律「ここにはいないけど、その子を中心にしてな」

憂「私も少しだけ参加しました」

純「私なんて一日だよ」

唯「さわちゃんっていう担任の先生もだよ!」

轍(・・・楽しそうに話すな・・・よほどか・・・)

律「むぎの幸運から始まった旅だけど」

澪「むぎが居なかったら、私たちはそれらの景色はみられなかったんです」

轍「そうか・・・」

梓「・・・」

轍(・・・あれ、この子だけ・・・どうして・・・表情が曇るんだ・・・?)

純「楽しかったのはマジ!」

唯「たくさんの人とも出会えたもんね!」

轍「・・・キミ達みたいな若い女の子たちが旅を?」

梓「・・・」ムッ

憂「列車の旅でしたから」

唯「そうそう、サバイバルじゃなかったよ」

轍「なるほど、『衣、食、宿』揃っていたんだ」

梓「・・・」ムカッ

律「・・・」

轍「旅・・・ねぇ・・・」

梓「なんですか・・・?」

澪「・・・」

轍「いや、別に・・・」

梓「歯切れが悪いですね・・・」

轍「・・・」

唯「ん?」

梓「いいたい事があるなら、言ったほうがいいんじゃないですか?」

轍「・・・ずいぶんと楽な旅なんだなって」

梓「なっ!」

純「ちょっ!」

クイッ

純「・・・え?」

澪「・・・」

梓「私たちの旅が楽ってなんですかッ!」

轍「着るもの、食べるもの、休みをとれる場所を確保できた旅なんていいよねって言っただけだよ」

梓「バカにしてます!」

轍「・・・」

律「・・・」

梓「私たちの旅を・・・、否定されたみたいです!」

轍「どうしてそう思ったの?」

梓「なにを言っているんですか」

轍「俺がしている旅は、寝床を確保して、テントを張って、着る服を洗って、
  食材をかき集め、料理をして、それで半日が終わるんだ」

梓「・・・」

轍「雨風にさらされて、それでもジッと耐えて時が過ぎるのを待つ」

梓「だから、なんですか」

轍「その対極にあるキミ達の旅をバカにしたように聞こえたのかもしれない」

梓「・・・」

轍「だけど、否定なんて絶対にしない。人が旅をする方法なんて千差万別なんだから」

梓「・・・っ」

轍「否定された気分になる隙が空いていたんじゃないの?」

梓「・・・っ!」

轍「・・・」

梓「大切な時間だったから・・・、その時間を嘲笑されたようで嫌だっただけです」

轍「・・・」

梓「・・・あなたの目は濁っています」

轍「・・・!」

唯「あずにゃん!?」

澪「あ、梓!」

律「何言っているんだよっ!」

梓「これで失礼します」

タッタッタ

憂「梓ちゃん!」

純「ったくー!」

タッタッタ

轍「・・・」

澪「す、すいません」

律「ご、ごめんな」

唯「普段はあんな事・・・」

轍「・・・ぐふっ」

澪律唯「「「 ? 」」」

轍「あっはっはっは!」

澪「え・・・」

轍「あんな若い子に同じ台詞言われた・・・っ!」

律「な、なにがだよ?」

轍「め、目が濁っているって・・・あっはっは!」

唯「笑う所なの?」

轍「そうだよ、ただし、俺限定の笑いどころだ・・・くふっ」

澪「・・・」

轍「上原のオバァと同じ台詞・・・っ」

律「おばぁ・・・?」

轍「沖縄でのおばあちゃんの敬称だよ・・・ふぅ」

唯「おきなわ・・・」

轍「面白い、な」

澪「どうしてあんな言い方したんですか?」

律「なにか探っているような感じだったな」

轍「・・・みんな楽しそうに話しているのに、あの子だけ違う表情していたからね」

唯「・・・そっか」

律「にぃにぃってのも沖縄の呼び方なのか?」

轍「そうだよ。兄という意味だね」

澪「なるほど、そう呼んでいたわけか」

轍「・・・?」

唯「なんの話?」

律「12歳のハーフがアンタの事そう呼んでいたんだって」

轍「え・・・?」

澪「珍しいから話していたんだよな」

轍「真鶴ちゃんを知っている・・・?」

律「あー、確かそう呼んでたかな」

轍「まさかっ」

ピッピッピ

唯「どしたの?」

轍「着信あったんだ・・・」

澪「?」

ピッ

trrrrr

唯「うまさんに聞きたい事があるんだよ」

轍「相馬だっての・・・ちょっとまって」

律「電話かける仕草してただろ」

澪「うまさんって失礼だろっ」

唯「鳥の次は馬だったからだよ」

