――――

唯「どうしよっか?」

澪「うーん・・・」

律「いい雰囲気っていうか、壊したくないよなー」

唯「でも、このまま私たちがここにいても、雨止まないよ?」

澪「うーん・・・・・・」

律「唸るだけか」

唯「・・・」

澪「・・・」

律「・・・」

ザァーー

唯「もうちょっとだと思ったんだけどな~」

澪「・・・うん」

律「梓・・・笑いそうだったけどな・・・」

律「来たぞ!」

梓「・・・あれ?」

純「澪先輩たちも来てくれたんですか?」

澪「うん、一緒に帰ろうか」

憂「傘・・・持ってきてくれたんじゃ・・・?」

唯「相合傘だよっ!」

純「失礼しますっ」ササッ

澪「あ、あぁ」

憂「お邪魔するね」

唯「はいよー」

梓「・・・」

律「・・・」

梓「・・・」

律「・・・強制はしないが」

梓「・・・お願します」


ザァーー

唯「結構降るね~」

憂「うん・・・通り雨だと思っていたのに」

唯「季節の変わり目だからね」

憂「暑い日だと思った次の日は肌寒くて」

唯「寒いかと思ったら暑くて・・・涼しくて」

憂「こうやって季節が歩いていくんだね」

唯「そうだね~」


ザァーー

澪「河川敷にはよく行くの?」

純「梓とは放課後に毎日ですね」

澪「・・・そっか」

純「なんか、話題が無くてもぼんやりできる場所なんで」

澪「・・・そういう場所があるっていいな」

純「・・・はい」

澪「・・・?」

純「・・・」

澪「どうした?」

純「今日は憂がいてくれてよかった・・・と思いました」

澪「・・・」

純「私が茶化して、憂が私を叱る。・・・その流れが出来ました」

澪「・・・」

純「梓が・・・1人で彷徨っている・・・そんな感じだったので・・・」

澪「そうか・・・」

純「・・・はい」

澪「指摘してくれたんだな・・・」

純「・・・っ」

澪「大丈夫。彷徨ってもむぎがちゃんと示してくれる」

純「でも・・・」

澪「ここにむぎがいなくても、梓はむぎを想っている。それが大切な事なんじゃないかな」

純「・・・」

澪「・・・はやくベースを弾きたいよ」

純「唯先輩と一緒だったんですね!?」

澪「え?」

純「・・・」キラキラ

澪「え・・・と・・・・・・?」


ザァーー

律「さっきなんの話していたんだ?」

梓「?」

律「私たちが声をかける前だよ。なんか楽しそうだった」

梓「・・・憂が雨の中、傘をささずに踊る人がいてもいいよね・・・と」

律「・・・ふーん」

梓「これから先、そんな事できないじゃないですか」

律「そうだな」

梓「・・・だから・・・・・・・・・はっ」

律「・・・ニヤリ」

梓「だ、だめですよぉ!」

澪「ん?」

純「?」

タッタッタ

律「・・・その傘討ち取ったりぃぃいいい」

バサッ

澪「あ、こらっ!」

純「あー!」

梓「律せんぱいーっ!!」

ザァーーー

タッタッタ

律「憂ちゃーん!」

憂「はい・・・?」

唯「りっちゃん・・・雨降っているんだよ?」

律「分かってるよ!」

澪「待てりつーっ!!」

純「せっかくの相合傘ー!」

梓「傘渡してくださいーっ!」

ザァーーー

憂「お、お姉ちゃん、走って帰ろう!」

唯「・・・そうだね!」

律「よっしゃ走るぞー!」

ザァーーー



―――――夜

澪も結局楽しそうにしてたじゃんか

なのにゲンコツなんてひっでえの


梓も少しは雨にうたれて気持ちも流せたかな

シャワーとは違った感覚で

少し気分が晴れた



むぎと・・・また笑える気がする




今しか出来ない事は

今やっておかないと

きっと

物足りなくなる

やらなかった事を正当化して

やらない事を出来ない理由にしてしまうんだ

それが当たり前になって

きっと

動けなくなってしまうんだ

そんなの



―――私は嫌だ



9月5日

唯「おっはよ~」

梓「もうお昼前ですよ?」

唯「感覚的にはおはようなんだよ」

梓「さっき起きたみたいじゃないですか」

憂「さっき起きたんだよ」

梓「・・・」

唯「昨日楽しかったね~」

憂「雨の中みんなで走ってね」

唯「水溜りに飛び込むなんていつ以来だろ」

憂「小学校低学年くらい・・・?」

唯「それくらいかな~」

梓「・・・」

唯「むふふ」

梓「・・・?」

憂「ふふっ」

梓「・・・なに?」

唯憂「「 内緒 」」



―――――昼

律「っくしょん!」

澪「えぇー・・・」

律「いや、風邪じゃないぞ。鼻がムズムズしただけだ」

澪「また風邪ひかれたら困るぞ・・・」

律「大丈夫ですって」

澪「・・・」

律「しかし・・・、昨日は意外に楽しかったな」

澪「あぁ・・・」

律「私らを変な目で見ていた人もいたんだぜー」

澪「雨の中傘を持っていてささないんだから、当然だろ」

律「ですね」

澪「・・・だけど」

律「・・・」

澪「・・・梓は、ボンヤリしているだけだったな」

律「雨にうたれながら、感情を出さずに」

澪「・・・多分、探していたんだろうな」

律「むぎを・・・か・・・」

澪「うん」

律「この場にいるはずなのに・・・って感じか」

澪「・・・みんなではしゃいでいたのにな」

律「え、はしゃいだの?」

澪「み、みんながだ」

律「・・・」

澪「・・・」

律「さて、どこへ行きましょう」

澪「決めておけよ」

律「決めないから散歩なんだよっ」


――――

唯「おぉ!新曲出てるよ!」

純「マジだ!」

憂「やっぱり一日早く出されていたね」

梓「・・・」

唯「買ってくるよ!」フンス!

