紬「まぁ、今年は残念だったけど、その分また来年がんばりましょ」

澪「そうだな、過ぎたことはしかたないか」

律「うぅ~……私がちゃんとしてればぁ~」

梓「明日からは練習時間倍ですからね」

唯「うへぇ……厳しいよあずにゃん」


恵「ほら! 真鍋さん! 悩んでる時間なんてないわよ!」

和「……」


律「じゃあ、ご迷惑おかけしました」

澪「失礼しま……」


和「ちょっと待って下さい!」

唯「和ちゃん!?」

恵「なに? 真鍋さん」

和「私からもお願いします!」

恵「いったい何をお願いしようっていうのかしら? 真鍋さん」

和「どうか……どうか軽音部の学園祭への参加を許可して下さい」

恵「ええっ!? 正気なの!? 真鍋さん!
  実行委員のみなさんはどうお思いですか?」

実行「そう言われましても……、決まってしまったものはもう」

和「届けが遅れたのは部長が風邪で欠席していたからですし……」

和「お願いします!」ペコリ

澪「の、和! 頭を上げてくれ!」

律「そうだよ! 私たちのためなんかに、そんなこと……」

恵「真鍋さん! 貴方は生徒会の人間だというのに、この私に規則を破れと言ってるの!?」

恵「貴女一人のためにこの生徒会の権威を貶める気っ!?」

紬「和ちゃん、私たちなら大丈夫だから」

梓「はい、もう無理だと思い知ったので」

唯「和ちゃん……」

恵「真鍋さん、それにお願いごとをするなら、もっと相応しい懇願のしかたがあるんでなくて?」

和「!?」

唯「和ちゃん、もういいよ……もうやめて!」

和「いいえ、唯。私はあなた達のためならこれくらいなんてことないのよ」

和「お願いです! どうか軽音部にチャンスを!」ドゲザッ

軽音部一同「!?」

実行委員一同「!?」

恵(あ、あの真鍋さんが……)

恵(あの決して他人には弱みを見せない真鍋さんが……土下座したっ!!)

恵(いいわぁ……とってもいいわよぉっ!!)

和「私は誰よりも軽音部の演奏を心待ちにしていました」

和「そして大切な親友の晴れの舞台でもあります」

和「なのでどうかっ!」

恵「実行委員のみなさん、どうぞ私の後輩のこの醜態は見て見ぬふりでお願いします」

実行「は、はぁ……」

恵「真鍋さん、私は恥ずかしいわ……」

恵「生徒会たるもの公私混同はいちばん恥ずべきこと」

恵「そして私にとって貴女は右腕であり一番の理解者だと思っていた……それなのに……」

恵「貴女は今まで私からいったい何を学んでいたっていうのっ!!」

和「くっ……!!」

律 バッ!!