律「あー、はいはい」

轍「・・・」

『もしもし・・・轍くん?』

轍「あれ・・・、俺の番号だって分かったの?」

『・・・着信音で』

轍「あぁ、そういう事か」

『・・・まだ日本にいるの?』

轍「うん・・・。修平さんから聞いたの?」

『うん・・・』

轍「用事でもあった?」

『・・・』

轍「・・・」

『・・・声を』

『貸して暦』

暦『あっ』

『もしもし、にぃにぃ?』

轍「真鶴ちゃん?」

真鶴『電話・・・今返してもらったの?』

轍「いや・・・、その日のうちに・・・」

真鶴『なんで電話しなかったの、心配していたんだよ?』

轍「携帯電話取り違えただけだよ」

真鶴『私がじゃないの!』

轍「・・・」

真鶴『にぃにぃは誰にでも声をかけるからぁ・・・』

轍「そんなわけないだろ」

真鶴『really?』

轍「どうして疑う」

真鶴『私にも声かけたさー』

轍「放っておけないだろ・・・」

真鶴『えへへ、声聞きたかっただけだから。暦に変わるね』

轍「・・・あぁ」

真鶴『はい暦』

暦『うん・・・』

『ガタッ』

真鶴『あ、ごめん』

暦『ううん・・・』

轍(・・・落としたのか)

真鶴『はい、どうぞ』

暦『ありがと』

轍「・・・」

暦『・・・轍くん?』

轍「はいはい」

律「なんだ・・・まだ話してるぞ」

唯「大事な話なんだよ」

澪「・・・」

暦『・・・』

轍「・・・?」

律「季節はずれかと思ったけど、まだアイスの季節だな!」

唯「今日も暑いからね!最適だよ!」

澪「・・・夕方からは気温下がりそうだけどな」

暦『・・・誰?』

轍「・・・え?」

暦『・・・』

轍「あぁ、近所の子達だよ」

律「なんかガキンチョみたいに紹介されたな」ガリガリ

唯「おいしいよね、アイスキャンディー」ガリガリ

澪「近からず遠からずかな」ガリガリ

暦『・・・』

轍「見える・・・見えるぞ・・・暦の軽蔑のまなざしが」

暦『楽しそうだね』

轍「・・・仕事が行き詰っているから、楽しくも無いけどね」

暦『ふーん・・・』

轍「引き上げようかと思っていたところだよ」

暦『そうなんだ』

轍「沖縄はどう?」

暦『それなりに』

轍「・・・海琴ちゃんは?」

暦『来週ここに来るって』

轍「そっか・・・」

暦『仕事の邪魔してごめんね・・・切るね』

轍「うん」

暦『・・・頑張ってね』

轍「・・・うん、ありがと」

プツッ

轍「・・・」

唯「りっちゃん隊員!うまさんが眩しいです!」

律「私もそう思っていた所だ!」

澪「・・・」

轍「・・・なにしてんの?」

唯「らぶらぶですなぁ」ニヤニヤ

律「まったくですなぁ」ニヤニヤ

澪「・・・」

轍「キミ達、他人との境界線をとっぱらうの早いよね」

澪「すいません」

唯「どうして謝るのっ!?」

律「達、というより唯がな」

轍「・・・それで、聞きたいことって?」

唯「おぉ、そうだった」ウッカリ

轍「・・・」

唯「あずにゃんに『最高の場所』を教えたのはどうしてかな~って」

律澪「「 『最高の場所』? 」」

轍「あず・・・?」

律「アンタにつっかかった子だよ」

轍「あぁ・・・携帯電話取り違えた子か」

唯「そう。あずにゃんだよ」

轍「知っている子と同じ表情していたから・・・かな」

唯「・・・」

轍「その・・・あず・・・本名は?」

律「中野梓だ」

轍「中野さんの大切な人になにかあったんだろうね」

唯「・・・うん」

轍「その人が笑顔でいられる理由が俺にも分かるような気がしたから」

唯「・・・」

轍「俺の知っている子にも色々あってね、だけどその子も強く前に進んでいるんだ」

唯「その場所を知っているの?」

轍「うん・・・。見つけたと、そう言ってくれた」

唯「・・・そっか」

律「・・・」

澪「・・・」

轍「聞きたいことはそれだけ?」

澪「ど、どうやって見つけるんですか?」

轍「・・・キミ達は旅をしたんだよね?」

澪「は、はい」

轍「なら・・・知っているでしょ」

澪「・・・」

律「優しくねえな、アンタ」

轍「・・・俺の目が濁っている理由だよ」

律「なるほどな」

唯「なるほど、なるほど」

澪(迷ってでも自分で見つけろ・・・って事かな)