テッテッテ

純「買いたいけど目的の代物が・・・くぅ・・・」

憂「歌手としても頑張っているよね~」

梓「・・・」

純「で、なんで梓は表情が硬くなるのさ」

憂「・・・」

梓「・・・なんでもないよ」

純「夏を思い出したんでしょ」

憂「純ちゃん・・・」

梓「そうだよ・・・」

純「・・・」

憂「・・・」

梓「あの時は純粋に楽しめた・・・」

純「『は』って・・・」

憂「・・・」

梓「・・・CD探してくる・・・・・・」トボトボ

純「最高の夏じゃなくなったのかな」

憂「そんな事ないよ」

純「思い出して辛い顔になってるじゃん」

憂「それでも、私たちが過ごしたあの時間は大切な時間なんだよ」

純「梓はあの時間と今の時間を見比べてしまっているよ」

憂「・・・うん」

純「『あの時はよかった』なんておかしいでしょ」

憂「・・・」

純「梓の中であの時間が眩し過ぎて、今の時間が見えなくなっているんだよ」

憂「そんな事は絶対に無いよ」

純「・・・」

憂「・・・」

純「言い切ったな!」

憂「もちろん」ニコニコ


――――

律「今日は快晴だなー」

澪「昨日の雨はなんだったんだろうな」

律「スコールだ」

澪「まさか・・・夏の南国じゃないんだから」

律「夏・・・か」

澪「あ・・・」

律「ん?」

澪「律が絶賛したバイクじゃないか?」

律「おぉ・・・、持ち主の魂が宿っているバイクですね」

澪「・・・もうちょっと言い方変えてくれ」ブルブル

律「このバイクの持ち主の魂が今!」

澪「や、やめろ!」

律「解き放たれる!」

澪「やめろって言ってるだろっ!」

「・・・」

律「そして幾年の月日が流れ・・・」

澪「・・・」ゴクリ

律「平和になりました」

澪「・・・なんだ・・・いい話じゃないか。というか打ち切りじゃないんだから頑張れ」

「・・・人のバイクでなにしてんの?」

律「おぉ、アンタ誰?」

「このバイクの持ち主だよ」

澪「す、すいません」

律「なんで澪が謝るんだよ」

澪「持ち主の魂がどうのこうの言っていたからだよっ」

「持ち主の・・・魂・・・」

律「変な事言っちゃってすいませんでした」

「それはいいけど、どうしてそう思ったの?」

律「へ?」

澪「?」

「・・・」

律「大切にしていそうだから・・・?」

「そっか・・・。うん、ありがと」

澪「???」

律「適当に言っただけかもしれないのにお礼いうのかよ」

「相棒が褒められるのは嬉しいだろ?」

澪「・・・なるほど」ウンウン

律「相棒と呼ぶくらい大事にしてんのか」

「まぁね。亡くなった親友のバイクだから当然・・・」

澪「え・・・」

律「・・・」

「あ、ごめん。聞かなかったことにしてくれないかな」

澪「・・・律が言っていた事も外れていないんだな」

律「怖くないのかよ」

澪「大丈夫みたいだ」

「?」

律「なんでもねえよ」

「そうだ、君たち地元の子だよね?」

澪「・・・はい」

律「そうだぜー」

「俺、ルポライターしててさ、ネタに困っているんだけど、この街の面白い場所とかある?」

