どうしても言葉が詰まり、焦った澪は泣きそうに顔を歪める
それをどう受け取ったのか和は少し目を閉じ、そして小さく首を振りながら微笑んだ
和「いいのよ、無理しなくて…ごめんね、私が変な事言ったせいね」
澪「ち、ちが…」
和「今言ったのは忘れて。それで明日からもまた…仲良くしてくれると嬉しい」
澪「………」
友達として、という言葉が最後に聞こえたような気がした
そのまま澪は何も言えないまま和と別れた
思い気分を抱えたまま澪は帰り道を歩いていく
澪(どうして言えなかったんだ…私は…私も和が…)
澪「好き…って……」
澪(言えればよかったのに、それだけ言えれば、それで…)
ぐるぐると混乱する頭の中を占めているのは和の顔
そして最後にちらっと浮かんだのは梓の顔だった
澪(………)
澪「…私の馬鹿…」グス
数日経ったある日
部活終了後
皆『お疲れ様―!』
梓「それじゃお先に失礼します」
唯「また明日ねぇ~」
澪「ああ、また明日な!」
パタパタパタ バタン
澪(今日も二人で遊びにでも行くのかな…?)
澪(……最近ズキってしなくなってきたな)
澪「………」
澪(それは私が…今は和が好きだから…)
澪(なのに私は……はぁぁ…)ガクリ
タタッ
紬「りっちゃんりっちゃん」コソッ
律「んっ?」
紬「この間はどうだった?澪ちゃん喜んでくれたかしら」
律(ああ、ストラップの事か)
律「あ、いや実は…」ヒソヒソ
紬「えっ…!渡さなかったの?どうして…?」
律「どうしてって……まぁ、なんとなくなー」
律(むぎが気になってたからとは言えねぇよな…)
律「やっぱさ私のガラじゃないじゃん?お揃いのストラップーとかってさ」
紬「そんな事ないよ。きっと澪ちゃん喜んでくれるのに」
律「いやーもういいって」
紬「でも……」
律(何だよ…別にいいじゃん、渡しても渡さなくても私の勝手だろ…)
律を見る紬の目は心配そうに揺れている
気を遣ってくれているのが分かる分、律は余計にもやもやと苛立ちを感じるのだった
律(っつかプレゼントとか言って盛り上がってんのむぎだけだし、私は最初からそんな気無かったって)
律(いや…何考えてんだ。むぎは私と澪のためを思って言ってくれてんだからさ)
律(……私と澪のため、って何だ?むぎは私と澪がくっつけばそれで満足なのか?)
律(それだけ……なのか……?)
ズキン…
紬(…どうしたんだろうりっちゃん…急に険しい顔で黙り込んで…)
紬「ねぇりっちゃん、澪ちゃんと何かあったの?」
律「何にもないよ…」
紬「でもりっちゃん――」
律「何でもないって言ってるだろ!!!」
紬「……!!」
今日に怒鳴り声をあげた律に紬は顔を強張らせる
澪も何事かと驚いた表情で二人を見つめた
律「いつもいつも余計なお世話なんだよ!私の事なんかほっとけばいいだろ!」
律「大体さ心配するふりして面白がってるだけじゃねーのか!?普通他人が誰とどうなろうとどうでもいいだろ!」
紬「そ…そんな他人なんて…私は」
律「他人じゃなかったら何だよ!お前は…むぎはっ…」
律(―――私の事をどう思ってるんだよ!?)
紬「わ、私は…」
紬「私は、りっちゃんも澪ちゃんも大事な友達だから…だから…二人に幸せになって欲しくて」
律(…………友達…か…)
律(そっか………)
律「…あっそ。もう良いよ分かった…じゃあこうすれば良いんだろ」
紬「……えっ?」
スタスタスタ
澪「律…?」
グイッ
律「澪、付き合おう」
澪「なっ…」
紬(……!!)
律「私はずっと前から澪の事が好きだったんだ」
澪「何言って…」
律「澪だって私の事嫌いじゃないだろ?付き合ってみても悪くないって」
まるで吐き出すように言われる言葉に澪も紬も唖然とする
澪「律…お前…」
クル
律「これで満足かよ、むぎ…」ボソッ
紬「!!」
紬(……りっちゃん…何でそんな…)
紬(そんな大事な言葉…そんな風に言うためのものじゃないのに……)
紬(なんで……)
紬「―――りっちゃんの馬鹿っ!」
ダッ
ガチャッ バタン!
澪「むっ、むぎっ!?」
律「……!」
律(何だよ馬鹿って…むぎは私にこうして欲しかったんだろ?なのにどうして…)
律(どうして、あんな泣きそうな顔するんだよ…)
――ゴチンッ!