律「じゃあ私からも質問」

轍「?」

律「さっき、バイクより梓を助けたのはなぜなんだ?親友の・・・その、形見・・・なんだろ?」

轍「・・・最善を選んだだけだよ。バイクを助けようとして、
  両方傷つけたらそれこそアイツに顔向けできないよ」

唯「・・・アイツって誰?」

澪「相馬さんの親友さんだよ」

轍「そう。それに相棒はそんなにヤワじゃないからね」ポンポン

律「・・・」

唯「沖縄に縁があるのかもしれないね」

澪「そうだな」

轍「?」

律「引き上げるって言っていたけど、ここから離れるのかよ?」

轍「うん・・・そう思っている所」

澪「そうですか・・・」

轍「どうして?」

律「私達の住んでいる場所に魅力が無いみたいに思われるのもな~」

唯「ひどいよっ」

轍「無いわけではないんだけど・・・おっと、そろそろ移動しないと」

澪「忙しいんですか?」

轍「自由気ままって訳でもないからね」

唯「でも楽しそうだよね」

轍「好きな仕事だから。それじゃ」

律「じゃーな」

澪「それでは」

唯「ばいばい~」

ドルルン

ドルルルルル・・・

律「さて、帰るか」

澪「そうだな」

唯「あれ、りっちゃんと澪ちゃんどうしてここにいるの?」

律「今さら!?」

澪「散歩していただけだよ」

唯「そっか~」

律「でも、正解だったな」

澪「うん」

唯「・・・そっか」


――――

純「『目が濁っている』なんて、言っちゃいけないでしょ」

梓「・・・」

憂「・・・」

純「どうしてあんな言い方したかなー」

梓「・・・知らない」

憂「・・・」

純「まったく」ピョン

テッテッテ

純「今度こそ新記録っ」シュッ

チョンチョンチョン

ポチャン

梓「・・・」

憂「隙をつかれたよね」

梓「っ!」

憂「えー・・・と、相馬さんでいいよね?」

梓「・・・」

憂「6つくらい年上・・・かな」

梓「・・・」

憂「バイクが趣味というより、バイクに乗る事が趣味って感じだね」

梓「・・・」

憂「きっとたくさんの景色をみてきたんだろうね」

梓「・・・いいよ。そんな話」

憂「ごめんね・・・。でもちょっと気になって」

梓「へ~、あんなのがいいんだ憂は・・・」

憂「うーん・・・というより、的確に梓ちゃんに踏み込んできたから」

梓「・・・そうだよ。出会って間もないのに、勝手に人の心に触れてきて」

憂「・・・」

梓「もっと悩め、と言わんばかりにかき乱された」

憂「・・・」

純「・・・」

梓「身に覚えがある事を言われたから尚更、ざわついた」

憂「身に覚え・・・?」

純「律先輩とちょっとね」

憂「そっか・・・」

梓「絶対に答えを言わない・・・あの人は・・・」

憂「・・・」

純「・・・」

梓「・・・それが、すごく嫌だ」

憂「答えをくれたら、梓ちゃんは納得するの?」

梓「・・・しない」

純「・・・言ってる事変だよ」

梓「っ!」ピョン

タッタッタ

梓「ッ!」ブンッ

ポチャン

梓「・・・」

純「あんなにイラついてる梓、初めて見た・・・」

憂「・・・うん」



―――――夕方

バタン

唯「たっだいま~」

憂「おかえり~」

唯「お腹すいた」

憂「もうちょっとまってね」

唯「はいよ~」

テッテッテ

唯「勉強しよ」

和「・・・え?」

唯「・・・ん?」

和「勉強する・・・って?」

唯「言ったよ」

和「そう・・・邪魔しちゃ悪いからお暇するわね」スッ

ガシッ

唯「まって!」


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最終更新:2011年10月02日 23:54