澪「律!?」

律「これは軽音部の問題だ! それなのに私たちが土下座くらいできなくてどうする!」

唯「うん! そうだよ! だから和ちゃんは頭を上げて。あとは私達が!」

和「これは私が好きでやってることよ
  だけどあなた達も一緒にお願いしてくれるっていうなら、これほど心強いものはないわ」

紬「ううん、私たちは和ちゃんから勇気をもらったの」

梓「はい、こうなったらライブを許してもらえるまでずっと拝み続けてやるです!」

恵「真鍋さん、あなたのせいで、あなたがそんなみっともないことをしているせいで
  収集がつかなくなってしまっているのよ! いったいどうする気!」

実行「あの……会長、もうその辺で……」

恵「いいえ、言わせて下さい
  そうでないと今まで公正な生徒会を運営してきた先輩方に顔向けできません!」

和「その汚名は私が一人で全部引き受けさせて頂きます」

和「ですからなにとぞ軽音部をライトの当たる舞台へ! なにとぞっ!」

恵「そこまで言うからには……真鍋さん、相当の覚悟があるようね」

和「……」

恵「貴女にその覚悟があるなら……私の足を舐めなさい」

和「!?」

実行「え、あの……ちょっと……」

和「……」

恵「どうしたの? 真鍋さん。貴女の覚悟はその程度なの?」

律「な、舐めたらライブを許してもらえるんですか?」

澪「り、律!?」

律「だったら、私が舐めます」

恵「駄目よっ! これは私と真鍋さんの問題。あなたは引っ込んでてちょうだい」

澪「和にそんな恥ずかしい思いはさせたくありません! 私が舐めるのでどうか和を許してあげて下さい!」

恵「じゃあ、交換条件として秋山さんの足は私が舐めるわっ!」

澪「ええっ!?」

紬「私も舐めたいです!」

律「おい、話をややこしくするな!」

実行「あーもーわかりました! 
    ここまでされたんじゃさすがに突っぱねるわけにはいきません」

実行「と、いうよりも、届出を中々出してくれなくて遅々として計画が進まなかったイライラを
    少しあなた達にぶつけてしまっていた節もあります……」

実行「なので軽音部のライブの開催を認めさせて頂きます!」

律「ほ、本当ですか!?」

実行「なんとか時間は確保します! ですのでもう頭を上げて下さい」

律「あ、ありがとうございます!」

実行「お礼なら私たちじゃなくてそこの真鍋さんに言ってちょうだい
    彼女には負けたわ。なによりもその他人を想いやる心に」

澪「和! 本当にありがとう!」

和「私にとってはそれだけあなた達のライブが、そしてあなた達の笑顔が大切なのよ。
  そのためなら土下座くらいなんともないわ」

紬「和ちゃん……そうまでして私たちのことを……」

唯「和ちゃ~ん! 大好き~!」

梓「和先輩がいる、それだけで桜高へ入って良かったと思いました!」

恵(ふふっ、上手くいったわね。これも全て私の作戦どおり
  より強く情に訴えかける、これ以上のものはないわ)

恵(これで秋山さんの凛々しい姿を今年もこの目に焼き付けることができるし
  なんといっても真鍋さんのレアな姿も見ることができた
  私のことを普段から小馬鹿にしていた罰よ! 真鍋さん)

実行「真鍋さんが居る限りこの桜高は安泰ね」

   「それに引き換え……」

   「曽我部さんって結構融通の利かない人よね……」

   「流石に足を舐めろっていうのは引いたわ……」


恵(あれ……なんだか雲行きが……)


梓「生徒会が規則に厳しい姿勢っていうのは理解できますけど……」

唯「ね~、もうちょっと話きいてくれてもいいのにね」

紬「そういう人も世の中には必要くらいに考えた方がいいかもね
  ただ身近には居て欲しくないけど……」

律「澪はどう思う? あの会長さん」

澪「こう言っちゃ悪いけど……ちょっと仲良くはなれなさそう……」

恵「!?」

和「みんな、曽我部会長は素晴らしい人よ」

律「和はあれだけのことをされたり言われたりしたのに……」

梓「同じ生徒会の人だからって無理矢理庇わなくてもいいですよ」

和「そんなんじゃないってば。本当にあの人からは色々と学ぶことがあった」

和「私がこうやって正しい心を持ちながら日々生徒会のために尽力しているのも
  曽我部会長がいてくださるからなのよ」

澪「そうなんだ……」

紬「和ちゃんが言うならそうなのかもね」

唯「さすが和ちゃん!」

恵(真鍋さん……あなたって人は……)

実行「でも、この一件で株を上げたのは間違いなく真鍋さんよね」

   「私は真鍋さんのことは以前から買っていたのよ!」

   「来年の生徒会長は彼女以外考えられないわっ!」

   「真鍋さんなら歴代生徒会の中でも特に優れた生徒会長になることは疑いようもないわねっ!」

和「皆さん、私なんかまだまだですよ」

実行「この謙虚な姿勢も好感を持てるわよね」

   「もう今の時点で真鍋さんを会長と呼びたい衝動にかられちゃうっ!」

      『まーなーべっ! まーなーべっ!』ワー! ワー! 和ー!

恵(真鍋さん……!! もしかして、こうなることも計算ずくで私に頭を下げていたっていうの!?)

和 ニヤッ


 その後、お歳暮の時期に真鍋さんから贈り物があった

 焼き海苔だった

 今までの私に対する感謝の気持ちだろう
 きっとそうだ
 それ以上のことは深く考えないようにした

 そして私もそのお返しとして真鍋さんへマラカスを贈った


 そして更に月日が過ぎ、私はもうじき卒業

 この3年間本当に色んな事があった……

 とくに生徒会に入ってからの真鍋さんとの出会い

 およそ2年を彼女と共に過ごしたのは、私にとってもこれからの人生の誇りとなりうるだろう

 生徒会と共にあった私の高校生活

 それはすなわち真鍋和という桜高史上稀に見る才女と一緒に駆け抜けた高校生活だった

 私は桜高生徒のために全力で以って生徒会運営をしてきたと自負する

 それもこれも彼女が私のそばにいてくれたおかげだ

 ありがとう。真鍋さん

 生徒会においては悔いを残すこと無く後輩へ引き継ぐことができる

 なんといっても次期生徒会長はどんな困難も乗り越えられる人物だろうから

 だけど……たった一つ

 高校生活においてたった一つ悔いがある……

 それは……


 … … …

聡「ねーちゃーん、電話ー」

律「はぁ? なんで家電なんかに……。もしかして……男から……とか?」

聡「女の人の声だった」

律「あっそ」



律「もしもし?」

『近日、秋山澪がストーカーの被害に怯える日がくる』

律「は?」

『軽音部でその問題を解決しようとせずに、ぜひ生徒会を頼るように誘導せよ
 じゃないと大変なことになる』

律「あんた誰だよ!」

『私は彼女を見守る者……』ガチャ!!