澪「面白い場所ですか・・・」

律「観光名所とか?」

「いや、観光ガイドに乗っていない場所がいいかな」

澪「・・・」

律「うーん・・・」

「このバイクで色々走ってはいるんだけど、中々みつからなくてね」

澪「見慣れた街だから特別な場所は思いつきません」

律「そうだな~」

「そっか・・・」

澪「ルポライターって聞きましたけど、どんな内容の記事を書くんですか?」

律「いい質問だ」

「普通の質問じゃないのかな・・・」

澪「・・・」

「『旅』を題材にしているんだ」

律「!」

澪「・・・旅」


――――

ピッピッピ

梓「・・・」

純「だから、前見て歩かないと危ないって」

唯「大丈夫だよ」

憂「?」

梓「・・・メール来ない」

純「片想いかよ」

唯「ボディガードだよ」

梓「・・・もう一回送ろうかな」

ピッピッピ

唯「あずにゃん!段差だよ!」

梓「大丈夫ですよ」


――――

「『ふうらい』って雑誌に載せてもらっているんだ」

律「面白いの?」

澪「本人に聞くなっ!」

「はは、どうだろうね。でも、バイクで旅をする仲間からはいい評価を得ているかな」

律「バイク乗りじゃないと楽しめないのかよ」

澪「批評するなっ」

「俺の記事はバイクが中心って訳でもないんだけどね」

律「ふーん」

澪「この街ではそのネタになるような場所はなかったと・・・?」

「・・・そういうこと」

律「むむむ・・・」

澪「あ・・・」

唯「前みて!あずにゃん!」

憂「ぶつかるよっ!」

梓「え・・・?」

ドンッ

梓「にゃっ」

「ん・・・?」

グラグラ

純「倒れるっ!」

「危ないっ」

グイッ

梓「ぅわっ!」

ガッシャーン

律澪「「 あっ! 」」

純「倒れちゃった」

唯「あ、お兄さんは・・・」

梓「そ・・・うま・・・さん・・・」

轍「そう、ま・・・だよ・・・うまじゃないよ」

律「お、おいバイク!」

澪「傷がっ!」

轍「・・・」

梓「ご、ごめんなさい」

轍「・・・いや、気にしないでいいよ。よいしょ」

ガタッ

轍「・・・」

カチッ

ドルルルルルン

轍「・・・ね、大丈夫でしょ?」

律「でも・・・そのバイク・・・」

澪「・・・親友の」

轍「俺は走行中に何度もこけているから、これくらいでは怒られないよ」

梓「?」

律「・・・」

澪「・・・」

轍「壊れるものはいつか壊れるんだから」

唯「・・・」

純「だから前を見ろって言ったじゃん!」

梓「う、うん・・・」

轍「で、話は戻るんだけど、どうして『旅』にくいついたの?」

梓「!」

律「それはだな」

澪「私たちも旅をしたんです」

轍「・・・へぇ」

唯「むぎちゃんのおかげだよ~」

澪「この夏に、みんなでたくさんの景色をみてきたんです」

轍「・・・なるほど」

梓「・・・」


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最終更新:2011年10月02日 23:47