんな危なげな関係!?)

純「なに?」

梓「ぜ、全然なにも! 変なこと考えてないよ!?」

純「?」

梓(まさかね…純のことだしそんなわけないか)

・・・・・

後輩C「はぁ……」

後輩C(どうしよう…なんて言い出せば……)

部長「こんにちは」

後輩C「ひっ!?」

部長「あっ…ごめんなさい。驚かしちゃった?」

後輩C「ぶ、部長…」

部長「こんな所でどうしたの? ここ、二年生の教室よ」

後輩C「いえ…す、すいません。もう戻ります……」

部長「?」

・・・・・

純「そういえば梓、なにか話があるんじゃないの?」

梓「あっ、そうだ。あのさ純、今から…」


部長「こんにちは、中野さんはいますか?」


梓「え?」

部長「あっ、いたいた。よかった、帰ったんじゃないのね」

純「あれ、どうしたの?」

部長「ちょっと中野さんに用事があって」

梓「あの…えっと……?」

純「あぁ、まだ紹介してなかったっけ。この子はジャズ研の部長」

部長「よろしくね、中野さん」

梓「ど、どうも…」

純「それで、梓に用事って?」

部長「中野さん、今日部長会議があったの知ってた?」

梓「えっ!? ぶ、部長会議?」

部長「やっぱり知らなかったんだ」

梓「で、でも部長は律先輩で私はまだ…」

部長「軽音部の先輩達はまだ引退してないの? 普通この時期なら三年生とっくに引退して二年生が部長をやってるはずなんだけど」

梓「それは…」

梓(ていうか、律先輩の大事な話ってまさかこれ…?)

純「まぁまぁ、軽音部は特殊なんだって」

部長「じゃあ中野さんはまだ部長じゃないってこと?」

梓「ご、ごめんなさい」

部長「別に謝らなくても。そういうことなら全然構わないし」

部長「それと、部長会の資料は渡しておくね。どのみち春からは世代交代するんだし、中野さんも目を通しておいてね」

梓「うん。ありがとう」

部長「そういえば…軽音部って春から中野さん一人になっちゃうんだっけ」

梓「そう…だけど」

部長「大変そう…。もし私でも力になれることがあれば、遠慮なく相談してね」

梓「あ、ありがとう」

部長「それじゃあ、私はこれで」

純「ばいば~い」

梓「……なんか、すごいしっかりした人だね」

純「まぁね。信用もあるし実力もあるし優秀な部長だよ」

梓「部長、かぁ…」

純「心配しなくても、梓はあんなしっかりした部長にはなれないから安心して!」

梓「じゅーんー、それはどういう意味?」

純「お、怒らない怒らない。部長にだって色んな種類がいるでしょって話」

純「例えば律先輩と去年のジャズ研の部長だって全然違うタイプだったし。その前の年の部長だって…」

純「とにかく色んな部長がいるんだから、梓は梓らしくドジしたりちょっとぬけた部長になればいいの」

梓「バカにしてる?」

純「なっ…私の適切なアドバイスをそんな風に捉える!?」

梓「……別に自信がないわけじゃないよ」

梓「頭でだって分かってる。春からは私が部長なんだって、私が部活を引っ張るんだって…分かってるもん」

純「そのわりには明るさが足りないじゃん」

純「これから新しい学校生活が始まるんだから、前向きにパァーッと考えないと!」

梓「純は私のことバカにしてるのか励ましてるのか」

純「梓のことバカにするわけないでしょ。私は、いつだって梓の味方だよ」

梓「えっ…」

純「あっ、そうだ。私これから用事があるんだった」

純「というわけで先に帰るね。ばいばい」

梓「う、うん。ばいばい」

梓「……」

梓(練習のこと言い忘れたけど……まぁいっか)

・・・・・

カチカチ

純「よし、メール送信っ」

カチッ

純「さてと……」

同級生「じゅーん」

純「あっ」

同級生「どこ行くの? 帰んの?」

純「あれ……待ってたの?」

同級生「純の教室行ったけどなんか良い雰囲気だったから入れなくて…」

純「?」

同級生「ねえ、帰るんだったら今日は一緒に帰ろうよ」

純「帰るっていうか…」

同級生「違うの?」

純「これからセンパイのところに行こうと思ってるの」

・・・・・


後輩c「……はぁ」

後輩c(なにやってるんだろう私……中野先輩になんて言えば)

後輩c(とにかく謝らなきゃ…この前変なこと言っちゃったし)

後輩c(純先輩のことだって私の勘違いだろうし……)

後輩c「……」

後輩c(でも怒ってるかな…中野先輩)

後輩c(なんて言い出せばいいんだろう…なんて…)

後輩c(こういう時、純先輩だったら……)

後輩c「……」


42
最終更新:2011年10月12日 20:24