律「ぎゃっ」
澪「ばかりつ。ホンット馬鹿だよお前は」ギリギリ
律「いだいいだい!!…って何でだよ!私はホントに澪の事がっ…」
澪「好きだっていうのか?」
律「………」
澪「本当にそうなのか?律も本当は分かってるんだろ、自分が誰を好きなのか」
律「…何言ってんだよ…」
澪「分からないっていうなら私が言ってやる」
澪「お前はむぎが好きなんだ」
律「!!」
澪「それにきっと、むぎも律が好きだよ」
律「な…」
澪「最近二人は仲が良いだろ…私が気付いてないと思ってたか?」
律「………」
澪「好きなら好きっていえばいいじゃないか。何で喧嘩なんてするんだよ」
律「………るさいな…」ボソ
澪「えっ」
律「うるさいうるさい!何だよさっきから偉そうに!そんな事言うならお前はどうなんだよ澪!!」
澪「なっ……私が何だっていうんだ」
律「お前と和の事だよ!!そっちこそ私が気付いてないって思ってただろ!?」
澪「……!」
律「見てりゃ全部分かんだよ!お前が和に惚れてんのもっ、それに…」
律「まだ梓に未練が残ってるってのもな!!」
澪「な……っ」
律「そんなんで人の事言えるのかよっ!?」
澪(……っ)
澪「ちっ…違う!私は…」
律「違う?違うって何がどう違うんだよ!」
澪「違うよ…私は…私は……」
澪「私は和が好きなんだっ!!!」
律(……!)
澪「…梓は好きだったけど今はもう大切な後輩としか思ってないよ…今は和が…」
澪「和だけが好きなんだ…好きって言って貰えて、やっとちゃんと分かったんだ…」
律「な…好きって!まさか告られたのかっ!?」
澪の発言に律は動揺を隠せず狼狽した
澪は小さくこくっと頷きその場にゆっくりとへたり込む
律(ま、マジかよ…)
律「…でっ、で、どうしたんだよ。付き合う事になったのか?」
律はさっきまで言い争ってた事も忘れて慌てて澪に駆け寄っていく
微かに涙目になった澪は力無くふるふると首を横に振った
律「えっ…なんでだよ?」
澪「私がまだ…和に好きって言えてないから…」
律「な、何で言わないんだ」
澪「だって……怖くなっちゃったんだもん…」
律「怖いって何がだよ、両思い…なんだろ?」
澪「……でも、さっき律も言ってたじゃないか」
律「へ?何か言ったっけ」
澪「梓に未練があるんじゃないかって…」
律「!あっ……あれは別にそんな…」
澪「いいよ、分かってるもん私だって…ちょっと前までは梓の事好きだったとか言ってさ」
澪「もう和を好きになってるんだもんな。何だか…軽い気持ちって思われちゃいそうで…でもそんなの嫌で…怖いよぉ」
そう言って澪は顔を伏せる
小さく肩が震えているのは、泣いているようだった
律「澪……」
律(そっか、そうだったのか)
律(…私って…ホントに馬鹿だ…)
スッ
ポンポンッ
律は自分の吐いた台詞を反省し、澪に寄り添って軽く背中を叩いてやった
澪「律……?」グスッ
律「わ、私は澪の気持ち…わかるぞっ」
澪「?」
律「だって私もさ……私も前までは別に好きな奴がいたからな!」
澪「えっ…う、嘘だろ?」
律「嘘じゃないって、いたんだ。ホント…好きだった」
じっと澪の顔を見つめる律
澪は誰?と言いたげにしていたが、律は少し苦笑してかぶりを振った
律「でも、違うんだよな。今大事なのはそんな事じゃないんだよな…」
律「今の私はもうそいつ以上に好きになったやつがいる。それは隠す事でも恥ずかしがる事でも…怖がる事でも無いんだろ?」
澪「律……」
律「いい加減認めるよ、私はむぎが好きだ…誰よりもな」
律「でもだからって前のやつがどうでもいいとか、そうなるんじゃない。形は違っても、そいつはずっと大切なんだ」
澪「………」
律「澪だって同じだろ。そういうので良いんじゃないか?」
律「それに……和なら、分かってくれるだろ。澪の事」
澪(……律……)
しばらく二人は無言でいたが、律はある事を思い出しハッとして鞄を探った
律「澪っ!これやるよ!」
澪「え?」
澪の前に差し出されたのは二つの小さなストラップ
目の前で揺れるそれを見つめて澪は不思議そうに瞬きをした
澪「律…これは?」
律「恋愛成就の効果がある有難~いストラップだ!これを澪にやる!」
澪「えっ…」
律「それからもう一つは…」
律は澪の手を取り、そっと手のひらの上にストラップをのせた
律「和の分。それ渡して、ちゃんと好きだって言ってやれよ」
律「澪はずっと私の大切な幼馴染だ。だから…誰よりも応援してるからな」
澪「…律ぅ……!!」グスッ
律「はは、泣くなっつの!早く和んとこ行ってこいよ」
澪「う、うん…」ズズッ
鼻をすすって涙を拭いたあと、澪は小さく笑って言った
澪「――律も、な」
律「………うん、分かってるって」ポリ
律「急がなくちゃな…寄らなきゃいけない場所もあるし…」
澪「何?」
律「いや――こっちの事!それじゃ澪…頑張れよ」
澪「ああ、律も頑張れ。…また明日な」
律「おう!」
そして二人は別々の方向へ駆け出していった
同じように晴れやかな気持ちで
最終更新:2010年01月02日 14:01