  ツーッ ツーッ

律「なんだぁ……?」

――――

恵「さてと、これで根回しはOKね」

恵「あとは秋山さんが生徒会室へ訪ねてきたタイミングで私が颯爽と現れて秋山さんの悩みを解決する」

恵「学祭の一件でだだ下がりな私への好感度をここでアップさせる作戦」

恵「あわよくばそのあと秋山さんと二人でしっぽり……」

恵「ふっふっふ、完璧だわ」

恵「秋山さんをじっくりと見ることができるし、信頼を勝ち取ることもできる」

恵「まさに一石二鳥!」

恵「天才とは私のような者のことをいうのね」

 … … …

和「誰かに見られてる気がする!?」

澪「うん……」

和「ストーカーの類いかしら? 学内に不審者がいるとは……あ」

澪「和?」

和「いや……」

和(思い当たる人物が1名いる……でも流石にそこまでする人だとも思えない)

恵「真鍋さん、いるかしら?」ガチャ

和「……」

澪「ひっ!?」

恵(秋山さん、あなたの不安は私が打ち消してあげるからねっ!)

恵「真鍋さん、お疲れさま。あら? 秋山さんもいたのね、お久しぶり。なにか御用?」

澪「……」ビクビク

和「曽我部先輩、お疲れさまです」

恵「……もう会長とは言ってくれないのね」

和「え? だってもう会長職は辞されたじゃないですか」

恵「まぁ……そうだけど……」

和「ところで今頃生徒会室にどのような御用で?」

恵「おっとご挨拶ね。生徒会の引継ぎの資料持ってきたんだけど」

和「ありがとうございます。それでは……」

恵「ち、ちょっと待って! 秋山さん、なんだか怯えてるようにみえるけど……」

和「どうやら誰からかの不快な視線に困ってるようです」

恵「ストーカーってことかしら?」

和「でも、今澪が怯えている一番の原因は恐らく先輩ではないかと」

澪「の、のどかぁ~。私あの人苦手……」

恵「……」

恵(ここで挫けてなんていられないわっ!)

恵「それにしてもストーカーだなんて由々しき問題ね」

恵「真鍋さん、後で風紀委員にこのこと伝えてくれる?」

和「わかりました」

澪「あの、そこまでしてもらわなくても」

恵「いいのよ、ウチの学校の生徒が困ってるんだから、何か力になりたいの」

澪(あれ……学祭のときは変な人だって思ってたけど……
  結構頼りになる人かも……)

恵(どうやら秋山さんが私を見る目が変わったわね)

恵「秋山さん、もう安心していいからね。あなたの悩みは全て私が受け止めてあげるから」

澪「は、はい。ありがとうございます」

恵「お礼なんていらないわよ、当然のことをしたまでなんですもの」

澪「あの……私ったら、曽我部先輩は変な人だって思ってましたけど
  その考えを今日ここで改めます。こんなにも一生徒のことを思ってくれてるなんて」

恵「ふふっ、ありがとう」

恵(もうこれくらいで充分ね。私ったら調子に乗ると失敗するタイプだし!)

和「だけど澪を追い掛け回す人ってどんな人かしら?」チラッ

恵(な、なぜこっちを見るの真鍋さん!)

和「本人非公式のファンクラブもあるみたいだし」チラッ

恵(ぐぬぬ……)

澪「和、それは言わないで……」

恵(こ、ここはさっさと退散すべきね)

恵「じゃあ、私はこの辺で……」ピラッ

和「先輩何か落としましたよ」

和「秋山澪ファンクラブ会員証?」

恵「!?」

澪「えっ!?」

恵(やばい……私がファンクラブだって知られたらまた秋山さんの心象を悪くしちゃう!)

恵(それくらいは真鍋さんも察してくれるはずよね! なんせ私の右腕だし!)

恵「あの、実はさっき廊下で拾って……」

和「でも、先輩の名前書いてありましたけど」

恵「おいっっ! 真鍋ぇぇぇぇっ!!!!」

和「間違い無いわ! 曽我部先輩が澪のストーカーよ!」

澪「ひいっ!?」

恵「おぅふwwwwwwwww」

和「しかも会員ナンバー1番! すなわちファンクラブの会長ね!」

澪「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


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最終更新:2011年10月01日 08:01